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歩・十九「旧」
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次の日の朝、俺とカサレアは冒険者ギルドを訪れた。
昨日、カサレアを助けてくれた冒険者に、礼を言うためだった。
朝のギルドは静けさと緊張感が混じっている。依頼掲示板の前には何人かの冒険者が立ち、受付にはいつも通り無表情のアニィが控えている。
俺たちは気配を殺すようにして、入口付近から中を見渡していた。
「……いた」
カサレアがぽつりと呟く。
その目線の先、窓際で佇む男の姿が目に留まる。
栗色の髪に、鋭いがどこか柔らかさを含んだ眼差し。旅装の上に羽織った黒のコート、腰には剣。
その立ち姿には見覚えがあった──だが一瞬、名前が出てこない。
男は俺たちに気づくと、穏やかに笑みを浮かべて近づいてきた。
「……アラン、だよな」
その声と表情が、記憶の奥に眠っていたものを引き出してくれた。
「──エノクか……!」
懐かしさと驚きが入り混じった声で、俺はその名を呼ぶ。
エノク・ヨエル。俺がベンやレミエルと組む以前、旅を始めたばかりの頃に短い間だが共に冒険した仲間だった。
23歳──俺と同じ歳だ。
「久しぶりだな。三年ぶり、か?」
「そうだな。まさか、ここで会うとは」
短く握手を交わしながら、過去の時間が蘇ってくる。
カサレアが一歩下がってこちらを見ていたので、紹介する。
「彼女は、カサレア・アグリッパ。今のパーティで共に戦ってる魔術師だ」
「怪我は大丈夫か?」
エノクが自然に声をかける。
「……はい。昨日は、本当にありがとうございました」
カサレアが深く頭を下げた。エノクは小さく笑う。
「礼なんていらないよ。……ただ、あの襲撃者は普通じゃなかった。冒険者の技でも、あれほど素早くは動けない」
彼の言葉に、俺とカサレアは無言で頷いた。
「立ち話もなんだ。話したいことがある」
俺たちはギルドの隅、窓際の静かな席へ移動する。
「それで、どうしてここに?」
俺が尋ねると、エノクは椅子にもたれながら答えた。
「別の大陸に渡ってたんだ。考古学者たちと、古代遺跡の探索に同行してた。やっと戻ってきたばかりでさ」
「……それで、どうしてこの町に?」
「お前のことを耳にしたからだ。──『アラン・ヴィルー、犯罪者として指名手配』ってな」
エノクの声には怒りや失望ではなく、静かな違和感があった。
俺は視線を落とした。
言い返す言葉はあっても、意味を持たない。
「信じられなかった。お前がそんなことをするとは思えなかった。だから、噂の出所を追って、ここまで来た」
「……ありがとな」
短くそう返すことしかできなかった。
「……レミエルのこと、聞いた」
「ああ。殺された。目の前で、何者かに」
俺の言葉は途中で詰まった。
「私は……すぐ動けなかった。私もいたのに……」
カサレアが静かに俯く。
エノクの瞳が一層深く沈む。
「レミエルも……ベンも、知ってる。俺がいた頃は、まだカサレアはいなかったけど、噂で聞いてた。……まさか、そんなことになっていたとは」
「ベンは……俺を信じ切れなかった。そして、パーティを抜けた」
沈黙が落ちる。
「……らしくないな、あいつが」
「信じてる、と言ってくれなかった。でも……きっと、心の中では違うと思ってくれてると願いたい」
言いながら、自分に言い聞かせているようだった。
「それで……カサレアが襲われたとき、たまたま通りがかったのか?」
「いや。お前の行き先を辿っていたら、ここにたどり着いてたんだ」
エノクは淡々と語る。
「偶然かもしれない。でも、どこかで引かれるものがあった。……そして、あの場面で出くわした」
彼の言葉に、カサレアがそっと口を開いた。
「エノクさんがいなかったら……今、私はここにいません」
静かだが、強い言葉だった。
しばし沈黙が流れる。
俺は、ふと口を開いた。
「なあ、エノク。……しばらく、一緒に来てくれないか」
問いというより、願いだった。
彼は少しだけ驚いたようにこちらを見て、それから微笑む。
「言うと思ったよ。……もちろん、いいさ」
