66 / 100
閑話・甲斐編
明智光秀の戦い
しおりを挟む
「ヒッヒッヒ...身なりの良い男はここで寝てるんですかい?兄貴」
「あぁ、しかし油断するなよ。相手は今川の武士と言う、こちらの動きを察知している可能性もある」
「兄貴、それにしてもなんで部屋の襖が空いてるんでやすかね?」
私が開けたからである、そもそも刀を抜いたのだから気づけというか気付いてくれ。流石に落ち込むが、そればかりでもいられない。相手は自分を殺しに来ているのだ、それも間違い無く。
「俺の合図と共に一斉に寝室に飛び込め、奴は布団で眠りこけている筈だ。静かに殺せ、装備品は高く売れる筈だから壊すなよ?」
そう言うと、盗賊の頭領らしき男は手で子分に合図を送る。
その間私は暇なので、1番後ろに控えていた下っ端を切り殺した。
音は無い、相手も何がなんだか理解できぬまま死んだだろう、村正はそれ程に斬れ味が良かった。癖になりそうだ、思わず派手に斬りたくなってしまう、ご隠居様も同じような悩みを抱えていたのだろうか?
そんな気がする、あのお方は殺意は暴虐といったものからは程遠いお方だが、そんな暴力的な面をこの刀に封じていた可能性はある。
勢い余って地面をも斬ってしまいそうなこの刀を光秀はそう評していた。
3人目を殺した辺りで、頭領が突入の指令を手でかける。統率の取れていないようなバタバタした音と共に盗賊たちは家の中に入って行く。私も一緒に入り、4人目を斬ってしまっていた。
もう隠さなくていいや。
「兄貴、布団ごとぶっ刺したが手応えがねぇ!」
「うむ、これは?」
頭領が布団をめくると、そこには誰もいない。ただし頭領の隣にいるのだが。5人目いきまーす。
「あの村長、謀ったのか?いや彼奴にそんな度胸は無い筈だ」
「兄貴」
「どうやら逃げたようだ、収穫無しは不味いな、おい村長にゃ娘がいたよな?ソイツを拐うか」
「兄貴、村長の娘にゃ手を出さねぇ約束でしょう?」
「おめぇはあんなもんを律儀に守るのか?」
「な訳ありませんな」
「兄貴」
「うるせぇぞ!なんなんださっきから!」
6人目を斬る、残りは3人だけか。喧嘩はしないでくれると助かるな。死出の船で喧嘩とか橋渡し役が困るだろう。それとも流石に気付いた?
「ほ、他の奴らが」
「あ?オイ、一緒に来た奴らはどーしたんだ」
「お、俺にもわっかん無いっすよ!気付いたら誰も居なくて・・・・」
「神隠しか?どーなってやがるんだ一体」
7人目、あと2人です。これ気づかん奴だな、夜になると私は更に気付き難くなるらしい。嫁が私に気づかずに同じ布団に眠に来るなどしょっちゅうだ。少し泣きそうになって来た、あと2人だ。早く終わらせよう。
◇◇◇◇
「本当に、なんてお詫びをしたら良いのやら」
「貴方方の事情は理解できました」
「父は悪く無いのです!父は」
「良いんだ、今まであの賊どもに良いようにされて来たのは私の責任。打ち首になろうと悔いは無い」
「そんな・・父上ぇ」
「鈴、幸せになるのだぞ」
「父上!」
「鈴!」
目の前で名主の親子が泣きながら抱き合っている、そんなのを見せられても困るのだ。この村は長いこと賊に脅されて商人たちをおびき寄せる餌として使われていたらしい。道理で名主の館だけ豪華な筈だよ、他の村人に比べて家として立派なのは旅人を泊まる為に不都合ありと見做されない為だ。
賊の片棒を長年この村は担いでいたとも言える、当然領主にも知らせられない。そうなればこの村は激しい報復を受けることになっただろう。
今回の件については完全に領主の不手際だ、と言いたいところなのだが案外そうでも無い。と言うのもこの甲斐国というのは元は武田の納めていた土地だ。住みづらいんだよここは、土地は豊かじゃ無いし土砂災害や川の氾濫が頻繁に起こる。
昔漁った資料によれば人口はどんどん減っているそうだ、他の土地では人口が増えているにも関わらずだ。耐えきれず村を捨てたのだろう。
国人衆の反発も酷い、国人衆とは全国にいる小さい大名のようなものだ。村長以上大名以下といったイメージの彼らの中でも元武田領地の国人衆らの反発は酷いものだったそうで。
何をやっているのやら、これは報告せねばなるまいな。
