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1ー出会いと別れー
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気がつくといつも彼の下で熱い息を吐き歓喜で乱れる自分がいた。
とにかく男のくせに仕草が色っぽい。ジッと見つめられ手を差し出されると、吸い寄せられるように自分の手を差し出してしまう。グイッと引寄与せられ、彼の胸に閉じ込められたらもう自分の意思で出ることはできない。肌を触れる手には無駄がなく的確に刺激を与えてくる。拒む隙も抵抗する言葉も阻まれ、喉が枯れるほど鳴かされ、意識を手放すまで私を解放しない。だけど私はこの男を嫌いになることができなかった(この人は私を愛していないのに)
両親が不慮の事故で亡くなってから3年が経つ。5歳年が離れた弟は今年大学生になったばかりでまだまだお金が掛かる。
それでも頑張って公立の大学に受かってくれたので学費はなんとかなっているが、自宅からの通学が厳しいため弟は一人暮らしを始めた。最初は離れて暮らすことに抵抗があり家の売却も考えていた里緒に。
「俺、勉強もバイトも頑張る、将来俺がこの家継いでここから姉ちゃんを嫁に出す。だから売らないで」そう弟に言われたときは嬉しくて涙が止まらなかった。
生命保険金で家のローンを完済し、弟の学費や一人暮らしの費用に自動車の購入など、いろいろ支払ったらほとんど現金がなくなっていた。
だが自分が就職した会社は新卒では考えられない破格の給料で採用してもらっていたため、弟に仕送りしてもやり繰りすればギリギリ自宅を維持しながら生活できる。
弟は離れ離れで心配する里緒に毎日メールを送ってくれる姉想いの優しい子に育ってくれた。
学生時代の自分には夢があった。それは通訳の仕事だ。そんな夢を叶えてやろうと母はパートに出て家計を助け、夢だった語学留学にも行かせてくれた。
両親には惜しみない愛情を注いでもらい、私たちは幸せだった。事故で両親が他界するまでは・・
里緒が帰国してすぐ両親は親戚の葬儀に出席するため、父の実家に帰省していた。
高速道路を走行中に大型トラックの居眠り運転に巻き込まれ呆気なくこの世を去ってしまった。
当時大学三年になったばかりだった里緒は進路を変更するしかなく、短い期間で猛勉強をし就職に有利になりそうな資格を取得し今の会社に就職した。
やっと一年が過ぎ仕事も私生活も落ち着き、平穏な日々を送っていた。そんなとき彼は私の前に現れた。
遡ること4年前、思いがけず舞い込んできた交換留学のチャンスに里緒は両親を説得し一年間イギリスで暮らすことになった。
ホストファミリーにも恵まれ、授業は大変だったが留学生活をエンジョイしていた。
イギリスに来て半年が過ぎた頃、日本人同士の親睦会に誘われ参加することになった。年齢もバラバラで学生、社会人、いろんな人が来ていた。
日本人が経営するお店が会場で、和食を中心に懐かしい料理と日本酒も用意されていた。20人くらいの男女が参加していて、幹事は里緒と同じ大学の先輩で次々に参加者を紹介してもらった。
みんな気さくで楽しい人ばかりだったので会う人会う人、全てと乾杯していたらお酒が弱い里緒は少し酔いが回り外の空気を吸いに出た。
「う~ちょっと飲み過ぎたかな~」
その時ポンと肩を叩かれ振り向くと
(あ!今回の参加者1番人気の彼だ)
「えっと~」
(名前思い出せない!)
里緒が焦っていると。
「ケント、鉢屋健斗です」
「あ、ごめんなさい少し酔ってしまって、鉢屋さん私になにか用ですか?」
「高校同じなんだけど、覚えてない?吉川里緒さん」
(鉢屋健斗・・って、もしかして王子?)
