20 / 41
20話「深奥の核」
しおりを挟む
地下神殿の奥、冷たい空気がじっとりと張りつくように漂う中、サリエルたちはゆっくりと歩を進めた。魔方陣の放つ微細な魔力の波が、肌を刺すような違和感を伴って全身を包み込む。
「これは……」
サンダルフォンが低くつぶやいた。
彼女の視線の先には、天井にまで届かんとする漆黒の水晶。光を吸い込むような艶を持つそれは、ただそこに存在するだけで、空間のすべてを支配しているかのような威圧感を放っていた。
「なんて禍々しい……」
ジブリールの声が震える。その黒水晶の根元には、無数の死体が折り重なっていた。どれも、村人たちのものと思われた。顔を知る者もいた。かつて、祭りで共に笑った老人。井戸端で言葉を交わした主婦。皆、目を見開いたまま、死後硬直も終えた冷たき骸となっていた。
「まさか、これが……神胎還元術の完成形なのか……」
サリエルが剣を握りしめた。怒りと絶望が入り交じる。
「この魔方陣……ただの儀式ではないわ」
サンダルフォンは膝をつき、魔方陣の細部を指でなぞった。六芒星の重なりに秘められた構造、そしてその中心に組み込まれた大量の生体情報を模した魔術式。
「これは、生体魔力を一つの結晶体に還元し、媒体として固定化する……つまり、この黒水晶は村人たちの“魂”そのものよ」
ジブリールが唇を噛む。
「じゃあ、あの人たちは……」
「生きたまま……媒介に変えられたのでしょう」
その瞬間、辺りの空気が一段と冷たくなった。黒水晶の表面に、不気味な波紋が走った。まるで、何かが目覚めるのを告げるかのように。
「この水晶の内部には、まだ“何か”が生きている気配がしますわ。もしかすると……これが“神胎”の原型、あるいは“還元された神意”そのものなのかもしれません」
「……このままにしておくわけにはいかない」サリエルは剣を引き抜いた。目の奥、戦闘で覚醒し始めた“眼”が、水晶の内部を透かし見ていた。
「見える。……うごめいている。何かが、俺たちの存在に気づいて――!」
水晶の奥から、ずるり、と黒い靄が漏れ出した。それは霧のようでいて、明確な“敵意”を伴っていた。死体の中から、一体、また一体と動き出す骸が現れる。身体の一部が水晶の鱗片に侵され、もはや人間ではない。
「動くな。奴らは……水晶に取り込まれた“残滓”だ。けれど、完全には死んでいない」サンダルフォンの声が震えていた。
ジブリールが呪文を唱えた。光の輪がサリエルの体を包み、強化が施される。
「行って。……私たちで止めなきゃ、この地は終わる」
サリエルは頷いた。剣を構え、眼に力を込める。
「バティム……バエル……お前たちの罪は、すべてここに刻まれることになる。俺がその証人になる」
そして戦いは始まった。地下神殿、黒水晶を巡る最後の闘争が。呻き声と魔力の奔流がぶつかり合い、過去と未来の全てが、今、この場に集束していくのだった。
「これは……」
サンダルフォンが低くつぶやいた。
彼女の視線の先には、天井にまで届かんとする漆黒の水晶。光を吸い込むような艶を持つそれは、ただそこに存在するだけで、空間のすべてを支配しているかのような威圧感を放っていた。
「なんて禍々しい……」
ジブリールの声が震える。その黒水晶の根元には、無数の死体が折り重なっていた。どれも、村人たちのものと思われた。顔を知る者もいた。かつて、祭りで共に笑った老人。井戸端で言葉を交わした主婦。皆、目を見開いたまま、死後硬直も終えた冷たき骸となっていた。
「まさか、これが……神胎還元術の完成形なのか……」
サリエルが剣を握りしめた。怒りと絶望が入り交じる。
「この魔方陣……ただの儀式ではないわ」
サンダルフォンは膝をつき、魔方陣の細部を指でなぞった。六芒星の重なりに秘められた構造、そしてその中心に組み込まれた大量の生体情報を模した魔術式。
「これは、生体魔力を一つの結晶体に還元し、媒体として固定化する……つまり、この黒水晶は村人たちの“魂”そのものよ」
ジブリールが唇を噛む。
「じゃあ、あの人たちは……」
「生きたまま……媒介に変えられたのでしょう」
その瞬間、辺りの空気が一段と冷たくなった。黒水晶の表面に、不気味な波紋が走った。まるで、何かが目覚めるのを告げるかのように。
「この水晶の内部には、まだ“何か”が生きている気配がしますわ。もしかすると……これが“神胎”の原型、あるいは“還元された神意”そのものなのかもしれません」
「……このままにしておくわけにはいかない」サリエルは剣を引き抜いた。目の奥、戦闘で覚醒し始めた“眼”が、水晶の内部を透かし見ていた。
「見える。……うごめいている。何かが、俺たちの存在に気づいて――!」
水晶の奥から、ずるり、と黒い靄が漏れ出した。それは霧のようでいて、明確な“敵意”を伴っていた。死体の中から、一体、また一体と動き出す骸が現れる。身体の一部が水晶の鱗片に侵され、もはや人間ではない。
「動くな。奴らは……水晶に取り込まれた“残滓”だ。けれど、完全には死んでいない」サンダルフォンの声が震えていた。
ジブリールが呪文を唱えた。光の輪がサリエルの体を包み、強化が施される。
「行って。……私たちで止めなきゃ、この地は終わる」
サリエルは頷いた。剣を構え、眼に力を込める。
「バティム……バエル……お前たちの罪は、すべてここに刻まれることになる。俺がその証人になる」
そして戦いは始まった。地下神殿、黒水晶を巡る最後の闘争が。呻き声と魔力の奔流がぶつかり合い、過去と未来の全てが、今、この場に集束していくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる