24 / 55
歩・二十四「囁」
しおりを挟む
尋問は進まない。
目の前の女、拘束されたまま壁にもたれてこちらを睨みつける彼女は、尋問に対してただ沈黙で返すばかりだった。
何を訊いても、舌打ちをしたり、鼻で笑ったりするだけ。
何を訊いても無駄──そんな空気を意図的に作っているのがわかる。
ならば。
「仕方ないな……方法を変えよう」
俺はそう呟くと、彼女の靴を脱がせ、指先をじっと見つめた。
「……は?」
険しい顔の女が眉をひそめる。
「なっ……ふ、ふざけんな、やめ──っ、あは、あははっ、ちょ、やめろ、コラ……っ! 殺すぞッ!!」
荒々しい罵声とともに、女は体をよじって笑いながら暴れる。
それでも、こちょこちょと刺激を与え続けると、数分後、笑い声が叫びに変わり、泣き声に近づいていった。
「くっ……! アミー……だよっ……アミーだっつってんだろッ!!」
俺は手を止めた。
ようやく名前が出た。嘘ではないだろう。
アミー──妙に荒々しい口調に見合う、獣じみた女性だ。
「さて、アミー。もう少し付き合ってもらう」
「……てめぇ、こんなマネしてタダで済むと思ってんのか……?」
睨み返してくる彼女の視線には、怒りよりも、ほんの少しの諦めが混ざっていた。
それから更に数時間。
アミーの気力が削れるタイミングを見極めながら、俺は何度かくすぐったり、話を変えたりしながら、情報を少しずつ引き出していった。
「レミエルを殺したのは……あたしだよ」
そう吐き出したとき、アミーはすっかり力を失っていた。
部屋の隅で壁にもたれた彼女を見つめながら、エノクが一歩、俺の横に立つ。
「どうにも妙だな。こいつ、まだ何か隠してると思わないか?」
「ああ、俺もそう思ってる。油断はできない」
俺は頷いた。
「……じゃあ、俺とカサレアは外の用事を片付けてくる。お前はここで見張っててくれ」
「頼む」
エノクとカサレアは外へ出た。
俺は椅子に腰掛け、アミーの前に座り直す。
まだ口を開かせられる。
数分後──
「……いいか、話してやるよ」
アミーがぽつりと口を開いた。
「依頼されたのは闇ギルド経由だ。内容もよくわからなかったけど、追跡・監視・そして殺害。……あたしはそれだけを受けてた」
「依頼主は誰だ」
「それが……調べたら、どうやら“ホド伯爵”って野郎だった」
ホド伯爵──やはり、あの貴族か。
「なんで俺を狙った?」
「知らねぇ。けど、あんたに関係ある奴を消せ、って指令が来た。……レミエルはその一人。カサレアも次の標的だった」
「他にもまだ……?」
「さあな。ホド伯爵が何を考えてるかなんてわかんねぇよ。でも、あいつは……エンカイ子爵を敵視してる。あの子爵を貶めるために、あんたを悪に仕立てたんだと思う」
「なるほどな」
口の中で呟く。
レミエルが、命を落とした本当の理由。
それは単なる偶然や巻き込まれではなく、最初から狙われていた──それがわかるだけでも、前に進む根拠になる。
*
一方その頃、エノクとカサレアは食料の買い出しのため、町の市場を歩いていた。
「エノク、ほら、これ安いわ」
「……ああ。カサレア、すまんが、あまりはしゃぐな」
「……?」
「……誰かに尾けられてる。アミー以外にも、まだ狙ってくる奴がいるかもしれん」
その一言で、カサレアの表情が強張った。
「……また、狙われてるの?」
「ああ。……奴らがどこまで狙ってるのか分からんが、早く戻ろう。情報を急いでアランに伝えたい」
二人は足早に戻る。
そして、俺たちが潜伏している建物の一室へと駆け戻ってきた。
「アラン!」
「どうした、何かあったのか?」
エノクが真剣な表情で頷く。
「俺たちが買い物をしていたとき、明らかにこっちを尾行している気配があった。……アミー以外にも、まだ敵が潜んでいる」
この戦いは、まだ終わっていない。
むしろ、ようやく核心に近づき始めたところだ。
目の前の女、拘束されたまま壁にもたれてこちらを睨みつける彼女は、尋問に対してただ沈黙で返すばかりだった。
何を訊いても、舌打ちをしたり、鼻で笑ったりするだけ。
何を訊いても無駄──そんな空気を意図的に作っているのがわかる。
ならば。
「仕方ないな……方法を変えよう」
俺はそう呟くと、彼女の靴を脱がせ、指先をじっと見つめた。
「……は?」
険しい顔の女が眉をひそめる。
「なっ……ふ、ふざけんな、やめ──っ、あは、あははっ、ちょ、やめろ、コラ……っ! 殺すぞッ!!」
荒々しい罵声とともに、女は体をよじって笑いながら暴れる。
それでも、こちょこちょと刺激を与え続けると、数分後、笑い声が叫びに変わり、泣き声に近づいていった。
「くっ……! アミー……だよっ……アミーだっつってんだろッ!!」
俺は手を止めた。
ようやく名前が出た。嘘ではないだろう。
アミー──妙に荒々しい口調に見合う、獣じみた女性だ。
「さて、アミー。もう少し付き合ってもらう」
「……てめぇ、こんなマネしてタダで済むと思ってんのか……?」
睨み返してくる彼女の視線には、怒りよりも、ほんの少しの諦めが混ざっていた。
それから更に数時間。
アミーの気力が削れるタイミングを見極めながら、俺は何度かくすぐったり、話を変えたりしながら、情報を少しずつ引き出していった。
「レミエルを殺したのは……あたしだよ」
そう吐き出したとき、アミーはすっかり力を失っていた。
部屋の隅で壁にもたれた彼女を見つめながら、エノクが一歩、俺の横に立つ。
「どうにも妙だな。こいつ、まだ何か隠してると思わないか?」
「ああ、俺もそう思ってる。油断はできない」
俺は頷いた。
「……じゃあ、俺とカサレアは外の用事を片付けてくる。お前はここで見張っててくれ」
「頼む」
エノクとカサレアは外へ出た。
俺は椅子に腰掛け、アミーの前に座り直す。
まだ口を開かせられる。
数分後──
「……いいか、話してやるよ」
アミーがぽつりと口を開いた。
「依頼されたのは闇ギルド経由だ。内容もよくわからなかったけど、追跡・監視・そして殺害。……あたしはそれだけを受けてた」
「依頼主は誰だ」
「それが……調べたら、どうやら“ホド伯爵”って野郎だった」
ホド伯爵──やはり、あの貴族か。
「なんで俺を狙った?」
「知らねぇ。けど、あんたに関係ある奴を消せ、って指令が来た。……レミエルはその一人。カサレアも次の標的だった」
「他にもまだ……?」
「さあな。ホド伯爵が何を考えてるかなんてわかんねぇよ。でも、あいつは……エンカイ子爵を敵視してる。あの子爵を貶めるために、あんたを悪に仕立てたんだと思う」
「なるほどな」
口の中で呟く。
レミエルが、命を落とした本当の理由。
それは単なる偶然や巻き込まれではなく、最初から狙われていた──それがわかるだけでも、前に進む根拠になる。
*
一方その頃、エノクとカサレアは食料の買い出しのため、町の市場を歩いていた。
「エノク、ほら、これ安いわ」
「……ああ。カサレア、すまんが、あまりはしゃぐな」
「……?」
「……誰かに尾けられてる。アミー以外にも、まだ狙ってくる奴がいるかもしれん」
その一言で、カサレアの表情が強張った。
「……また、狙われてるの?」
「ああ。……奴らがどこまで狙ってるのか分からんが、早く戻ろう。情報を急いでアランに伝えたい」
二人は足早に戻る。
そして、俺たちが潜伏している建物の一室へと駆け戻ってきた。
「アラン!」
「どうした、何かあったのか?」
エノクが真剣な表情で頷く。
「俺たちが買い物をしていたとき、明らかにこっちを尾行している気配があった。……アミー以外にも、まだ敵が潜んでいる」
この戦いは、まだ終わっていない。
むしろ、ようやく核心に近づき始めたところだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
蒼穹に溶けた約束 ―記憶を失った勇者と終焉の魔女―
usako
ファンタジー
目を覚ましたとき、名前も記憶も失っていた――。
少年は滅びゆく世界で、ただ一人の「魔女」に拾われる。
世界を救うと呼ばれた勇者は、なぜすべてを忘れたのか。
魔女が背負う「終焉の呪い」とは何か。
過去を思い出すたび、二人は哀しみの真実に近づいていく。
これは、滅びの運命に抗う二人の再生の物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる