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歩・九「声」
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人の声が、こんなにも冷たく聞こえる日が来るとは思わなかった。
「もういい、レミエル。あいつが何をしたか、もう分かってるだろ」
ベンの言葉は、まるで斬りつけるようだった。
アランがギルドから追放されて、もう1週間以上が経つ。 ダアトの街は、相変わらず活気に満ちていた。 港には荷が積まれ、ギルドの前には依頼人と冒険者が入り混じる。
だけど、私の目に映るこの街は、まるで異世界のように遠かった。
「……ほんとに、そう思ってるの?」
「もう、話は終わりだ」
ベンはそう言い捨てて、背を向けた。
私とカサレアは、それ以上彼を引き止めることができなかった。
*
「どうする?」
「もう、私たちだけで動くしかないわ」
カサレアの声は冷静だった。 だけど、その奥にある苛立ちと怒りは、私と同じものだ。
アランは、そんな人じゃない。 誰よりも誠実で、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも孤独な人。
……だから、あんな簡単に壊れるわけがない。
あの日、ギルドに押し寄せた衛兵。 ホド伯爵の名を出した彼らは、一切の猶予を与えずアランを連行した。 そして、そのまま追放処分。
あまりにも早すぎた。
裁きではなく、排除だった。
*
「ねぇ、カサレア。ホド伯爵って……最近、何かおかしくない?」
「そう。私も感じてた」
ダアトで情報を集め始めると、すぐにいくつかの違和感に突き当たった。
まず、ホド伯爵の娘――アギ。 彼女が襲われたというその日、実は貴族の招宴が開かれていた。 アギはそこに参加していたという話もあれば、屋敷にいたという話もある。 情報が、食い違っていた。
さらに不思議なことに、証言したという“別の冒険者”の名前が、どこにも記録に残っていない。 ギルドの台帳にも、その名はなかった。
「じゃあ、その冒険者って……?」
「存在しないか、買われたか」
私たちは細かな情報を集めながら、ホド伯爵の領地に仕える使用人、商人、古い知人にまで声をかけた。
そこで出てきたのが、ある噂だった。
“ホド伯爵は、自分の地位を脅かす存在を排除するために、時折、自作自演の事件を起こしている”
信憑性の低い話だ。 だけど、今回の事件を考えると、妙に納得がいく。
やがて、港に出入りする商人のひとりが、決定的な証言をくれた。
「見たんだよ、似てる奴を。アランじゃなかったよ。髪の色も背格好も似せてたけど、目の色が違ってた」
アギが“襲われた”とされる日。 その場にいた男は、確かにアランのような姿をしていたが、本人ではなかった。
その男は、ホド伯爵の密偵とも言われる冒険者で、普段から裏の依頼をこなしていた。
アギ本人は、事件後も詳細な顔の特徴を語っていない。
「……アギ、アランの顔を知らないんだと思う」
カサレアがぽつりと呟いた。
調べていくと、アギはアランの名前は知っていても、会ったことはないということが分かった。
つまり―― ホド伯爵は、娘が曖昧な記憶を持っていることを利用し、アランを犯人に仕立て上げた。
理由は明白だった。
エンカイ子爵。
ダアトの冒険者ギルドを束ねる存在。 ホド伯爵と対立している。
アランは、その子爵の“有力な駒”だった。
それを排除する。
ただ、それだけ。
*
私たちは、その情報をもってエンカイ子爵のもとを訪れた。 面会はすぐに許可された。
「貴女たちの訴えは分かりました。しかし……証拠がありません」
子爵は、静かにそう言った。
「推測と噂と証言だけでは、ホド伯爵を動かすには足りません。あちらは“被害届”という形式をすでに取っている」
「では、どうすれば……」
「証拠がなければ、私は動けません。しかし、貴女たちの話は無視しません」
「……本当に、無実なんです」
私の言葉に、子爵は少しだけ目を伏せた。
「わかっています。私は、貴女たちを信じています」
けれど、それでも世界は、すぐには変わらない。
