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第二百十二話 ん、完璧
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ノエルはテントから飛び出して、外の荷物の陰に身を隠した。そして周りに誰かいないかを手早く確認する。
この姿を他の人に見られたら、暗殺がバレちゃう可能性がある。だから、ノエルが他の人に見られるのも避けたい。慎重に行動しないとね。
見たところ、まだ人は集まっていない。こっそり移動したらバレないかな?
念のため細かい所まで観察しながら、これからの行動を考える。
テントの中にスパイがいた。けど、本気で暗殺を狙うつもりだったら他にも手段を用意している筈。一番可能性が高いのは……
ノエルは下見の時に見つけた時計台を見る。
「狙撃だよね」
高い所から演説中に狙撃。これが最も可能性が高いと思う。ロワお兄ちゃん曰く、普通の人なら1㎞、凄い人は3㎞くらいから狙えるみたい。ちなみに、ロワお兄ちゃんとホウリお兄ちゃんなら5㎞くらいなら当てられるらしいけど、参考にはしない方がいいって言われた。
演説のステージを狙える場所はいくつかあるけど、一番可能性が高いのはあの時計塔。射線が通しやすいし、比較的侵入が簡単だしね。眺めを楽しむためか、時計塔の上から街を一望できるし狙撃の為に建てられたとしか思えない。
しかも、外から中の様子は見えにくいから、直接中に入らないといけないのも面倒だ。
「人気のない路地から一気に接近して、手早く中を調べよう」
行動方針を決めたノエルは誰にも見つからないように路地に入る。
時計塔は何処からでも見られるから迷う事はない。だから迷わず走れるね。
周囲の気配に気を付けながら路地を全力で走る。いざとなったら建物の屋根を伝ったほうが見つからないかな?
そう思ったけど、運よく誰とも会わずに時計塔の下にたどり着く。
最近、この時計塔の入口は整備のために閉められているらしい。だから、入り口には鍵が掛かっている筈なんだけど……。
ノエルは入口を軽く押してみる。すると、入り口の扉は何の抵抗もなく開いた。間違いない、誰かがこの中に入っている。
今日は整備の予定は無い筈だ。ほぼ確実に暗殺者だろう。
ノエルはナイフを手に、時計塔の中に入る。時計塔の中は壁沿いに螺旋階段があって上に行けるようになっている。それ意外は何もないから階段から上に行くしかないかな。
見上げるとかなり高くまで続いている。上るだけでも大変そうだ。でも、狙撃ポイントはここ以外にもいくつかある。演説が始まる前に早く様子を確認しないと。
ノエルは足音を立てないように急いで階段を登る。
数分かけて階段を登り切って、最上階の扉の前までたどり着く。聞き耳を立ててみると、中から何かの音が聞こえる。間違いない、誰かいる。
気配を探ってみると、弓に弦を張っているみたい。さて、どうやって無力化したものか。
無力化さえすれば、後でホウリお兄ちゃんが何とかしてくれるって言ってた。だから、気絶させてワイヤーで縛ればいいかな。その後に武器を壊して、次のポイントに向かう。これが一番早いかな。
作戦を決めて、深呼吸する。ナイフの柄で殴って縛って武器を壊す。よし。
ノエルはナイフを構えて扉を蹴り開ける。
「なんだ!?」
中に居た男の人にナイフの柄を叩きこもうと振りかぶる。しかし、ノエルはナイフを振りかぶったまま固まってしまう。
そこに居たのは、たい焼き屋さんで助けてくれた男の人だった。
ノエルは何とか声を出すのは堪えて、ノエルはたい焼きの人を見据える。
たい焼きの人は急に現れたノエルを怪しんでいるのか、弓を構えた。
「お前は誰だ?領主が雇った護衛か?」
たい焼きの人の言葉にノエルは答えない。今ので分かったけど、やっぱりたい焼きの人は暗殺者の一人みたい。だとしたら、早く仕留めないと逃げちゃうかも。
そう思いつつも、ノエルは構えを解く。その様子をみてたい焼きの人は不思議に思ったのか、弓を降ろした。
「殺気を感じないな。本当に領主の護衛なのか?」
「……ここで何をしている?」
「答える義理は無いな」
「領主を狙撃するつもりか?」
ノエルの言葉にたい焼きの人の目つきが鋭くなり、殺気が漏れる。
「だとしたら?」
「なんでそんな事をするの?」
あまりの出来事に思わず素の口調で話してしまう。
慌てたノエルは誤魔化すように咳払いをして、話を続ける。
「ごほん、なぜ暗殺なんてする?」
「仕事だからに決まってるだろ?」
「誰かに依頼されたって事か?」
「それは言えないな」
こんな事言ってるけど暗殺なんてことを一人で計画する訳ない。だったら、誰か依頼した人がいるはず。だったら、お金を払えばやめさせられるかな?
「俺が2倍の金を払う。だから、ここから暗殺は止めるんだ」
「はっ!」
ノエルの言葉が鼻で笑われる。なんだか悲しい。
「殺し屋が金で寝返ると思うのか?」
「ダメなのか?」
「寝返ったら信用を失うだろうが。最悪の場合、俺自身が殺されるかもしれない。そんな中で寝返ると思うのか?」
「むう、難しいな」
お金じゃどうしようもないんだったら、どうすればやめさせられるんだろう?
