俺の運命の相手が多すぎて困ってます

みつみつ

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第2章 異世界生活はじめました。

俺が知らない二人の話

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「イブキちゃん、お待たせ。お部屋が用意できたから行きましょ?」

「あ、はい。これ流したら行きます。」

 あれから、結局俺は、爺さんの近くに居たくなくて、そのまま持ってきた皿なんかを洗っていた。っというかエリーさんはいつの間に居なくなってたんでしょうか?

「うふふ。もう、やらなくて大丈夫よって言ったのに。あぁ、そういえば体調はどう?まだ、ふらふらしたりする?」

 いや、ただ単純に何かしてないと落ち着かなかっただけです…。

「え?あ、はい。大丈夫です。今は何とも…、あの、もしかしてさっき飲まされた奴って薬か何かですか?」

 あの、不思議色の液体。見た目はアレだったけど、味はそんなに不味くはなかった。あの直後、一気に抜けた感じがした力が今は何ともない。そう考えると爺さんに無理やり飲まされた液体はそれを回復する物だったんだろう。

「そうねぇ。あれは【ポーション】っていうのよ。見たことなかったかしら?詳しいお勉強はまた今度ね。さぁ、今日はもう終わり!そろそろ行きましょ?…オリム~、ちょっとイブキちゃん部屋に案内してくるわねぇ。」

 エリーさんはまだ作業をしていた爺さんに声をかけた。それにこたえるように。爺さんは何も言わず手を振り返した。

 …なんか、わざと振り返らないとか、俺に気を使ってる感じがする。絶対いま、あの爺さん笑ってるし!肩震えてるし‼。こうやったら、やけだあの爺さんに遠慮なんてしなくていい。

「爺さん、無理してぎっくり腰とかになるなよ!じゃあ!先に休ませてもらうからな!」

 そういうと、俺はエリーさんを追い抜かし、一足先に店を出た。
 すると数秒後に中から爺さんの馬鹿笑いが聞こえてきた。ちくしょ~、いつかぎゃふんと言わせてやる!



 住居用の家の前でまっていると、エリーさんが玄関のドアを開けて明かりを灯してくれた。

「こっちよぉ。こっち」

 玄関に入ると右側に階段があり、その途中から声をかけられた。慌てて、駆け上がるとエリーさんの後をついていく。

「今日は、何も用意できなかったから、息子のもので悪いけど使って頂戴ねぇ。部屋もその息子のものだけど、もう家を出てて帰ってくることも稀だから気にしないでぇ。」

 そういうと、階段を上がりきって左の一番奥の部屋に通された。
 
 扉の向こうには机と本棚、そしてベットのみのいたってシンプルな部屋。確かに生活感はなく最近は使われていないようだ。

「今、着替えとお湯を持ってくるわね。それで体をふいて着替えたら今日はお休みなさいよ?イブキちゃん変に肩の力入って寝れなそうだから、ここに気分が落ち着くできるお香炊いとくわね。匂い大丈夫かしら?」
 
「わかってます。お二人に言われた通り、今日はこのまま寝ようと思います。あぁ、この匂い俺、好きです。確かに落ち着きそうです。エリーさん本当にお気遣いありがとうございます。」

「それならいいわぁ。それから、むしろイブキちゃんはもっと遠慮なく言って頂戴。さっきのイブキちゃんの方が私も好きだわぁ。じゃあ、ちょっと待っていてねぇ。」

 エリーさんにも言われてしまった…。素の自分を出すのは苦手なので爺さんはともかく、エリーさんにはできたらもう少し待った貰いたい。
 ベットに腰を掛けて待っているとしばらくして、エリーさんがお湯の入った桶と着替えを持ってきてくれた。

「明日は、早起きなんてしなくて大丈夫よぉ。ゆっくり疲れをとってそれからね。それじゃ、おやすみなさいぃ。」

 静かにドアが閉まり足音が遠ざかっていく。俺は、アストに貰った服を脱ぎ、たたむと机の上に置く。そして貰ったお湯と布で体を拭き、着替えに手を通すとスゲーデカかった。
 オリム爺さんの息子さんの物だとエリーさんも言ってたし。きっと体のデカさは爺さんに似てるのだろう。
 ぶかぶかなシャツの袖を何回か折ると、下のズボンは履かずにそのままベッドにもぐりこんだ。