里緒は高校時代、女子にモテまくってる二つ上の男子生徒を思い出した。
「あの、知ってます。けど私鉢屋くんとは一度も話したことないし接点もなかったんだけど、なんで私のこと?」
「なんでだろ~ね、ふふ」
(え?え?なに?からかわれてる私)
「あの~それで私に何か?」
「あ~気分悪そうだったから様子見に来た大丈夫?」
「うん、実はちょっと限界で・・」
そう言って捕まっていた手摺からそっと手を離し、自分の揺れる身体を見せ素早く手摺にしがみつく。
「こんな調子なので帰ります。お見苦しいところを見せちゃって・・」
(チャンスじゃん)
「お酒弱いみたいだね、送っていくよ。実は俺も久し振りの日本酒が効いたのか気分悪くなってさ、タクシー呼ぶから一緒に帰らない?」
聞けば健斗が住んでいる場所は里緒がお世話になっている家から数ブロックしか離れていなかった。タクシー代折半は里緒にとってかなりありがたい。親から仕送りしてもらっている身なので毎日が節約だ。
「いいの?」
(ふ、外国で知らない男の言うこと信じちゃダメじゃん、ほんと可愛いな)
「当然!俺も折半だと助かる」
二人は幹事に挨拶をしタクシーに乗り込んだ。里緒の降りる近くまで来た時。突然ギュッと手を握られビックリして隣を見ると、健斗がドアにもたれグッタリと辛そうにしている。
「ごめん、なんか気分悪・・」
「え?大丈夫?どうしよ、鉢屋くん我慢できる?」
「なんとか、でも一人じゃキツイ・・」
「私送っていくから大丈夫心配しないで」
そう言うと里緒は運転手に健斗の部屋までを指示した。到着した部屋を見て。
(うわ、なにこれ一軒家?フラットじゃないじゃん)
「部屋の鍵これ・・」
なんとかタクシーから健斗の腕を肩に担ぎ、部屋まで連れていく。
「重っ!鉢屋くん平気?お部屋だよ!うわ」
健斗が里緒にのしかかってきたのだ。
「そこまで」里緒は指差すドアを見る。
「トイレ?もしかしてもう吐きそうんなの?いや~!待って~」
里緒は健斗を引き摺ってトイレの中に入れると自分もその場に倒れこんだ。
「う~疲れた~」
健斗はしばらくトイレの中で顔を洗ったり歯を磨いたりして時間を潰していた。
最初、里緒はドアをノックし健斗を心配して声をかけていたが10分も過ぎると音が聞こえなくなっていた。
「あれだけ酔ってて俺のこと担いでここまでこさせたんだ。もう寝ただろう」
そっとドアを開けると里緒は壁にもたれて眠っていた。健斗は里緒を抱き上げ、寝室に連れて行き寝かせる。
「やっと捕まえた・・」
そう言って里緒の唇に口付けをした。
「ん~頭痛い」
「大丈夫?」
「飲みすぎたの昨日・・」
(?なんで日本語?)
里緒は重い瞼を気力でこじ開け、ボンヤリと周りを見て自分の部屋ではないことに戸惑う。
「ここ・・」
「おはよう、君の先輩に連絡してホストファミリーの方には泊まって帰るってことにしてもらったから心配はいらないよ」
「え?鉢屋くん・・なんで?」
「昨日はごめんね俺を送ってくれて。吉川さんもかなり酔ってたのに介抱させちゃってさ~その後吉川さん寝ちゃったんだよ。俺は吐いたら楽になったんで君をここまで運んできた」
「嘘!でもなんで一緒に寝て・・」
「あ~覚えてないの?一人じゃ寝れないって君、俺のシャツ握って離さないから、これ・・」
ベッドの下に丸まって脱ぎ捨てたシャツを見せる。
(本当は俺が首元伸ばしたんだけど)
「げ!やだ私そんなこと」
ふと見ると健斗は上半身裸で里緒の隣に片肘をついて見下ろしている。恥ずかしくなった里緒はシーツを目の下まで引き上げた。
「ごめん、鉢屋くんのシャツは弁償するから」
「馬鹿言うなよ!介抱までしてくれた高校の後輩にシャツ買ってもらうほど俺ケチじゃないよ」
