霧と魔眼のファタ・モルガーナ

氷翠

文字の大きさ
22 / 41

22話「旅の途中、そして出会い」

しおりを挟む
 焼け落ちた村を背に、東の街道を三人は歩いていた。空は高く、雲は穏やかに流れているのに、胸の奥にはまだくすぶるものがある。地に転がっていた数多の死体。焦げた匂い。何もかもが終わったあの夜。

「……あの村、ほんとに全部……」

 ジブリールが口を開いたが、すぐに言葉を飲み込む。

「全部、だ」

 とサリエルが淡々と言う。

「逃げられた奴はいねえ。旅人も巻き込まれてた。……くそみたいな終わり方だ」
「……あやつの“術”は、時間をかけて染み出すように広がる。止められたのは最悪の未来だけじゃよ。それだけは確かじゃ」

 サンダルフォンの声は冷静だが、その奥には怒りがあった。

「……でさ、サウナリアって町では、まず何をすんの?」

 ジブリールの問いに、サンダルフォンがわずかに笑って応じる。

「身分証じゃよ。冒険者ギルドで発行できる。旅人としての証明がないと、これから先の街じゃ厄介なことになる」
「旅人証……なんか、冒険者っぽくなっくな、俺たち」

「まあ、あれだけ戦えば、それっぽくもなるわよね」

 そんな冗談めいた会話をしながら、舗装の甘い街道を歩き続ける。昼過ぎ、森が開けた場所で、前方に何か動く影を見つけた。

「あれ……誰かいる?」

 警戒心を強めたサリエルが剣の柄に手をやるが、相手もすぐにこちらに気づき、手を上げてきた。

「おーい、そこの三人! 旅人かい?」

 現れたのは、鉄の鎧をまとった大柄の男だった。脇には細身の男、長杖を携えた年配の男、そして紅い髪の女性――四人がいる。

「……冒険者か?」
「そう見えるな」とサンダルフォンが呟く。
「やあ、こんな道で出会うのも何かの縁だね」

 鎧の男――プリアプスと名乗る彼は、見た目に反してやわらかな口調で話す。

「俺たちはサウナリアに向かってるんだ。少し遅れて合流する予定の仕事があってね。君たちもそっちかい?」
「同じくサウナリアだ」

 とサリエルが答える。

「珍しい組み合わせだな。こんな若い子が冒険者ってのは、まあ、最近は増えてきたけどさ」
「君もたいがい若そうに見えるけど?」

 とジブリール。

「おや、嬉しいね。でももう28さ。ガタも来る年頃さ。ははは」
「……こっちはザバーニア。呪文の構成なら一級品だが、酒のことになると駄目な男だよ」
「ほっとけ、プリアプス。俺は自分の嗜好に忠実なだけだ」

 ザバーニアと呼ばれた魔術師は37歳ほど。言葉遣いは理知的だが、その手にはワインの小瓶があった。

「で、あたしはミカイール。回復術士って名乗ってるけど、別に大したことないから期待しないで。怪我しても自己責任ね」

 紅髪の女性は26歳ほど。言い方はぶっきらぼうだが、ジブリールにはなぜか親しみを感じさせた。
 最後に口を開いたのは、弓を背負った細身の青年だった。

「リドワンと申します。サウナリアの射撃試験で最高記録を持っています。……あ、近づきすぎないで。汚れるので」
「うわ……なんか急に態度変わったな」

 とサリエルがぼやいたが、リドワンは肩をすくめるだけだった。

「まあ、クセはあるが腕は確かだ」

 とプリアプスが笑う。

「一緒に行くかい? サウナリアまでは、あと一日半くらいある」

 ジブリールがサリエルを見ると、彼はわずかにうなずいた。

「変な奴らだけど、悪人じゃなさそうだしな。構わねえよ」

 こうして、六人の旅は始まった。火の村から抜けた三人と、別の目的を持った四人。
 まだ何も知らない。それぞれの背負っているものも、向かう先の運命も。
 ただ、サウナリアという名前の町へ向かって――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...