こうして、かつての仲間が、再び俺たちの旅路に加わることになった。
昨日、カサレアを助けてくれた冒険者に、礼を言うためだった。
朝のギルドは静けさと緊張感が混じっている。依頼掲示板の前には何人かの冒険者が立ち、受付にはいつも通り無表情のアニィが控えている。
俺たちは気配を殺すようにして、入口付近から中を見渡していた。
「……いた」
カサレアがぽつりと呟く。
その目線の先、窓際で佇む男の姿が目に留まる。
栗色の髪に、鋭いがどこか柔らかさを含んだ眼差し。旅装の上に羽織った黒のコート、腰には剣。
その立ち姿には見覚えがあった──だが一瞬、名前が出てこない。
男は俺たちに気づくと、穏やかに笑みを浮かべて近づいてきた。
「……アラン、だよな」
その声と表情が、記憶の奥に眠っていたものを引き出してくれた。
「──エノクか……!」
懐かしさと驚きが入り混じった声で、俺はその名を呼ぶ。
エノク・ヨエル。俺がベンやレミエルと組む以前、旅を始めたばかりの頃に短い間だが共に冒険した仲間だった。
23歳──俺と同じ歳だ。
「久しぶりだな。三年ぶり、か?」
「そうだな。まさか、ここで会うとは」
短く握手を交わしながら、過去の時間が蘇ってくる。
カサレアが一歩下がってこちらを見ていたので、紹介する。
「彼女は、カサレア・アグリッパ。今のパーティで共に戦ってる魔術師だ」
「怪我は大丈夫か?」
エノクが自然に声をかける。
「……はい。昨日は、本当にありがとうございました」
カサレアが深く頭を下げた。エノクは小さく笑う。
「礼なんていらないよ。……ただ、あの襲撃者は普通じゃなかった。冒険者の技でも、あれほど素早くは動けない」
彼の言葉に、俺とカサレアは無言で頷いた。
「立ち話もなんだ。話したいことがある」
俺たちはギルドの隅、窓際の静かな席へ移動する。
「それで、どうしてここに?」
俺が尋ねると、エノクは椅子にもたれながら答えた。
「別の大陸に渡ってたんだ。考古学者たちと、古代遺跡の探索に同行してた。やっと戻ってきたばかりでさ」
「……それで、どうしてこの町に?」
「お前のことを耳にしたからだ。──『アラン・ヴィルー、犯罪者として指名手配』ってな」
エノクの声には怒りや失望ではなく、静かな違和感があった。
俺は視線を落とした。
言い返す言葉はあっても、意味を持たない。
「信じられなかった。お前がそんなことをするとは思えなかった。だから、噂の出所を追って、ここまで来た」
「……ありがとな」
短くそう返すことしかできなかった。
「……レミエルのこと、聞いた」
「ああ。殺された。目の前で、何者かに」
俺の言葉は途中で詰まった。
「私は……すぐ動けなかった。私もいたのに……」
カサレアが静かに俯く。
エノクの瞳が一層深く沈む。
「レミエルも……ベンも、知ってる。俺がいた頃は、まだカサレアはいなかったけど、噂で聞いてた。……まさか、そんなことになっていたとは」
「ベンは……俺を信じ切れなかった。そして、パーティを抜けた」
沈黙が落ちる。
「……らしくないな、あいつが」
「信じてる、と言ってくれなかった。でも……きっと、心の中では違うと思ってくれてると願いたい」
言いながら、自分に言い聞かせているようだった。
「それで……カサレアが襲われたとき、たまたま通りがかったのか?」
「いや。お前の行き先を辿っていたら、ここにたどり着いてたんだ」
エノクは淡々と語る。
「偶然かもしれない。でも、どこかで引かれるものがあった。……そして、あの場面で出くわした」
彼の言葉に、カサレアがそっと口を開いた。
「エノクさんがいなかったら……今、私はここにいません」
静かだが、強い言葉だった。
しばし沈黙が流れる。
俺は、ふと口を開いた。
「なあ、エノク。……しばらく、一緒に来てくれないか」
問いというより、願いだった。
彼は少しだけ驚いたようにこちらを見て、それから微笑む。
「言うと思ったよ。……もちろん、いいさ」
こうして、かつての仲間が、再び俺たちの旅路に加わることになった。
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