脇役だったはずですが何故か溺愛?されてます!

紗砂

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デート

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あのパーティーから一夜明け、私は鏡の前で奮闘していた。


「咲夜様……もう既に1時間程そうなさっていますが……」

「うっ……し、清水……本当にこれで大丈夫でしょうか……?」

「可愛らしいですよ。
天也様もきっとそう仰います」


今日は涼しげな水色のワンピースだ。
夏に入ったからと言ってもちゃんとカーディガンを着ていくつもりだが。

そして、腕には勿論、昨日天也から貰ったブレスレットをしている。
耳飾りのほうは大切にしまってある。


「お嬢、来たぜ」

「……っ!?
すぐに行きますわ」

「おう」


真城は短く返事を返し、どこかへ行ってしまった。
深呼吸をして心を落ち着かせると、意を決して天也のもとへ向かう。


「咲夜様」


清水に呼び止められ、何だろうかと顔だけ向けると、清水はいつになく綺麗な礼をした。


「楽しんでいらしてください。
お帰りが少々遅くなられると思いますが……悠人様の事は私と真城にお任せを。
なんとしてでもお止めいたします。
咲夜様は天也様とお2人でごゆっくりとお過ごしください」

「ありがとうございます、清水。
お兄様の事は任せますわ。

……行ってきます」

「はい。
行ってらっしゃいませ、咲夜様」


清水の優しさに胸が暖かくなるのを感じながら、私は天也との久しぶりのデートを楽しもうと決めたのだった。


「天也、遅くなってしまい、申し訳ありません」

「いや、問題ない。
……可愛い、と思う」

「あ、ありがとうございます……」


天也が顔を赤らめながら言うもんだから私まで顔を赤らめるハメになった。
だが、天也に可愛いと言われ、いつになく私のテンションが上がる。


「……い、行くぞ」

「えぇ……。
ですが、何処に?」


何も予定を聞かされていない、と私が尋ねると、ふと天也が立ち止まった。
そして、恐る恐るというように顔を向けてくる。


「……言ってなかったか?」

「少なくとも、聞いた覚えはありませんわね」

「うっ……済まない」

「ふふっ、気にしないでください。
私は天也と出かけられるだけでいいんですから」

「なっ……お前、それは反則だろう……」


天也の表情に意味が分からず戸惑っていると、先程言った自分の言葉を思い出し羞恥で顔を隠した。


「わ、忘れてください!」

「ふっ….…俺も咲夜と出かけられて嬉しいぞ。
……今日は水族館に行こうと思うんだが……いいか?」

「えぇ、勿論ですわ」


天也とならばどこでもいい。
という言葉は心の中だけに留めておく。
とても口には出せない。

水族館まではそこまで遠くもないので、私と天也は2人で並んで歩く。
そんなゆったりとした時間も幸福感が湧き上がる。


「今日、夕食までには帰った方がいいのか……?」

「清水達がお兄様を止めてくれるそうですし、問題はないと思いますわ」

「……そうか。
止められるといいが……」


物騒な事を言わないで欲しい。
多分、真城もいるからいいと思うが……。
私も本当に止めることが出来るのかは分からない。


「……大丈夫でしょう。
多分」

「いや、お前今多分って言っただろう!?」

「……あのお兄様が相手ですもの。
確実、とは言えませんわ」

「……そうだな。
悠人先輩が相手だからな……」


兄相手に申し訳ない気もしてくるが……清水と真城には今度何かお詫びとお礼をかねて何かあげよう。
お兄様はちょっと恥ずかしい気もするが、甘えておけば問題はないだろう。
多分、すぐに機嫌は良くなるだろう。


「咲夜、2年に上がる頃にはこっちの学校に戻って来るんだろう?」

「えぇ、そのつもりですわ」


急に話が切り替わる。
天也の表情をチラリと見ると、少しだけ寂しげに感じた。


「長いな……」

「あら、これでも短い方だと思いますわよ?」


私も少し寂しいとは思うものの外面には出すことは無かった。
でも、天也が私がいないことで寂しいと感じてくれるのなら、嬉しいなぁ、と思ってしまう辺り、やはり私は天也のことが好きなのだろう。





水族館は休日ということもあり、混雑していたが予めチケットを買っていてくれたおかげですんなりと中に入ることが出来た。
  

「ふむ……ショーは昼からだな。
まだ時間がある、か……。
咲夜、通路に沿って進むか?」

「えぇ、時間はあるようですし。
……天也の気になるところがあるのならそこを優先しますが」

「いや、大丈夫だ。
どうせ、全部回るしな。
ゆっくり行くか」

「えぇ」


はぐれないように、と繋いだ手の温もりに気を取られあまり魚を見ることが出来ない。
先程より心臓の音がうるさいのは、天也と手を繋いでいるからだろう。
魚よりも魚を見る天也の横顔がカッコよくて、ついついそちらを見てしまうのも不可抗力である。


「あっ!
天也様~!
偶然ですね!」

「ちっ……咲夜、下がっていろ」


神経を逆なでするような声を発したのは黒羽凛だった。
どこから私と天也が水族館に来ているという情報を得たのか……。
シナリオには無かったはずだし誰かから聞いたとしか思えない。

天也は、その声に一瞬、顔を顰めたが私を庇うように前に出た。
私を守ろうとしてくれているようだ。
……黙って守られるのが正解なのだろうが……私の場合はそうじゃない。

