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外伝 ドゥドゥビドゥバドゥビ
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闘技大会が3日後に迫る中、わしとノエルはクラン家の屋敷のとある部屋の中で暇をしていた。ノエルは席に座りながら足をぶらつかせて頬杖をついておる。わしも何をするでもなく天井を見ているが、やる事は思いつかん。
「お姉ちゃーん、部屋から出ちゃダメ?」
「ダメじゃ。ホウリの努力を無駄にするわけにはいかん」
わしらはお尋ね者である以上、存在を極力知らせる訳にはいかん。主であるエンゼにはわしらは知らせれておるが、使用人たちには知られたくはない。
じゃが、この部屋がいくら豪華で広くても何日も籠っておると飽きてしまうのう。
ホウリはいつも通り情報集め、ロワとミエルは広場で特訓しておるから朝から出かけておるしどうしたものか。
「どうしたものかのう」
「うーん、変装とかできないかな?」
「ホウリであるまいし、変装など……いや、いい考えかもしれぬのう」
「本当?」
わしはアイテムボックスから大小2つのメイド服を取り出す。勿論、この屋敷で使われているものと同じメイド服じゃ。
「これを着れば使用人に紛れることが出来るじゃろう」
「なるほど!お姉ちゃん天才!」
「ふっふっふ、そうじゃろう?」
早速、わしらはメイド服に着替えてみる。
ノエルは着替え終わるとわしに一回転して見せる・
「似合う?」
「うむ!とてもよく似合っておるぞ!」
わしはカメラを構えて様々な角度で撮りまくる。え?なぜノエル用のメイド服があるのか?こんなこともあろうかとホウリに用意させておいたのじゃ。別にノエルに色々な恰好をさせて撮影会をしたかった訳ではない。
我を忘れて取り続けるわしをノエルは顔を赤らめながら怒る。
「お姉ちゃん!」
「おお、すまぬ。つい我を忘れてしまったわい」
可愛すぎてノエルの姿を写真に収める事しか頭になかった。ノエルが怒らんかったら深夜まで撮影会が続いたじゃろう。
「ともかく、これでわしらは使用人にしか見えぬじゃろう」
「でも、顔は見られちゃうよね?前にあった人にはバレちゃうんじゃない?」
「問題ない。わしにはこれが有る」
わしはホウリからもらった赤い宝石が付いた指輪を取り出す。それを見たノエルは納得したように手を叩く。
「そうか!それで姿を変えるんだ!」
「その通りじゃ、わしの認識阻害のスキルとこの指輪でわしらを別人に見せることが出来る」
「お姉ちゃん天才!やったー!これで探検ができるー!」
ノエルが跳ねまわって喜びを表現をする。前に屋敷を探検したいと言っておったし、よっぽど嬉しんじゃな。
「では行くぞ!」
「うん!」
わしらは意気揚々と屋敷の探検に繰り出したのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
わしらは何日かぶりに部屋の外を歩く。窓から注ぐ日の光が心地よいのう。ノエルもある気ながら気持ちよさそうに伸びをする。
「うーん、太陽が気持ちいいね」
「そうじゃな、こういう日は外で昼寝をしたいものじゃ」
わしらが廊下から歩いていると、奥からメガネを付けた姿勢の正しいメイドが歩いてきた。確か、メイド長じゃったか?ミエルから聞いた話じゃと規律に厳しいらしいのう。
聞きかじった話じゃと、メイド長が通った時は他のメイドは廊下の端によって頭を下げねばならぬらしい。意味が分からぬ決まりじゃが、バレると面倒じゃし従っておくか。
『ノエル、廊下の端によって頭を下げるんじゃ』
『うん、分かった』
ノエルに念話で知らせて2人で廊下の端によって頭を下げる。メイド長はわしらの前を通り過ぎようとしたが、なぜかわしらの前で止まると声をかけてきた。わしはバレたのかと思い緊張が走る。
「あなたたち、見かけないけど新人?」
「は、はい!」
