俺の運命の相手が多すぎて困ってます

みつみつ

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第2章 異世界生活はじめました。

早速お仕事です

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 厩舎は、店舗の裏口を出て、店舗より一回り小さい木組みの住居だという家のさらに裏に回ったところにあった。 
 
 てか、ココどんだけ広いんだよ。まだ他の建物あるみたいだし。多分土地的にもいいとこだと思う。爺さんの謎がまた一つ増えた感じだ。

 厩舎にたどり着くと、黒い影が二つ。リュイとシュイだ。二頭は真新しい餌を仲良くむしゃむしゃと食べていた。

 あぁ、可愛いなぁ。あのでっかい目とか綺麗な毛並みとか癒される…。首に抱き着いてグリグリしたい。
 ついさっきまでのささくれた気持ちが、二頭のお陰で段々と落ち着いていくのがわかる。これはきっとアレだ。アニマルセラピーってやつだな。
 近いうちに爺さんに馬の世話の仕方を教えてもらおう。んで、もっと仲良くなって思いっきりもふってやる。

 小さな野望を胸に燃えていると、後ろから爺さんが俺の肩を叩くとズイッと目の前に何かを差し出した。

 「ほれ、明かりじゃ。もうすぐ暗くなりそうじゃから、一応、お前さんに渡しておく。手元が見えにくくなったらこの部分に魔力を流せば灯るからの。
 じゃあ、こっちの荷物から運んでもらえるか?あの倉庫にどんどん入れてけばええから。ワシはこのデッカイのを片してくるわい。」

 そういって、俺の体の倍はあるどでかい包みを軽々と担いで厩舎から消えていった。

 俺の知っている老人像からあまりにもかけ離れたその光景に唖然としてると、後ろからリュイが俺の頭を噛んで仕事をしろと促してきた。

「あぁ、リュイ。悪い。ちゃんと働くな。」
 
 リュイはぶるるッと鳴くとそのままやれやれと言わんばかりの様子でワラの布団に寝そべった。その横でシュイはまだハムハムとエサ入れに頭を突っ込んで食べている。

 同じ馬でも、性格は大分違うらしい。真面目担当のリュイと食いしん坊担当のシュイっと言ったところだろうか。

「さてと、このままボヤッとしてないで、さっさと終わらせますか!」

 気合と入れ直すと、伊吹は言われた仕事を黙々とこなしていった。

 どれくらいたっただろう。始めたときは夕暮れだった空は今は星を連れた藍色になっていた。流石に暗くなりすぎて手元が見えなくなったころ、爺さんが声をかけてくれた。

「なんじゃ、渡した明かりは使わんかったのか?まぁ、ええ。イブキ、とりあえず今日はそこまでで大丈夫じゃ。お前さんのおかけですっかり片付いた。」

 爺さんに渡されていたランタンの様な物。確かに、使えればもっと効率が良かったかもしれない。しかし、いかんせん使い方が分からなかった。
 魔力を流すと言われても、またあの石板のように加減が分からずやり過ぎて壊してしまう可能性があったからだ。

 それを考えると、またややこしくなりそうで使えなかった。

「あはは、夢中になって片してたらすっかりその存在忘れてました。片付け終了ですか?でも、まだ全部終わってませんけど…。」

「なーに。もともと、今日はデカい物だけやるつもりだったからな。腐るもんでもないし、残りは明日でも問題ない。リュイもシュイもそろそろ寝たい頃だろうしな。」

 爺さんのいう通り、リュイはもちろんおなか一杯になっただろうシュイがででんと横になりながらこちらの様子を伺っているようだった。

「そうですね。また、リュイの怒られる前に止めますね。」

「がはは。なんじゃ、お前さんもリュイに怒られてのか。リュイはしっかり者だからなぁワシもしょっちゅう怒られとるよ。さ、良い匂いもしとるし、きっとエリーが腕によりをかけた料理が出来上がってる頃じゃろう。行くぞ。」

 そう言うと首に巻いていた布で汗を拭きながら、店舗の方へ爺さんは入っていった。

 店舗に戻ってくる、と鼻をくすぐる良い匂いが俺の腹を刺激する。

「うふふ、いいタイミングだわぁ。ちょうど準備ができたから、その汗だらけの顔と手を洗ったらこっちにいらっしゃいなぁ。」

 エリーさんがカウンター越しに声をかけてきてくれてた。

 俺と爺さんはエリーさんの指示に従って綺麗にすると、おいしそうな料理が並ぶテーブルの席に着いた。

 エリーさんの料理は文句なしに上手かった。じっくりと煮込まれたスープに、何の肉かわからないが分厚く切られたステーキ。パンはやや硬めだったかが味がしっかりあって食べ応えがあった。
 
