戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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閑話・甲斐編

明智光秀の記憶

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 「名門武田、我らの手で必ずや再興して見せよう」

 そう願うのは、かつて武田四天王と称された者の嫡男たちであった。

 武田四天王、武田家中の中でも武田信玄に登用されその実力をもって重宝された者たちである。

 『馬場民部少尉信春』
 『内藤修理亮昌豊』
   『山県三郎兵衛尉昌景』
 『高坂弾正忠昌信』

 猛将として名を馳せ、同じ武田家臣からも一目置かれた彼らだったが武田の滅亡と共に彼らは全員戦死した。

 しかし、彼らの息子たちは生きていた。

 武田の足跡をそこに残す為に、いつか武田を再興させる為に。

 だが、その夢は今潰えようとしている。

 高坂源五郎昌澄、前述で紹介した高坂昌信の跡を継ぎ武田家再興を夢見た男は石扉をまるでダンボールのように蹴破って来た男の石の破片を受けて絶命した。

 彼が最期に見たのは、彼らが5人がかりで漸く開けるような以上扉が嘘のように破壊される瞬間である。

 爆裂する扉、頭に岩が降り注ぎ頭ごと何か大事な物が抜き取られて行く感覚。

 そんな、これが彼の最後の言葉である。

  内藤修理亮昌月、内藤昌豊の息子である彼は父と同じく誰からも信頼される義に厚い男だった。

 実力こそ他の4人に劣るものの常に冷静な判断を下すその姿は皆の憧れでもある。

 そんな彼の心を侵入者は一瞬でへし折った。

 半端な実力、故に気付いてしまったのだ。彼と侵入者の間にある絶対的な差に。

 一歩がこれほど遠く感じたのは、恐らく昌月の人生の中でも初めてだったに違い無い。

 ここで昌月は、生物として最も普通でありそして武士として最も愚かな選択を下した。

 逃走である、後年彼は自らの行いを恥じて出家し仏門に下ることとなる。

 馬場昌房、武田家随一の猛将として知られる馬場信春の息子として生を受けた彼は父譲りの剛力とその機転で残党の纏め役にも等しい存在として皆から頼りにされていた。

 石扉を破壊したに天誅を下すべくあの1番に駆けていったのも彼である。

 同じ志を共にした同志が破片をその身にくらい死んで行く、その光景に昌房の心に火がついた。

 確かに今の彼らの立場は弱い、武田の残党とは言え落ち武者狩りで殆どの同士は殺され親類等は女子供は寺に入れられて捕らえられた男は殺された。

 だが、武田の世が続いたのなら彼らは家老にもなり得た者達である。

 故に昌房は敵を斬る、義憤に燃えたその一刀は確かに昌房が生まれた中でも最高の一刀だっただろう。

 「良い太刀筋だ」

 その一刀は、まるで児戯のように躱されることとなったが。

 「何!?」

 驚愕の声が漏れる、残念ながら昌房が侵入者にできたのはそれだけだった。

 返しに帰って来たのは拳での一撃、昌房は吹き飛ばされて壁に激突し、そのまま動かなくなった。

 侵入者は、この時点で既に賊たちの心を折っていた。そのことに本人だけは気付いていなかったが。

 「あ~~ったくよ、なんで全員逃げるんだ?今ので終わりかよ!」

  侵入者、島左近はこの時点で考えるのを止めていた。目の前に女子供がいても襲いかかって来るならば島左近は武人としてその槍を振るうに相違無いだろう。

 左近が此処に来た理由は全くの偶然である、猪の跡を探し、匂いを辿りここまで来た。

 ついでに、こんな隠れたところに武装勢力がいた。これは賊に違い無いと確信し突っ込んだ次第である。

 「さて、猪どこかな~」

 手を振りながら左近は猪を探す、賊の命など幾ら奪っても許されることを左近は知っている。

 むしろ感謝される (主人が)ので、左近はこの賊狩りを主人にすら内緒で良く行っていた。
 
 洞窟か、左近は思わずそう呟いた。

 懐かしいと感じるのは気のせいでは無いだろう、ふと下を見れば死屍累々が眼前に広がっている。

 『自分もこうなっていたんじゃ無いか?』

 「あぁ、そうだな」

  大きく心に響いたその言葉を発したのは紛れも無い自分自身だ、無論答えたのも左近である。

 その通りだ、御隠居様に仕えて無ければ今の我々は無く、ただこのような死体になるのみであっただろう。

 それ程に御隠居様に仕える者というのは不思議な境遇の者が多かったのだ。

 「なぁ、十兵衛殿も同じ気持ちだろう?」

 誰もいない洞窟でぽつりと左近は言う、この気持ちを理解できる数少ない1人に向けて。



◇◇◇◇



 「光秀、私はな。お前になら裏切られても良いと思っているんだよ」

 唐突にそう言い放った御隠居様は、まるで何事も無いようにそう言った。戯れにしては異常すぎるその発言に背筋が凍るような思いをしたのを今でも覚えている。

 震えるような気持ちで何故と問う、あっけらかんとご隠居様は言い切った。

 「君を見てきた、君が仕えてくれたこの数年を。真面目で、愚直で、誰からも信頼され、だれよりも優秀だ。」

 そんなことは無い、自分はただ努力しただけだ。おまけに誰からも信頼されているという表現は嘘だ、自分は誰からも覚えられていない。

 「君に見限られるなら私もそれまで、と言いたいんだ。私は」

 知勇兼備の勇将たる御隠居様の評価、本来ならば誰よりも嬉しい御言葉だ。にも関わらず私には疑問しか無い、何故私が?何故私なのだと。

 今川輝宗は、何故私に見限られればそれまでなのか。

 「どう思う?」

 どう思うと言われても、何も言いようが無い。

 「御隠居様に叛意など、あり得ませぬ。」

  慌ててこう言う以外に何も無い。

 御隠居様は、適当な者にそう言った良く分からないことを言うことがあった。その気まぐれに言われる言葉を理解できる人間は御隠居様に見出された者の中でも更に少ない。

 私にとってのが、この言葉なのだ。

 裏切り?私が?

 自分で言うのもなんだが、私は人を裏切るような人間では無いように思う。ただ裏切るだけならば他に胡散臭い人物は山ほどいる筈だ。

 それが何故?考えれば考える程に答えは出てこない。

 『わからんか?』

 冷静な頭に、御隠居様の声が響く。

 わかりませぬと言えればどれだけ楽か・・・・

 思考の海に沈みかけるのを現実が必死で押し留める、 目の前に賊の隠れ家らしき痕跡が見えた、石でできた扉が完全に破壊されているのを見て光秀は同僚の予感を察知する。

 「では、行こうか」


 
 
 
 
 
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