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本編
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しおりを挟むようやく晩餐が始まると、早速公爵方は本題へと入ってきました。
「エリス嬢、国王選定の方法については候補者と共に連絡があるだろう。
だが、覚えておいて欲しい。
我がルースベル公爵家はエリス嬢を王へと推そう」
「ルースベルと同じく、我がエンドルース公爵家もだ。
王となるよりも誰かの下で剣を振るっている方が良いからな!
そしてそれは、エリス嬢の下が良い」
「娘は王になどせん!
ルースベル、お前の子にでも継がせれば良いだろう。
くだらん争いに、うちのエリスを巻き込むな!」
久方ぶりにお父様が頼もしく見えました。
まぁ、お父様を初めとした公爵方は放っておいても問題はないでしょう。
お母様に関しても、公爵家の奥様方と話しているようですしそちらも放置で問題ないようです。
「改めて、アルス・エリンスフィールだ。
一応、エリンスフィールの皇太子となっているが、気にせずに接して欲しい」
「カイン・シャルート、殿下の護衛だ。
よろしく」
「フレイ・ルースベル。
エリスの幼馴染で、宰相を目指している」
「ラルフ・エンドルースだ。
フレイとエリスの幼馴染としてよろしくな!」
ルアンがここで自己紹介をしなかったのは、私の従弟として既に面識があったからです。
その頃には既に、次期公爵として決定していましたから当然といえば当然なのですが。
「こちらも本題に入りましょうか。
私はやはり、フレイ様が王となるべきだと思います」
「おい、エリス。
前も言ったはずだ。
私は……」
「以前話したことも含めて、フレイ様が王となるべきだと思うのです。
私がやりたいことは王とならなくとも出来ることです。
それこそ、今の状態でも。
何より、私個人の影響力が強すぎますから。
私が王となった場合、フィーリン商会はこの国の商会、という枠にはまってしまう。
そうなってしまえば、今までと同じように他国と取引をする、というのは不可能です。
そしてそれは、他国との関係にも関わってきてしまいますから。
それ程までに、フィーリン商会は大きくなってしまいました」
これは、あの後フレイ様と別れてから考えてきたことです。
私が王になり、フィーリン商会が国営となってしまえば、現在の均衡状態は完全に無くなり、エールがトップに立つこととなります。
そうなれば、エールの国民や貴族達による他国での不当な行動が出てくるでしょう。
そんなリスクを負ってまで、私を王とする必要も、その理由もありません。
何より、私はあんな面倒なものに縛られて生きるのはごめんですから。
「それは、私が交渉してなんとか……」
フレイ様も、本当は分かっているはずです。
その証拠に、フレイ様の表情は苦々しく、声も小さくなっていきます。
ですが、その上でこのようなことを口にするのは、私を国外へと出したくはないからなのでしょう。
フィーリン商会の影響力を考えれば当然のことです。
……まぁ、フレイ様に関しては私情を挟んでいるような気もしますが。
いえ、それを言ってしまえば私も同じですね。
面倒だから、という理由で王となることをフレイ様に押し付けようとしているのですから。
「フレイ様、それが無理であることはよく理解しているはずです。
そして、そうなった時、この中で誰が一番王となることがいいのかも」
「……あぁ。
だが、それでも、もしかしたら!」
「無理なのですよ。
フィーリン商会の影響力は、一国家が抱え込むには大きすぎます。
それは、ルースベル公爵を見ていれば分かるかと思いますが」
「……あぁ、そうだな」
ルースベル公爵は、本店を移動すると言った際、国を捨てようとまでしましたからね。
そんな公爵をよく見てきたフレイ様だからこそ分かっているはずです。
「駄目だな、私は。
いつまで経ってもエリスに甘えてしまっている」
「フレイ様も頑張られているのですから、偶には休憩も必要だと思います」
「あぁ……」
フレイ様は、少し寂しげに頷きました。
ですが、甘えすぎなのは私のほうだと思います。
私はいつも、アリスやニール、ルーファスにハーネス、アルやルアン、他にも多くの方々に甘えてきましたから。
「ラルフもそれでいいですか?」
「あんまよく分かんないけど、俺はそれが誰かのためになるってならいい。
エリスを王にって思ったのも、エリスなら絶対誰かのために動くだろう、って思っただけだったから」
ラルフはある意味一番王に相応しく、一番、王に相応しくありません。
『自分ではなく誰かのために』その考えは、王になるのにあたり相応しいと言えるでしょう。
ですが、その考え方には自分を大切にする、という考えは入っていません。
そして、王は少数よりも大勢を選び救わなければなりません。
そのためには、ラルフの考えのままでは駄目なのです。
「私は私に出来ることをやっているだけです。
人によっては、私がやっていることは唯の偽善であると言う人もいるでしょう」
「『王とは、いついかなる時も冷静でなければならない。
王となるに必要なものは、優しさではなく、偽善と冷酷な心である。
王の素質とは、人を頼り、頼られることである』か」
今まで黙って聞いていたアルが突然そんなことを口にしました。
「なんだ、それ?」
「エリンスフィールの王族が最初に教えられることだ」
人を頼り、頼られること、ですか。
私にはないことです。
私は、ハーネスに言わせると、大事なことは一人で抱え込み、人を頼ることをしなくなる、だそうですから。
「その言葉からすると、エリスは王に向かないな」
「あー、うん。
逆に、フレイはピッタリ?」
「誰が冷酷無慈悲な偽善者だと?」
「そこまで言ってねぇ!」
そこにあったのは、いつものフレイ様とラルフの姿でした。
昔と同じく、ラルフが無駄な一言を口にし、それにフレイ様がキレる。
そんな、懐かしい二人の姿に私は思わず笑みを零しました。
「王の素質と王妃の素質は真逆ですね」
私は、隣に座るアルに向かってそう零しました。
私がエールで受けた王妃教育で教わったこと。
それは、王とは逆のものでした。
『王妃とは、いついかなる時も冷静でいなければならない。
王妃となるのに必要なものは、偽善や冷酷な心ではなく、全てを慈しみ愛する優しき心である。
王妃の素質とは、人を愛し、愛されることである』
最初と最後の文は同じようにも感じます。
ですが、二番目の文は王とは違うことを求められる。
それ故に、王と王妃という歯車が上手く重なり、国が回っているのだと思えます。
「だとするのなら、エリスは王妃に相応しいのだろう。
多少、優しすぎるところもあるとは思うがな」
「それは、アルの婚約者として相応しいということでしょうか?」
「私には勿体ないくらいだがな」
「ならば、もっと頑張らなければいけませんね」
ラルフとフレイ様が二人で言い争いをしている間、私とアルはそんなことを話していました。
アルは、冷酷や無慈悲といった言葉は合わないような気もします。
ですが、長い歴史の中で一人くらいはそんな王がいてもいいと思うのです。
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