幽刀星

氷翠

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歩・二十四「囁」

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尋問は進まない。
目の前の女、拘束されたまま壁にもたれてこちらを睨みつける彼女は、尋問に対してただ沈黙で返すばかりだった。
何を訊いても、舌打ちをしたり、鼻で笑ったりするだけ。
何を訊いても無駄──そんな空気を意図的に作っているのがわかる。
ならば。

「仕方ないな……方法を変えよう」

俺はそう呟くと、彼女の靴を脱がせ、指先をじっと見つめた。

「……は?」

険しい顔の女が眉をひそめる。

「なっ……ふ、ふざけんな、やめ──っ、あは、あははっ、ちょ、やめろ、コラ……っ! 殺すぞッ!!」

荒々しい罵声とともに、女は体をよじって笑いながら暴れる。
それでも、こちょこちょと刺激を与え続けると、数分後、笑い声が叫びに変わり、泣き声に近づいていった。

「くっ……! アミー……だよっ……アミーだっつってんだろッ!!」

俺は手を止めた。
ようやく名前が出た。嘘ではないだろう。
アミー──妙に荒々しい口調に見合う、獣じみた女性だ。

「さて、アミー。もう少し付き合ってもらう」
「……てめぇ、こんなマネしてタダで済むと思ってんのか……?」

睨み返してくる彼女の視線には、怒りよりも、ほんの少しの諦めが混ざっていた。
それから更に数時間。
アミーの気力が削れるタイミングを見極めながら、俺は何度かくすぐったり、話を変えたりしながら、情報を少しずつ引き出していった。

「レミエルを殺したのは……あたしだよ」

そう吐き出したとき、アミーはすっかり力を失っていた。
部屋の隅で壁にもたれた彼女を見つめながら、エノクが一歩、俺の横に立つ。

「どうにも妙だな。こいつ、まだ何か隠してると思わないか?」
「ああ、俺もそう思ってる。油断はできない」

俺は頷いた。

「……じゃあ、俺とカサレアは外の用事を片付けてくる。お前はここで見張っててくれ」
「頼む」

エノクとカサレアは外へ出た。
俺は椅子に腰掛け、アミーの前に座り直す。
まだ口を開かせられる。
数分後──

「……いいか、話してやるよ」

アミーがぽつりと口を開いた。
「依頼されたのは闇ギルド経由だ。内容もよくわからなかったけど、追跡・監視・そして殺害。……あたしはそれだけを受けてた」
「依頼主は誰だ」
「それが……調べたら、どうやら“ホド伯爵”って野郎だった」

ホド伯爵──やはり、あの貴族か。

「なんで俺を狙った?」
「知らねぇ。けど、あんたに関係ある奴を消せ、って指令が来た。……レミエルはその一人。カサレアも次の標的だった」
「他にもまだ……?」
「さあな。ホド伯爵が何を考えてるかなんてわかんねぇよ。でも、あいつは……エンカイ子爵を敵視してる。あの子爵を貶めるために、あんたを悪に仕立てたんだと思う」
「なるほどな」

口の中で呟く。
レミエルが、命を落とした本当の理由。
それは単なる偶然や巻き込まれではなく、最初から狙われていた──それがわかるだけでも、前に進む根拠になる。



一方その頃、エノクとカサレアは食料の買い出しのため、町の市場を歩いていた。

「エノク、ほら、これ安いわ」
「……ああ。カサレア、すまんが、あまりはしゃぐな」
「……?」
「……誰かに尾けられてる。アミー以外にも、まだ狙ってくる奴がいるかもしれん」

その一言で、カサレアの表情が強張った。

「……また、狙われてるの?」
「ああ。……奴らがどこまで狙ってるのか分からんが、早く戻ろう。情報を急いでアランに伝えたい」

二人は足早に戻る。
そして、俺たちが潜伏している建物の一室へと駆け戻ってきた。

「アラン!」
「どうした、何かあったのか?」

エノクが真剣な表情で頷く。

「俺たちが買い物をしていたとき、明らかにこっちを尾行している気配があった。……アミー以外にも、まだ敵が潜んでいる」

この戦いは、まだ終わっていない。
むしろ、ようやく核心に近づき始めたところだ。
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