「隣の子は?メイドの仕事をするには幼いと思うけど?」
「可愛いので問題ありません」
「何を言っているのかしら?」
しまった、反射的に答えたせいで不信に思われておる。
「い、いや、その……年齢の割に仕事が出来るので特別に採用したらしいです」
「そう。それで、新人同士でこんな所で何をしているのかしら?」
「そ、それは……」
「配膳を教える為に厨房に呼ばれたので、移動している所です」
わしが口ごもっておると、横にいたノエルが微笑みながら答えた。ノエルの答えにメイド長は納得したように頷く。
「あなた方の事は分かりました」
「そうですか、では私たちはこれで……」
「いえ、私もついていきましょう」
そそくさと立ち去ろうとしたわしらの後をメイド長が付いてきた。マズイ、付いてこられたらわしらがメイドでないとバレてしまう。どうにかして撒かないと。
「いえ、メイド長のお手を煩わせる訳には……」
「新人の教育もメイド長の仕事です。良いから行きますよ」
わしらが何か言う前にメイド長が廊下を進む。何を言っても耳を貸しそうにない。こうなったら、気絶させて逃げるしか……
わしが杖をアイテムボックスから取り出そうとすると、ノエルが袖を引っ張ってきた。びっくりしてノエルへと目をやると、首を振りながら念話をしてきた。
『ダメだよお姉ちゃん、攻撃したらノエル達が追い出されちゃう』
『じゃが、付いていったら確実にわしらがメイドでないとバレてしまうぞ?』
『バレた時は……』
『バレた時は?』
『一緒にごめんなさいしよう?』
そう言うと、ノエルはメイド長の元へと駆けて行った。なんの解決にもなっておらぬと思うが、なるようになるじゃろう。
☆ ☆ ☆ ☆
「失礼します」
「料理長!」
わしらはノックして厨房へと入る。すると、厨房では誰かが倒れており、コックたちが慌てた様子で体を揺さぶっていた。
その様子を見たメイド長は厨房へと入っていき、毅然とした口調で周りのコックへ話を聞く。
「どうかしましたか?」
「メイド長!料理長が急に倒れて!」
「確か料理長には持病がありましたね。それが悪化したのかもしれません。すぐに医務室へ」
「は、はい!」
「ところで、ご主人様のランチはどうなっていますか?」
「そ、それが……」
コックが運ばれていく料理長を見ながら困った様子で説明する。
「料理はその日の食材の状況によって決めているので私たちは知らないんですよ。なので、どうしようか迷っていて……」
「それは大変ですね。それでは、私らは庭の掃除に……」
「いけません、メイドたるもの緊急事態にすぐに対応しなくてはいけません」
逃げられんか。というか、料理はコックたちに任せておけばよいと思うんじゃがな。
「ですがメイド長、どうしたらいいのでしょうか?」
「まずは材料の確認です。今すぐに素材を出しなさい」
「はい!」
コックたちが急いで食材を持ってくる。じゃがいもに玉ねぎに牛肉……色々とあるのう。鑑定してみたが、どれも高級品じゃ。じゃがいも1つの値段がわしら5人の食費よりも高い。良いもの食べておるのう。
「どうでしょうか?」
「そうですね、あなた方はどう思います?」
「……わし!?じゃなくて、私ですか!?」
いきなり話を振られて素が出てしまったわい。危ない危ない。
というよりも、なんで新人に話を振るんじゃ。有益な案は出ないと思うが。
「すみません、私には何も思いつかないです」
「そうですか、あなたはどう思います?」
メイド長はノエルに向かって質問してみる。するとノエルは自信満々に胸を張って答えた。
「いい考えがあるよ」
「聞いてもいいかしら?」
「カレーを作ろう!」
「か、カレー?」
コックたちがノエルの言葉にざわめき始める。確かにフルコースを毎日食べている人にカレーを出そうとは思わないじゃろうな。
「ご主人様にカレー!?ありえないだろ!?」
「そんなの出したら俺等全員クビだぜ!?」
「子供の言う事だし間に受けない方が……」
全員バラバラにしてやろうか?
