魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第三百八十九話 気が高まる溢れる

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 俺は久し振りに深夜に自分の部屋のベッドに寝転がっていた。久しぶりに時間ができたから家で睡眠を取ることにしたのだ。
 しっかり動いてしっかり休む。最大のパフォーマンスを発揮するためのコツだ。今日は20分は眠れるな。
 俺は部屋を暗くしてベッドで目を閉じる。すると、腹のあたりに重みと体温を感じた。
 扉を開ける音も聞こえず、気配は全く感じられなかった。こんなの出来るのは一人しか知らない。
 そう思って目を開けると、案の定フランが馬乗りになっていた。


「なんの用だ?」


 俺の問いかけにフランは答えない。月明りに照らされているフランの顔が赤く染まっている。呼吸は荒く胸が激しく上下している。


「はぁ……はぁ……」


 潤んだ眼をしながら荒い呼吸をするフラン。
 なんと言えばいいのか分からずにいると、フランは俺に顔を近づけて来た。


「……ホウリ」
「なんだ」
「もう我慢できん」


 フランは俺の顔に手を添えると、艶やかな唇を開いた。


「思い切り暴れたい」


 そんな事だろうと思った。


☆   ☆   ☆   ☆


 俺はフランを連れて夜中の街を歩いていた。


「前にもこんな事があったよな」
「あの時はラーメンを食べに行ったがのう。じゃが、今回は緊急なんじゃ」
「破壊衝動が抑えきれなくなったんだったか」


 フランは顔を赤くしながら頷く。
 しおらしく照れているように見えるフラン。その実、破壊衝動が抑えきれずに必死に堪えているだけらしい。


「力を振るえん期間が長いと、破壊衝動が抑えきれんくなってな。今はまだ我慢できるが、そろそろ限界なんじゃ」
「限界を迎えるとどうなる?」
「理性を失い破壊の限りを尽くすようになる」
「魔国で書類仕事していた時はどうしてたんだよ」
「こっそり抜け出して暴れたのう。人気のない山とかを破壊しておったわい」


 衝動を抑えるために山を破壊か。魔王らしいスケールだな。


「というか、前に魔国も襲撃にあっただろ?その時にゾンビドラゴンが4体も現れたって聞いたぜ?その時に暴れた無かったのか?」
「あの時は分け合って拍子抜けするほどあっさり終わったんじゃ。あそこで本気を出せておれば、もう少しは持ったかもしれんのう」


 ゾンビドラゴンが拍子抜けだったか。戦いの詳細を調べておくか。


「それで?今は何処に向かっておるんじゃ?」
「ワープのための魔法陣だよ。王都で暴れられたら半壊しかねない」
「王都ではない場所で暴れるんじゃな?」
「ああ。向かう場所はスミルだ」
「スミルか。中々に期待できるのう」


 スミルは山の上にある寒冷地域。騎士団がヤマタノオロチ討伐の手伝いに行った地域でもある。


「あの地域には強い魔物が多いからのう。一晩中戦えばなんとか、破壊衝動は発散できそうじゃ」
「それなんだが、戦い魔物は決まってるんだ」
「む?そうなのか?相手はどいつじゃ?」
「ブリザードラット」
「相手に不足は無いのう」


 フランはニヤリと笑う。
 ブリザードラット。体長は10mもある巨大なネズミ型の魔物だ。この魔物は冷気を操り、攻撃をされても氷の鎧で防いでしまう強敵だ。ステータスも高く、通常であればダメージを与えるのも難しい。
 しかも、ブリザードラットの脅威は別にある。ブリザードラットはアイスラットという子供を大量に生むのだ。
 ブリザードラットほどではないにせよ、アイスラットも強敵だ。素早く攻撃が当たりにくく、接近されると超低温の息で凍らせてくる。それが無尽蔵に襲ってくるのだから、ブリザードラットは見つけ次第に駆逐しなくては被害が拡大してしまう。


「それにしても、ブリザードラットが相手か。スミルは大丈夫なのか?」
「スミルの騎士団は最強だからな。時間さえあれば駆逐も用意だ」
「中々やるのう?今度手合わせ願いたいものじゃ」
「機会があればな」