 明日から、ここでの生活が始まる。

 当面の目標はしっかりと働き、あの二人の信頼を得ること。そして、借りたお金と恩を返すこと。まずはそれからだ。

 今日は、色々あった。興奮して眠れないかとも思ったが、やはり体は正直で次第に瞼が重くなっていく。
 お香の煙が鼻先をくすぐる。落ち着く匂いが部屋を満していくのが分かる。
 そして、暖かい布団に包まれながら伊吹は深い眠りに落ちていくのであった。



「おう、イブキは寝たみたいだな…。」

「えぇ、一応、貴方には悪いけど用心のために彼の枕元に眠りの香を置かせてもらったわぁ。」

 ここは、先ほどまで伊吹がいた食事処【閑古鳥】のカウンター。
 
 そこに腰かけて酒を飲んでいたオリムが、裏の自宅から戻ってきたエリアラを見て声をかけた。

「片付けてくれてありがとう。それにしても色々びっくりしたわぁ。まさか【神の申し子】をこの目で見れるなんてぇ。それにあの力…。」

 そうい言いながら、エリアラはカウンター下から自分用のグラスと蜂蜜酒ミードを取り出すと、トクトクと注いでいく。そして、オリムにむかってグラスを傾ける。答えるようにオリムは自分の飲んでいたグラスを近づけ『カチン』と音を一回鳴らし合わせると目の高さに持ち上げ乾杯の合図をした。

も驚いたさ。なんせ、黒目・黒髪なんて伝説でしか聞いたことがなかったからな…。それからあの暴発にはオレも反省しとる。アイツの中の何かに触れちまったらしい。」

 【黒】の件については、オリムは伊吹に大したことではない様に装ってはいたが、周りにバレない様に気を配って実はヘトヘトだった。さらに、あの力の暴発。予想だにしない魔力量に一瞬動けなかった自分がいた。

「でも、そう考えると色んな意味で本当によく無事だったわねぇ。あの様子じゃあ、あの子自身は田舎から出てきた世間知らずの子、そのものだもの。」

「そうだなぁ。オレと会う前まで、ツレが居たらしいことは話しただろう?オレとしては何故ここにきてイブキと別れたのかが気になっててな…。」

「そうねぇ。なんだかこうなる事が分かってたみたい…。て言ったら考え過ぎなのかしら…?」

「いや、中らずと雖も遠からずだと思うぞ。本人にはその事は話してないんだが、オレがあやつを見つけたときどうなってたと思う?」

「どうってぇ…。貴方がそんな風に言うってことは何か特別な状況が起こってたって事なんでしょ?」

 エリアラがふぅーっと吐息を漏らすと、頬に手を当て考えるように小首をかしげた。

 それを見てオリムはニヤリと笑い残りわずかだった酒を一気にあおると、空になったグラスを『カンッ』と音をたてて置いた。エリアラはその空になったグラスを受け取り、琥珀色の液体を注ぎ入れるとオリムの前にそっと戻した。その一連の動作をじっと見つめたまま、オリムは伊吹を見つけた時の事を思い出していた。

「あやつなぁ…。光ってたんだよ。…最初は、ココから一刻位走った街道脇のあのどデカいスクの樹があるだろう?あそこで寝こけておってなぁ。アホな奴もいるもんだと一度は通り過ぎたんだよ。」

 そう、あの時、オリムは伊吹を助けるつもりはなかった。あんなところで無防備に寝ていて何かあってもそれは自業自得。
 自分の身すら守れないような者は冒険者や傭兵、騎士などを連れだって旅するのがこの世界の常識だ。それをしていないという事は相当自分の腕に自信があるか、ただのアホでしかない。

 だから、オリムは構うことなくは通り過ぎたのだ。

「だがなぁ。通り過ぎてすぐ、ふわぁっと金色の虫みたいなんがリュイとシュイの鼻先に舞いだしてなぁ。そしたら、あの賢い二頭が『ピタッ』と動かなくなって…。困っとったら、今度はその金色のがオレの前でちょこまかしだす始末で…。しかも、その動きがどうもオレをその寝こけてるやつの所に行かせようと誘導するから、仕方なく誘われるがまま、とりあえず様子だけ見るつもりで傍に行ったんだ。」

