幽刀星

氷翠

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歩・十一「線」

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「運がよかった」

本当に、そう思った。
へー村に着いたその日、私たちは荷を降ろす間もなく情報収集に取りかかった。カサレアは地図を開き、私は村の広場で商人や旅人に声をかけて回る。
そして、その中の一人がぽつりと口にした。

「アラン・ヴィルー? ああ……いたよ、確かに」

喉の奥で小さく息を飲んだ。

「いつ頃でしたか?」
「十日ほど前になるかな。身なりが汚れていて、でも背筋がやけに真っすぐだった」

その話だけで、私はもう確信していた。
アランは、確かにここを通っている。

「……ありがとう。助かりました」

深く頭を下げて、すぐにカサレアの元へ戻った。

「いたわ。ここを通ってる。しかも、ヴァブの方に向かったって」
「……良かった。反対に行く準備、もう始めてた」

カサレアが胸をなでおろす。 ほんの少しだけ、希望が灯った。



ヴァブ村へ向かう道は、へー村よりさらに細く、時折ぬかるんでいた。
私たちは慎重に、だけど焦らずに歩を進めた。ただの追跡ではない。これは、信じる者を追いかける道だ。
ヴァブ村に着いたとき、日はもう傾き始めていた。
だが、そこで私たちの希望は、また少し削られる。

「数日前に立ち去った男ならいたけど、名前までは……」
「確かに旅人風だったが、痩せていて、足を引きずっていたようにも見えたな」

アランだとは断定できない。でも、きっと彼だった。
ただ、ここでも会うことは叶わなかった。

「ザインへ行った可能性が高い」 

カサレアが言った。

「そうね。次は、そこね」



ザインへ向かう道は、今までのどの道よりも険しかった。それだけではない。
魔物の気配が、濃かった。

「来る……!」

突然、獣のような咆哮とともに、茂みから飛び出してくる影。 犬よりも大きく、牙が異様に長い。

「……あれは“牙裂獣”よ。群れで来る」
「まずい……!」

ベンがいない。アランもいない。
前衛がいないということは、こちらの守りが圧倒的に薄いということ。
私は薬包を握り、即席の煙幕を展開。

「カサレア、お願い!」
「わかってる!」

彼女は杖を掲げ、水の盾を編む。その間に、私は毒素を含んだ爆薬を獣の足元に投げつけた。

「……爆ぜろ!」

大きな音とともに、一体の牙裂獣が悲鳴を上げる。
だが、数は多い。

「退くわよ、レミエル!」

カサレアの叫びに、私は頷く。
ここで無理に相手をすれば、こちらが死ぬ。
煙と水霧の中、私たちはどうにかその場から逃げ切った。
膝が震える。

「……アランが、必要だって、こういう時、ほんとに思う」

彼の一刀があれば。ベンの盾があれば。
でも、今はいない。
だから、私たちだけで生き延びなきゃいけない。



その日の夕方、ようやくザインの門が見えた。
疲労困憊。足は重く、喉は渇き、傷の痛みがずっとまとわりついていた。
でも、街の灯りが見えた時。そのすべてが、少しだけ和らいだ。
ザイン。アランが最後に向かったはずの街。
ここで、彼と会えるかもしれない。
私は、胸の奥で小さく祈るような気持ちで、ザインの門をくぐった。
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