コチラ、たましい案内所!

入江弥彦

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エピローグ(4)

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 私の願いに反して、足音は近付くにつれてゆっくりになってくる。


「お困りのようだなあ、ヨミ」


 それから、声が降ってきた。

 低くて、心地の良い声。

 初めて聞くはずなのに、安心してしまう声。

 それで、どこか調子に乗っているムカつく声。


「案内するのは、お前の役目だろ」


 顔をあげると、真っ黒のスーツに真っ黒のネクタイが視界に入る。

 スーツとは対照的な白い腕が差し出された。


「立てるか?」


 初めて会った、あの日みたいに。

 頭の奥の鍵が外れて、たくさんの記憶が流れ込んでくる。

 思い出した。全部。私が会いたかったのは、この人だ。この、たった三文字の名前も覚えられなかった人だ。


「私の名前は、こよみです! クロノさん!」

「そんだけ元気があれば十分だな。さあ、案内してやろうぜ」


 彼の手を取って立ち上がる。おばあちゃんが、私とクロノさんを交互に見比べる。彼のことを見ているということで合点がいった。おばあちゃんは無視されていたわけじゃない。誰にも見えていなかったんだ。

 クロノさんの言うように、案内するのは私の役目だった。今までは。


「で、でも、私はもうタマジョじゃ……」

「いいや、お前はまだタマジョだ。正確には、今日からまたタマジョとして働いてもらう」

「ど、どうしてっ?」

「お前の働きっぷり、閻魔大王様はちゃんと見てたってことだな。どうする? 史上初の生きたタマジョだぞ。嫌ならやめてもいいんだけどなあ?」


 クロノさんは相変わらず、意地そうに口角をきゅっとあげた。

 ずるいです。嫌って言っても、無理やりやらせるんでしょう。でもまあ……。


「嫌じゃないです」

「そうこなくちゃな」


 嫌なわけなんて、絶対ないんだけど。

 おばあちゃんに向き直って、手を差し出す。


「立てますか? 私が、おばあちゃんの行きたかったところに案内します!」


 その手を取られて確信した。こんなに冷たいんだもの、それは、気が付いてもらえないよね。でも、もう大丈夫。


「おばあちゃん、一人で不安でしたよね。たくさんの人に無視されて怖かったですよね。でも、それは、おばあちゃんが悪いわけじゃないんです」

「私が悪いわけじゃないの?」

「もちろん! ただ、みんなには見えていなかっただけ。なので、たくさんおしゃべりのできる人がいるところにご案内します。そこが、おばあちゃんの行きたいところです」

「私の、行きたいところ……」


 私が頷くと、おばあちゃんの体が淡く光り始めた。ランドセルが勝手に開く。


「ありがとうねえ、なんだか、今ならいける気がするよ」

「おばあちゃん、長生きしたんだね。あっちでも、楽しくしてくださいね」


 私の言葉にうなずく前に、おばあちゃんが光の玉になる。ランドセルの中に、勢いよく入っていった。


「案内完了っ!」


 ぱちん、とランドセルが閉まる。教科書がパンパンに入っているので、やっぱり重たいけれど、さっきよりもしっくり来た気がする。

 ランドセルを背負いなおすと、クロノさんがパチパチと手を叩いた。それはもう、これでもかって食らいに口角をあげて。

 どうして私は、ムカつく顔を……じゃなかった。大事なことを忘れていたんだろう。


「さっすが、ヨミだなあ。迎えに来た甲斐があった」


 それほどでも……あるかもね。少しだけ胸を張ると、クロノさんが私の頭を思いっきり撫でまわした。

 髪の毛が乱れるから、それはやめてって言っているのに。


「ヨミ。俺にふさわしいタマジョはお前だけだよ。閻魔補佐の俺に、なあ」

「っ! 補佐になったなら、三文字くらい言えるようになってよね!」


 これからもクロノさんと仕事ができる。最初は生き返るために嫌々始めたことだったし、怖くて仕方なかったのに、まさかこんな気持ちになるなんて。

 クロノさんと一緒に一人でも多くの人を助けることができるなら、こんなに幸せなことってない。

 最初は少し怪しく見えるかもしれないけれど大丈夫。怪しい者じゃありません。迷子の魂をしっかりご案内させていただきます。



 なんていったって私は、たましい案内所なんだもの!
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みんなの感想(1件)

ダイナマイト・キッド

プロローグの楽しそうでこなれた様子とは打って変わって読者にも、こよみちゃんにも様子が飲み込めず訳が分からないままお話が始まる。無駄な描写をせずにこよみちゃんの素性が明らかになって、なぜここに居るのか、ここがどこなのか、もちゃんと伝わる。だからこそ、何が起こったのかがわからなくて不安になる。
とても面白いのと、とても上手いな!と思うのと二本立ての見事なスタートだと思います!

解除

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