 実際、そこに居たのが伊吹であった。通り過ぎたときは影でよく見なかったが、傍に行けば、金色の明かりが寝こけている者の周りを照らしていく。
 そして、姿を見て、オリムは驚いた。まず、目に入ったのは【稀】だと言われている黒色。
 その、つややかな黒で目を縁取るまつげは露かそれとも涙なのかしっとりと濡れて、赤い唇は何か言うように動いているが声は聞こえない。美青年が苦痛の表情を浮かべ倒れていた。

「そんで、起きたら目までが【黒】ときて、金色のもいつの間にかいなくなっておるし。無性にこりゃここに置いてはおけんと思ってなぁ…。」

「もしかして、その貴方のいう金色のって精霊だったんじゃないの?【神の申し子】ならあり得るんじゃないかしら?…うぅん、それにしても、イブキちゃんが自分の事しゃべるとき妙に固くなるのが気になるのよねぇ。何ていうのかしら?嘘はを言っていないのだけど、ずべてが本当ではない気がするの。上手く隠しているつもりでいる様だけど、ちょっといい【スキル】持ちならバレて何されちゃうか…。」

 そうなのだ。出会ってからわずかな時間しかたっていないが分かったことがいくつかあった。

 一つは、あの見た目通り、優男のナヨっとした奴なのかと思っていたが、実際は力仕事も軽々とこなす体力と、スキの無い身のこなしは確実に訓練されたものだった。そして、あいつの頭の回転の速さ。先を読んで行動できる知力と機転がしっかりとある事。

 二つ目は、自分の魔力についてよくわかっていない様子だが、基本の魔力の循環は自然とやっていること

 三つめは、あいつ自身の事を聞くと一瞬、空気が変わる事。どうやら、過去に何かしらあったようで人懐っこい笑みを浮かべているが、決して内側には踏み込ませない壁を作っていやがる。これに関しては、聞き方を間違えると先ほどの様にアイツ自身も制御できない暴発につながるという事も分かった。

「あやつの存在そのものが怪しいさ満点なんだがなぁ。どうも放っておけない気にさせられちまうんだよなぁ…。なんか問題起こすなら、オレの手元で預かった方が面倒がなさそうというかな…。」

「うふふ。オリムが人の面倒見るなんて珍しいこともあるものねぇ。いつもは、自分が面倒起こしてるものねぇ。」

 ころころと笑うエリアラを横目に酒を煽ると、バツが悪そうにオリムは頬杖をついた。

「とりあえずは、当面の間イブキを雇うって形でうちで働かせつつ、あやつが俺たちに頼ってきたときは助けてやるってことでいいか?」

「そうねぇ。なるべく早く頼ってくれるといいのだけれと…。そのうち、子供たちにも協力してもらうことがあるかもしれないわねぇ。今のうちから、イブキちゃんの事を連絡しておく?」

 エリアラの言う通り、なるべく早く頼ってくれた方がお互いの為だろう。しかし、まだあやつの存在を他の奴らに知られてしまうのも得策とは思えなかった。それが身内だとしてもだ。

「いや、時を見て俺が話すから、それは少し待ってくれ。アイツ等が帰ってくるときはいつも連絡を入れてくるだろう?そうなった時また考えるさ。」

「わかったわ。でも、ちゃんと私にも相談してからにして頂戴よ。さぁて、そうと決まれば、明日はさっそくイブキちゃんを変身させないとよねぇ。」

「あぁ、そうだな。それから、身の回りの物そろえてやらんとな。あやつの事だ、また恩だのなんだの言いだすだろうが、流して聞いておけよ。じゃないと、また余計な壁創りかねないかな…。」

「大丈夫よぉ。任せておいて。うふふ、明日からにぎやかになりそうねぇ。楽しみだわ。さぁ、私たちもそろそろ寝ましょ?」

 そう言うと、エリアラは酒とグラスを片付けた。

 オリムは後を追うように席を立ち、そして店の明かりを消すと二人仲良く家へと入っていくのだった。

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