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ストーリーの根幹を成す対立構造

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以上が七部構成から見たストーリーの主な流れとなる。



ただ、これらの説明をもってしてもいまいち分かりにくいと感じる方のために、前回紹介した「テンションフロー構造」という仕組みを話そう。

これは、ストーリーの流れを部分ごとに区切ったものではなく、一つの波の動きとして解説していくものになる。それに、この構造は図式化、(詳しくはジュゲムブログでの同作品を参照)してあることから、より明確でより簡潔にストーリーの仕組みを知ることができる。



だが、この「テンションフロー構造」を説明する前にこの根底にある二つの流れを把握してもらう必要がある。この構造は上記の二つの流れを最も単純化した図式であり、この流れが「テンションフロー構造」のより具体的な仕組みの中に内在する役割を持つからだ。以上の説明を踏まえてもよくわからない方は一旦「七部構成」から視点を切り替えて、頭をまっさらな状態にリセットしよう。理解できた方は「こんな視点もあるのか」と理解度を深めてくれるとありがたい。



それでは、二つの流れとは一体なんなのか。

それがタイトルにある「ストーリーの根幹を成す二つの対立構造」の意味するものであり、特に「対立構造」というフレーズに大きな意味を持つことになる。



「二つの対立構造」、それは主人公をはじめとする味方サイドの思惑とそれと対立する敵サイドの思惑の衝突である。この二つの流れがストーリーという仕組みを形作る、一番根底にある構造だと言っていい。



なぜ、そう言えるのか?

それは、先ほど出てきた三部構成、つまり、事態の「発生」「解明」「収束」を生み出すことになった本当の真因はこの中にある「敵サイド」がストーリー上で何らかの事件やトラブル、つまり問題として自ら引き起こした結果だからであり、ストーリーの波を意図的に引き起こせるのはこの「敵サイド」だけが持つ役割だからだ。

先ほどトラブルメーカーという話をしたが、まさに「敵サイド」は事態を有事にさせる役目を受け持っており、彼らがいなければ主人公たちの窮地、すなわち危機は起きないからだ。その後に主人公が事態を把握して立ち上がることで、そこに拮抗や衝突などといった波乱を巻き起こすことができるわけだ。要は、主人公より先に先行して「敵サイド」による思惑がストーリー上において具体的な行動として顕在化している必要があるのだ。だからこそ主人公が動けるのであり、有事を解決していくためのプロセスか生じるわけなのだ。主人公自らが物事の事態―特にハリウッドでは世界的な危機―を深刻化させる必要性を持たず、むしろ、それを良い方向に変更しようとする立場に必然的に位置するのはそのためだ。



別の表現をすれば、片方のサイドが大きな方向に傾こうとすると、それを元に戻すための反対方向の力が働く運命を持っており、それがストーリー上で軋轢として話の流れに起伏を生み出すことになる。この「事態の変化の引っ張り合い」が味方と敵という二つの流れとしてストーリーという大きな構造を形成していく。



では、両者の対立はいつ、どのようにして発生するのか?



それは、主人公のいる現在より昔の時代、つまり過去から始まり、敵サイドが主人公の側にいる味方サイドに因縁を吹っ掛ける事件を引き起こすことから発生するのだ。もっと言うと敵サイドが抱く感情の部分、つまり「妬み」や「憎しみ」などの負の感情や、果ては彼らの「生存」の危機や「価値観」などにおける差異、あるいは平和な世界の均衡を「蹂躙」または「支配」しようとする邪念が発端となって、結果的に味方サイドを攻撃するのである。この「因縁」を消化するための果たし合いが現在における対立として表層化していくことになるわけだ。



なぜ、過去から始まるのか?