「あ!ごめんそんなつもりで言ったんじゃないの、ゴメンね」
里緒は慌てて健斗に言い訳をする。
「里緒!名前で呼んでいい?知らない仲じゃないし、俺のことは健斗って呼んでよ」
「え?いきなり?」
「ここイギリスだよ?普通にそう呼ぶよね?里緒、天然すぎ」
「あ~そうだね、私なに言ってるんだろう、えっと健斗君?」
「健斗!君とか俺の柄じゃない」
「健斗・・恥ずかしい」
「俺は嬉しいよ」
そう言うと目を眇めてジッと里緒を見る。
(やだ、こんなイケメンから至近距離で見られたら)
「ねえ里緒、俺と付き合わない?実は高校の時から好きだったんだけど」
(これは確実に嘘だよね)
里緒は少し冷静になっていた。
「それはないよ、健斗は凄くモテてたみたいだから私なんか知らなかったでしょ?学年も違ってたし。そんなこと言われても信じられないって言うか、逆に軽いノリで付き合おうって言われた方が信じられる」
(本当なんだけどね、信じてくれないのは痛いな。まぁ突然こんなこと言われたら誰だって信じないか。あとであの時のことを話そう、今は付き合ってもらえたらそれでいい)
健斗は少し寂しそうな目で里緒を見る。
「どんな理由でもいいんだ、俺とつきあって欲しい。これならどお?君の優しさに惹かれたのは事実だし」
「ん~いきなりなんでちょっと、今すぐに返事って厳しい・・」
「じゃあさこれから授業が終わったら毎日ここへきて一緒に勉強しない?俺高校卒業後、強制的にこっちの大学に入れられたから少なくとも里緒よりは英語には慣れてるしレポートも手伝ってあげられるよ。それで1週間後に返事くれる?」
「・・そこまで言うなら」
健斗の語学力の凄さとスマートな対応に里緒が健斗を好きになるのに一週間もかからなかった。
返事をすると言った約束の一週間後、初めて会った日と同じ土曜日の夜。二人はベッドで愛し合った。
それは里緒にとって初めての体験で、優しい健斗を本気で好きになっていた。
それから里緒にとって夢のように幸せな日々が続いていた。
里緒の勉強も健斗のお陰で順調に進み、イギリスで生活するのも残り一ヶ月を切っていた。
その日は週末で仲間たちと軽く飲もうということで里緒だけ少し遅れて店に着く。健斗を探し店内を見渡すと。
そこにはカウンターに座っている健斗がいた。そして知らない女性に抱きつかれている!その光景にたじろいでしま
いその場から動けなくなっていたくなっていた。
そのとき里緒の後ろから日本語で誰かが話しかけてくる。
「あなたが今、健斗に遊ばれてる女?」
「え?」
振り向くと背が高く綺麗な女性が立っていた。
「あのね私、親切だからあなたに教えてあげる、あなた健斗のセフレの一人よ。健斗からいきなり付き合ってって言われたんでしょ?一緒に飲んで酔った彼を介抱してあげて『君の優しさに惹かれたって』言われて、その気になっちゃった?ふふ」
「嘘、それ!」
「あら!大当たり?健斗も本当に悪いよね~女なら誰でもってところあるから。とりあえすあなたみたいな子が相手できる男じゃないの。捨てられる前に別れてくれない?ほらああやって平気で女の子とイチャついて、見てわかるでしょ?だから今後一切健斗には近づかないで欲しいの。だって健斗の本命私だから!あなたもあれほどのイケメンと付き合えただけでもいい思い出になったでしょ?だからもう消えてくれない?」
そう言って里緒の肩を人差し指でグッと押す。いたたまれなくなった里緒は店を出ると真っ直ぐに世話になっている先輩のフラットへ向かった。
泣きながら事情を説明し、部屋をシェアさせてもらう了承をもらうと。その日は心配した先輩の部屋に泊まらせてもうことになった。翌日ホストファミリーと両親に『ストーカー行為』にあっているので帰国までの1ヶ月同じ学校の日本人留学生のフラットでお世話になりたいと頼んだ。