「メイド長、何か他に案は……」
「カレーでいいでしょう。すぐに準備なさい」
「メイド長!?」
「口答えは許しません。すぐに準備なさい。あなた達も手伝いなさい」
「分かりました」
「はーい」
メイド長に言われるがまま、わしらは野菜の皮をむき始める。
こうして、何とか昼食の時間にカレーを用意することが出来たのであった。
☆ ☆ ☆ ☆
配膳を終えたわしらは再び廊下を移動していた。次は屋敷の訓練場に訓練のサポートをやりに行くらしい。
わしらが廊下を歩いているとメイド長が話しかけてきた。
「一ついいかしら、えーっと……」
「ノエルです」
「ノエルさん。なんで数ある料理の中からカレーを選んだのかしら?」
それはわしも気になっておった。単に好物じゃからと思っておったが上手くいったようじゃし何か考えがあるのかもしれぬ。
メイド長に質問されたノエルは満面の笑みで答える。
「え?美味しいからだよ?」
何の考えも無かったみたいじゃな。
「それだけですか?」
「それと、ご主人様を見た時に忙しそうだったから、いつものフルコースだと時間が掛かっちゃうかなって思って」
良かった、ちゃんとした考えがあったみたいじゃ。というか、前日にチラリと様子をみただけではないか。よく覚えておったのう。
メイド長もノエルの考えに共感しているのか大きく頷く。
「私もその考えです。私はワンプレート料理を提案しようと思いましたが、カレーの方が食べやすく栄養価もよいでしょう」
メイド長は立ち止まってノエルの頭を優しく撫でながら微笑む。
「私はあなたが優秀であると疑っていました。ごめんなさい、あなたはとっても優秀なメイドよ」
「ありがとうございます」
ノエルも満面の笑みで頭を撫でられる。何というか、羨ましいのう。
「さて、次はアラザ様の訓練のサポートです。粗相のないように気を付けてください」
「わかりました」
わしらに釘を刺した後、メイド長が訓練場の扉を開けた。
訓練場にはとある男が半裸で剣を振っていた。全身が汗で濡れており長時間、剣を振っているのが分かる。
男の名はラザン、エンゼの秘書じゃ。戦闘も経営も出来る文武両道のイケメンじゃ。流石にロワには劣るがな。
ラザンは副社長のような立ち位置らしく、従者達は敬意をもって接しているらしい。じゃから、わしらも丁寧に接しなければならぬ。
ラザンはこちらに気が付いたのか、剣を振るのを止めてこちらへと歩みよってきた。そんなラザンにメイド長がドリンクが入った容器を差し出す。
「お疲れ様です、ラザン様」
「ありがとう。そっちの2人は新人さん?」
「はい、ノエルと……」
「フランです。よろしくお願いします」
「よろしくね」
わしとノエルににっこりと微笑むラザン。
「何かお手伝いする事はありますでしょうか?」
「いや、特には……いや、手合わせの相手が急に来れなくなったけど君達には頼めないし」
「ならばわしが手合わしよう!……私が手合わせしましょうか?」
危ない、また素が出てしまったわい。
わしの言葉にラザンが困ったように笑う。
「怪我させてしまいそうだし、別にいいよ」
「私も武道の経験があります。少なくとも怪我はしません」
「うーん、でもな……」
「一つよろしいでしょうか?」
なおも承諾しないラザンにメイド長が口を出してきた。
「この子たちは優秀な人材として採用されました。少し手合わせしてみてはいかがでしょうか?」
「君がそこまで言うのならば手合わせしよう。無理だと思ったらすぐに中止するからね?」
「わかりました」
久々に暴れられそうじゃ。……っと、ダメじゃダメじゃ、暴れすぎると問題になってしまう。ある程度は加減せんとな。
ラザンに訓練用の剣を渡され、訓練場の中へ入る。
「行きますよ」