 フランが相手だとやり過ぎる可能性があるからな。その辺りは慎重に決めないとな。


「着いた。さっさと行くぞ」
「うむ。腕が鳴るわい」


 そんな訳で、俺達は魔法陣でスミルに向かったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 ここはスミルの雪山。スミルの騎士団長である私は、騎士団の皆と共にブリザードラットと対峙していた。
 アイスラットが次々と向かってくるに1人の団員が愚痴を吐く。


「くそっ!?数が多すぎる!?」
「このくらいで音を上げてるのか?ヤワだな」
「は?嘘だが?本当はこのくらい楽勝だが?」
「奇遇だな!俺もだ!」


 軽口を叩いている団員達は、次々とやってくるアイスラットを葬っていく。なんだかんだ言って、頼りになる団員たちだ。
 この前のヤマタノオロチとの戦いで、もっと強くなりたいという思いが団員達の中でも強くなっているようだ。最近はたるんでいる雰囲気があったし、引き締める意味ではヤマタノオロチは良い薬になったわね。


「ほら!喋ってないで戦いなさい!」
「了解!」


 団員達を叱りつつ、敏捷性を上げるスキルを掛ける。
 素早くなった団員達はアイスラットを次々と葬り去っていく。このまま行けばブリザードラットまで攻撃が届く。


「魔法部隊は魔法を準備してくれ!アイスラットが少なくなり次第、一気に焼き払う!」


 ブリザードラットは固い氷の鎧に守られている。だから、強い炎の魔法で焼き払い、氷が無くなったところを攻め立てるのが攻略法だ。
 アイスラットが順調に数を減らしていき、そろそろブリザードラットに攻撃が届きそうになる。
 あとはタイミングを見計らって魔法を放って、攻撃のタイミングに合わせてバフを発動させるだけだ。


「……今だ───」
「ぜりゃあああああ!」


 魔法を放つ指示をする瞬間、空から何かが落ちてきて、雪を巻き上げた。
 雪で周りが見えない中、降って来た何かは立ち上がった。


「はーっはっは!見つけたぞ!」


 雪が晴れてくると、何かの正体が徐々に明らかになっていく。その正体は……


「フランちゃん!?」


 その子はオダリムで会ったことがあるフランちゃんだった。


「何でここに!?」
「こやつはわしの獲物じゃ!お主らは手を出すな!」


 フランちゃんは理由を答えずに、ブリザードラットへと視線を向ける。その表情は獲物を狙う狩人のようだった。そして、何よりも私達が動けないほどの迫力を放っている。
 下手に動けば死ぬ。そんな気がしてならない。
 ここにいる理由は分からない。けど、今のフランちゃんはブリザードラットよりも恐ろしい存在だということは確かだ。


「皆!退避してくれ!」
「「「「了解!」」」」


 団員に命令すると、何も聞かずに皆が後ろに下がってくれた。


「一体なんだって言うのよ」
「それは俺が説明しよう」


 私が呟くと後ろから聞き覚えがある声がしてきた。振り向くと、スキーで迫ってくるホウリ君の姿があった。


「ホウリ君!?」
「よっと」


 ホウリ君は器用に私たちのすぐ傍で止まると、スキー板を取り外した。


「いきなり済まないな」
「何で2人がクラフにいるの?またヤマタノオロチみたいな奴が現れたってこと?」
「そういう訳じゃない。実はな……」


 私はホウリ君から今までの経緯を聞く。


「強いの相手と戦いたいからクラフに来た?正気なの?」
「正気……とはいえないな。まあ、お前たちの獲物を譲ってほしい」
「断ったら?」
「全員フランにぶちのめされる」
「分かったわ、こちらとしてもぶちのめされるのは勘弁だしね」


 フランちゃんなら1分もかからず私達を全滅させてくるだろう。背に腹は代えられないって奴だ。


「それでは行くぞ!」


 フランちゃんは鬱憤を晴らすかのように、ブリザードラットに突撃していった。
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