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クリスマスin天也&咲夜
しおりを挟む街全体がクリスマスムード一色に染まる今日、私は天也と2人、デートをしていた。
「咲夜」
天也がいつも以上に甘い声で私の名を呼んだ。
その声と、優しげな表情にドキッとしてしまうのは当然のことだろう。
高鳴る心臓の音に気付かぬフリをして、私は冷静を装った。
「何ですの?」
「いや……こうして咲夜と2人きりでクリスマスを過ごせるなんて夢のように思えたんだ。
ずっと片想いだったからな……」
天也は恥ずかしそうに顔を少し紅く染めながら口にした。
そんなところが、可愛らしくもあり、愛おしくもある。
だが、天也にそんなことを言われると余計心臓がうるさくなるのでやめて欲しい。
そうは思いながらも真っ直ぐに言葉を伝えてくる天也のことが好きだと思う。
「わ、私も……私も、天也とこうして2人で過ごしているだなんて夢のように思いますわ……」
恥ずかしすぎて最後の方は声が掠れてしまった。
だが、そんな私を天也は愛おしそうに見つめていた。
……本当、心臓に悪いからやめて欲しい。
などと思いつつも、そんな時間が幸せだと感じている自分に、恋って厄介だなぁ……とまるで他人事のように思っていると、再び天也が口を開く。
「咲夜、俺の婚約者になってくれてありがとう」
などと、突然口にするのだ。
思わず変な声をあげそうになった私は悪くはないはず。
まぁ、あげそうになったというだけで実際にあげてはいないのだが……。
「……急に、どうしましたの?」
「別に、俺は思ったことを口出したまでだ」
少しムッとして天也の顔を見ると、天也は人の悪そうな笑みを浮かべていた。
私の心臓が危険だと分かっていてやったのだろう。
この確信犯め。
……色々と負けた気がする。
「急にそんなことを言うのは私の心臓に悪いのでやめてください!」
私は責めるような視線を天也に送るが、当の本人は悪びれた様子もなく、楽しそうに笑う。
その表情にまたもやドキッとさせられるのは何故だろうか。
「悪い、次からは善処しよう。
急でなければいいんだろう?」
善処という辺り、やめる気はないだろうと思っていたが、その後はまさかの発言だった。
私はため息を吐くと、諦めたように視線を戻した。
そして、せめてもの意趣返しのつもりで口を開く。
「……天也が私を選んでくれて、本当に良かったと思いますわ。
最初はどうであれ、私は、天也のことが好きですから」
顔が真っ赤になっているのは言うまでもない。
だが、それよりも、だ。
天也が急に立ち止まったかと思えば、顔を手で覆い、しゃがみこんでしまった。
一体どうしたのかと思い、近付くと天也の顔が真赤になっていた。
「……咲夜が可愛すぎて辛い。
破壊力がヤバい。
可愛すぎる……!!」
などと口にしているのだ。
聞いてるこちらまで恥ずかしくなってしまう。
「もう……!!
天也、馬鹿なことを言っていないで早く立ってください!!」
羞恥心のあまりそう叫ぶと、天也はハッとして、立ち上がった。
そして、
「俺も、咲夜のことが好きだ」
と、今更返事を返される。
遅い、と文句を口にしつつも、私の顔に浮かぶのは笑顔だろう。
好きな人に好きと言われて嬉しい以外の気持ちがあるわけがないのだから。
その後、私達は今日の記念に、と色違いのブレスレットを購入した。
色は勿論、黒と蒼。
私達の瞳の色だ。
黒のブレスレットが、天也の独占欲を示しているみたいに思えて嬉しかったのは秘密だ。
「明日、必ず付けるようにしますわ」
「あぁ、俺も付けることにしよう」
明日、25日は奏橙の家でクリスマスパーティーがあり、私達もそれに招待されているのだ。
その時のパートナーは、兄ではなく天也。
勿論兄は反対したが、
「お兄様、その……実は、いつも大好きなお兄様にエスコートしていただくのは嬉しかったのですが、私が独占してしまっているようで気がかりだったんです……。
なので、今回は私ではなく他の方をエスコートしてください。
偶には、お兄様が他の方をかっこよくエスコートしているところを見てみたいのですが……ダメ、でしょうか?」
と、上目遣いで言ってあげればあのシスコン兄はすぐに態度を変えた。
今まで見せていた反対する姿勢が嘘だったかのように
「そうだね、咲夜にも一応とはいえ婚約者もいるし……。
まぁ、一応だけど。
偶にはアレもエスコートをした方がいい、か……」
とまぁ、やけに一応、という部分を押してきたが納得はしてくれた。
そのため、明日のパーティーでは天也がエスコートを務めてくれることになったのだ。
ついでに、あの兄がエスコートするのは皐月先輩だ。
兄が何を言ったのか分からないが、皐月先輩から「大変ですわね」と言われた。
……本当にあの兄は何を言ってくれたのか。
「……もう、こんな時間か」
「そうですわね……」
空を見上げれば、既に月が出ていた。
天也といると時間を忘れてしまうので困る。
隣をチラリと見ると、天也と目が合った。
天也は私と目が合うとフッと笑い掛けてきた。
……そのせいで折角収まりかけてきた心臓がまたうるさくなったのは言うまでもない。
「咲夜さえ良ければだが……夕食を一緒にとらないか?」
「はい、勿論です。
お兄様も今日くらいは許してくださると信じてますわ」
「……あぁ、そういえば悠人先輩がいたな。
まぁ、いい。
今は咲夜との時間の方が大切だからな」
なんて笑顔で口にしてくるのだ。
天也が好きすぎて辛い……!
と心の中で悶えていたのは仕方ないことだろう。
天也のためなら兄の1人や2人どうにかしてやろう、という気にもなってくるのだ。
本当、天也の力は凄い。
店は元々、天也が予約していたらしく、すんなりと入ることが出来た。
そして、個室に案内され、窓の外を見ると雪が降り始めていた。
「雪か……」
「えぇ、ホワイトクリスマス、ですわね」
「あぁ、そうだな……」
今年のクリスマスは今までで一番良いクリスマスになった。
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