わしが位置に付いた事を確認すると、ラザンが訓練用の剣で切り付けてきた。普通の冒険者の太刀筋よりも鋭い。冒険者ランクであればBくらいか。
そんな事を考えながらわしは剣を受け止める。剣を受け止められたラザンは驚いた表情になり、切りつけてくる。すべての斬撃を受け止めいなした後、ラザンが後ろに距離を取る。
「驚いたね、確かに少しは戦闘の心得があるようだ。だったらこれはどうかな!」
そう言うとラザンは再びわしに向かって駆けだしてくる。そして、ラザンの姿がぶれたかと思うと、そのまま3人に分身した。
「「「くらえ!」」」
3人のラザンが同時にわしに襲い掛かってくる。見た所、幻術ではなく全てに実態があるみたいじゃな。普通であれば避けるのは難しいじゃろう。じゃが……
「ほい」
「「「な?」」」
3人の合間を縫って斬撃を回避し、それぞれを軽く切り付ける。成す術もなく斬撃を受けたラザンは1人に戻ると、そのまま床に倒れ伏した。
「くっ」
「3人で同時に切り付けてくるのはいいですが、攻撃の方向があってません。あれだと、それぞれの陰にスキが出来てしまうので、簡単に回避されてしまいますよ」
「……すまない、君を完全に格下だと思っていたよ」
ラザンは立ち上がると再び剣を構えなおす。
「今度は油断しない!はああぁぁぁぁ!」
こうしてラザンの特訓のサポート(?)は30分にも渡ったのであった。
☆ ☆ ☆ ☆
「それで?ラザンに気に入られて定期的に相手をするように言われたと?」
「まあ、そうなるのう」
「お前らな、バレなかったからいいが一歩間違えたら大ごとだったぞ?」
「……ごめんなさい」
「すまぬ、出来心だったんじゃ」
「まあ、メイド長やラザンに気に入られちまったみたいだし、定期的にメイドとして潜り込むのはいいが、くれぐれも正体はバレるんじゃないぞ?」
「分かっておる」
「気を付けます」
「お姉ちゃーん、部屋から出ちゃダメ?」
「ダメじゃ。ホウリの努力を無駄にするわけにはいかん」
わしらはお尋ね者である以上、存在を極力知らせる訳にはいかん。主であるエンゼにはわしらは知らせれておるが、使用人たちには知られたくはない。
じゃが、この部屋がいくら豪華で広くても何日も籠っておると飽きてしまうのう。
ホウリはいつも通り情報集め、ロワとミエルは広場で特訓しておるから朝から出かけておるしどうしたものか。
「どうしたものかのう」
「うーん、変装とかできないかな?」
「ホウリであるまいし、変装など……いや、いい考えかもしれぬのう」
「本当?」
わしはアイテムボックスから大小2つのメイド服を取り出す。勿論、この屋敷で使われているものと同じメイド服じゃ。
「これを着れば使用人に紛れることが出来るじゃろう」
「なるほど!お姉ちゃん天才!」
「ふっふっふ、そうじゃろう?」
早速、わしらはメイド服に着替えてみる。
ノエルは着替え終わるとわしに一回転して見せる・
「似合う?」
「うむ!とてもよく似合っておるぞ!」
わしはカメラを構えて様々な角度で撮りまくる。え?なぜノエル用のメイド服があるのか?こんなこともあろうかとホウリに用意させておいたのじゃ。別にノエルに色々な恰好をさせて撮影会をしたかった訳ではない。
我を忘れて取り続けるわしをノエルは顔を赤らめながら怒る。
「お姉ちゃん!」
「おお、すまぬ。つい我を忘れてしまったわい」
可愛すぎてノエルの姿を写真に収める事しか頭になかった。ノエルが怒らんかったら深夜まで撮影会が続いたじゃろう。
「ともかく、これでわしらは使用人にしか見えぬじゃろう」
「でも、顔は見られちゃうよね?前にあった人にはバレちゃうんじゃない?」
「問題ない。わしにはこれが有る」
わしはホウリからもらった赤い宝石が付いた指輪を取り出す。それを見たノエルは納得したように手を叩く。
