魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百五十話 ブルータス、お前もか

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 帰って来た次の日の朝、家の扉がノックされた。

「誰でしょうか?」
「俺が行こう」


 俺が玄関の扉を開けると、ラビが立っていた。腕には見覚えのない腕輪が付いてる。これは、ステータス半減の腕輪だな。


「ラビじゃねえか」
「おはようございます、ホウリさん」
「おはよう。今日はどうした?裁判の相談か?」
「いえ、今日は別でホウリさんに相談したい事がありまして」
「そうか。とりあえず上がれよ」
「はい、お邪魔します」


 ラビを家に上げ、リビングに通す。リビングにはロワとフランがコーヒーを飲んで寛いでいた。


「ラビではないか」
「おはようございます。今日はどうしましたか?」
「今日はこれで来ました」


 ラビが腕輪を見せて小さく笑う。その様子を見たロワとフランが納得したように頷く。
 俺はコーヒーを淹れてラビの前に出す。


「角砂糖は1つ、ミルクは無しだったか?」
「そうですね。ありがとうございます」


 ラビはコーヒーを一口飲むとホッと息を吐く。しかし、コーヒーを持つ手が少し震えているのが気になる。
 何が起きたか気になっているし、そろそろ話を切り出してもいいか。


「要件を聞いていいか?」
「実はこの前の襲撃で困った事にありまして……」
「その腕輪に関係する事か?」


 俺の言葉にラビは頷く。ステータス半減の腕輪とか嫌な予感しかしないんだよな。


「前の襲撃で私とフランさんがリューレを追っていたんですが、追跡中に襲撃に会ったんです」
「あいつらのやりそうな事だな」
「その時にフランさんにバフを掛けて貰ったんですが、そのバフがまだ消えてないんです」
「……どのくらいのバフだ?」
「全ステータスに1000追加です」
「やり過ぎだろ」


 気まずそうにコーヒーを飲んでいるフランを睨みつける。


「わ、わしだってこんな事になるとは思わなかったんじゃ」
「確かにフランの想定には無かっただろうな」


 わざとではないとはいえ、ラビが大変な目に会っている事は変わりない。少し責任は感じて欲しい物だ。


「今は腕輪で力を抑えているのか」
「そうですね。2つ使ってやっと抑えてます」


 1000は日常生活に支障があるレベルだ。腕輪を付けているとはいえコーヒーを飲むのも大変だろう。


「病院には行ったか?」
「行きましたけど、原因は分からないって言われました」
「それで、俺にどうにか出来ないか相談しに来た訳か」
「そう言う事です。心当たりはありませんか?」
「まずは症状の確認からだ。腕を出せ」


 ラビが出してきた腕を掴んでMPの流れを確認してみる。


「どうですか?」
「MPの流れは正常だ。とりあえず、何かの病気とかじゃないな」
「そうでしたか」


 ラビがホッと胸を撫でおろす。
 しかし、俺の言葉を聞いたロワは首を傾げた。


「病気じゃないんだったら、なんでバフが消えないんでしょうか?」
「考えられる原因は一つ。体質だな」
「そんな体質があるんですか?」
「人国の歴史の中で、前例が数件しかない稀な体質だ」
「通りで聞いた事が無い訳ですね」
「具体的にはどういう体質なんですか?」
「俺も詳しい事は分からないんだがな。なにせ、前例が少ししか無い」


 ラビの体質とはスキルの影響を受けやすいという物だ。全てのスキルだけでなく、普通のヒールで大怪我が治ったり、受けた強撃の威力が10倍になったりと、特定のスキルだけに影響を受ける。
 良い効果も悪い効果もあるから、一概に害とも言えないし。そもそも特定のスキルを受けないと分からない体質だし、生きている内に気が付いていない人もいるだろう。