 久しぶりに手料理を食べたけど、やっぱりいいもんだな。満足感が全然違うわ。

「あら、もういいの?イブキちゃん、遠慮はダメよ?」

 え??いや、そんな年じゃ…。てそういえば俺今18歳か。そして相手は隣に座る長寿のエルフさん。…うん。仕方ないな。慣れないけど、慣れるしかない。エリーさんには余計なこと言わない。逆らわない。ここにきて一番初めに覚えなきゃいけない事だ。きっとそうだ…。そうに違いない。

 てか、テーブルを挟んで向かいに座ってる爺さんはまだ食べてるし。どこに入るんだよその量…。これ基準にされたら俺、簡単に太れるな。

「はい。大丈夫です。エリアラさんの料理がおいしすぎていつもより多く食べたくらいです。」

「そう?ならいいけど。しっかり食べないと元気でないわよぉ。あ、それから私の事は【エリー】ねぇ。もちろん私にも敬語も無し。ここに住む以上家族のようなものなんだし。家族に敬語なんておかしいでしょ?」

 隣で俺を覗き込むように話していたエリアラさんはそう言うと、いきなり近づいてきたと思いきや、ぶるんと大きな胸を両腕で更に寄せて腕に押し付けてきた。

 いや、これは眼福で至福…。久しぶりの感触にドキド…じゃない。痛いです。目の前の視線がすっごく痛いです。ごめんなさい。でも、これは俺のせいじゃない!と抗議します。

「あ、あの、オリムさんにも言われたんですけど、俺、目上の人には敬語っていうのが癖になってて…。だから、当分はこんな感じでお願いします。少しづつ慣れていくんで…。」

 そっと、何気なくエリーさんの体から距離をとると、膝に手をつき頭を下げた。

「もう、そういうのが要らないのよ。真面目さんねぇ。せっかく可愛い顔してるのにつまらないってモテなくなっちゃうわよぉ。」

 つんつんと俺の頬をつつきながら、笑うエリーさんはその美貌できっとモテモテだったのでしょう。
 そして、俺はきっと目の前の視線だけで死ねるでしょう…。
 どっちかって言うと、エリーさんより若かったら爺さんの方が好みですよ~。とは言うまい。

 まぁ、どちらにせよ既婚者の方に手を出すことは無いのでご安心ください。

 なんて、自己完結していると、爺さんが食べるのをやめて話しかけてきた。

「イブキ、お前さん、魔力は相当量をもってそうじゃが、ちゃんとした訓練はやったことがあるのか?」

 まさに『ギクッ』である。…今までの経験上、な嘘は命取りになる。よく考えてから発言しないと今までの苦労が水の泡にだってなりえる。

「すみません。実は良くわかってないんです。小さい頃から、(気を)体内で循環させるような(イメージの)訓練はしてきたのですが、それ以上の事は…。
 多少の武芸は教えられていて、その過程で循環させることは大事だとは教わりました。ただ、魔力その物の使い方に関しては一切分からないのが正直なところです。」

「なかなか、面白い教育をされとったんじゃなぁ。という事はその見た目に反して多少は鍛えてたって事か。」

「オリムさんからしたら、きっと足元にも及びませんよ。ただ、狙われる可能性のある環境だから、自力でどうにか出来るくらい強くなれとは言われてきました。」

 実際、俺は小さい頃から、祖父やオヤジアイツらにそういわれて育ってきた。余りにも酷い稽古…いや、もはやあれは暴力に近かったか。何度、死にかけたか分からない。祖母はその時にはもういなかったし、母親あの女はと言うとそれを見て泣きながら誤ってくるだけで、かばって助け出してくれる事は一度だって無かった。

 高校生になる頃にはそんな家が嫌いで、学校にも行かずダチの所を転々としては見つかって連れ戻される生活を繰り返していた。セックスにハマっていったのもその頃だ…。
 そして、あの事件が起こった…。

 吐き気がする。せっかくエリーさんが作ってくれた食事をだいなしにしそうだ。やっぱり、こんな俺が幸せになる事なんてあり得ない。ある訳が無いんだ…。

 黒く渦巻く泥のようなものが俺を支配し沈めていく。あぁ、誰か俺を奪ってくれ、誰でもいい俺に埋めさせてくれ…。何も考えない様に…。何も考えられない様に…。息が苦しい…。助けて…。

 『パンッ』

 どこからか、何かが壊れる音が聞こえる。壊れているのはもしかして俺か…?