「ともかく、法を破ったのは事実です。村に何かしらの罰はあるでしょう」
「はい」
名主の親子は鎮痛の面持ちでその言葉を受け入れている、そんな顔されると自分が悪いことをしているような気分になる。もし自分にご隠居様ほどの権力があれば、2人を許しただろう。しかし私はご隠居様では無い、この村には辛い罰が待っているのだろう。
だがそれを止める術は無い、賊に襲われて死んだ旅人や商人が浮かばれることは無いのだから。
「ですが、賊に脅されて行っていたのもまた事実。そのことも加味して頂けるよう報告はさせて頂きましょう」
今言えるのは、これだけだ。
「彼らは、結局何者だったのでしょう?」
「恐らく、武田の残党かと」
「武田?」
数年前滅んだ武田の一族を忘れているものは居ないだろう、上洛を果たした後に武田と今川は激しく対立した。
武田が川中島以降、今川の治める地に野心を向けたからだ。亡き大殿今川義元様は激しくご立腹され大規模な攻勢に出た。ご隠居様はいつも通り留守番だ、一進一退の攻防が続いたが、とうとう武田は滅んだ。
国人衆の裏切りが相次ぎ、息子である諏訪勝頼にも裏切られた最期だった。武田信玄は失意の中で戦死し家臣は死ぬか逃げるかしたと言う。
その際一部が今川の元に入ったのは言うまでも無いだろう。
そんな武田の残党がまだこの地にいたとは・・・・
あ
「名主殿、武田の残党の中に名のある武将はおられますか?」
「えぇ、武田四天王の御方までおられると聞きます。辺りの獣を狩り尽くしておりまして」
「なら、向かいましょう。今なら間に合うやも知れませぬ」
「は、はぁ?」
「村に向かった奴らはまだ戻らんのか?」
「は、はい。まだです」
「使えん奴らよ、使いも満足にできぬとは」
「うむ、だがこのような暮らしももう終わりよ。諏訪勝頼様を当主に、我ら武田は再び再興するのだ」
「うむ、ならば先日狩ったこの猪をだな・・・・」
「報告します!」
「なんだ、騒々しい」
「か、隠れ家の前にある石門を蹴り破って男が入って来ました!」
「「「はぁ!?」」」
「あぁ、しかし油断するなよ。相手は今川の武士と言う、こちらの動きを察知している可能性もある」
「兄貴、それにしてもなんで部屋の襖が空いてるんでやすかね?」
私が開けたからである、そもそも刀を抜いたのだから気づけというか気付いてくれ。流石に落ち込むが、そればかりでもいられない。相手は自分を殺しに来ているのだ、それも間違い無く。
「俺の合図と共に一斉に寝室に飛び込め、奴は布団で眠りこけている筈だ。静かに殺せ、装備品は高く売れる筈だから壊すなよ?」
そう言うと、盗賊の頭領らしき男は手で子分に合図を送る。
その間私は暇なので、1番後ろに控えていた下っ端を切り殺した。
音は無い、相手も何がなんだか理解できぬまま死んだだろう、村正はそれ程に斬れ味が良かった。癖になりそうだ、思わず派手に斬りたくなってしまう、ご隠居様も同じような悩みを抱えていたのだろうか?
そんな気がする、あのお方は殺意は暴虐といったものからは程遠いお方だが、そんな暴力的な面をこの刀に封じていた可能性はある。
勢い余って地面をも斬ってしまいそうなこの刀を光秀はそう評していた。
3人目を殺した辺りで、頭領が突入の指令を手でかける。統率の取れていないようなバタバタした音と共に盗賊たちは家の中に入って行く。私も一緒に入り、4人目を斬ってしまっていた。
もう隠さなくていいや。
「兄貴、布団ごとぶっ刺したが手応えがねぇ!」
「うむ、これは?」
頭領が布団をめくると、そこには誰もいない。ただし頭領の隣にいるのだが。5人目いきまーす。
「あの村長、謀ったのか?いや彼奴にそんな度胸は無い筈だ」
「兄貴」
「どうやら逃げたようだ、収穫無しは不味いな、おい村長にゃ娘がいたよな?ソイツを拐うか」
「兄貴、村長の娘にゃ手を出さねぇ約束でしょう?」
「おめぇはあんなもんを律儀に守るのか?」
「な訳ありませんな」
「兄貴」
「うるせぇぞ!なんなんださっきから!」
6人目を斬る、残りは3人だけか。喧嘩はしないでくれると助かるな。死出の船で喧嘩とか橋渡し役が困るだろう。それとも流石に気付いた?