単位はすでに全て習得しており残りの時間は荷造りと勉強だけに集中し。帰国予定の十日前にはイギリスを後にしていた。
その後は両親の死と弟の面倒、家のこと、自分の学業と就職、失恋を嘆く暇など里緒にはなかった。
とにかく男のくせに仕草が色っぽい。ジッと見つめられ手を差し出されると、吸い寄せられるように自分の手を差し出してしまう。グイッと引寄与せられ、彼の胸に閉じ込められたらもう自分の意思で出ることはできない。肌を触れる手には無駄がなく的確に刺激を与えてくる。拒む隙も抵抗する言葉も阻まれ、喉が枯れるほど鳴かされ、意識を手放すまで私を解放しない。だけど私はこの男を嫌いになることができなかった(この人は私を愛していないのに)
両親が不慮の事故で亡くなってから3年が経つ。5歳年が離れた弟は今年大学生になったばかりでまだまだお金が掛かる。
それでも頑張って公立の大学に受かってくれたので学費はなんとかなっているが、自宅からの通学が厳しいため弟は一人暮らしを始めた。最初は離れて暮らすことに抵抗があり家の売却も考えていた里緒に。
「俺、勉強もバイトも頑張る、将来俺がこの家継いでここから姉ちゃんを嫁に出す。だから売らないで」そう弟に言われたときは嬉しくて涙が止まらなかった。
生命保険金で家のローンを完済し、弟の学費や一人暮らしの費用に自動車の購入など、いろいろ支払ったらほとんど現金がなくなっていた。
だが自分が就職した会社は新卒では考えられない破格の給料で採用してもらっていたため、弟に仕送りしてもやり繰りすればギリギリ自宅を維持しながら生活できる。
弟は離れ離れで心配する里緒に毎日メールを送ってくれる姉想いの優しい子に育ってくれた。
学生時代の自分には夢があった。それは通訳の仕事だ。そんな夢を叶えてやろうと母はパートに出て家計を助け、夢だった語学留学にも行かせてくれた。
両親には惜しみない愛情を注いでもらい、私たちは幸せだった。事故で両親が他界するまでは・・
里緒が帰国してすぐ両親は親戚の葬儀に出席するため、父の実家に帰省していた。
高速道路を走行中に大型トラックの居眠り運転に巻き込まれ呆気なくこの世を去ってしまった。
当時大学三年になったばかりだった里緒は進路を変更するしかなく、短い期間で猛勉強をし就職に有利になりそうな資格を取得し今の会社に就職した。
やっと一年が過ぎ仕事も私生活も落ち着き、平穏な日々を送っていた。そんなとき彼は私の前に現れた。
遡ること4年前、思いがけず舞い込んできた交換留学のチャンスに里緒は両親を説得し一年間イギリスで暮らすことになった。
ホストファミリーにも恵まれ、授業は大変だったが留学生活をエンジョイしていた。
イギリスに来て半年が過ぎた頃、日本人同士の親睦会に誘われ参加することになった。年齢もバラバラで学生、社会人、いろんな人が来ていた。
日本人が経営するお店が会場で、和食を中心に懐かしい料理と日本酒も用意されていた。20人くらいの男女が参加していて、幹事は里緒と同じ大学の先輩で次々に参加者を紹介してもらった。
みんな気さくで楽しい人ばかりだったので会う人会う人、全てと乾杯していたらお酒が弱い里緒は少し酔いが回り外の空気を吸いに出た。
「う~ちょっと飲み過ぎたかな~」
その時ポンと肩を叩かれ振り向くと
(あ!今回の参加者1番人気の彼だ)
「えっと~」
(名前思い出せない!)
里緒が焦っていると。
「ケント、鉢屋健斗です」
「あ、ごめんなさい少し酔ってしまって、鉢屋さん私になにか用ですか?」
「高校同じなんだけど、覚えてない?吉川里緒さん」
(鉢屋健斗・・って、もしかして王子?)
