86 / 87
土曜日
しおりを挟む買い出しに行った日の夜、天也から電話がかかってきた。
『咲夜、その夜に済まない。
土曜日のことなんだが……』
土曜、と聞いて私は少しだけ後悔する。
なんであの時、土曜1日あける、なんて言ってしまったのか。
いや、天也とデートするのは嬉しい、嬉しいけど……!
でも、嬉しさよりも恥ずかしさの方が勝る。
「うぅぅ……」
思わずそんな声を漏らすと、電話の向こうから天也の少し慌てたような声がする。
『さ、咲夜!?
どうしたんだ、苦しいのか?
ならすぐに医者を!』
「なんでもありませんわ。
それより、土曜のことでしょう?」
慌てている天也はちょっと可愛いと思うが、やろうとしていることは全然可愛くはない。
というより、やめてほしい。
恥ずかしくて悶えてただけなのに……。
まぁ、それを天也にバレなくて良かったとは思うけど。
『あ、あぁ!
その、せっかくあけてもらって申し訳ないんだが……。
勿論、咲夜が行きたいところがなければなんだが……』
その迷っているような天也の声に、そういえばもうすぐだった、と思い出す。
となれば、私も用意した方がいいだろう。
「天也のお父様のお誕生日が近くなってきましたし、今年は私もなにか贈りたいと思っていますの。
ですから、一緒に買いに行きませんか?」
『あぁ!
ありがとう、咲夜。
じゃあ、土曜の10時頃でいいか?
場所はいつものところで』
「えぇ、承知致しましたわ」
天也からのお礼の言葉はきっと、私が気付いたことと、自分の父を祝ってくれることからきたものだろう。
「お話中申し訳ありません、咲夜様。
先程奥様から連絡がございまして、奥様と旦那様が来月の頭にお戻りになられるそうです」
清水が少し疲れたような表情で私の部屋へと入ってきた。
「お母様とお父様が!
そう、ありがとう、清水」
「その、申し上げにくいのですが、悠人様が……」
その言葉で、何故清水が疲れたような表情をしているのかが分かった。
また、いつものだろう。
お兄様も婚約したのだからそろそろ落ち着いてほしい。
「申し訳ありません、天也。
お兄様の暴走が始まってしまったようなので……」
『……いや、気にするな。
まだ少し早いが、おやすみ、咲夜』
「はい、おやすみなさい、天也」
天也も少し呆れたような声をしていたが、それも仕方ないだろう。
これでお兄様に電話を邪魔されるのは何度目かになるかは分からないのだから。
「さて、清水、お兄様はどちらに?」
「リビングルームにいらっしゃいます」
ということは、今は真城が対応しているのだろう。
ならばすぐに行かなければならない。
「では、着替えてからすぐに向かいます。
清水、あなたは少し休むようにしてください」
「申し訳ありません、ありがとうございます」
清水が私の部屋を出ていった後、リボン付きのチュール袖の白いワンピースに着替え、リビングルームに向かった。
「お兄様……いらっしゃいますか?
その、お話をしたいと思ったのですが……」
「咲夜!
あぁ、いいよ。
おいで」
何があったのかは知らないがリビングルームに入って早々笑顔の兄と疲れ果てた様子の真城がいた。
「お兄様、真城は下がらせても?」
「あぁ、いいよ」
「真城、清水が休んでいるはずですからついてあげてください」
「了解だ、お嬢」
いつもより、力が入っていないような声で返事をすると、真城はそのままリビングルームをあとにした。
「さて、咲夜。
話はなにかな?」
……忘れてた。
そういえばさっき話をしたいと言って入ったんだ……。
正直面倒だし、もういいだろう。
「えっと、すいません、お兄様。
本当はお話なんてないんです……。
ただ、お兄様と一緒にいたかったので……。
ダメ、ですか?」
私がシスコンの兄と何年一緒にいたと思っている。
このくらいでこの兄には十分効くというのはよく分かっている。
「さ、咲夜……ダメなんかじゃないよ。
あぁ、もう可愛いなぁ……」
「もう、冗談はやめてください!
お茶を用意してきますね。
いつものでいいですか?」
「あぁ、お願いするよ」
「はい!」
私がお茶の準備に向かうと、いつだったか真城からもらった睡眠薬を少量まぜた。
いつもならばこんなことはしないが、今日は早めに寝たいので許して欲しい。
最悪、あの兄にバレても
『お兄様がお疲れのようでしたので、早めに眠って欲しかったんです』
とでも言っておけば問題ないだろうし。
10
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる