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歩・二十八「途」
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サメフまでは歩いて二日。
道は整備されているとは言えず、土と石の混ざった緩やかな起伏が続く。
それでも天気は崩れず、風も穏やかだった。
「本当に何も起きないな」
エノクが後ろを振り返り、肩の荷を軽く叩いた。
その口調には退屈さよりも安堵が混ざっている。
俺も同じだ。ここ最近は歩けば剣の音が聞こえるような旅ばかりだったから、こういう平穏は貴重だった。
二日目の昼前、遠くに赤茶の屋根が連なる小さな集落が見えた。
それがサメフだった。
*
人口は五百ほどだと聞いていたが、入口の通りに立ち並ぶ建物の数はそれ以上に感じられる。
理由はすぐにわかった。
ここは交易の交差点だった。
道沿いには、各地から来た行商や荷車が並び、獣皮、干し肉、薬草、細工物が売られている。
南には二日でヘット、南西に二日でロゴス湖、そして西へ五日で港町ダアト――。
その位置のため、旅人や商人が必ず足を止める場所になっているらしい。
「村というより、にぎやかな宿場町って感じだね」
カサレアが感心したように目を輝かせる。
彼女は薬草売りの露店を見つけると足を止めかけたが、俺が首を振ると素直に戻ってきた。
今は買い物よりも先に、拠点を確保することが先だ。
*
宿は通りの中ほどにある二階建てで、木の壁は丁寧に磨かれ、窓からは暖かな光が漏れていた。
主人は恰幅のいい中年で、値は少し張るが食事付きの部屋を三つ押さえた。
部屋に荷を置き、一息つくと、エノクが窓辺に腰を下ろして言った。
「さて、ここからだな。どう動く?」
「サメフで情報を集める」
俺は即答した。
「ダアトに直接行くより、ここで耳を澄ませる方が安全だ。行商人や旅人から話を拾える」
「……だが、動きが鈍くなる。ホド伯爵やバラキエルが絡んでるなら、向こうも先手を打ってくるかもしれん」
エノクの言葉に、俺はうなずいた。
「だからこそ、あんたに一度ダアトへ戻ってほしい」
エノクが目を細めた。
「俺が?」
「ダアトで何が起きてるのかを、今このタイミングで知っておきたい。俺やカサレアが行けば目立つが、あんたなら上手くやれる」
少しの沈黙のあと、エノクは笑った。
「わかった。ただ……」
視線がカサレアに向けられる。
彼女はきょとんとした顔をしていたが、すぐに察したように口を開いた。
「私を一人にするのは危険、ってことでしょ?」
「その通りだ」
俺は言った。
「アミーの件で、お前も狙われる可能性がある。だから、ここで待ってる間は俺が一緒にいる」
「……わかったわ」
短いやりとりの中で、カサレアの表情は少し引き締まった。
危機感が薄いわけじゃない。彼女はただ、それを必要以上に表に出さないだけだ。
*
夕食の席で、エノクは明日朝には出発すると告げた。
俺たちはそれぞれの役割を確認し、しばし静かな時間を過ごした。
外の通りからは、まだ行商人たちの声と笑いが響いてくる。
平穏な空気の中に、これからの嵐の気配がうっすらと漂っていた。
道は整備されているとは言えず、土と石の混ざった緩やかな起伏が続く。
それでも天気は崩れず、風も穏やかだった。
「本当に何も起きないな」
エノクが後ろを振り返り、肩の荷を軽く叩いた。
その口調には退屈さよりも安堵が混ざっている。
俺も同じだ。ここ最近は歩けば剣の音が聞こえるような旅ばかりだったから、こういう平穏は貴重だった。
二日目の昼前、遠くに赤茶の屋根が連なる小さな集落が見えた。
それがサメフだった。
*
人口は五百ほどだと聞いていたが、入口の通りに立ち並ぶ建物の数はそれ以上に感じられる。
理由はすぐにわかった。
ここは交易の交差点だった。
道沿いには、各地から来た行商や荷車が並び、獣皮、干し肉、薬草、細工物が売られている。
南には二日でヘット、南西に二日でロゴス湖、そして西へ五日で港町ダアト――。
その位置のため、旅人や商人が必ず足を止める場所になっているらしい。
「村というより、にぎやかな宿場町って感じだね」
カサレアが感心したように目を輝かせる。
彼女は薬草売りの露店を見つけると足を止めかけたが、俺が首を振ると素直に戻ってきた。
今は買い物よりも先に、拠点を確保することが先だ。
*
宿は通りの中ほどにある二階建てで、木の壁は丁寧に磨かれ、窓からは暖かな光が漏れていた。
主人は恰幅のいい中年で、値は少し張るが食事付きの部屋を三つ押さえた。
部屋に荷を置き、一息つくと、エノクが窓辺に腰を下ろして言った。
「さて、ここからだな。どう動く?」
「サメフで情報を集める」
俺は即答した。
「ダアトに直接行くより、ここで耳を澄ませる方が安全だ。行商人や旅人から話を拾える」
「……だが、動きが鈍くなる。ホド伯爵やバラキエルが絡んでるなら、向こうも先手を打ってくるかもしれん」
エノクの言葉に、俺はうなずいた。
「だからこそ、あんたに一度ダアトへ戻ってほしい」
エノクが目を細めた。
「俺が?」
「ダアトで何が起きてるのかを、今このタイミングで知っておきたい。俺やカサレアが行けば目立つが、あんたなら上手くやれる」
少しの沈黙のあと、エノクは笑った。
「わかった。ただ……」
視線がカサレアに向けられる。
彼女はきょとんとした顔をしていたが、すぐに察したように口を開いた。
「私を一人にするのは危険、ってことでしょ?」
「その通りだ」
俺は言った。
「アミーの件で、お前も狙われる可能性がある。だから、ここで待ってる間は俺が一緒にいる」
「……わかったわ」
短いやりとりの中で、カサレアの表情は少し引き締まった。
危機感が薄いわけじゃない。彼女はただ、それを必要以上に表に出さないだけだ。
*
夕食の席で、エノクは明日朝には出発すると告げた。
俺たちはそれぞれの役割を確認し、しばし静かな時間を過ごした。
外の通りからは、まだ行商人たちの声と笑いが響いてくる。
平穏な空気の中に、これからの嵐の気配がうっすらと漂っていた。
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