「そうか!それで姿を変えるんだ!」
「その通りじゃ、わしの認識阻害のスキルとこの指輪でわしらを別人に見せることが出来る」
「お姉ちゃん天才!やったー!これで探検ができるー!」
ノエルが跳ねまわって喜びを表現をする。前に屋敷を探検したいと言っておったし、よっぽど嬉しんじゃな。
「では行くぞ!」
「うん!」
わしらは意気揚々と屋敷の探検に繰り出したのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
わしらは何日かぶりに部屋の外を歩く。窓から注ぐ日の光が心地よいのう。ノエルもある気ながら気持ちよさそうに伸びをする。
「うーん、太陽が気持ちいいね」
「そうじゃな、こういう日は外で昼寝をしたいものじゃ」
わしらが廊下から歩いていると、奥からメガネを付けた姿勢の正しいメイドが歩いてきた。確か、メイド長じゃったか?ミエルから聞いた話じゃと規律に厳しいらしいのう。
聞きかじった話じゃと、メイド長が通った時は他のメイドは廊下の端によって頭を下げねばならぬらしい。意味が分からぬ決まりじゃが、バレると面倒じゃし従っておくか。
『ノエル、廊下の端によって頭を下げるんじゃ』
『うん、分かった』
ノエルに念話で知らせて2人で廊下の端によって頭を下げる。メイド長はわしらの前を通り過ぎようとしたが、なぜかわしらの前で止まると声をかけてきた。わしはバレたのかと思い緊張が走る。
「あなたたち、見かけないけど新人?」
「は、はい!」
「隣の子は?メイドの仕事をするには幼いと思うけど?」
「可愛いので問題ありません」
「何を言っているのかしら?」
しまった、反射的に答えたせいで不信に思われておる。
「い、いや、その……年齢の割に仕事が出来るので特別に採用したらしいです」
「そう。それで、新人同士でこんな所で何をしているのかしら?」
「そ、それは……」
「配膳を教える為に厨房に呼ばれたので、移動している所です」
わしが口ごもっておると、横にいたノエルが微笑みながら答えた。ノエルの答えにメイド長は納得したように頷く。
「あなた方の事は分かりました」
「そうですか、では私たちはこれで……」
「いえ、私もついていきましょう」
そそくさと立ち去ろうとしたわしらの後をメイド長が付いてきた。マズイ、付いてこられたらわしらがメイドでないとバレてしまう。どうにかして撒かないと。
「いえ、メイド長のお手を煩わせる訳には……」
「新人の教育もメイド長の仕事です。良いから行きますよ」
わしらが何か言う前にメイド長が廊下を進む。何を言っても耳を貸しそうにない。こうなったら、気絶させて逃げるしか……
わしが杖をアイテムボックスから取り出そうとすると、ノエルが袖を引っ張ってきた。びっくりしてノエルへと目をやると、首を振りながら念話をしてきた。
『ダメだよお姉ちゃん、攻撃したらノエル達が追い出されちゃう』
『じゃが、付いていったら確実にわしらがメイドでないとバレてしまうぞ?』
『バレた時は……』
『バレた時は?』
『一緒にごめんなさいしよう?』
そう言うと、ノエルはメイド長の元へと駆けて行った。なんの解決にもなっておらぬと思うが、なるようになるじゃろう。
☆ ☆ ☆ ☆
「失礼します」
「料理長!」
わしらはノックして厨房へと入る。すると、厨房では誰かが倒れており、コックたちが慌てた様子で体を揺さぶっていた。
その様子を見たメイド長は厨房へと入っていき、毅然とした口調で周りのコックへ話を聞く。
「どうかしましたか?」
「メイド長!料理長が急に倒れて!」
「確か料理長には持病がありましたね。それが悪化したのかもしれません。すぐに医務室へ」
「は、はい!」
「ところで、ご主人様のランチはどうなっていますか?」
