魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百五十一話 学校に行こう

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 翌日の朝、リビングで俺はとある書類を読んでいた。


「おはようじゃ」
「おう、おはよう」


 声でフランがリビングに入って来た事を知る。書類から目を離さずに挨拶して、そのまま書類を読み進める。


「何を読んでおるんじゃ?」
「手続きの為の書類を読んでいる。詳しくは全員揃ってから話そう」
「分かった。わしは朝食の用意をしておこう」


 俺が戻ってきてから、皆が食事の用意とかを積極的にやってくれるようになった。ロワ曰く、俺が帰って来る前に食料と金が尽きたらしく、俺に任せきりなのはいけないと思ったみたいだ。
 良い心がけだと思うし、ミエル以外なら食事を任せても良いだろう。


「おはよー」
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようさん」


 全員入って来たみたいだな。俺は1枚だけ残して書類を仕舞う。


「全員来たな。ちょっと話がある」
「なんですか?」


 ロワが眠そうに目を擦りながら質問してくる。


「ノエルに関する事で話しておきたい事があってな」
「ノエル?」


 ノエルが不思議そうに首を傾げる。


「ノエルちゃんに何かあったんですか?」
「まさか、誰かに狙われておるのか?」


 フランが朝食を持ってきながら警戒心を高める。
 俺は配膳を手伝いながら説明を続けた。


「違う。まだ、ノエルの存在は広がっていない」
「そうか。安心したわい」


 フランは胸を撫でおろして皆にパンを配膳する。俺はスープとサラダを配膳するついでにフランのパンを取り上げた。
 睨みつけてくるフランの視線を無視して、テーブルの中央に1枚の紙を置く。


「これは……入学者募集?」
「ここから近い小学校の募集用紙みたいですね」
「ノエル周りの事も解決したし、そろそろ学校に通わせても良いと思ってな。ここなら家からも近いしピッタリだと思ったんだ」


 人国では最低でも8歳から3年は学校に通う事が義務付けられている。日本とは違って、子供も重要な働き手だから義務教育の期間は短いが、最低限の四則演算や読み書きくらいは出来るだろう。


「今から手続きをすれば来年度の入学には間に合う。だから、ノエルの気持ちを聞いておこうと思ってな」


 そこまで言って、俺はノエルの様子を見る。ここでの反応によって面倒になるかが変わるが……。
 祈るようにノエルを見ると、ノエルは俺の来t場に目をキラキラさせていた。


「ノエル、学校行きたい!」
「ノエルちゃん乗り気だねー」
「だって、学校って楽しい事いっぱいなんでしょ?友達もいっぱい欲しいし、お勉強もしたい!」


 鼻息を荒くしてノエルは力説する。ロワもミエルも人国で育ったから、学校に行く事に抵抗はない。問題は……


「わしは反対じゃ」


 このフラン分からずやだけだな。


「お前な、本人が良いって言ってるのに何言ってんだ」
「ノエルは神の使いじゃぞ?一人で学校に行くなど危険すぎるわい」
「今のノエルだったら多少の襲撃には対処できる。仮に敵わないとしても逃げる手段も教えてある」
「しかし、いじめられたらどうする?ノエルは特別じゃぞ?」


 確かに神の使いというスキルは強烈過ぎる個性だ。いじめに繋がる可能性もあるだろう。


「だが、そんなのは学校に行かなくても、社会に出るんだったら迫害の危険はある。子供の時に対人経験を積んでおくに越した事は無いだろ?」
「そう言えば、ノエルちゃんって同い年の子と話す機会ってないよね?」
「そう考えるといい機会だな」
「う、うむ……」


 4人が乗り気でフランが不満げに口を尖らせる。


「しかしのう……」
「お前が不安なのは分かる。だが、本人がやる気である以上、止めるなら相応の理由がいるからな?」
「むう……」


 俺の言葉にフランは口を閉じて黙りこくった。やっぱり面倒な事になったな。
 フランへの説得は追々やるとして、今は学校の説明の続きだ。


「学校にはいつ行けるの?」
「4月になったら入学できる。その前に簡単な試験があるけど、ノエルなら大丈夫だろう」
「試験?僕はやった記憶ないですよ?」
「私はあったぞ。学校によって違うんじゃないか?」
「ミエルの学校は結構な金持ち学校だから、変な奴が入らないようにって事じゃないか?」
「ノエルも学校同じなの?」
「ランクは落ちるが良い学校だ。イベントも多いし楽しめると思うぞ?」


 色々と条件は見たが、ノエルが楽しめるかを一番に考えている。今後の人生の糧になるだろう。


「試験ってどういう問題が出るんですか?」
「テストとは別に面接とかもある。試験の過去問はこんな感じだ」


 ロワに過去問集を渡す。ロワはパラパラとめくると目を見開いて驚いた。


「これって本当に小学校の試験なんですか!?僕でも分からない問題がありますよ!?」
「確かに私が小学生の時よりも難しくなっているな」
「最近は難化してきているからな」
「試験っていつなんですか?」
「1週間後だ」
「僕よりも状況悪くないですか!?」
「ノエルは今までも勉強しているから問題ない。どこぞの弓使いみたいに試験が迫って焦る事もない」
「ぐふっ!」


 俺の言葉が思ったよりもダメージになったのか、ロワが持っていたパンをテーブルに落とす。
 

「大丈夫かロワ!?」
「……ちょっと勉強してきます」


 ロワは朝食の残りを口に詰め込むと、そのまま自室に戻っていった。
 ミエルは心配そうにロワを見守っていたが、苦しそうな表情で何かを決意した表情になる。


「私はロワを応援する事にしたぞ」
「そうか、頑張れよ」


 ミエルの決意を無視して俺は問題集をノエルに渡す。


「試しに数問解いてみるか?」
「うん!」


 ノエルがペンを走らせてスラスラと問題を解く。


「よし解けた!」


 ものの数分で1ページ解いたノエルはしたり顔で問題集を渡してくる。
 俺の脇からミエルとフランが問題集を覗いてくる。


「どうなんじゃ?」
「全部当たっている」
「この短時間で解けるなんて凄いな」
「ふっふーん」


 褒められて嬉しそうにするノエル。花が咲いたように可愛らしい笑顔でよっぽど嬉しいのが分かる。


「こんな表情をされては不合格を願う事も出来ぬではないか」


 フランが不貞腐れた様にそっぽを向く。可愛い妹分が楽しそうにしているが、納得できないから複雑なんだろう。


「試験の日には保護者として2人行かないといけないが、その様子だとフランは行かないほうがいいか?」
「それはそれ、これはこれじゃ。わしが第一保護者じゃ」
「だったら、俺とフランが保護者としていくか」


 話はなんとか纏まったみたいだ。
 順当に行けば合格するとはいえ、何かの間違いで不合格になる可能性がある。試験が無くても入学できる学校も探しておかないとな。


「ごちそうさん」
「食器はわしとノエルで片付けるから、そのままで良いぞ」
「サンキュー」


 朝食兼会議を終えて、俺はロワの部屋に向かう。


「ロワー、調子はどうだー?」


 部屋に入るとロワが必死に机に向かっていた。そっと近づいて覗いてみると、ノートにびっしりと魔物の特徴が書いてあった。めずらしく勤勉だな。


「よう、調子はどうだ?」
「……どれだけやっても安心できません」
「だろうな」


 どうなるか分からないと、どれだけ準備しても安心はできないだろう。ロワはどの程度やれば良いかが分かると手を抜く癖があるから、丁度いいかもしれないな。
 とはいえ、試験は筆記だけじゃない。体を動かさずに試験まで机で勉強していては逆効果だ。


「ロワ、庭で今日の特訓をするぞ」
「……試験までは特訓は無しにしませんか?」


 虚ろな目でロワが話す。ダメだ、このままだと本当に試験に落ちかねない。


「確かに不安なのは分かるが特訓も重要だ。リフレッシュにもなるし、さっさと行くぞ」
「……分かりました」


 重い腰を上げてロワが部屋から出ていく。疲れさせたら勉強に支障が出るし、今日は軽く流すだけにするか。
 庭に出ると弓と矢筒を装備したロワが立っていた。俺も木刀を構えてロワと向き合う。


