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23話「サウナリアの風に吹かれて」
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サリエルたちがたどり着いた町、サウナリアは、石造りの堅牢な外壁に囲まれた中規模の都市だった。推定人口は一万二千。田舎の村から来た彼らにとって、その活気と喧騒はまるで別世界のように感じられた。
町には東西南北に門があり、それぞれに数人の衛兵が立っていた。特に東門の外側には大きな川が流れ、住民たちは水汲みに訪れたり、洗濯をしたりと、水辺に集まる人の姿が多く見られた。川の水は町の生活用水として機能しており、簡易的な浄化設備も見える。川沿いには畑が広がっており、小麦や野菜、香草などが栽培されている様子がうかがえた。
「……ずいぶん賑やかなとこだな」
サリエルが驚きの混じった声を漏らす。ジブリールもまた、目を輝かせてあちこちを見回していた。
「市場通りもあるみたい……あそこ、果物が売ってる」
「荷物持ちなら任せてよ」
と冗談めかしてサリエルが言うと、サンダルフォンが少し微笑んだ。
「ここが、あんたらの次の舞台……か。さあ、無駄話はそのへんにして案内するぜ」
声をかけてきたのは、道中で出会った冒険者、プリアプスだった。彼の案内で、4人は町の中心部に向かう。途中、彼の仲間たち――魔法使いのザバーニア、回復士のミカイール、弓使いのリドワンとも簡単に別れの挨拶を交わし、最低限の注意事項だけを教えてもらった。
まず紹介されたのは、城壁近くにある格安宿「カロカロ亭」。少々くたびれた建物ではあるが、掃除は行き届いており、女将も感じの良い中年女性だった。
「ここなら一泊三人で銀貨一枚半。飯付き、風呂別ってとこだな」
「助かる……」
「ギルドはこの通りを真っすぐ進んで広場の左。すぐにわかるさ。じゃあな、いい旅を」
プリアプスたちは軽く手を挙げて去っていった。
宿に荷物を置き、ひとまず休憩した後、三人は目的の場所――サウナリア冒険者ギルドへと向かった。
その建物は、他の商業施設とは一線を画すような重厚な石造りで、二階建ての大きな建築だった。扉を開けると、冒険者と思しき者たちが多く集まり、依頼掲示板の前に列を作っている。
受付には数人の女性が並んでいたが、三人が向かうと、そのうちの一人が手早く対応に出た。
「ようこそ、サウナリア冒険者ギルドへ」
その女性の名前はアニィ。年齢は二十四ほどだが、無機質で整った口調がどこか機械的で、まるでロボットのような印象を受けた。
「身分証明書の発行をご希望ですか?」
「はい。私と、この少年の二人分をお願いしたいのですが……」
ジブリールが丁寧に応じると、アニィは即座に作業を開始した。彼女の手際は異様なまでに正確で、質問と記録を寸分の狂いもなく繰り返していく。
「名前、生年月日、出身地、所属予定のギルド、得意分野、魔法の有無、冒険経験の有無、近親者の情報……」
「おいおい、まるで犯罪者扱いだな……」
とサリエルが小声で呟くが、アニィには届いていないようだった。
「記録完了。発行には三時間を要します。手数料は銀貨一枚となります」
こうして、三人はギルド内の待合所でしばらく時間を潰すことになった。サリエルは椅子に腰かけながら、手の甲を見つめる。そこには、まだ戦いの痕跡が残っていた。
「……ようやく一歩、って感じだな」
「うん。でも、まだ何が待ってるかはわからないよ」
ジブリールがそっと答える。サンダルフォンはそんな二人を静かに見守っていた。
そのとき、ふと風がギルドの扉を揺らし、乾いた音が響いた。
静けさと騒がしさが交差する中、三人の新たな生活が静かに始まろうとしていた――。
町には東西南北に門があり、それぞれに数人の衛兵が立っていた。特に東門の外側には大きな川が流れ、住民たちは水汲みに訪れたり、洗濯をしたりと、水辺に集まる人の姿が多く見られた。川の水は町の生活用水として機能しており、簡易的な浄化設備も見える。川沿いには畑が広がっており、小麦や野菜、香草などが栽培されている様子がうかがえた。
「……ずいぶん賑やかなとこだな」
サリエルが驚きの混じった声を漏らす。ジブリールもまた、目を輝かせてあちこちを見回していた。
「市場通りもあるみたい……あそこ、果物が売ってる」
「荷物持ちなら任せてよ」
と冗談めかしてサリエルが言うと、サンダルフォンが少し微笑んだ。
「ここが、あんたらの次の舞台……か。さあ、無駄話はそのへんにして案内するぜ」
声をかけてきたのは、道中で出会った冒険者、プリアプスだった。彼の案内で、4人は町の中心部に向かう。途中、彼の仲間たち――魔法使いのザバーニア、回復士のミカイール、弓使いのリドワンとも簡単に別れの挨拶を交わし、最低限の注意事項だけを教えてもらった。
まず紹介されたのは、城壁近くにある格安宿「カロカロ亭」。少々くたびれた建物ではあるが、掃除は行き届いており、女将も感じの良い中年女性だった。
「ここなら一泊三人で銀貨一枚半。飯付き、風呂別ってとこだな」
「助かる……」
「ギルドはこの通りを真っすぐ進んで広場の左。すぐにわかるさ。じゃあな、いい旅を」
プリアプスたちは軽く手を挙げて去っていった。
宿に荷物を置き、ひとまず休憩した後、三人は目的の場所――サウナリア冒険者ギルドへと向かった。
その建物は、他の商業施設とは一線を画すような重厚な石造りで、二階建ての大きな建築だった。扉を開けると、冒険者と思しき者たちが多く集まり、依頼掲示板の前に列を作っている。
受付には数人の女性が並んでいたが、三人が向かうと、そのうちの一人が手早く対応に出た。
「ようこそ、サウナリア冒険者ギルドへ」
その女性の名前はアニィ。年齢は二十四ほどだが、無機質で整った口調がどこか機械的で、まるでロボットのような印象を受けた。
「身分証明書の発行をご希望ですか?」
「はい。私と、この少年の二人分をお願いしたいのですが……」
ジブリールが丁寧に応じると、アニィは即座に作業を開始した。彼女の手際は異様なまでに正確で、質問と記録を寸分の狂いもなく繰り返していく。
「名前、生年月日、出身地、所属予定のギルド、得意分野、魔法の有無、冒険経験の有無、近親者の情報……」
「おいおい、まるで犯罪者扱いだな……」
とサリエルが小声で呟くが、アニィには届いていないようだった。
「記録完了。発行には三時間を要します。手数料は銀貨一枚となります」
こうして、三人はギルド内の待合所でしばらく時間を潰すことになった。サリエルは椅子に腰かけながら、手の甲を見つめる。そこには、まだ戦いの痕跡が残っていた。
「……ようやく一歩、って感じだな」
「うん。でも、まだ何が待ってるかはわからないよ」
ジブリールがそっと答える。サンダルフォンはそんな二人を静かに見守っていた。
そのとき、ふと風がギルドの扉を揺らし、乾いた音が響いた。
静けさと騒がしさが交差する中、三人の新たな生活が静かに始まろうとしていた――。
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