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歩・十四「惨」
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ヘットまでは、まだ三日はかかる。俺たちは、北西の街道をたどり、濃密な森と低い丘陵を越え、流れの早い川のほとりにたどり着いた。
「ここで野営だな」
「うん、視界もいいし、背後が川なら奇襲にも対処しやすい」
カサレアが言いながら杖を地面に突き立てた。
レミエルは荷物を下ろしながら、周囲の空気に警戒を向けていた。
「……何か、いる」
「感じる?」
「四つ、だと思う。確信はないけど」
俺も、うなずいた。確かに、何かがこちらを見ている気配があった。それも、殺気ではない。だが、明らかに“観察する”意思を持っていた。
「この感じ、前にも……」
「ヨゼフを捕らえた時の?」
カサレアが言った。
「違う。あれよりも、深い。もっと……静かな敵意だ」
俺たちは、火を起こし、簡単な食事をとった。空は鈍い灰色に染まり、やがて陽が落ちて、風が冷たくなった。
「交代で見張るわ。今夜も何も起きないかもしれないけど……」
「それでも備えるしかないな」
初日の夜は、何事もなかった。静かな風と、川のせせらぎだけが眠りを包んでいた。
*
翌日。
再び出発。森の中で二度ほど魔物に遭遇した。狼型の魔物に加え、地を這うような巨大なムカデのような個体。
「“湿牙(しつが)”だ!」
「こいつ、毒あるわよ! 下がって!」
レミエルが素早く小瓶を取り出し、紫煙を噴き上げる爆薬を魔物の中心に投げ込んだ。
「っ、く……!」
俺は足を運びながら、剣を引いた。形は刀。だが、その刃には流派に伝わる構えが宿る。
一歩、踏み出す。
――踏星《とうせい》・流光。
静かに、風が裂ける。
魔物は、ひと息で沈んだ。
「ありがとう、アラン……」
「大丈夫か、ケガは」
「こっちは無事」
疲労はあった。けれど、俺たちは生きていた。それが重要だった。
再び、川沿いに戻り、野営の準備を始めた。
「やっぱり……今日も、あの気配、ある」
レミエルが、少し顔をしかめて呟いた。
「数は変わらない?」
「変わってない。けど、昨日より近い……気がする」
「姿は?」
「見えない。気配だけ」
俺は荷物を整えながら、剣をわずかに抜いて確認した。刃はきれいで、問題はない。
「じゃあ、今夜は私が見張りする」
レミエルが言った。
「任せて、大丈夫?」
「うん。二人とも、疲れてるでしょ」
カサレアは少し心配そうにしたが、最終的にはレミエルの言葉に従った。
「……ありがとう。気をつけて」
「もちろん」
*
夜。
火は小さくしていた。明かりを大きくしすぎると、逆に標的になる。
俺は横になっても、なかなか寝付けなかった。レミエルが外に座り、火を見ながら何か小さな紙を弄っている音が聞こえた。
魔法紙か。あいつ、眠くなるとよく指で折ってるんだ。
「……」
風の音。 枝の揺れる気配。
……何か、いる。
だが、眠りに落ちてしまった。
*
朝、目を覚ましたのはカサレアの叫び声だった。
「レミエルッ!!」
跳ね起きて、テントから飛び出す。
「……なっ……」
そこに、レミエルがいた。
血に染まり、動かなくなっていた。
カサレアが駆け寄り、肩を揺さぶる。
「うそ、うそでしょ!?起きてよ、レミエル!!ねぇ……!」
俺は言葉が出なかった。
周囲には、激しく撒き散らされた血の跡。けれど、争った形跡はどこにもない。
「何が……何があったんだ……」
カサレアの顔が、泣き崩れそうに歪む。
「殺された……でも、どうやって……何も……気配も……魔力も残ってない……」
俺は、レミエルの傍らにしゃがんだ。
その顔は、どこか安らかだった。
「まさか……何か、術式……いや、違う」
俺たちの見張りが、完全に突破された。何者かに、明確な“殺意”をもって。
そして、俺たちは気づかぬうちに――一人、大切な仲間を失っていた。
風が吹いた。静かすぎる朝だった。
「ここで野営だな」
「うん、視界もいいし、背後が川なら奇襲にも対処しやすい」
カサレアが言いながら杖を地面に突き立てた。
レミエルは荷物を下ろしながら、周囲の空気に警戒を向けていた。
「……何か、いる」
「感じる?」
「四つ、だと思う。確信はないけど」
俺も、うなずいた。確かに、何かがこちらを見ている気配があった。それも、殺気ではない。だが、明らかに“観察する”意思を持っていた。
「この感じ、前にも……」
「ヨゼフを捕らえた時の?」
カサレアが言った。
「違う。あれよりも、深い。もっと……静かな敵意だ」
俺たちは、火を起こし、簡単な食事をとった。空は鈍い灰色に染まり、やがて陽が落ちて、風が冷たくなった。
「交代で見張るわ。今夜も何も起きないかもしれないけど……」
「それでも備えるしかないな」
初日の夜は、何事もなかった。静かな風と、川のせせらぎだけが眠りを包んでいた。
*
翌日。
再び出発。森の中で二度ほど魔物に遭遇した。狼型の魔物に加え、地を這うような巨大なムカデのような個体。
「“湿牙(しつが)”だ!」
「こいつ、毒あるわよ! 下がって!」
レミエルが素早く小瓶を取り出し、紫煙を噴き上げる爆薬を魔物の中心に投げ込んだ。
「っ、く……!」
俺は足を運びながら、剣を引いた。形は刀。だが、その刃には流派に伝わる構えが宿る。
一歩、踏み出す。
――踏星《とうせい》・流光。
静かに、風が裂ける。
魔物は、ひと息で沈んだ。
「ありがとう、アラン……」
「大丈夫か、ケガは」
「こっちは無事」
疲労はあった。けれど、俺たちは生きていた。それが重要だった。
再び、川沿いに戻り、野営の準備を始めた。
「やっぱり……今日も、あの気配、ある」
レミエルが、少し顔をしかめて呟いた。
「数は変わらない?」
「変わってない。けど、昨日より近い……気がする」
「姿は?」
「見えない。気配だけ」
俺は荷物を整えながら、剣をわずかに抜いて確認した。刃はきれいで、問題はない。
「じゃあ、今夜は私が見張りする」
レミエルが言った。
「任せて、大丈夫?」
「うん。二人とも、疲れてるでしょ」
カサレアは少し心配そうにしたが、最終的にはレミエルの言葉に従った。
「……ありがとう。気をつけて」
「もちろん」
*
夜。
火は小さくしていた。明かりを大きくしすぎると、逆に標的になる。
俺は横になっても、なかなか寝付けなかった。レミエルが外に座り、火を見ながら何か小さな紙を弄っている音が聞こえた。
魔法紙か。あいつ、眠くなるとよく指で折ってるんだ。
「……」
風の音。 枝の揺れる気配。
……何か、いる。
だが、眠りに落ちてしまった。
*
朝、目を覚ましたのはカサレアの叫び声だった。
「レミエルッ!!」
跳ね起きて、テントから飛び出す。
「……なっ……」
そこに、レミエルがいた。
血に染まり、動かなくなっていた。
カサレアが駆け寄り、肩を揺さぶる。
「うそ、うそでしょ!?起きてよ、レミエル!!ねぇ……!」
俺は言葉が出なかった。
周囲には、激しく撒き散らされた血の跡。けれど、争った形跡はどこにもない。
「何が……何があったんだ……」
カサレアの顔が、泣き崩れそうに歪む。
「殺された……でも、どうやって……何も……気配も……魔力も残ってない……」
俺は、レミエルの傍らにしゃがんだ。
その顔は、どこか安らかだった。
「まさか……何か、術式……いや、違う」
俺たちの見張りが、完全に突破された。何者かに、明確な“殺意”をもって。
そして、俺たちは気づかぬうちに――一人、大切な仲間を失っていた。
風が吹いた。静かすぎる朝だった。
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