「つまり、私はバフを受けやすい体質っていう事ですか?」
「話を聞く限りはそうだな」
「治す事は出来るのか?」
「これは体質だから治すとかじゃない。爪が伸びやすいとか、食べ物にアレルギーがあるとかの類だ」
「……という事は、ずっとこのまま?」
「かもな」


 時間を掛ければ少しずつ効果が抜けていくかもしれない。しかし、症例が少ないから確実にそうなるとは言えない。


「これから一体どうすれば……」
「対処方は一つだ」
「あるんですか?」


 キラキラと期待を込めた目でラビは俺を見て来た。俺は指を一本立てて説明する。


「腕輪付けないで生活できるように特訓するしかないな」
「……思ったよりも物理的ですね?」
「それしかないだろ。最終的には豆腐を素手でつかめて、人並みの速度で走れるくらいには上達してもらうからな?」
「が、頑張ります」
「そうと決まれば特訓だ。庭に行くぞ」


 俺はラビを連れて庭に出る。こうして、俺の日常にラビとの特訓も加わったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「ホウリさん、相談したい事があります」
「お前もか」


 ラビとの特訓が終わって家に戻ると、ロワがそう切り出してきた。ロワの相談事なんて珍しくもない。話を聞いて早めに終わらせるか。


「なんだ?」 
「勉強を教えて欲しいんです」
「頭でも打ったか?」
「失礼ですね。僕も勉強くらいしますよ」


 俺の言葉にロワが頬を膨らませる。


「悪かったよ。で、何を教えて欲しいんだ?」
「騎士団の試験に出そうな事です!」
「試験っていつだ?」
「1ヶ月後です」
「試験の勉強がはかどっていないから、俺に泣きついていた訳か?」
「はい!」


 拳骨してやろうか。


「騎士団に入る事にしたのか?」
「はい。なんだか、試験があるって言われたので勉強してるんですが、中々進まなくて……」


 試験まで1ヶ月か。かなり厳しいが何とかならない事もない。


「ダメですか?」
「本来はダメって言う所だが、パーティーメンバーの頼みだし聞いてやるよ」
「ありがとうございます!」
「その代わり、覚悟しろよ?」
「……へ?」


 にこやかな俺の異様な雰囲気を纏っている事を感じ取ったのか、ロワは額に汗を滲ませている。


「あの、やっぱり自分で頑張るので……」
「一度言った言葉は撤回出来ると思うなよ?」


 1ヶ月で合格するとなると、ロワだけで勉強しても間に合わない。合格するには俺が面倒を見る必要があるだろう。というか、1ヶ月なんて短すぎる。


「1ヶ月って長官が言ったのか?」
「いえ、僕が言いました」
「もっと時間を貰って欲しかったな。これだと詰め込んでいってギリギリだな」
「そ、そうなんですか?」


 やっぱり現実が分かっていなかったみたいだ。


「とりあえず、今の実力を見たいから、ロワの部屋でテストだな」
「うええ、テストは嫌いなんですよ」
「文句言うな。ほら、行くぞ」


 嫌そうなロワを引きずって、2階のロワの部屋に向かう。こうして、俺の日課にロワの勉強も加わったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「ふぅー、知り合いからこんなに頼みごとをされるとは思わなかったぜ」


 ロワの学力に軽く絶望した俺は、ロワに課題を出してリビングに戻って来たのだ。


「お疲れ様じゃ。コーヒーでも淹れるか?」
「そうだな。あと、高級チョコでも食おう。フランも食うか?」
「わしはいらん」


 フランが仏頂面でコーヒーを淹れる。おかしい、いつもだったら言わなくてもスイーツを寄越せと言ってくるはずだ。
 なんだか嫌な予感がするが、俺は理由を聞いてみることにした。