「ほ、他の奴らが」
「あ?オイ、一緒に来た奴らはどーしたんだ」
「お、俺にもわっかん無いっすよ!気付いたら誰も居なくて・・・・」
「神隠しか?どーなってやがるんだ一体」
7人目、あと2人です。これ気づかん奴だな、夜になると私は更に気付き難くなるらしい。嫁が私に気づかずに同じ布団に眠に来るなどしょっちゅうだ。少し泣きそうになって来た、あと2人だ。早く終わらせよう。
◇◇◇◇
「本当に、なんてお詫びをしたら良いのやら」
「貴方方の事情は理解できました」
「父は悪く無いのです!父は」
「良いんだ、今まであの賊どもに良いようにされて来たのは私の責任。打ち首になろうと悔いは無い」
「そんな・・父上ぇ」
「鈴、幸せになるのだぞ」
「父上!」
「鈴!」
目の前で名主の親子が泣きながら抱き合っている、そんなのを見せられても困るのだ。この村は長いこと賊に脅されて商人たちをおびき寄せる餌として使われていたらしい。道理で名主の館だけ豪華な筈だよ、他の村人に比べて家として立派なのは旅人を泊まる為に不都合ありと見做されない為だ。
賊の片棒を長年この村は担いでいたとも言える、当然領主にも知らせられない。そうなればこの村は激しい報復を受けることになっただろう。
今回の件については完全に領主の不手際だ、と言いたいところなのだが案外そうでも無い。と言うのもこの甲斐国というのは元は武田の納めていた土地だ。住みづらいんだよここは、土地は豊かじゃ無いし土砂災害や川の氾濫が頻繁に起こる。
昔漁った資料によれば人口はどんどん減っているそうだ、他の土地では人口が増えているにも関わらずだ。耐えきれず村を捨てたのだろう。
国人衆の反発も酷い、国人衆とは全国にいる小さい大名のようなものだ。村長以上大名以下といったイメージの彼らの中でも元武田領地の国人衆らの反発は酷いものだったそうで。
何をやっているのやら、これは報告せねばなるまいな。
「ともかく、法を破ったのは事実です。村に何かしらの罰はあるでしょう」
「はい」
名主の親子は鎮痛の面持ちでその言葉を受け入れている、そんな顔されると自分が悪いことをしているような気分になる。もし自分にご隠居様ほどの権力があれば、2人を許しただろう。しかし私はご隠居様では無い、この村には辛い罰が待っているのだろう。
だがそれを止める術は無い、賊に襲われて死んだ旅人や商人が浮かばれることは無いのだから。
「ですが、賊に脅されて行っていたのもまた事実。そのことも加味して頂けるよう報告はさせて頂きましょう」
今言えるのは、これだけだ。
「彼らは、結局何者だったのでしょう?」
「恐らく、武田の残党かと」
「武田?」
数年前滅んだ武田の一族を忘れているものは居ないだろう、上洛を果たした後に武田と今川は激しく対立した。
武田が川中島以降、今川の治める地に野心を向けたからだ。亡き大殿今川義元様は激しくご立腹され大規模な攻勢に出た。ご隠居様はいつも通り留守番だ、一進一退の攻防が続いたが、とうとう武田は滅んだ。
国人衆の裏切りが相次ぎ、息子である諏訪勝頼にも裏切られた最期だった。武田信玄は失意の中で戦死し家臣は死ぬか逃げるかしたと言う。
その際一部が今川の元に入ったのは言うまでも無いだろう。
そんな武田の残党がまだこの地にいたとは・・・・
あ
「名主殿、武田の残党の中に名のある武将はおられますか?」
「えぇ、武田四天王の御方までおられると聞きます。辺りの獣を狩り尽くしておりまして」
「なら、向かいましょう。今なら間に合うやも知れませぬ」
「は、はぁ?」
「村に向かった奴らはまだ戻らんのか?」
「は、はい。まだです」
「使えん奴らよ、使いも満足にできぬとは」
「うむ、だがこのような暮らしももう終わりよ。諏訪勝頼様を当主に、我ら武田は再び再興するのだ」
「うむ、ならば先日狩ったこの猪をだな・・・・」
「報告します!」
「なんだ、騒々しい」
「か、隠れ家の前にある石門を蹴り破って男が入って来ました!」
「「「はぁ!?」」」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる