戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん

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記憶編

坊主と兄の説教

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 「雪斎、久しぶりだな」

 「お久しゅうございます輝宗様、暫く見ぬうちに凛々しくなり申したな」

 「見た目だけだ」

  「ご謙遜を」

 ホホホという声が聞こえる、機嫌が良い証拠だな。目の前でつるりとしたまん丸の頭が見える、相変わらず形の良い綺麗な頭だ。恐らく毎日磨いているのだろう、ちょっと触りたくなった。

太原雪斎たいげんせっさい

 今川の軍師であり武将だ、僧侶なのにえげつない軍略で有名でもある。私の目の前にいるその坊主は、身長150センチほどの小さな男だ。穏やかな顔つきとごつい鎧のアンバランスさがその男の今の地位を明らかにしている。

 この男が近隣諸国に恐れられる今川の軍師?ちょっと信じられないだろうがその通りなのだから仕方がない、事実私もこの男だけには逆らいたく無い。

 この男、その場ではニコニコと受け流して裏でえげつ無い報復をするからね。

 「殿ももう直ぐ来られるでしょう」

 「そうだとありがたいな、我々は撤退の準備をせねばならん」

 先程兄に、撤退の指示が出された。意味がわからない、何故だろう?今更子供のこともあったから遠慮されたのかな。

 じゃあ呼ぶんじゃねぇよと言いたくなる、まぁいいや兄との会話が終わったら直ぐに帰ろう。

 「雪斎こそ良いのか?殿の軍議を聞かなくて」

 「はい、後で殿から聞きます」

 そう言いながら雪斎はニコリとこちらに微笑んで来る、顔の所々に皺が出てくるようになって来たがそれでも雪斎の叡智は健在だ。北条との戦でも度々手柄を挙げていると聞く、流石は今川一の軍師だよな。

 雪斎と軽い談笑をする、10分程すると兄が現れた。いつも通りのおしろいお歯黒姿だ、鎧が全く似合っていないな。

 「殿、この度はーーーー」

 「堅苦しい挨拶は良い、殿呼びも不要だ」

 「へ?」

 あの形式ばった糞面白くも無い儀式を重んじる兄が無礼講?頭でも売ったんじゃあ無いかしら。

 「殿、流石にそれは」

 雪斎も兄の様子がおかしいと感じだのだろう、止めようとする。

 「私が良いと言ったのだ、雪斎」

 「はっ」

 瞬時に黙らされた、こりゃ困ったな打つ手無しだ。

 「兄上、話とは?」

 「うむ、戦場からの撤退の件だ。不満もあるだろうと思ってな」

 「ありません、むしろ嫁がもう直ぐ子を産みます。早く帰ってやらねば」

 「は?」

  雪斎と兄が顔を見合わせる、雪斎がそれみたことかみたいな顔をする。兄はバツが悪そうにしている。

 「殿、ですから輝宗様をお信じ下されと申し上げたでは無いですか」

 「うるさい!偶然にしては出来過ぎでは無いか!」

 「偶然ではありませぬ、輝宗様本人の采配によるものなのは間違い無いのですから」

 「過程はな、結果は明らかに偶然では無いか!」

 なんか、言い争い始めたな。

 完全に私は蚊帳の外だよ、やれやれ。

 「申し訳ありませぬ輝宗様、殿は御身が妬いのでございます」

 「雪斎!!」

 兄がたまらず叫び出す、私と雪斎は互いにクスクスと笑い合っていた。

 なるほど、嫉妬か。確かに私は身の丈に合わぬ表評価を世間から受けている、嫉妬されても不思議じゃあ無いな。

 だが兄上、その反応は図星と取られても仕方が無いぞ?

