ナルシスト?と俺

あちゃーた

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ナルシストではない彼と俺

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あ、あれがあの自信に満ち溢れてる甘風なのか…??

「目が死んどる」

「ばか言うなあほ!」

ドスっと友人の横腹に拳を入れる。
でもたしかに甘風の目はどんよりと曇っていた。
あの甘風が生気を失った瞳でぼんやりとベッドに座っている絵図は普通に怖い、怖すぎる。

「あ、甘風!元気??」

と俺。

「……………」

何も話さない甘風。

「甘風、確かに恥をかいたけどさ、別に学校を休まなくてもいいじゃん!休んだら好き勝手余計に言われるぜ?俺らと一緒に学校戻ろう、そんでもって妹ちゃんの連絡先教えて」

と友人。
そろそろコイツの顔を絞りたい。

「お前そろそろ顔面ミンチになるからな」

「すいません調子に乗りました」

90度腰を折って謝ってくる友人に呆れた目を向けながらどうしたものかと考える。
何を言っても反応ないし…。
いったいどうすればいいんだ、頼む誰か教えてくれ…。
シーンと静まり返った部屋。
黙ってつっ立っている俺ら二人と死んだ魚の目をしている男一人。
カオスだ。

「君…、出て行ってくれるかな?」

利き手でない方の手で描いた細い線のような、そんな震えた声が響く。
驚いて甘風の方を見ると友人の方を向いてもう一度「出て行ってくれるかな」と言った。

「出ていけ」

「お前と俺って友達だよね!?へいへい出ていきますよ…」

ドアの閉まる音がしてまた静寂が戻る。
気まずい、何話せばいいんだ?
チラッと甘風の方に目を向けるとバチッと目が合って余計に気まずくなった。
慌てて視線を逸らしたけど、甘風の怯えているような、何かを恐れているような瞳が頭にこびりついた。
全然甘風っぽくないじゃん、どうしたんだよ。
自信に満ち溢れてる甘風の面影なんてこれっぽっちも感じられない。

「こ、小宮君…」

急な呼びかけにドキッとする。
弱々しいくて別人のような声に聞こえた。

「…な、何だよ?」

「ぼ、僕のこと、嫌い?」

「……あ、甘風…だよな?」

おかしい!!
絶対に俺の知っている甘風ではない。
目の前にいるこの人物は甘風のふりをした別の人物なんだ、うん!!

「あのさ…、僕って本当はこうなんだよね」

「え、あ、うん」

「自分に自信がなくて…、暗くて、じめじめしてて」

「う、うん」

「こんな僕のことなんて…、きっと誰も相手をしてくれないと思ってたんだ、ずっと」

やばい、話が思ったより重い、重いぜ!
あのナルシストの代名詞男はどこへ行った!?
混乱する俺をよそに甘風は言葉を続ける。

「でもね、体育祭の写真が貼り出された時ね、地味で目立たない、誰の視界にも入らないような僕も、映ってて…、急いで誰が撮ったのかなって調べたよ、そしたら小宮ろたっていう名前の人だった」

「え…?」

「小宮君が撮った他の写真も見てみたよ、誰も見ないような小さい花とか、昆虫とか、変な形の雲とか、他の人が撮ってる絶景や人気者の人の写真とかとは全く違ったものを撮ってるんだよね」

「別に俺が俺の好きなもの撮ってるだけだろうが」

「うん、だから、好きになったんだ」

「…………………」

え、今、なんて言った?

「小宮君、好きだよ、好きなんだ…」

ポタポタと涙を流し始める甘風に絶句する。

「え、いや、ちょ…」

急!
すごい急!
そして泣くなよ!

「小宮君に嫌われたら生きていけない、小宮君大好き、お願い嫌わないで…」

うわぁーんと滝のように涙を流す甘風に良心が痛む。
なんであんな自信満々キャラだったのかは知らないが、こんなにも健気に俺のこと好きでいてくれたんだよな。
告白は最初の方は酷すぎたけど。
でもこれが本当の甘風の姿なら…。
もう少し考えて返事をするべきだった、のか?
いや、でもあのキャラでぐいぐいこられたら誰だってはっきり断っただろうし…。

「ご、ごみやくぅん!ずぎぃっ、ずぎぃ!」

「あー、もう!分かった、分かったから!」

鼻水垂らしながらおいおいとなく高校生男子に若干呆れながらもなんだか微笑ましくなった。
俺は甘風が座り込んでいたベッドの上に腰を下ろしてポケットティッシュをさしだした。
チラッと甘風が俺を見るもんだから笑いながら「鼻水拭け」と言うとおずおずと鼻水を拭き始めた。

「お前さぁ、なんであんなキャラでいたわけ?」

「ぼ、僕みたいなのは誰からも好きになって貰えないから…、だから全く違う人物になりきれば多少は好きになって貰えるんじゃないかって」

「お前バカだなぁ」

「こ、小宮ぐ…」

じわぁっと目に涙を溜め始める甘風に慌てる。
また泣かれたら話できなくなるわっ!

「それ以上泣くなアホ!いいか、そもそも俺はお前のこと全く知らなかった」

「う、うん」

「急にさも俺がお前を好きなように告白されて正直腹が立ったよ、上から目線過ぎて絶対にお前とは付き合えないっと思った、でも…、その、今のお前をみたらちょっと罪悪感が湧いた、から、いいよ」

「へ???」

「付き合うとかは考えられないけどさ、仲良くするのは別にいいよ、別に!」

言い終えた瞬間、甘風が俺をすっぽりと腕の中に入れて抱きついてきた。

「ろたって呼んでもいい?」

耳元で聞こえる、甘えるような声になぜだかドキドキする。

「好きにしろよ、俺だってお前のこと馨って呼ぶから」

「うん、うん、嬉しいよろた…、僕のこと嫌わないでくれて、嬉しい」

「付き合うってことじゃないからな!そこは理解しろよ!」

「うん!付き合ってくれなくていい、今は友達でいい!」

ん?
なぜかその言葉に引っかかったが、無事解決したっぽいし、まぁいいか。

「じゃ、また明日な」

「帰っちゃうの…」

「原因は新聞部が酷い暴露をしたせいじゃなくて俺との事で悩んでたせいだろ?もう解決したし明日学校で会えるだろ」

「うん、ろた、大好きだよ」

馨が満面の笑みでそう言った。
その笑みになぜか背筋が凍る。
おかしいな、俺もしかして風邪気味なのか?

「あぁ、またな」

甘風の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、俺はこの家を出た。


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