87 / 87
土曜日デート
しおりを挟むそして約束の土曜日、私は約束していた時間よりも少し早めにその場所へと来ていた。
にも関わらず……。
「咲夜、おはよう。
早いな」
「おはようございます。
ですが、天也がそれを言うのですか?
もう……。
今日こそは、天也よりも早く来ようと思っていましたのに」
今日だって、そのために30分前に着くように来ていたのだ。
それなのに既にいるだなんて、そんなこと思うはずがない。
「どれだけ待ったのですか?」
「ん、そんなに待ってないぞ。
俺も来たばかりだったからな」
絶対嘘だろう、と思わなくもないがさり気ない心遣いを嬉しく思う。
「毎回それじゃないですの。
それで、私が信じるとでも思っているのですか?
……仕方ありませんし、今回は信じますが!」
これではまるでツンデレのようだ。
違うとは言いきれないのが辛いところだが。
「仕方ないだろう。
咲夜のことを考えていると時間を忘れるんだ」
よくもそう恥ずかしいセリフをサラッと言えるものだと私は感心する。
「からかわないでください!
天也、行きましょう?」
「あぁ」
そして、移動を始めようとするも、あることに気付く。
「行く場所は既に決まっていますの?」
そう、場所を決めていなかった。
それに気づき、私は天也に問いかける。
「いや、そもそも何を買うかも決まっていないからな……。
咲夜は決めているか?」
「私はCalmeで用意しようかと思っていますわ。
宣伝にもなりますし、オーダーメイドもありますもの」
それに、天也には言わなかったが、私は司やロイ、それに真城や清水を信頼している。
だからこそ、Calmeで選ぼうと思ったのだ。
だって、みんなが私に変なものを選ばせるわけがないし。
「Calmeか……。
それもいいかもしれないな……。
咲夜の店ならば信用出来るしな」
そう言って、天也はフッと笑った。
その、少し揶揄っているような視線に、少しだけ悪戯心が芽生えた。
……まぁ、何もしないけど!
しないじゃなくて出来ないの方だけど。
「でしたら、休業日にすれば良かったかもしれませんわね……」
「別にいいだろう」
「そうですか?
そういうのなら……。
ですが、その、後悔するかもしれませんわよ?」
後悔、というのは店が混んでいると予想できるからだ。
服飾の方も人気ながら、特にカフェブースの人気が凄かった。
「相変わらず凄い人気だな……」
「司の出すお茶は美味しいですもの。
それに、清水や真城、ロイの選んだものが並ぶ店ですから。
人気がないはずがありませんわ」
と、自信満々に言ってのけると、天也が隣で笑った。
「そういうところだろう」
「え?」
「咲夜のそういうところがあったからこそ、皆が着いてきて、この店が出来たのだろう。
なら、それは咲夜の力だ」
だなんて、天也が真っ直ぐに口にする。
本当にそう思っているのが感じられ、恥ずかしくなってくる。
何故、天也はこうも真っ直ぐなのか。
「……ありがとうございます。
ですが、皆で作った店ですもの。
私だけの力ではありませんわ。
それに……。
天也は私のことを買いかぶりすぎですわ」
だって、私は前世の記憶を頼っているだけなのだ。
天也がいう程、天也が思っている程、凄い人物ではない。
「買いかぶりなわけあるか。
咲夜の使用人に聞いてみれば皆同じことを言うだろう。
それだけ、咲夜が慕われている証拠だな」
少し呆れたように、だがどこか嬉しそうに口にする天也に、私も少しだけ笑みを浮かべた。
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(26件)
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続きがとても気になります!!
楽しみにしています!!
客船2日目午後の回で天也がようやく婚約者になったのだから…って言ってますがいつの間に婚約したのですか?前の回の天童さんと三人で話してるときに咲夜がまだ婚約すらしてないのに…って言ってたはずなんですけど??
到着の最初の方の言葉が出てくるのあたりの感心が関心になってる