 「どうです、貴方様の兄上は?」

 「少なくとも今の兄上はからかいがいがありますな」

 今川義元、戦国きっての非道の将。そのイメージはあまり良くは無い、圧倒的有利な状況にて織田信長に敗れたその背景から愚か者の烙印を押され以降その風聞は現世において払拭されたとは言い難い状況にあるだろう。

 だが、近年と言うには些か昔の話だが今川義元の評価を再認識する声が多数ある。

 海道一の弓取り、内政において秀でた才覚を持つ男。もし桶狭間の前に太原雪斎が死去していなければ歴史は違う方向へと舵を切ったかも知れない。

 少なくとも、目の前にいる男は普通に笑い、普通に泣き、そして今からかわれ顔を真っ赤にして怒るこの男はごくごく普通の人間だった。

 決して後世において非道と謗られるような人間では無い。

 戦国の世だ、日本を変えるには力が必要だった。

 民の安寧の為に、天下泰平の為には足利の世では駄目だったのだ。

 故に、兄は非道と呼ばれる道を選んだ。そもそも織田信長も天下布武を唱え敵からは魔王と恐れられたのだ、兄はその業を背負っただけだ。

 そして元の世界の兄は負けた、それがどれだけ無念だったか今ならわかる気がする。

 今川義元は織田軍に討ち取られる際、死の間際まで抵抗したそうだ。その執念は死の恐怖から齎される物では無い、勝利への渇望から来た物だ。

 人は、これを英雄と呼ぶ。

 だが人は、敗者には優しく無い。

 「輝宗」

 「はっ」

 「戦は好きか?」

 「嫌いですな」

 即答した、兄上は意外という顔を少しだけして話を続ける。

 「ならばもう二度と私は貴様に戦の参加を命ずることは無い、意味はわかるか?」

 「無論」

 え、もう戦行かなくても良いの?

 「お主の武名は広がりすぎた、既に私の地位を脅かすかも知れぬと忠言が飛んでいる。このままではお主を消そうとする者も現れるだろう」

 え、マジか。

 出家するか?でも夕と子供がいるから無理だなぁ。

 「故に、お主に命ずる。

 「はっ」

 え、何もしなくて良いの?

 悪いな兄上、得意分野だが?

 そんな私の想いとは裏腹にすまんな、そんな小さい声が兄上から漏れた気がした。あれ、兄上私が戦大好きマンだと思ってる?

 馬鹿を言ってはいけない、スポーツでもあり得るものだが争いというものは相手より自分が強いときやりたくなるのだ。紛うこと無き最弱の私が戦をしたがると思うか?

 答えは否である。

 「理解できたのならそれで良い、輝宗」

 「はっ」

 「私は、天下を取る」

  天下を取る、今川義元はこの時期から天下を見据えていたのか。

 なるほどな、叶わぬ訳だ。

 桶狭間の戦いは上洛を目論む今川と織田の戦いだ、その頃誰も上洛など目論んで居なかった。

 だがこの男は、既に見据えていたのだ。

 天下をーーーー

 「取れると思うか?」

 震える声で、兄が訪ねる。

 私は迷わずこう答えていた。

 「兄上が目印と見定めた者ならば、某はそれについて行くのみでございます。故に兄上、いつか言わせて頂きたい。今川の手で、戦乱の世は終結せりと」

 一瞬だけ、兄の瞳孔が開きこちらを見据える。私は頭を軽く下げて前を見る。

 下を向いた視界の隙間で、兄が微笑んだ気がした。

 「ま、未だ夢だな」

 その通りだ、兄はまだ海道一の弓取りどころかとんだ若造だ。自領の国人領主たちの掌握すら済んではいない。

 「夢でございますな、まぁ良き目標でございますれば兄上のご健闘を祈っておりますぞ」

 「おいおい、本当に引き篭もる気だな?私が生きている間は表舞台に立つことはできんぞ?」

 「それが兄上の道の助けとなるならば」

 私と兄上は、草生い茂る平原で笑い合った。

 



 さて、かーーーーーーえろ!!!!!
 

 

 
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