「どうした?スイーツを食べないなんてらしくないじゃないか?」
「…………」


 フランは無言で自分の分のコーヒーを淹れると俺の正面に座った。俺はチョコを頬張りながら話を切り出す。


「で、何があったんだ?」
「……お主に相談したい事がある」


 本日3回目の言葉を聞き、俺の予感が正しかった事を悟る。


「なんだ?」
「……太ってしまったんじゃ」
「だろうな」


 フランは普段から人一倍食べる。しかも、仕事はデスクワークが基本だし体重が増えても不思議じゃない。


「何㎏増えた?」
「5㎏じゃ」
「俺に嘘が通じるとでも?」
「……8㎏じゃ」


 この期に及んで嘘を吐くとはな。


「あんだけ食べてたらそうなるよな」
「何とかならんか?」
「フラン以外なら色々と手はあるんだがな」


 普通の人であれば運動とか食事制限とかで痩せられる。しかし、フランの場合は走ろうにも効果が100㎞くらいは知らないと効果でない。食事制限しようにもスキルで消費カロリーが減るから、かなり苦労する。
 サバイバルするには便利だが、ダイエットになると都合が悪すぎる。


「効果がない訳じゃないから、地道に運動して食事制限して運動するしかないな」
「……何か即効性がある方法は無いのか?」
「俺くらい頭を使えばすぐに痩せるぞ?」
「実現可能な方法を提案せんかい」
「じゃあ、食事制限と運動だな」


 俺の言葉にフランが嫌そうに顔をしかめる。


「……MPを使いまくれば痩せると聞いた事がある」
「効果があるくらい使うとなると、街を滅ぼす位には使わないといけない。街の真ん中でそんな事が出来ると思うか?」
「……他に方法は?」
「無い」


 フランの言葉を切って捨てると、フランが頭を抱える。


「なぜわしがこんな目に会わねばならん?」
「不摂生が原因だ。自業自得って奴だな」
「人国には正論で傷つけた場合に罪に問われたりしないのか?」
「魔国でも出来ないだろうが」


 無茶苦茶な理論を一蹴して、俺はフランのダイエット計画を頭の中でまとめる。こうして、俺の日課にフランのダイエットが加わったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 その日の夕食、いつも通りスターダストのメンバーに加えてラビが食卓に加わっていた。


「……ホウリさん、ナイフを壊しそうなのですが」
「壊しても替えがあるから気にするな」


 ラビは手を震わせながらステーキを切っている。本当は箸を使わせたかったが、まだ慣れていないし使いやすいナイフとフォークを使わせている。


「この魔物の弱点は胸、でも色が青だと頭になって自動回復が……」


 ラビの横ではロワが参考書を持って、ぶつぶつと呟きながら食事を口に運んでいる。
 その様子をミエルが心配そうに眺めている。


「ロワ、ご飯の時くらいは勉強は止めたほうがいいのではないか?」
「今は全く時間が無いので少しでも勉強しないと……」


 そう言ってロワは再び参考書を見ながら呟き始めた。
 やったテストの成績が思った以上に悪く、ロワの中にも焦りが出て来たんだろう。


「ねぇねぇ、フランお姉ちゃんそれだけしか食べないの?」


 フランの前には鳥のささ身とグリーンサラダしかない。普通のメニューに見えるが、サラダには脂肪を燃焼する効果がある薬草を、ささ身はフレイムバードというカロリーを消費しやすくする鳥肉を使用している。
 フランにとっては微量だが、塵も積もれば山となるって奴だ。


「……わしとてこんなの食いたくないわい。しかし、健康の為は仕方ないのじゃ」
「どこか痛いの?」


 心配そうなノエルの頭をフランは優しく頭を撫でる。


「そこまで深刻ではない。必ず健康になるからノエルも応援してくれ」
「うん、わかった!」


 ノエルがフランに笑いかけ、フランが意を決したようにサラダを口にする。
 今日だけで食卓の様子が様変わりしたな。


「あ!ナイフが折れた!」
「この魔物に効果的な属性は……」
「うう……炭水化物が食べたい……」


 結構、カオスになって来たな。
 帰ってきて早々騒がしくなった食卓を見ながら、俺はどこか安堵していた。
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