「そ、それが……」
コックが運ばれていく料理長を見ながら困った様子で説明する。
「料理はその日の食材の状況によって決めているので私たちは知らないんですよ。なので、どうしようか迷っていて……」
「それは大変ですね。それでは、私らは庭の掃除に……」
「いけません、メイドたるもの緊急事態にすぐに対応しなくてはいけません」
逃げられんか。というか、料理はコックたちに任せておけばよいと思うんじゃがな。
「ですがメイド長、どうしたらいいのでしょうか?」
「まずは材料の確認です。今すぐに素材を出しなさい」
「はい!」
コックたちが急いで食材を持ってくる。じゃがいもに玉ねぎに牛肉……色々とあるのう。鑑定してみたが、どれも高級品じゃ。じゃがいも1つの値段がわしら5人の食費よりも高い。良いもの食べておるのう。
「どうでしょうか?」
「そうですね、あなた方はどう思います?」
「……わし!?じゃなくて、私ですか!?」
いきなり話を振られて素が出てしまったわい。危ない危ない。
というよりも、なんで新人に話を振るんじゃ。有益な案は出ないと思うが。
「すみません、私には何も思いつかないです」
「そうですか、あなたはどう思います?」
メイド長はノエルに向かって質問してみる。するとノエルは自信満々に胸を張って答えた。
「いい考えがあるよ」
「聞いてもいいかしら?」
「カレーを作ろう!」
「か、カレー?」
コックたちがノエルの言葉にざわめき始める。確かにフルコースを毎日食べている人にカレーを出そうとは思わないじゃろうな。
「ご主人様にカレー!?ありえないだろ!?」
「そんなの出したら俺等全員クビだぜ!?」
「子供の言う事だし間に受けない方が……」
全員バラバラにしてやろうか?
「メイド長、何か他に案は……」
「カレーでいいでしょう。すぐに準備なさい」
「メイド長!?」
「口答えは許しません。すぐに準備なさい。あなた達も手伝いなさい」
「分かりました」
「はーい」
メイド長に言われるがまま、わしらは野菜の皮をむき始める。
こうして、何とか昼食の時間にカレーを用意することが出来たのであった。
☆ ☆ ☆ ☆
配膳を終えたわしらは再び廊下を移動していた。次は屋敷の訓練場に訓練のサポートをやりに行くらしい。
わしらが廊下を歩いているとメイド長が話しかけてきた。
「一ついいかしら、えーっと……」
「ノエルです」
「ノエルさん。なんで数ある料理の中からカレーを選んだのかしら?」
それはわしも気になっておった。単に好物じゃからと思っておったが上手くいったようじゃし何か考えがあるのかもしれぬ。
メイド長に質問されたノエルは満面の笑みで答える。
「え?美味しいからだよ?」
何の考えも無かったみたいじゃな。
「それだけですか?」
「それと、ご主人様を見た時に忙しそうだったから、いつものフルコースだと時間が掛かっちゃうかなって思って」
良かった、ちゃんとした考えがあったみたいじゃ。というか、前日にチラリと様子をみただけではないか。よく覚えておったのう。
メイド長もノエルの考えに共感しているのか大きく頷く。
「私もその考えです。私はワンプレート料理を提案しようと思いましたが、カレーの方が食べやすく栄養価もよいでしょう」
メイド長は立ち止まってノエルの頭を優しく撫でながら微笑む。
「私はあなたが優秀であると疑っていました。ごめんなさい、あなたはとっても優秀なメイドよ」
「ありがとうございます」
ノエルも満面の笑みで頭を撫でられる。何というか、羨ましいのう。
「さて、次はアラザ様の訓練のサポートです。粗相のないように気を付けてください」
「わかりました」
わしらに釘を刺した後、メイド長が訓練場の扉を開けた。