里緒は高校時代、女子にモテまくってる二つ上の男子生徒を思い出した。
「あの、知ってます。けど私鉢屋くんとは一度も話したことないし接点もなかったんだけど、なんで私のこと?」
「なんでだろ~ね、ふふ」
(え?え?なに?からかわれてる私)
「あの~それで私に何か?」
「あ~気分悪そうだったから様子見に来た大丈夫?」
「うん、実はちょっと限界で・・」
そう言って捕まっていた手摺からそっと手を離し、自分の揺れる身体を見せ素早く手摺にしがみつく。
「こんな調子なので帰ります。お見苦しいところを見せちゃって・・」
(チャンスじゃん)
「お酒弱いみたいだね、送っていくよ。実は俺も久し振りの日本酒が効いたのか気分悪くなってさ、タクシー呼ぶから一緒に帰らない?」
聞けば健斗が住んでいる場所は里緒がお世話になっている家から数ブロックしか離れていなかった。タクシー代折半は里緒にとってかなりありがたい。親から仕送りしてもらっている身なので毎日が節約だ。
「いいの?」
(ふ、外国で知らない男の言うこと信じちゃダメじゃん、ほんと可愛いな)
「当然!俺も折半だと助かる」
二人は幹事に挨拶をしタクシーに乗り込んだ。里緒の降りる近くまで来た時。突然ギュッと手を握られビックリして隣を見ると、健斗がドアにもたれグッタリと辛そうにしている。
「ごめん、なんか気分悪・・」
「え?大丈夫?どうしよ、鉢屋くん我慢できる?」
「なんとか、でも一人じゃキツイ・・」
「私送っていくから大丈夫心配しないで」
そう言うと里緒は運転手に健斗の部屋までを指示した。到着した部屋を見て。
(うわ、なにこれ一軒家?フラットじゃないじゃん)
「部屋の鍵これ・・」
なんとかタクシーから健斗の腕を肩に担ぎ、部屋まで連れていく。
「重っ!鉢屋くん平気?お部屋だよ!うわ」
健斗が里緒にのしかかってきたのだ。
「そこまで」里緒は指差すドアを見る。
「トイレ?もしかしてもう吐きそうんなの?いや~!待って~」
里緒は健斗を引き摺ってトイレの中に入れると自分もその場に倒れこんだ。
「う~疲れた~」
健斗はしばらくトイレの中で顔を洗ったり歯を磨いたりして時間を潰していた。
最初、里緒はドアをノックし健斗を心配して声をかけていたが10分も過ぎると音が聞こえなくなっていた。
「あれだけ酔ってて俺のこと担いでここまでこさせたんだ。もう寝ただろう」
そっとドアを開けると里緒は壁にもたれて眠っていた。健斗は里緒を抱き上げ、寝室に連れて行き寝かせる。
「やっと捕まえた・・」
そう言って里緒の唇に口付けをした。
「ん~頭痛い」
「大丈夫?」
「飲みすぎたの昨日・・」
(?なんで日本語?)
里緒は重い瞼を気力でこじ開け、ボンヤリと周りを見て自分の部屋ではないことに戸惑う。
「ここ・・」
「おはよう、君の先輩に連絡してホストファミリーの方には泊まって帰るってことにしてもらったから心配はいらないよ」
「え?鉢屋くん・・なんで?」
「昨日はごめんね俺を送ってくれて。吉川さんもかなり酔ってたのに介抱させちゃってさ~その後吉川さん寝ちゃったんだよ。俺は吐いたら楽になったんで君をここまで運んできた」
「嘘!でもなんで一緒に寝て・・」
「あ~覚えてないの?一人じゃ寝れないって君、俺のシャツ握って離さないから、これ・・」
ベッドの下に丸まって脱ぎ捨てたシャツを見せる。
(本当は俺が首元伸ばしたんだけど)
「げ!やだ私そんなこと」
ふと見ると健斗は上半身裸で里緒の隣に片肘をついて見下ろしている。恥ずかしくなった里緒はシーツを目の下まで引き上げた。
「ごめん、鉢屋くんのシャツは弁償するから」
「馬鹿言うなよ!介抱までしてくれた高校の後輩にシャツ買ってもらうほど俺ケチじゃないよ」
「あ!ごめんそんなつもりで言ったんじゃないの、ゴメンね」
里緒は慌てて健斗に言い訳をする。
「里緒!名前で呼んでいい?知らない仲じゃないし、俺のことは健斗って呼んでよ」
