20 / 55
歩・二十「証」
しおりを挟む
チャド・ゴールドマンを捕まえるまで、思った以上に時間がかかった。
それでも、俺たちは諦めずに町を動き、闇に潜む彼の尻尾を掴んだ。
「……ようやく、だな」
そうつぶやいたのは俺自身だった。
「チャド・ゴールドマン。お前に聞きたいことが山ほどある」
俺は目の前の男に視線を落とす。やせ細り、血の気の引いた顔。それでも瞳はどこかふてぶてしかった。
「何のつもりで俺を……」
「お前を陥れるよう言われた。ただ、それだけだ」
チャドは静かに口を開いた。その口調には、罪悪感も、恐れもない。
「誰に?」
隣でカサレアが問う。感情を抑えているが、声に怒りが混じっていた。
「……名は明かされていない。だが、あの女――レミエルを殺したのは、俺の仲間だ」
俺とカサレアは顔を見合わせた。やはり、そうか――。
「……ヨゼフの仲間か?」
チャドは一瞬だけ目を伏せ、そして頷いた。
「ヨゼフは俺たちの中でも慎重派だった。すぐに手を出すことはなかったが、狙いははっきりしていた。お前を殺すこと。それが命令だった」
「……それで、レミエルを?」
「彼女は邪魔だった。ただそれだけ。だが、俺は――直接は手を下していない。あれは別の奴がやった」
俺の中で怒りが渦巻く。だが、怒鳴ってもレミエルは戻らない。
「カサレアを狙ったのも、お前の仲間か?」
「いや、あれは別口だ。別の依頼。別のギルド。お前には、いろんな連中が関わってるらしいな」
「……それはどういう意味だ?」
「知らん。だが、依頼が重なっていたことは確かだ。お前を尾行していたのも、カサレアを狙っていたのも、それぞれ別の奴らだ。偶然か、何か意図があるのかは知らない」
「……全部、俺一人に向けられた歪んだ矢だ」
カサレアが横目で俺を見る。何かを言いたげだが、言葉にはしない。
俺は深く息を吐いた。
「……で、その依頼はどこから来たんだ? 誰が金を払った?」
「……それは、さすがに教えられない。言えば、俺の命がなくなる」
「言わなきゃ、それ以上の地獄を見せてやる。俺は今、そういう気分だ」
俺が刀の柄に手を置くと、チャドの顔が引きつる。
「……名は聞いていない。ただ、『白い指』とだけ名乗った」
「白い指……?」
カサレアが首をかしげた。
「ギルド名か、組織名か、それとも――」
俺もその言葉を反芻する。
チャドは続ける。
「金は振り込み。連絡はすべて中間の伝言。直接会ったことは一度もない。だが、命令は確かだった。お前を消せ、と」
「レミエルの命も、その流れで奪われたのか……」
「……あの夜、影が動いていた。レミエルは、それに気づいていた。だが油断したんだ」
「……」
沈黙が落ちる。重い沈黙だった。
「レミエルが……」
カサレアの声が震えている。
俺はそっとカサレアの肩に手を置いた。
「カサレア……ありがとう。ここまで来てくれて」
彼女は首を振った。
「違う、私たち……ここで止まるわけにはいかない。レミエルのためにも」
「もちろんだ」
そして、俺たちはチャドを捕らえたまま、どうするべきかを相談し始めた。
「このまま衛兵に引き渡しても、闇ギルドに口を塞がれる可能性がある」
カサレアが言うと、俺は頷いた。
「どこか、安全な場所で匿って、もっと情報を引き出す。それしかない」
「危険だけど……やるしかないわね」
「カサレア……ありがとうな。こんなことに巻き込んじまって」
「もう、巻き込まれたって思ってない。私は、レミエルの意思を継いでる」
「……ああ」
夜は更けていった。だが、闇の中でも、俺たちは前に進まなければならない。
レミエルの命が――すべての始まりだった。
それでも、俺たちは諦めずに町を動き、闇に潜む彼の尻尾を掴んだ。
「……ようやく、だな」
そうつぶやいたのは俺自身だった。
「チャド・ゴールドマン。お前に聞きたいことが山ほどある」
俺は目の前の男に視線を落とす。やせ細り、血の気の引いた顔。それでも瞳はどこかふてぶてしかった。
「何のつもりで俺を……」
「お前を陥れるよう言われた。ただ、それだけだ」
チャドは静かに口を開いた。その口調には、罪悪感も、恐れもない。
「誰に?」
隣でカサレアが問う。感情を抑えているが、声に怒りが混じっていた。
「……名は明かされていない。だが、あの女――レミエルを殺したのは、俺の仲間だ」
俺とカサレアは顔を見合わせた。やはり、そうか――。
「……ヨゼフの仲間か?」
チャドは一瞬だけ目を伏せ、そして頷いた。
「ヨゼフは俺たちの中でも慎重派だった。すぐに手を出すことはなかったが、狙いははっきりしていた。お前を殺すこと。それが命令だった」
「……それで、レミエルを?」
「彼女は邪魔だった。ただそれだけ。だが、俺は――直接は手を下していない。あれは別の奴がやった」
俺の中で怒りが渦巻く。だが、怒鳴ってもレミエルは戻らない。
「カサレアを狙ったのも、お前の仲間か?」
「いや、あれは別口だ。別の依頼。別のギルド。お前には、いろんな連中が関わってるらしいな」
「……それはどういう意味だ?」
「知らん。だが、依頼が重なっていたことは確かだ。お前を尾行していたのも、カサレアを狙っていたのも、それぞれ別の奴らだ。偶然か、何か意図があるのかは知らない」
「……全部、俺一人に向けられた歪んだ矢だ」
カサレアが横目で俺を見る。何かを言いたげだが、言葉にはしない。
俺は深く息を吐いた。
「……で、その依頼はどこから来たんだ? 誰が金を払った?」
「……それは、さすがに教えられない。言えば、俺の命がなくなる」
「言わなきゃ、それ以上の地獄を見せてやる。俺は今、そういう気分だ」
俺が刀の柄に手を置くと、チャドの顔が引きつる。
「……名は聞いていない。ただ、『白い指』とだけ名乗った」
「白い指……?」
カサレアが首をかしげた。
「ギルド名か、組織名か、それとも――」
俺もその言葉を反芻する。
チャドは続ける。
「金は振り込み。連絡はすべて中間の伝言。直接会ったことは一度もない。だが、命令は確かだった。お前を消せ、と」
「レミエルの命も、その流れで奪われたのか……」
「……あの夜、影が動いていた。レミエルは、それに気づいていた。だが油断したんだ」
「……」
沈黙が落ちる。重い沈黙だった。
「レミエルが……」
カサレアの声が震えている。
俺はそっとカサレアの肩に手を置いた。
「カサレア……ありがとう。ここまで来てくれて」
彼女は首を振った。
「違う、私たち……ここで止まるわけにはいかない。レミエルのためにも」
「もちろんだ」
そして、俺たちはチャドを捕らえたまま、どうするべきかを相談し始めた。
「このまま衛兵に引き渡しても、闇ギルドに口を塞がれる可能性がある」
カサレアが言うと、俺は頷いた。
「どこか、安全な場所で匿って、もっと情報を引き出す。それしかない」
「危険だけど……やるしかないわね」
「カサレア……ありがとうな。こんなことに巻き込んじまって」
「もう、巻き込まれたって思ってない。私は、レミエルの意思を継いでる」
「……ああ」
夜は更けていった。だが、闇の中でも、俺たちは前に進まなければならない。
レミエルの命が――すべての始まりだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
蒼穹に溶けた約束 ―記憶を失った勇者と終焉の魔女―
usako
ファンタジー
目を覚ましたとき、名前も記憶も失っていた――。
少年は滅びゆく世界で、ただ一人の「魔女」に拾われる。
世界を救うと呼ばれた勇者は、なぜすべてを忘れたのか。
魔女が背負う「終焉の呪い」とは何か。
過去を思い出すたび、二人は哀しみの真実に近づいていく。
これは、滅びの運命に抗う二人の再生の物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる