王族なんてお断りです!!

紗砂

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本編

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結局、カイン様とルーファスはこちらにいる間のみですが、エンドルース公爵にお世話になるそうです。
そして、2人の変わりとでもいうように、ラルフがエンドルース公爵に連れてこられていました。


「エリス嬢とアルス王子を頼むぞ、ラルフ」

「おう!」


エンドルース公爵はそれだけ口にすると、カイン様とルーファスを連れ、城の方へと向かいました。


「そういや、俺はアルス王子の護衛ってことでいいのか?」

「あぁ、頼めるだろうか?」

「おう!」


それから少し、アルとラルフは話していましたが、流石はラルフ、というべきなのでしょうか?
既にアルと打ち解けているようです。
まさか、こんなに早く打ち解けるとは思ってもいませんでした。


「では、私は商会の仕事があるのでラルフに王都を案内していただいてはどうでしょうか?
前回はお土産を見ていて回れませんでしたから」

「俺はいいぜ」

「では、頼む」

「おう!」


私の提案で、アルはラルフにこの王都を案内してもらうことになりました。
正直、アルにずっと居られると仕事がやりにくいですから。
言い方は悪くなりますが、ラルフを利用させていただくことにしました。
勿論、ラルフだけでは心配なので、ニールを影からつけますが。


「では、行ってくる。
エリス、無理はしないようにな」

「無理をしようとしても、アリスが止めるでしょうから問題ありません。
行ってらっしゃいませ」

「んじゃ、また後でなエリス!」


私はラルフとアルを見送ると、すぐに店内へと戻り書類をアリスと共に片付けます。
その書類の中に、辞職願いが一枚、紛れ込んでいました。


「これは、詳しい話を聞かなければなりませんね」

「どうかしたのですか、エリス様?」


私の声を聞いて、書類に向かっていたアリスが顔を上げました。
アリスに、辞職願いを渡すと、顔を顰めました。


「こちらに呼びますか?」

「えぇ、お願いします」


人手不足の今、辞職されるのは困ります。
それに、もし他の商会へ、となるとこちらのレシピが漏れる心配もありますから辞職されるのだけは避けたいのです。
それに、『来る者拒まず、去るもの追う』というのがフィーリン商会の方針ですから。


「エリス様、お連れ致しました」

「入ってください」

「し、失礼します」


彼女、ミリスさんは若干緊張気味で部屋へと入ってきました。
ですが、その表情は緊張というよりも恐怖に近い、そう感じます。
これは、私がフィーリン商会の会頭だからなのか、それとも貴族だからなのか、もしくは、もっと他の何かがあるのか。


「どうぞ、座ってください」


私が座るように促すと、彼女はおずおずとソファーに腰掛けました。
そして、アリスがお茶をいれてきたところで話を始めます。


「さて、話というのはこちらの件です。
辞職願いが提出されていたのですが、これは本当にあなたの望んだことでしょうか?」


私の出した辞職願いに、彼女はピクリと反応しました。
そして、少し悲しげに瞳を揺らしながら口を開きました。


「っ……は、はい。
私の、望んだことです」


これは、明らかな『嘘』です。
私でも分かるほどの。
ならば、そうせざるを得ない何かがある、と判断して良いでしょう。
となれば、私だけでは心細いですね。

私は、何も言わずに席を立ち、紙とペンを持ち、一文を書き上げます。


「ハーネス、居ますね」

「はい、ここに」

「では、これをお願いします。
出来る限り、早く。
そちらを最優先とし、ハーネスにその件を全任します」

「承知致しました」


ハーネスには彼女の背後についてを調べて貰うことにしました。
結果は数日後には出るでしょう。

私の予想が外れていれば良いと思いますが。
えぇ、まさかあの方がそこまで頭の弱い方だとは思いませんから。
きっと外れているでしょう。
そう、願いたいですね。


「ミリスさん」

「は、はい!」

「この辞職願いは今はまだ受け取れません。
そうですね、ハーネスが戻ってきてからまた聞かせていただくことにします。
確か、ミリスさんはフィーリン商会の寮で暮らしていましたね?」

「そうですが……」

「では、シャールをつけましょう。
アリス、呼んできてもらえますか?」

「承知致しました」


私の背後に控えていたアリスは一礼すると、退室し、シャールを呼びに行きました。

シャールの勘は良いですから。
きっとミリスさんに危険があれば察知して避けてくれるでしょう。
戦闘能力はあまりありませんが、危険を避ける能力は私の知る中で一番だと思います。


「フィーリン商会の方針は、来る者拒まず、去るもの追う、ですから。
私は、あなたを手放すつもりはありませんよ」

「追ってはダメだと思いますが……。
普通は去るもの追わず、では無いでしょうか?」

「フィーリン商会で働く者は誰であろうと家族だと私は思っています。
家族が欠けるなんて、寂しいでしょう?」


元々は、孤児院の子達の居場所を作ってあげたいという願いもあったのです。
それに、私が商会を立ち上げた時、家族のように仲が良く、まるで本当の家族と居るようなくらい暖かく居心地の良い商会になるように願っていましたから。
私にとって、このフィーリン商会で働く人達は第二の家族のようなものなのです。

そんな家族が欠けることは、許認出来ませんし、誰かに傷つけられるのならば、私の持てる力全てを使い、守ります。


「エリス様、だからといって無理はしないようにお願いします」


丁度、アリスが戻ってきたようで、呆れたような口調で口にしました。
まさか、聞かれているとは思っていませんでした。
早すぎるような気もしますが、アリスなので当然、なのでしょうか?


「善処します、アリス。
シャール、呼び出してしまい申し訳ありませんが、ミリスさんをお願いします」

「りょーかいです!
エリス様の期待に添えるように頑張ります!」


シャールは、少し心配になるくらいの明るい返事を返してきました。
……大丈夫でしょうか?
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