「いつも通り一撃勝負だ。このコインが下に落ちたらスタートだ」
「分かりました」


 俺はコインを天高く弾く。ロワは弓を引き絞って俺を狙う。
 俺達の間に金色に光るコインがゆっくりと落ちていく。コインが地面に落ち軽やかな音が響いた


「行きます!」
「来い!」


 瞬間、矢が放たれ俺とロワの勝負が始まったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


「セイヤァァァァァァ!」
「ぐあ!」


 俺の爆破キックを受けてロワが吹き飛ぶ。木に叩きつけられたロワは弓を杖代わりにしながら立ち上がる。


「参りました……」


 ロワがポーションを取り出して飲み下す。ボコボコにされながらも、ロワの表情は晴れやかになっている。


「大丈夫か?」
「大丈夫です、なんだかスッキリしました」
「それは良かった」


 ロワの目に光が戻っている。どうやら、リフレッシュは出来たみたいだな。


「やっぱり人間は運動しないとダメですね」
「腕も上がってるんじゃないか?カスリ傷は負っちまったしな」


 ダメージは負わなかったが、右腕にかすり傷を負ってしまった。完全に回避しきれなかったから、ロワの腕は確実に上がっている。


「今まで良く頑張ったな。戦闘の腕だけであれば騎士団に入れるだろうよ」
「ありがとうございます。なんだか自信が出てきました」


 自信満々の表情でロワが笑う。そんな中、ロワの後ろでラビが門を覗き込んでいるのが見えた。


「ラビも来たみたいだ」
「ラビさんが?」


 俺は門に近付いてラビに手を挙げる。
 ラビは俺の存在に気が付くと、ペコリと頭を下げる。


「こんにちはホウリさん」
「よう、ラビ。今日も休暇か?」
「疲れただろうって1週間休暇を貰いました」


 検察官になってまだ1年間なっていない奴に、2日間ぶっ続けで事件の対応をさせたんだ。長めの休暇も無理はないだろう。


「今日も特訓お願いします」
「特訓か……」


 昨日の段階でナイフを数本壊したりドアノブを凹ませていたり、力の制御できるのは程遠い。力の制御は粘り強く続けて行くしかない。


「そうだ、ロワと戦ってみるか?」
「ロワさんと?」
「ああ。ロワも俺達以外の奴と戦わせたかったし丁度いいだろ。手加減の特訓としてやってみないか?」
「私は構いませんけど、ロワさんは大丈夫なんですか?」
「多分、大丈夫なんじゃねえの?」
「結構適当なんですね!?」


 ラビには手加減のスキルがあるし、ロワが死ぬ事はないだろう。ラビの心配?ダメージ通せるならミエルにも勝てるんじゃないか?
 ラビを連れてロワの元へ向かうと、ロワはラビに頭を下げて挨拶した。


「こんにちはラビさん。今日も特訓ですか?」
「はい。手加減の特訓としてロワさんと戦ってみないかと言われたんです」
「え?本当ですか?」


 ロワ見てくるので、頷いて肯定する。


「僕、勉強があるのでこれで……」
「どうした?いつもなら『相手になりませんよ』って言って調子に乗る所だろ?」
「あの鬼神の如き戦いぶりを見たら、そんな事言えませんよ」


 襲撃の時にラビの戦いを見ていたのか。だったら、戦いに消極的なのも納得だ。


「だったら、逃げるラビを狙い撃つのはどうだ?これなら両者安全だぞ?」
「それだったら……」
「私は大丈夫ですよ」
「じゃ、3分計るからそれまで全力出してくれ。ロワは動いている相手の狙う特訓、ラビは速度の特訓という事で頑張ってくれ」
「「はーい」」


 その後、速度を制御できなかったラビがロワに突っ込み、ロワが白目を剥いて気絶した。
 ……こういう事もあるよね!
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