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帰国
しおりを挟む真城の誕生日から2週間経ち、私は日本へと帰ってきていた。
空港に降りると、ようやく帰ってきた……という懐かしさやらが込み上げてくる。
「咲夜!!」
私の名前を呼んだのは、勿論、天也だった。
その久しぶりに見る天也の姿に私は思わず笑顔を浮かべ、抱きついた。
「天也っ……!!」
「お、おい!?」
普段ならありえないその行動に天也は動揺を隠せずにいたが、恐る恐るといった風に私を抱きしめてくれる。
その温かさが酷く、心地よく感じる。
電話で毎日のように話してはいたが、こうしてちゃんと会って……ということは天也がドイツに来た時以来となるからかもしれない。
そんなことを考えながら、私は兄がここに居なくて良かったと思ってしまう。
兄は、何か用があるらしく明後日にこちらに来るそうだ。
つまり、パーティー前日に来る。
それまでは自由なのだが……平日という事もあり、することがないのだ。
天也は学校があるし、さすがに休んで欲しい、などとは言えるわけもない。
ということでどうしようかと考えていると、天也がある提案をした。
「……咲夜さえ良ければだが……学校に顔を出せばいいさ。
誰も文句は言わないだろう。
留学している最中だからといって気にする必要はないさ」
「……そう、ですわね。
久しぶりに行ってみるのも悪くないかも知れませんわね。
愛音や紫月にも会いたいですし……」
「なら、決まりだな」
「えぇ」
制服は家にあったはずなので問題はないだろう。
問題があるとすれば時差ボケくらいか。
「少なくとも1週間はこっちに居るんだろう?
なら、土曜に2人で出かけないか?」
「はい、天也さえ良ければ是非」
「あぁ、10時に迎えに行く」
「分かりましたわ」
天也とのデート……今からでも楽しみだ。
淡白に聞こえるような会話だが、天也が私に向ける視線は優しく、愛おしさが込み上げてくる。
「あぁ、それと婚約パーティーだが……6時には迎えに行く」
「開場は8時頃だったと思いますが……」
「あぁ、その前に行きたいところがあるんだ。
付き合ってくれないか?」
「っ……仕方ありませんわね。
分かりましたわ」
それにしても、2人の婚約パーティーの次の日には天也とのデートか……。
天也とのデートが楽しみすぎる……!!
そのせいでツンデレっぽくなってしまったのは気にしないでおこう。
「あっ……そうでしたわ。
天也、これ、受け取ってください。
向こうで見つけて思わず買ってしまったんです。
私もそれの色違いを持っていますわ」
そう言ってクスリと笑うと、天也は顔を赤くした。
口元がニヤけているのを見るに喜んでくれているようなのでよかった。
「残念ですが……迎えが来てしまいました……。
また明日、学校で会いましょう、天也」
「っ……あぁ。
咲夜、ありがとな」
天也の最後に見せた笑顔がかっこよすぎて、私の顔も赤くなってしまった気がする。
これも全部天也のせいだ。
私は、天也にバレないうちにさっさと退散し、車に乗り込むと、未だに火照っている顔を両手で覆った。
「咲夜様……どうかいたしましたか?」
「な、何でもありませんわ。
……こちらにいる間、学園の方に通う事になりましたので、朝車を回してくださる?」
「承知いたしました。
そのように致します。
朝食はどうなさいますか?」
「今まで通りにお願いします」
「承知いたしました」
そんな事を話しているとようやく気持ちが落ち着いてきた。
ホゥ…と息を吐くと、私はぼんやりと明日からの事を考えた。
今更だが、留学した人が短期間とはいえ留学期間中に戻ってくるというのもおかしな話だ。
……まぁ、気にする事はないか。
その日、さっさと入浴やらを済ませると、いつもよりも早くに寝ることにした。
……時差ボケが心配だったのだ。
次の日、私はいつも通りに起きることができ、内心安堵をすると共に、久しぶりの制服に袖を通し、何度目かになる懐かしさを抱きながら登校した。
「咲夜、おはよう」
「天也、おはようございます。
……まさか、待っていて?」
「まぁな。
久しぶりで緊張しているんじゃないかとも思ったが……心配は要らなかったようだな」
「えぇ、ですが……ありがとうございます、天也」
天也の心遣いが嬉しくて、素直にお礼を口にすると、天也は照れたように顔を背けた。
そんな天也の姿に胸がいっぱいになった気分になる。
「天也、咲夜、おはよう。
咲夜は久しぶりだね。
昨日、天也から連絡来た時は驚いたけどね」
「奏橙……おはようございます。
久しぶりですわ」
その後、奏橙だけではなく、紫月や愛音とも挨拶を交わし、以前と同じように授業を受ける。
「海野様!
