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歩・四「追」
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追放―― その言葉が、あれほど静かに響くとは思わなかった。
「アラン・ヴィルー、汝は本件に関する証拠不十分、かつこれまでの功績を鑑み、死罪及び長期禁固を見送る。 その代わりに、本日をもってダアト領内からの追放を命ずる」
淡々と読み上げられる文書。その声に怒りも哀れみもない。
「また、ギルドへの所属はこの時点で破棄。証明書も抹消とする」
それが、俺に下された処分だった。
死ではない。投獄でもない。だが、それは冒険者という肩書を失うことを意味していた。
俺の名は、ギルドに刻まれた記録から消される。この街では、俺はもう“誰でもない”。
追放者は、通行税の減免も受けられない。身元保証も無効になる。
つまり、この街を出た瞬間から、俺は“社会の外”に放り出されるということだ。
……それが、功績への“情け”だというのなら、笑える話だった。
荷物を受け取った。剣、少量の水、干し肉、着替え、火打石。どれも最低限。それすら、ひとつずつ検査を受けた。
街の門前に立ったとき、視線が集まっていた。
ベン。レミエル。カサレア。
そして、ギルドの冒険者たち。見知った顔も、知らない顔も、等しく俺を見ていた。
「アラン……」
レミエルが何か言いかけたが、声が震えていた。
「……信じてるよ。今も。だけど……」
カサレアの言葉は、途中で途切れた。
ベンは、何も言わなかった。ただ、腕を組み、黙って俺を見ていた。
それでいい。もう言葉なんて、必要なかった。
門が開いた。
木の軋む音と、衛兵の号令。それが俺をこの街から押し出す最後の音だった。
俺は、振り返らなかった。
そして、歩き出した。
*
街を出て、草原を越え、林を抜ける。
足音だけが、俺の伴だった。
初日の夜。林の縁で野営した。
火を起こし、干し肉をかじる。味は、しなかった。
空を見上げる。星は、やけに遠かった。
……ああ、そうか。俺は、今、“冒険者”ですらないのか。
心のどこかで、まだどこかに帰れると思っていた。ギルドがあって、仲間がいて。何かの間違いだったと、いつか証明されると。
でも、それはもう意味がない。記録から消されたということは、俺が何を証明しようが、誰も耳を貸さないということだ。
そんな夜が、何夜か続いた。
二日目の午後。
小さな谷間を越えたあたりで、魔物に遭遇した。
牙の長い、熊のような体躯の四足獣。だが、瞳は異常に膨張し、皮膚が斑に剥がれていた。
“魔力変質型”。
刀を抜いた。
《踏星》の構え。
一撃で仕留めるべきだったが、感覚が鈍っていた。久しぶりの“戦場”で、俺の心が一歩遅れていた。
右肩を掠られた。痛みは、皮膚よりも深い。
それでも、切り裂いた。
《踏星・裂牙》
喉元に斜めの切り込み。肉が裂け、魔物が咆哮をあげて崩れ落ちた。
肩に包帯を巻く。薬はない。
……ギルドがあれば、治療師がいた。もう、それはない。
その後も、道すがら三度ほど魔物と交戦した。
いずれも単独だったが、魔力の濁りが強い。なぜ、ここまで“野に出ている”のか。
嫌な予感だけが残った。
四日目の夕暮れ。
遠くに煙が見えた。
人の営みの証。
俺は足を止め、深く息を吐いた。
──“へー”という村だった。人口三千、周囲を森に囲まれた静かな集落。
光があるだけで、安心するのは、やはり俺も人間なんだなと思う。
野営を終えた体で、俺は村へ向かった。
門番はいたが、武装はしていなかった。通行税を払う必要があったが、それすらも妙に淡々としていた。
「……旅の人か」
「そうだ」
「そうか。まぁ、気をつけてな」
