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10章 多重人格者の未来は

王都に朝日が又昇る

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上は空、下は街

景色が上下左右にそれぞれ移動し、それぞれ毛色の違った色を見せる

スカイダイビングってこんな気持ち...とか考えてる場合じゃ無いですよね。

神器の硬さならこの程度の高さから落下したところで死にはしないだろう

いやそんな訳ないだろ!鎧は綺麗に無事で、中身は死んでましたとか洒落にならない。

鎧としての宿命か、鎧は鎧としか機能しないのが神器の辛いところである。

しかも今回は鎧も半壊、ヘルムも半分剥げてしまっている。これは落下したら間違いなく死ぬ。魔力もないから鎧が治らないしね。

ところでアイテールは?

姿が全く見えないけど........

と思ったら輝赤の顔面に拳が飛んできた

避けきれずその拳をもろに喰らう、ダメージは少ない。

........まだ鎧があったところだからセーフだったけど。

普通に食らったらトマトみたいに顔面が潰れるね

空中戦が始まった、もみくちゃになりながらの戦いが。地面もないので力も何もあったものではない、がむしゃらに拳とキックでの攻防が始まる。

足場がないので威力がでない?怪力とも言えるアイテールのパワーは健在だ。その威力は腰の入ってない空打ちでも同じことであった。

着地のことも考えたいし、なんとか突き飛ばさないと!

右脚は使えない、左脚のまだ神器の鎧が繋がっているところを振り抜いて、アイテールを蹴飛ばした。

あれ?アイツって飛べるんだっけ?まぁいいや

翼も、今までの戦いで半壊にされてしまっていた。

ハングライダーみたいに飛んで、少しでも落下ダメージを軽減するしかないか...

そう思い、左翼を確認したら










........左翼をもぎも取られていた

あの野郎!

こうなったら神器を使うしかない、そう思いとっさに取り出した神器は

魔弓、トリスタン

これで、どうしろって言うんだ?!

魔力もギリギリ、鎧は半壊、打つ手なしにしか見えない光景である。

しかし輝赤は思いついた、それは魔王の知識か、それともグリーンの知識を使ったものなのか。

次の瞬間、王都門の上に2つの人間体が衝突し、その音は王都中に響くことになる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「イヤ...全く、神殿の自己防衛機能が再起動するとは。今回に関しては想定外が多すぎる」

王都門前に、アイテールは静かに着地を決め込んでいた。

静かに、とは言っても彼基準ではあるが。

しかし...私の宿敵は落下死してしまったようだ

神器の魔力はもう少ししかないはずだ、あの残りカスのような魔力では、落下ダメージを完全には緩和することはできない。

煙の先に、彼の脚と折れたトリスタンが転がっていた。

既に鎧は全壊し、目の閉じた男ーー人を代表し戦った男が転がっている

よく戦ったと言えるだろう。全ての神器を揃える、その時点でこの世界のほんの一握りの存在しかできない偉業だ。彼はそれをやってのけ、なおかつ私の前に立ち、そしてここまで私を追い詰めた。

自分が彼ならここまで戦えただろうか?恐らく無理だろう、自分もここまでのスペックがあったからこそここまで来れたのだから。

人を代表して戦った戦士を前にアイテールは片膝をつき、敬意を評した。












ーーーがその判断は早計だったようだ。

彼は目を開けるとすぐさま半身を起こし、両刃の神器「グラディウス」にてアイテールの体を斜めに袈裟斬りにした。

完全なる不意打ち?上等だ

なっーー

「お前っ...どうやって落下の衝撃を緩和した!?」

「簡単じゃなかったけどね...トリスタンを城門に向けてぶっ放して、落ちる時の威力を緩和した。まぁトリスタンはぶっ壊れちゃったけど。」

「はは...そんなふざけたことであの高さからのダメージを失くした?相変わらず出鱈目で、規格外の力だ。」

「これも、人の力だろう?」

「フレイヤが手を貸しているのは明白だがーー私もこうして貴様の前に立った。お互い様ということだな」

輝赤の持っていたグラディウスの刃が、ボロボロになって砂となり、やがて宙に消えた。

これで、この世界に存在する神器は、ベリアスの持つ神器のみとなってしまうことになる。

輝赤もまた立ち上がった。

なんとなく、この人と立ってきちんと、もう一度話さなければならない。なんとなく、そんな気がした。既に彼に戦意は無いような気がする。

「これからこの地域の人間には多くの受難が降りかかる、私は何度も警告したのだ。それは予想よりも圧倒的に早く来るかもしれない。少しでも早い発展が必要だと思っていたが...なんとかする覚悟はあるか?」

「神器が全て破壊されてしまいましたし、次貴方レベルが来たら対抗できないでしょうね。僕は元の世界に帰りたいですし」

「帰るか! それなら邪魔しないで欲しかったな、まぁなんとかなるのだろう。この地域には人間びいきのあの女神がついてるからな」

「そうですね、なんとかしてくれるでしょう」

「あぁ、例えば今我々に近づいて来る男とかな。」

その男とは、ベリアスのことだった。黒髪完璧超人のその男は、神器の力を借りて、とてつもない速さで王都門に到着した。

「グリーン!これは一体?」

「あ~僕は大丈夫、もう終わったから。」

「あぁ、終わったな。お前たちの勝ちだ、これでお前たちはより悪い終焉に足を踏み入れてしまった。人は弱い、同じ種族同士で争うと言う愚の骨頂まで犯す。強くせねばならないと思ったのだがー」





「大人になれば自分のことを棚にあげるって本当ですね、自分たちとて争ってるじゃないですか」

「人が弱い?なら王が強くあればいい、俺が守ってやる。守ってみせる!」

「らしいですよ?」

そんな2人の言葉を受けると、アイテールは笑い始めた。とは言っても口がピクピク動くのみではあったが、彼は確かに苦笑していた。

「そうか、あの女神め。まぁそれなりの答えができる男を創ることができたようだな、物扱いで申し訳ないが」

「まっクソ女神ですけどね」

「ーーフッーーー全くだ」

そう言うとアイテールは倒れた、その直後、輝赤も全ての魔力を使いきり共倒れすることになる。

まぁ近くにベリアスがいるし、大丈夫だろう。


不安もないまま、彼の意識は、闇の中に包まれていくのであったーーーーーー


その後、グリーンは3日後目覚め、アストルフ邸にて治療を受けることになる。

アイテールはその後倒れた場所から完全に姿を消した。

これにて戦いは完全に集結した。

王都に、また朝日が昇る。

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