もう留学は終わったのですか?」
「咲夜様、お帰りになられたんですね!」
などとクラスメイトから歓迎を受けたが。
そして、昼休み、ソレは起こった。
「海野咲夜なんであんたがここに居るのよ!?
あんたがいるせいで天也様が迷惑しているじゃない!!
さっさと天也様の前から消えなさいよ!!」
と、教室に押しかけてきて早々に口にした名も知らぬ彼女に私は察した。
あぁ、コイツが天也にまとわりついている黒羽凛なのだと。
そして、本物の馬鹿であった……と。
天也が迷惑している?
少なくとも、迷惑しているなどとは私が天也に言っても天也から言われたことは1度たりともない。
それに、何よりこの非常識の塊にそんなことを言われる筋合いはない。
「失礼ですが……昼食をとりたいので通していただけませんか?
先輩方との約束もありますので。
それと、天也は私の婚約者ですわ。
迷惑などと、あなたに言われる筋合いはありません」
「はぁっ!?
ちょっとアンタ、何様のつもりよ!!
私は黒羽家の娘よ!
アンタみたいな、天也様に不釣り合いな女より私の方がいいに決まっているでしょう!?
分かったのならばさっさと天也様から離れなさいよ!」
「……黒羽家の娘、ですか。
ならば、私は海野家の娘ですが。
それに、貴方とは違い、私は既に1人で生きていくための力があります。
それだけの影響力を持っています。
私や海野家を敵に回す覚悟は出来ているのですよね?
何様のつもり、と口にされましたが……それは私のセリフですわ。
折角、私が穏便に済ませようとしましたのに……全て壊したのは貴方ですわよ?
私には、お兄様や鬼龍院先輩を初めとした先輩方や清水や真城を止める事は出来ませんもの。
……これでも私、お兄様や先輩方に可愛がられている自覚はありますの。
あぁ、それと最後に……何処に耳があるか分かりませんし、言動に気をつけた方がよろしいかと」
「うっさい!!
あんたなんかに言われ……」
言いたいことを言ってスッキリした私は、何か口にしている彼女を放置し天也達と共に食堂へ向かった。
途中、天也の機嫌が悪くなっていたので宥めるのが大変だった。
「おー!
ひっさしぶりだなぁ、咲夜!!」
会って早々に鬼龍院先輩が私の髪をくしゃくしゃにする。
「久しぶり、海野さん。
それにしても遅かったけど……どうかした?
もしかして、また何かあったの?」
優しげな声をかけてくれるのは白鳥先輩だ。
相変わらず心配性な先輩だ。
「少し絡まれてしまっただけなので大丈夫です」
「絡まれたって……随分と命知らずな……。
ここに悠人が居なくて本当に良かったと思うよ」
「……それ、多分悠人に伝わってると思うなぁ。
あの溺愛者の事だし……」
朝霧先輩が言うのはきっと、ファンクラブを通して、と言うことだろう。
……はぁ、気が重い。
黒羽凛はなんて事をしてくれたのか。
今日学校に来たことで無駄に苦労する事になった気がする……。
とりあえず、兄を止めないと。
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