それだけだった。俺が誰かなど、誰も気にしない。冒険者でも、罪人でもない“名もなき旅人”。
今の俺には、それで十分だった。
「アラン・ヴィルー、汝は本件に関する証拠不十分、かつこれまでの功績を鑑み、死罪及び長期禁固を見送る。 その代わりに、本日をもってダアト領内からの追放を命ずる」
淡々と読み上げられる文書。その声に怒りも哀れみもない。
「また、ギルドへの所属はこの時点で破棄。証明書も抹消とする」
それが、俺に下された処分だった。
死ではない。投獄でもない。だが、それは冒険者という肩書を失うことを意味していた。
俺の名は、ギルドに刻まれた記録から消される。この街では、俺はもう“誰でもない”。
追放者は、通行税の減免も受けられない。身元保証も無効になる。
つまり、この街を出た瞬間から、俺は“社会の外”に放り出されるということだ。
……それが、功績への“情け”だというのなら、笑える話だった。
荷物を受け取った。剣、少量の水、干し肉、着替え、火打石。どれも最低限。それすら、ひとつずつ検査を受けた。
街の門前に立ったとき、視線が集まっていた。
ベン。レミエル。カサレア。
そして、ギルドの冒険者たち。見知った顔も、知らない顔も、等しく俺を見ていた。
「アラン……」
レミエルが何か言いかけたが、声が震えていた。
「……信じてるよ。今も。だけど……」
カサレアの言葉は、途中で途切れた。
ベンは、何も言わなかった。ただ、腕を組み、黙って俺を見ていた。
それでいい。もう言葉なんて、必要なかった。
門が開いた。
木の軋む音と、衛兵の号令。それが俺をこの街から押し出す最後の音だった。
俺は、振り返らなかった。
そして、歩き出した。
*
街を出て、草原を越え、林を抜ける。
足音だけが、俺の伴だった。
初日の夜。林の縁で野営した。
火を起こし、干し肉をかじる。味は、しなかった。
空を見上げる。星は、やけに遠かった。
……ああ、そうか。俺は、今、“冒険者”ですらないのか。
心のどこかで、まだどこかに帰れると思っていた。ギルドがあって、仲間がいて。何かの間違いだったと、いつか証明されると。
でも、それはもう意味がない。記録から消されたということは、俺が何を証明しようが、誰も耳を貸さないということだ。
そんな夜が、何夜か続いた。
二日目の午後。
小さな谷間を越えたあたりで、魔物に遭遇した。
牙の長い、熊のような体躯の四足獣。だが、瞳は異常に膨張し、皮膚が斑に剥がれていた。
“魔力変質型”。
刀を抜いた。
《踏星》の構え。
一撃で仕留めるべきだったが、感覚が鈍っていた。久しぶりの“戦場”で、俺の心が一歩遅れていた。
右肩を掠られた。痛みは、皮膚よりも深い。
それでも、切り裂いた。
《踏星・裂牙》
喉元に斜めの切り込み。肉が裂け、魔物が咆哮をあげて崩れ落ちた。
肩に包帯を巻く。薬はない。
……ギルドがあれば、治療師がいた。もう、それはない。
その後も、道すがら三度ほど魔物と交戦した。
いずれも単独だったが、魔力の濁りが強い。なぜ、ここまで“野に出ている”のか。
嫌な予感だけが残った。
四日目の夕暮れ。
遠くに煙が見えた。
人の営みの証。
俺は足を止め、深く息を吐いた。
──“へー”という村だった。人口三千、周囲を森に囲まれた静かな集落。
光があるだけで、安心するのは、やはり俺も人間なんだなと思う。
野営を終えた体で、俺は村へ向かった。
門番はいたが、武装はしていなかった。通行税を払う必要があったが、それすらも妙に淡々としていた。
「……旅の人か」
「そうだ」
「そうか。まぁ、気をつけてな」
それだけだった。俺が誰かなど、誰も気にしない。冒険者でも、罪人でもない“名もなき旅人”。
今の俺には、それで十分だった。
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