「イブキ、落ち着け!何を考えてるか知らんが、ワシを見ろ!!」

 誰を見ろって?あれ…?俺は今、誰といた…?

「イブキちゃん、良い子ね。貴方はとても良い子。」

 俺がいい子?散々、周りを困らせて、巻き込んで壊していった俺が…?

「そうよ。貴方はとても良い子よ。だから、出来るはずよ。ゆっくり息を吸って吐くの…。うん、上手…。そうしたら、イメージをして…。今、あなたの体から出ている物に蓋をするの。大丈夫出来るわ…。そう、とっても上手よ。ゆっくり、ゆっくり…。」
 
 なんだろう…。温かい…。優しい…。息ができる…。

 蓋をする?何に?このドロドロして体にまとわりつく何かを?…イメージするってどうやって?
 あぁ、いつもやってたじゃないか…。不要な気持ちは箱に入れてしまうんだ。蓋をしてカギをかけて奥の奥にしまえばいい…。

 「あ…。俺、いったい…?」

 どのくらい経ったのだろう…。気が付くと俺はエリーさんの豊かな胸の中で顔を埋めていた。
 エリーさんはと言うと俺を抱きしめて、俺が落ち着くまでずっと頭を撫でていてくれたようだ。
 
 そして、オリム爺さんはそのエリーさんの肩越しにこちらをじっと見つめていた。

 ん?何してたんだ俺?

「やっと、戻ってきおったか?ほれ、いつまでそうしておる。そこはワシの指定席じゃ。早く返せ。」

「うわっ!!っておっと…。」

 やっとのことで状況が理解できた俺は慌てて、エリーさんから飛びのくと足元にカランと何かが当たった。

「え?樽?何でここに…?ってえっぇぇええ‼」

 よく見るとあたりは、いろんなものが散乱していてぐちゃぐちゃになっていた。もちろん、今まで食べていた皿やコップが置いてあったテーブルの上も見事な惨状になっていた。

 もしかしなくても、これって俺がやったんだよな…。他にそんな事をするような奴が思い当たるわけもなく、この悲惨な状況にただただ、茫然とするしかない。

 ただ、体は凄く怠かった。さっきまで何ともなかったのに今は鉛のように重い。頭がクラクラするのを何とか我慢していると、爺さんが俺の肩を押して椅子に強引に座らせる。

「気にするな。ここはワシが片付けておくから、お前さんはもう寝た方がいいじゃろう。疲れてるからいらん事を考えちまうんじゃ。」
 
「いや、でも…。」

 これは俺のせいなのだから、俺が片さないと…。壊した家具とかもろもろ弁償もしないとだ…。

「デモもカモもない。お前さんは今日からワシの家族じゃ。家族の中でそんな小さな事気にしてたらきりがないわ。それに、お前さんがいたら片付けの邪魔になるだけじゃしの。ほれ、…△&#!」
 
 最後に呟いた爺さんの言葉は理解できなかったが、いきなり『ぶわっ』と風が吹いて辺りのゴミが一つに纏まっていた。おそらく爺さんは、何らかの魔法で片付けができるからお前は不要だと言いたいのだろう。

 確かに、そんな中で役立たずの俺がいても邪魔なだけだ。
 これ以上迷惑かけるよりは、おとなしく言うことを聞いておくのが正しい気がした。

「そうねぇ。きっと、自分が思っているより疲れが溜まっているのよ。そうと決まれば、お部屋の用意しなくちゃ。さぁ、まずはこれを飲んでねぇ。」

 エリーさんから渡されたのは、ワイングラスに入った不思議な色の液体。

 …これ、飲めるのか?

「ほい、ぐいっとな。」
 
「へ?おわっ、むぶっ!」

 俺が躊躇していたら、爺さんが無理やり鼻をつまんで口に流し込みやがった。

「ごほっ!おい、なにすんだよ!じじぃ。っっア…。」

 気が緩んでたうえに、いきなり爺さんにやられたもんだから、ついうっかり素が出てしまった。

「…くッ、がっははは!こりゃええわい。それがお前さんの素か。ワシはそっちのお前さんの方が好みだ。これからはさっきまでの変な猫かぶっとらんで、そのままのお前さんでぶつかってこい。」

「くそっ!」

  何だかいたたまれなくなった俺は、テーブルに散乱した皿を適当にかっさらって厨房のシンクに逃げたのだった。
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