【完結】サイレント、ナイト ~その夜のはじまり~

Fred

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本編

本編最終話.ラスト・サウンド

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人影無い、思い出の公園内をゆっくりと歩くカズヤ。

展望エリアに着き、ベンチに腰を下ろす。

「俺、死んだんだな……」

ひじを脚にあてがい、前かがみに座りながら、港にきらめく波の光を呆然と見つめる。

死ぬなんて考えたことも無かった。

24になったばかりなのに。

未来なんてわからなかったけど、でも、その時その時、楽しく思えるように生きてきた。

中でもルイコとの時間を積み重ねことは自分にとってすべてを前向きに回す、大事な、素敵な、言ってみれば「生」の動機のひとつだった。



俺はまだ何にもしてない。

でもルイコにもらったものはたくさんある。

俺は何をあげられたと?

あまりにも短すぎた。

あまりにも考えなさ過ぎた。

そしてもうそんなことを確かめるのさえできない。

でもルイコは俺の中にいる。


ナナはあの後どうなった?

俺はどうなる?


ここの、俺のここにあるルイコは絶対に離したくない。

何が起ころうとも。

その存在を確かめ、感じようと胸を押さえるカズヤ。



カズヤは自分の運命を恨んでみた。

それは、何だかわからないものがもたらす運命と、自分自身がもたらす運命の両方だった。
運命は人それぞれが持っている。

そして自分はこうして死ぬ運命。

生きてた俺はなんだったんだろう。

このまま消えて無くなるのなら、過去はどこに行くのだろう。


でも、きっと変えられたはず。

俺がもっと大事な何かに気づいていればそれができたんじゃないか。

だって俺は何にもしてこなかったんだから。

たまたま見つけた小さな星を手ですくい、その輝きに見とれていただけ。

それだけだ。




湾岸の夜景を見つめながら自分というものを想うカズヤ。

黒い海が何かを引き込むために気を引いているかのように護岸に打ち付けている。

ザザッ…ザッ…


もう何もいないんだ。 


ザッ……っ


「ん?」

カズヤは突如体を起こす。

何かが聞こえた。
カズヤは、立ち上がり、頭を傾け、辺りに耳を澄ます。

波の音とは違う。
それとはまったく同期しない音。

そのリズムに慣れてくると、音の輪郭りんかくがわかってくる。
それはすすり泣くような女性の声か……。

「ナナ……さん?」

音のする方向を絞り込むと、茂みの先に見える岸壁がんぺきに降りる階段にある、そのを目に捉えた。


「え?」

今にも階段からこぼれ落ちそうに丸く縮まる小さな背中。
ピントが合わないものを捉えるために2度、3度と焦点を振るかのような感覚に襲われるカズヤ。


「る、ルイコ?」


見間違えるわけが無い。
ほかの選択肢などない。

何よりも求めている人がそこにいる。


━━カズヤに気づかず、泣いているルイコ。


「ルイコ!」

カズヤは叫んだ。

「え? …カズヤ?」

ルイコは顔を上げ、視界にカズヤを認めると、途端とたんに立ち上がり走りだす。

カズヤもルイコが走り出すより速く駆け寄る。

そして、二人はぶつかるようにして抱きしめ合い、そのままその場にしゃがみこんだ。


手を、脚を、胸を、全身を使ってお互いを引き寄せ合った。

「カズヤ、会いたかった。 私……」

「俺だって。 俺も……」

その瞬間、ルイコの頭を胸に抱くカズヤの瞼が、瞳から限りなく遠く離れるほどに大きく見開き、震える。



━━繁華街のビル前。

紙袋を手にソワソワしながら待つカズヤ。

━━路上・歩道。

ルイコの息遣いきづかいが「はぁ、はぁ」と聞こえる。



大きな包みを抱き、懸命に走るルイコ。

カズヤ、9時過ぎを差す時計を見て諦め、大きく溜息ためいきをついてから、歩き始める。


ルイコの息遣いが「はぁ、はぁ……」と続く。



ルイコは待ち合わせ場所が見える交差点で赤信号にさえぎられる。

肩が大きく上下している。


━━交差点の向い側を歩いていくカズヤ。


「か、カズ……ヤ……」

交差点の向こう側を歩いてくカズヤを見つけたルイコはふり絞るように声を出そうとするが、息が吸えず、繰り返し喉を細らせる。


交差点と逆の方向に歩き出していたカズヤ、何気なく交差点を振り返るとルイコを見る。

「あっ、ルイコ!」


━━ふらついたルイコが千鳥足で車道に出てくる。


「ルイコ!」

カズヤは咄嗟とっさに走り出し車道に飛び出す。


━━ルイコは包みを抱え、脚を震わせながらも何とかこらえようとするが、えなく車道上に倒れこむ。

━━ルイコに向い、交差点を曲がってきた車がスルスルと突っ込んでくる。


カズヤが駆けつけ、かがんで倒れたルイコを車からかばうように抱くが、動けない。

━━車の方を見上げるカズヤの目。



車のクラクションの音、急ブレーキの音が響く。

タイヤのこすれる音「キキーッ!」。

ルイコが持っていた包みが宙に舞い、地面に落ち、梱包こんぽうが破れてコートが飛び出す。

その傍らにはカズヤの持っていた紙袋から顔を出す、ラッピングされた小さな包み。

━━車のアイドリング音と目撃者の悲鳴。



━━新初台総合病院の病室、402号室。

頭に包帯を巻いたカズヤが寝ている。

枕元のテーブルに畳まれたコートがある。

━━新初台総合病院の病室、403号室。

頭に包帯を巻いたルイコが寝ている。

枕元のテーブルに赤いオルゴールがある。



━━公園内。

カズヤはルイコを震えながら抱き、目を見開き、両目から大粒の涙を流している。

それはとめどなく……。

「私ね、誕生日プレゼントにカズヤのコートをってたの。 でもね、どこかに行っちゃった。 いっつもこうなの。 カズヤ、ごめんね」

ルイコは泣きながらも安心した様子で、カズヤの胸に顔を埋め、抱かれたまま話した。


「ううん。 もういいよ。 ありがとう。」

「ごめんね」

「いいって……」

カズヤはさらにきつくルイコを抱きしめる。


満天の星空と湾岸の夜景の中、身体を一つにし、抱き合う二人。



━━エンディング
(『神の御子みこ今宵こよいしも』オルゴール音)

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