だから、私たちは、もっと深く潜るしかない。
アランの名を、取り戻すために。
「もういい、レミエル。あいつが何をしたか、もう分かってるだろ」
ベンの言葉は、まるで斬りつけるようだった。
アランがギルドから追放されて、もう1週間以上が経つ。 ダアトの街は、相変わらず活気に満ちていた。 港には荷が積まれ、ギルドの前には依頼人と冒険者が入り混じる。
だけど、私の目に映るこの街は、まるで異世界のように遠かった。
「……ほんとに、そう思ってるの?」
「もう、話は終わりだ」
ベンはそう言い捨てて、背を向けた。
私とカサレアは、それ以上彼を引き止めることができなかった。
*
「どうする?」
「もう、私たちだけで動くしかないわ」
カサレアの声は冷静だった。 だけど、その奥にある苛立ちと怒りは、私と同じものだ。
アランは、そんな人じゃない。 誰よりも誠実で、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも孤独な人。
……だから、あんな簡単に壊れるわけがない。
あの日、ギルドに押し寄せた衛兵。 ホド伯爵の名を出した彼らは、一切の猶予を与えずアランを連行した。 そして、そのまま追放処分。
あまりにも早すぎた。
裁きではなく、排除だった。
*
「ねぇ、カサレア。ホド伯爵って……最近、何かおかしくない?」
「そう。私も感じてた」
ダアトで情報を集め始めると、すぐにいくつかの違和感に突き当たった。
まず、ホド伯爵の娘――アギ。 彼女が襲われたというその日、実は貴族の招宴が開かれていた。 アギはそこに参加していたという話もあれば、屋敷にいたという話もある。 情報が、食い違っていた。
さらに不思議なことに、証言したという“別の冒険者”の名前が、どこにも記録に残っていない。 ギルドの台帳にも、その名はなかった。
「じゃあ、その冒険者って……?」
「存在しないか、買われたか」
私たちは細かな情報を集めながら、ホド伯爵の領地に仕える使用人、商人、古い知人にまで声をかけた。
そこで出てきたのが、ある噂だった。
“ホド伯爵は、自分の地位を脅かす存在を排除するために、時折、自作自演の事件を起こしている”
信憑性の低い話だ。 だけど、今回の事件を考えると、妙に納得がいく。
やがて、港に出入りする商人のひとりが、決定的な証言をくれた。
「見たんだよ、似てる奴を。アランじゃなかったよ。髪の色も背格好も似せてたけど、目の色が違ってた」
アギが“襲われた”とされる日。 その場にいた男は、確かにアランのような姿をしていたが、本人ではなかった。
その男は、ホド伯爵の密偵とも言われる冒険者で、普段から裏の依頼をこなしていた。
アギ本人は、事件後も詳細な顔の特徴を語っていない。
「……アギ、アランの顔を知らないんだと思う」
カサレアがぽつりと呟いた。
調べていくと、アギはアランの名前は知っていても、会ったことはないということが分かった。
つまり―― ホド伯爵は、娘が曖昧な記憶を持っていることを利用し、アランを犯人に仕立て上げた。
理由は明白だった。
エンカイ子爵。
ダアトの冒険者ギルドを束ねる存在。 ホド伯爵と対立している。
アランは、その子爵の“有力な駒”だった。
それを排除する。
ただ、それだけ。
*
私たちは、その情報をもってエンカイ子爵のもとを訪れた。 面会はすぐに許可された。
「貴女たちの訴えは分かりました。しかし……証拠がありません」
子爵は、静かにそう言った。
「推測と噂と証言だけでは、ホド伯爵を動かすには足りません。あちらは“被害届”という形式をすでに取っている」
「では、どうすれば……」
「証拠がなければ、私は動けません。しかし、貴女たちの話は無視しません」
「……本当に、無実なんです」
私の言葉に、子爵は少しだけ目を伏せた。
「わかっています。私は、貴女たちを信じています」
けれど、それでも世界は、すぐには変わらない。
だから、私たちは、もっと深く潜るしかない。
アランの名を、取り戻すために。
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