戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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閑話・甲斐編

明智十兵衛光秀の憂鬱

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『どう思う?』

  『わかりませぬ、非才の身にはとても』

 『わからぬか?十兵衛』

 『申し訳ありませぬ』

 『ならば言おう、十兵衛はな・・・』

 あれから、十年以上の月日が経った。

 私は今も、そのを探している。

 刀を振る、盗賊の首が落ちた。

 返す一刀でまたも1人の盗賊の命が奪われる、その技術は十分に達人の域にあり素人ならば剣筋を拝むことすら許されずその命は奪われるだろう。

 だが明智十兵衛光秀、彼の剣筋を見ることができる者は非常に限られている。正確にはが限られているのだが。

 「え?」

 その言葉を放ったのが、盗賊のものだったのかそれとも助けた女性のものだったのか光秀にはわからない。わかることはただ一つ、自分は目の前の村女を救う為に動いたということだけだ。

 「大事ありませぬか?」

 「え、あ、人?」

 「ええ、正真正銘人ですとも、明智十兵衛光秀と申します」

 日差しが灯る、女の瞳に自分はどう写っているのだろうか。またたく間に人を5人も殺した曲者?

 それとも、まだ私自身を認識していないのだろうか。それなら面白い、とうとう真正面から声をかけたのに気づいて貰えなかったと左近殿への良い土産話になるだろう。

 少女の顔が真っ赤に火照る、足に怪我をしているのに気付き私は女を両手で抱く。

 それが、彼女との出会いであった。


◇◇◇◇


 普通の侍だ、光秀にその身を助けられた女は彼をそう評していた。

 良く良く見れば顔は中々の美丈夫で背丈も細っそりとしている、格好は山道でも袴姿だ。歩くのに苦労しないのかしら?

 それでもこの御仁は何の苦も無さそうに私をおぶって山道を歩いています、村までもう少しですがそれでもかなりの距離を背負って貰っています。苦心している様子はありません。
 
 「足の傷は痛みませぬか」

 「い、いえ。あの・・ありがとうございます」

  そう言うとそれは良かったとお侍様は足を止めずに言う。

 私は言わなければいけないことを思い出し、慌ててお侍様へと声をかけた。
 
 「名乗るのが遅れて申し訳ありませんお侍様、私は鈴と申します。」

 「そうか、鈴殿、この辺りの村出身か?」

 「はい、松尾村というところです」

 松尾村は古くからある神社がある以外、取り立てて何も無い平凡な村だ。人口も百人ほどで領主様も年貢の取り立てぐらいでしか訪れない辺鄙な村だ、人の目が届かないということは悪しき者も集まるということ。村は問題を抱えている・・・・

 私の声が低くなったのを察したのだろうか、お侍様が一度こちらを見た。しかし私が何も言わないのを察すると前を向き歩き始めた。

 「あの、お侍様はどうして此処に?何かご用でしょうか?」

 私がそう聞くと、お侍様はその表情を少し困り気にして答える。

 「実は、友人が迷子になりましてな。1人でこの辺りにいるかと思うのですが」

 「それは、冗談では済まされません!この辺りは夜になると猛獣や山賊がウロウロしているのです!」

 「いえ、のですが左近殿は料理が得手では無いので腹を壊さぬかが心配なのです」

 それは問題無いとはどういうことなのでしょう、ひょっとして冗談?しかしお侍様は冗談を言っているようには見えません。

 「ならば、村に立ち寄っていないか村民に聞くのが良いのでは無いでしょうか?」

 「よろしいのですか?」

 「命の恩人ですから、それに父が村の名主を務めているので他の方よりは幾らか裕福なのですよ」

 「感謝致します、鈴殿」

 そう言うとお侍様は物腰柔らかく私に会釈をして来ました、年貢を取りに来るお侍様とは偉い違いです。これが普通?それとも他のお侍様が粗暴すぎるだけ?


◇◇◇◇
 

 昼間とは言え、こんなところで娘が1人とは平和ボケが過ぎよう。

 山賊はおよそ10名からなる武装集団だ、戦支度を整えた武士ならばいざ知らず帯刀した彼らは一般市民にとって十二分に脅威となり得る。

 女ならば慰み者にされてしまうところだろう、どうなっているのだ一体?

 まぁいい、越後の戦を経て駿河に戻ろうとしていた某と左近殿は甲斐国に立ち寄った。貧しい場所だ、立ち寄った街で子供が病気になり回復には猪の臓腑が必要になると医者から聞いた瞬間左近殿が街を飛び出した。

 荷台衆をその街に置いて私もついて来たと言う訳だ、まぁ左近殿が不覚を取るようなことも無いので恐らく取り越し苦労かと思われるがそれでも来て良かったな、娘を1人救えたのだから。

 ご隠居様なら盗賊に囲まれる娘を見て何と言うだろうか、数年前そのような者を見た際には「無理やり系は守備範囲外だぁぁぁ!!」と言いながら盗賊に体当たりをしかけたような気がする。

 ご隠居様がされたことだ、きっとそれは正しいのだろう。

 言ってる意味は全く理解できなかったが。

 助けた娘は本当に名主の娘だった、名主からは酷く感謝され宿を世話になることになった。侍がこの街に来るのは久しぶりらしい、今川家中の者と名乗ると酷く驚いていたな。

 某の名は存じなかったが、別にそれは良いのだが鈴殿、某さっき一回名乗ったよね?なんで初めて見たいな顔してるんだ?

 今川家中の者はこの土地を納めている領主の更に上に位置する、つまり雲の上の人物だ。まぁ私自身は地位的にはそこまでの人間では無い。出来るだけ身分は秘匿して内容を伝え、自分は旅の途中で仲間と逸れたのでそれを探していると伝えてある。

 納得していたな、まぁご隠居様じゃああるまいしこんな田舎街に護衛一つ付けずに人が来てもそれを誰か判別することはできないだろう。桔梗の家紋が胸にしっかりとついていようとだ。

 家は居心地が良かった、幾らか暮らしが豊かと言うのは本当なようだ。村を見回った限りでも名主ほどの住居を構えているところは無い。

 私はご隠居様から頂いた村正を床の隣に置いて睡眠を取る、左近殿はどこの山まで言っているのだろうか?想像がつかないが・・・・

  そこで光秀は眠る筈だった、だが眠れたのはほんの数刻の間だけであった。

 ガサリという地面を歩く僅かな音で光秀は目を覚ます、地面を歩きながら 。

 明らかに普通の足音では無い、その半端に足音を隠そうとしているのに違和感を覚え、光秀は目を覚ましたのだった。

 音は10、いや9?

 音から判断するに武装しているだろう、ただ争ったような形跡は無い。

 「困ったな、どうやらようだ」

 障子を開くと、既に臨戦態勢な男たちが刀を抜いてこちらを見ていた。

 刀を抜く、村正の鞘から美しき白い刀身が飛び出し、辺りに闇が満ちた気がした。

 

 
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