訓練場にはとある男が半裸で剣を振っていた。全身が汗で濡れており長時間、剣を振っているのが分かる。
男の名はラザン、エンゼの秘書じゃ。戦闘も経営も出来る文武両道のイケメンじゃ。流石にロワには劣るがな。
ラザンは副社長のような立ち位置らしく、従者達は敬意をもって接しているらしい。じゃから、わしらも丁寧に接しなければならぬ。
ラザンはこちらに気が付いたのか、剣を振るのを止めてこちらへと歩みよってきた。そんなラザンにメイド長がドリンクが入った容器を差し出す。
「お疲れ様です、ラザン様」
「ありがとう。そっちの2人は新人さん?」
「はい、ノエルと……」
「フランです。よろしくお願いします」
「よろしくね」
わしとノエルににっこりと微笑むラザン。
「何かお手伝いする事はありますでしょうか?」
「いや、特には……いや、手合わせの相手が急に来れなくなったけど君達には頼めないし」
「ならばわしが手合わしよう!……私が手合わせしましょうか?」
危ない、また素が出てしまったわい。
わしの言葉にラザンが困ったように笑う。
「怪我させてしまいそうだし、別にいいよ」
「私も武道の経験があります。少なくとも怪我はしません」
「うーん、でもな……」
「一つよろしいでしょうか?」
なおも承諾しないラザンにメイド長が口を出してきた。
「この子たちは優秀な人材として採用されました。少し手合わせしてみてはいかがでしょうか?」
「君がそこまで言うのならば手合わせしよう。無理だと思ったらすぐに中止するからね?」
「わかりました」
久々に暴れられそうじゃ。……っと、ダメじゃダメじゃ、暴れすぎると問題になってしまう。ある程度は加減せんとな。
ラザンに訓練用の剣を渡され、訓練場の中へ入る。
「行きますよ」
わしが位置に付いた事を確認すると、ラザンが訓練用の剣で切り付けてきた。普通の冒険者の太刀筋よりも鋭い。冒険者ランクであればBくらいか。
そんな事を考えながらわしは剣を受け止める。剣を受け止められたラザンは驚いた表情になり、切りつけてくる。すべての斬撃を受け止めいなした後、ラザンが後ろに距離を取る。
「驚いたね、確かに少しは戦闘の心得があるようだ。だったらこれはどうかな!」
そう言うとラザンは再びわしに向かって駆けだしてくる。そして、ラザンの姿がぶれたかと思うと、そのまま3人に分身した。
「「「くらえ!」」」
3人のラザンが同時にわしに襲い掛かってくる。見た所、幻術ではなく全てに実態があるみたいじゃな。普通であれば避けるのは難しいじゃろう。じゃが……
「ほい」
「「「な?」」」
3人の合間を縫って斬撃を回避し、それぞれを軽く切り付ける。成す術もなく斬撃を受けたラザンは1人に戻ると、そのまま床に倒れ伏した。
「くっ」
「3人で同時に切り付けてくるのはいいですが、攻撃の方向があってません。あれだと、それぞれの陰にスキが出来てしまうので、簡単に回避されてしまいますよ」
「……すまない、君を完全に格下だと思っていたよ」
ラザンは立ち上がると再び剣を構えなおす。
「今度は油断しない!はああぁぁぁぁ!」
こうしてラザンの特訓のサポート(?)は30分にも渡ったのであった。
☆ ☆ ☆ ☆
「それで?ラザンに気に入られて定期的に相手をするように言われたと?」
「まあ、そうなるのう」
「お前らな、バレなかったからいいが一歩間違えたら大ごとだったぞ?」
「……ごめんなさい」
「すまぬ、出来心だったんじゃ」
「まあ、メイド長やラザンに気に入られちまったみたいだし、定期的にメイドとして潜り込むのはいいが、くれぐれも正体はバレるんじゃないぞ?」
「分かっておる」
「気を付けます」
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