私は、天也の腕を掴み、ゆるゆると首を横に振った。
大丈夫だと言うように微笑んでみせると、私は天也の隣に立った。

だって、私があろうとするのは、天也の隣で歩んで行くことだから。
天也に守られるだけなんて、そんなものあって良いはずがない。
そんなことがあれば、私と天也の関係は対等ではなくなってしまう、そんな気がしたから。


「凛さん、偶然ですわね」

「……おい、咲夜」


私が笑顔で声をかけると、あからさまに顔を顰めた凛。
そんな私達を止めるように天也が声を出す。
だが、天也は私の表情を見て止めるのをやめたようだった。


「アンタ、また天也様の……」

「移動、致しませんか?
この近辺に個室のあるカフェがありますの。
そちらの方がよろしいでしょう?
……ここには、かなり人がいることですし?」

「ふん、そうね。
いいわ、アンタの案に乗ってあげる」


相手の了承を得られたので、水族館から離れカフェに移動した。
その際、一言も言葉を交わすことは無く、だ。

当たり前だろう。
私は天也とのデートを邪魔されたせいでかなり機嫌が悪い。

個室につき、それぞれ頼んだ飲み物が届いたところで話を再開した。


「さて、話を聞きましょうか」

「……アンタ、天也様から離れなさいよ!
アンタみたいな脇役が天也様の側にいていいはずがないでしょう!
アンタみたいな女が側にいると天也様に迷惑がかかるのよ!
それくらい察しなさい!!」


というのが凛の言いたい事だったらしい。
……馬鹿馬鹿しい。
そんな事で大切な天也との時間を潰されたというのか。


「脇役だのなんだのという話は置いておくとしても、察するのはあなたのほうでしょう。
先に言っておきますが……告白は私ではなく天也からですわ。
それまで、私は天也の事をただの迷惑な知り合いとしか思っていませんでしたから」

「おいちょっと待て。
いや、分かってはいたがそこまでか!?」


言うつもりではないことまで口にしてしまった。
そのせいで天也が反応してしまったじゃないか。
まぁ、天也がこの程度のことで私を嫌いになることはないだろうから問題はないが。


「私は天也の事を避けていたくらいですもの。
天也にしても、よくこんな私を選んだと思いますわ。
何より、私からはあまり天也に近付かないようにしていますの。
お兄様が何を仕出かすか分かりませんから」

「……あぁ……悠人先輩は怖い……」


天也が1人で震えている。
……他人の兄に対してどれだけの恐怖心を抱いているのだろうか。
うちの兄が本当に申し訳ない。


「なっ……そんなはず、そんなはずないじゃない!
何で、アンタみたいな女に天也様が……」

「……いい加減にしろ。
俺は、咲夜の事を離す気はない。
お前に俺の選んだ奴を悪く言われる覚えもない。
それに、もし咲夜がいなかったとしても、俺はお前を選ぶことだけは絶対にない。
大体、礼儀もなっていない奴を婚約者に、などと考えるはずがないだろう。

俺は、咲夜以外に選ぶつもりは毛頭ない。
今後一切、俺と咲夜の前に顔を出すな」

「……っ……な、んで……何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で!
何で私だけがそんなこと言われなきゃいけないのよ!!
全部その女が悪いんでしょう!?」


泣き叫ぶ凛に私は静かに口にした。


「……天也、すぐに行きますから少しまっていてください。
天也がいては、火に油を注ぐようなものですわ」

「はぁ……分かった。
外にいるぞ」

「えぇ、ありがとうございます」


天也は私に任せてくれるようで、退室していく。
天也が扉を閉めたところで、私は凛に向き直った。


「凛さん、改めて、杉本香乃と申します。
まぁ、今は海野咲夜ですが……。
名前を訪ねても大丈夫ですか?」

「……あんた、転生者だったんだ。
…………山下愛歌。
今は黒羽凛よ……」


私も同じだと知ってか凛は静かになった。
そんな凛を見て、なんとなくこんな事をした理由が分かった気がした。
多分、彼女は孤独だったのだろう。
黒羽の家は、実力主義者が多い。
だからこそ、彼女は肩身の狭い想いをしていたのだろう。
あの家の他の2人と比べられて……。


「大丈夫ですわ。
貴方自身を見てくれる方は少なからず居ますわ。
いきなりこんな目にあって不安かもしれませんが……私も同じですもの。
分からない事があれば聞いてください。
私で良ければ相談に乗りますわ。
少なくとも、私と天也だけは貴方の味方になります」

「……何で、そんなこと……。
私、いっぱい酷いこと言ったのに」

「あら、そんな事、忘れてしまいましたわ。
私、必要のないことはすぐに忘れてしまいますの」


本当に何事も無かったかのように振る舞うと、凛はおかしそうに笑った。
そして、急に頭を下げてきた。


「ごめんなさい……あんな事言ったりして……」

「別に、気にしていませんもの」


ただ、その時はイラついただけだ。
その後はまぁ、気にしてなかった。
一時の間違いなど誰にでもあることだし。


「……ありがとう」

「ふふっ……あぁ、私の事は咲夜でいいですわ」

「私は凛で」

「よろしくお願いします、凛」

「よろしく、咲夜」


握手をすると、お会計の紙を持って立ち上がった。


「さて、天也も待っている事ですし……行きましょう?」

「はい!」


友人となった凛と2人で仲良く戻ると、それは意外そうな天也の表情に2人で笑った。


「天也様、今まですいませんでした……。


……咲夜、頑張ってね」

「っ……凛!?」

「またね、咲夜!」


まさか、凛から応援の言葉を貰うなどとは思っていなかったので驚いたがそれが彼女なりのケジメだったんだろうと思う。

そして、中断してしまった天也とのデートを再開した。

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