「え?いきなり?」
「ここイギリスだよ?普通にそう呼ぶよね?里緒、天然すぎ」
「あ~そうだね、私なに言ってるんだろう、えっと健斗君?」
「健斗!君とか俺の柄じゃない」
「健斗・・恥ずかしい」
「俺は嬉しいよ」
そう言うと目を眇めてジッと里緒を見る。
(やだ、こんなイケメンから至近距離で見られたら)
「ねえ里緒、俺と付き合わない?実は高校の時から好きだったんだけど」
(これは確実に嘘だよね)
里緒は少し冷静になっていた。
「それはないよ、健斗は凄くモテてたみたいだから私なんか知らなかったでしょ?学年も違ってたし。そんなこと言われても信じられないって言うか、逆に軽いノリで付き合おうって言われた方が信じられる」
(本当なんだけどね、信じてくれないのは痛いな。まぁ突然こんなこと言われたら誰だって信じないか。あとであの時のことを話そう、今は付き合ってもらえたらそれでいい)
健斗は少し寂しそうな目で里緒を見る。
「どんな理由でもいいんだ、俺とつきあって欲しい。これならどお?君の優しさに惹かれたのは事実だし」
「ん~いきなりなんでちょっと、今すぐに返事って厳しい・・」
「じゃあさこれから授業が終わったら毎日ここへきて一緒に勉強しない?俺高校卒業後、強制的にこっちの大学に入れられたから少なくとも里緒よりは英語には慣れてるしレポートも手伝ってあげられるよ。それで1週間後に返事くれる?」
「・・そこまで言うなら」
健斗の語学力の凄さとスマートな対応に里緒が健斗を好きになるのに一週間もかからなかった。
返事をすると言った約束の一週間後、初めて会った日と同じ土曜日の夜。二人はベッドで愛し合った。
それは里緒にとって初めての体験で、優しい健斗を本気で好きになっていた。
それから里緒にとって夢のように幸せな日々が続いていた。
里緒の勉強も健斗のお陰で順調に進み、イギリスで生活するのも残り一ヶ月を切っていた。
その日は週末で仲間たちと軽く飲もうということで里緒だけ少し遅れて店に着く。健斗を探し店内を見渡すと。
そこにはカウンターに座っている健斗がいた。そして知らない女性に抱きつかれている!その光景にたじろいでしま
いその場から動けなくなっていたくなっていた。
そのとき里緒の後ろから日本語で誰かが話しかけてくる。
「あなたが今、健斗に遊ばれてる女?」
「え?」
振り向くと背が高く綺麗な女性が立っていた。
「あのね私、親切だからあなたに教えてあげる、あなた健斗のセフレの一人よ。健斗からいきなり付き合ってって言われたんでしょ?一緒に飲んで酔った彼を介抱してあげて『君の優しさに惹かれたって』言われて、その気になっちゃった?ふふ」
「嘘、それ!」
「あら!大当たり?健斗も本当に悪いよね~女なら誰でもってところあるから。とりあえすあなたみたいな子が相手できる男じゃないの。捨てられる前に別れてくれない?ほらああやって平気で女の子とイチャついて、見てわかるでしょ?だから今後一切健斗には近づかないで欲しいの。だって健斗の本命私だから!あなたもあれほどのイケメンと付き合えただけでもいい思い出になったでしょ?だからもう消えてくれない?」
そう言って里緒の肩を人差し指でグッと押す。いたたまれなくなった里緒は店を出ると真っ直ぐに世話になっている先輩のフラットへ向かった。
泣きながら事情を説明し、部屋をシェアさせてもらう了承をもらうと。その日は心配した先輩の部屋に泊まらせてもうことになった。翌日ホストファミリーと両親に『ストーカー行為』にあっているので帰国までの1ヶ月同じ学校の日本人留学生のフラットでお世話になりたいと頼んだ。
単位はすでに全て習得しており残りの時間は荷造りと勉強だけに集中し。帰国予定の十日前にはイギリスを後にしていた。
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