ストーリー上の構造という意味合いにおいて言及するならば、それは、主人公のいる現在の時代で事件が起きる要因を得体の知れない謎として、彼に真相を追求させるためだ。もちろん、その事件、つまり、主人公の居場所の喪失はこの過去と予め繋がっている必要があり、事件はむしろ過去から続く出来事を表面化させる役割を持つものとして機能する。このようないわば事件発生のための「下請け」のような役割として、過去で途切れた出来事の未解決問題を、再び露呈させるために、わざわざ過去から始める必要があるのだ。



つまり、過去に起きた味方と敵の対立が未解決のまま現在に持ち越されることで、今度は主人公にそれを解決させる役割を持たせるのだ。だから、過去の出来事は未解決である必要がある。そして、過去における出来事では味方か敵のどちらかが片方に敗北している必要がある。ハリウッドでは味方サイドの敗北がとりわけ多い。その方が現在の時代において、現状を打開する機会が彼らに生まれるからだ。つまり、途中で頓挫したことによって現在のタイムラインでその打開策が持ち越すのだ。もっと言うと、過去において敵に敗れたことでその打開策をもっと良いものに練り直す期間が生まれる。それによって物語としての起伏を生み出す厚みが生まれることになる。

別の表現に言い換えるならば、味方の目的を成就させるためには敵による圧倒を必要とするのだ。つまり、味方サイドに困難を与えるのだ。その方が敵との拮抗をより強化させることが可能になり、二つのサイドの激突が物語の話の流れに大きな潮流を生み出すことができるからだ。



なぜ、味方サイドを敵にいったん打ち負かすことを必要とするのか?



それは、味方の目的を敗北によって未来に持ち込すことでなぜそもそものストーリーが生じるのかという原因を生み出す真因となるからだ。



逆の表現をすれば、ストーリーを生じさせるためにあえて味方を敗北に追い込む必要があったわけだ。そうして味方が敵に打ち勝つためのプロセスを展開させることでストーリーという一連の流れを生み出せるからだ。極論を言ってしまえば、ストーリーという話の一連の流れとはこの二つのサイドによる拮抗の変遷の表れといってもいい。



また、逆も考えられる。



過去において、味方が敵に先に打ち勝ったことで一旦終止符が打たれるものの、殲滅しきれていなかった敵の目論みの芽が水面下で再燃化し、ストーリーの中で表層化するというパターンも存在する。この場合は敵が味方に敗北したことでその目的が半ば消滅するも、その目論みの実現のために味方の目的を阻害、あるいは転覆させようとストーリー上で表層化していくことを主な役割とする。



どちらにしても、片方のサイドが敗北することでその目的を実現するための潜伏期間を有することが条件となる。



だが、ここで忘れてはならないのは、敵サイドの目的には元々ストーリーの流れを深刻な方向に持っていく役割を持つために、ストーリー上では必ず山場を形成する土台作りとなる要因をはらんでいることが予め決定されていることだ。山場、つまり、ストーリーが盛り上がる場面を呈するには味方サイド、もしくはそれに付随する主人公の道筋に困難を与える壁が必要となる。つまり、主人公に難関が訪れてこそ、山場としての盛り上がりを見せる瞬間が形成される。この難関となる壁が主人公、またはその味方サイドを窮地に陥れる時、それを乗り越えていくための打開策を練るプロセスが次の展開に生じることになるのだ。もう少し本質を突くと、主人公が窮地に陥る時ほど敵の目的はより実現可能な領域に到達していくことになる。主人公の平時が大きく乱れれば乱れるほどそれに反比例してそれと逆の立場を取る敵の勢いは加速化していくのだ。この構造をよく理解しておくと、よりハリウッドのストーリーの理解度が上がっていく。ハリウッドでは味方と敵の目的の境界線が明確化されているために、それを分け隔てるそれぞれのタイムラインもまたくっきりと区切られていることが多く、それがストーリーに「波」を起こしている本当の要因となるからだ。つまり、味方と敵という二つのサイドの潮流はどうしても対照的な流れに固定される運命をはらんでいるというわけだ。



この流れが「テンションフロー構造」の深層部分として機能を果たしていることになるわけだ。



それでは、具体的に「テンションフロー構造」の話に入ろう。
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