ノエルが必死に頭を働かせていると、たい焼きの人が困惑の表情になる。
「お前、凄い奴かと思ったが抜けてるな?俺に暗殺を止めさせたいんだったら、力づくでやればいいだろう?何がしたいんだよ?」
「だって、嫌々やっているのに痛い思いもさせたら可哀そうだろ?」
ノエルの言葉にたい焼きの人がビクリと震える。
「なんでそう思った?」
「弓を持っている手が細かく震えているからな。暗殺するのが苦しいんじゃないかって思ったんだよ」
それに、たい焼き屋さんで助けてくれたのは、まぎれもない本心だったはずだ。あんな優しい人が暗殺なんてしたい筈がない。だからノエルはこの人を助けたいって思った。
ノエルはたい焼きの人の目をしっかりと見据える。
「なあ、どうすれば暗殺を止めてくれるんだ」
「……お前の言う通りだ。俺は暗殺なんてしたくない。けどな、世の中にはこうやって生きていくしかない奴だっているんだよ」
泣きそうな目でノエルを見て来るたい焼きの人。それだけで、たい焼きの人の心の中が分かった。それにどうしようもない事も。
「どうしても止める訳にはいかないってことか?」
「しつこいぞ。どうしても止めたければ」
たい焼きの人が弓を弾き絞ってノエルに狙いをつける。
「力づくでやってみろ」
「……分かった」
ここまで意志が固いと説得は無理そうだ。残念だけど、たい焼きの人の言う通り力づくで止めるしかない。
ノエルはナイフを構えてたい焼きの人にゆっくりと近づく。たい焼きの人は躊躇いなく矢を放つ。ノエルは避けずに矢を鉄仮面で受ける。
矢は弾かれて時計塔の中を転がるけど、ノエルは構わずたい焼きの人に近づく。
「な!?10㎝の鉄板も貫く威力だぞ!?なんで平然としていられるんだ!?」
「魔装で防御した。俺に矢は効かない」
「そんなバカな!?」
たい焼きの人は尚もノエルに矢を放ってくる。しかし、ノエルには全くダメージを与えられない。今のノエルは魔装すればロワお兄ちゃんのトリシューラ以外の矢は効かない。だから、たい焼きの人に勝ち目はない。
5本目の矢を弾いたノエルはたい焼きの人の足を払い体勢を崩す。
「うおっ!?」
倒れたたい焼きの人に乗っかって腕と足をワイヤーで縛る。
「これで無力化したな」
「くそっ!」
たい焼きの人は藻掻くけど、ワイヤーが切れる様子を見せない。
良かった。たい焼きの人を無傷で無力化できた。後は領主さんが来るまでに他の狙撃ポイントもチェックして……
そう思っているとステージの方向から聞きなじみのない音が聞こえた。あれ?これってなんだっけ?よく聞くわけじゃないんだけど、どこかで聞いたことがあるような?
うーん、確かミエルお姉ちゃんのお屋敷に行った時に聞いた……車の音!
そこまで思い出したノエルはステージの方を凝視する。すると、領主さんを乗せた車がステージに向かっていくのが見えた。
演舌まで1時間はある筈なのに、なんでもう来てるの!?お仕事が早く終わった?それともお仕事自体が無くなった?
いや、理由は今考える事じゃない。このままだと、車から降りてテントに入るまでに狙撃されちゃう。
「はっ、どうやら領主はもう来たみたいだな」
たい焼きの人も車の音が聞こえたのか、勝ち誇ったように笑う。
「もう一人の仲間は別の場所にいる。ここからそこに向かうよりも、領主を狙撃する方が早いぜ?」
たい焼きの人の言う通りだ。魔装を使って狙撃ポイントに行っても、領主さんの所に行っても狙撃の方が早い。
あっちへの伝達手段も無いし、これじゃどうしようもない。
「あんたは確かに強かったよ。こんな俺なんかに優しい言葉を掛けてくれたのも嬉しかった。だが、今回は俺たちの勝ちだ。大人しくここを立ち去るんなら、あんたの事は黙っておいてやるよ」
「…………」
たい焼きの人の言う通りここからノエルが向かう事は出来ない。悔しいけど、ホウリお兄ちゃんに任せてノエルは撤退を……。
そこまで考えた瞬間、ノエルの頭の中に一つの考えが湧いて出た。そうだ、これなら何とかなるかも。
ノエルは転がっていた弓と矢を手に取る。
「何をする気だ?」
たい焼きの人の疑問には答えず、眼に魔装をして時計台から残りの狙撃ポイントを見る。
目に魔装すれば視力がかなり良くなる。一番高い時計塔なら全部見える筈だ。
ノエルの考え通り狙撃ポイントの1つで誰かが弓を構えているのが見えた。あれがもう一人の仲間なんだろう。
見たところ、他の狙撃ポイントに人の姿は無い。あの人さえ何とかすればどうにかなる。
「あんたまさか!」
「そのまさかだ」
ノエルは人差し指を舐めて風の向きと強さを図る。この南南西に1m、地図でみた距離とこの時計塔の高さから計算して距離は約1㎞。ロワお兄ちゃんみたいに5㎞の狙撃は出来ないけど、1㎞の狙撃なら!
ノエルは弓を弾き絞って狙いをつける。弓さえ破壊できれば遠距離を攻撃する方法は無い筈。狙いは弓、時間は領主さんが到着する1分。厳しいけど、やるしかない。
深呼吸で心を落ち着けて狙いをつける。だけど、心臓の音がうるさいくらいに鳴って集中できない。
「あんた、狙撃できるのか?」
「今回が初めてだ」
「初めてで狙撃だと?舐めてるのか?」
「やるしかない。それだけだ」
「なんでそこまでやるんだ?やっぱり金か?」
「誰かが死ぬ所をみたくない。だから、無謀でもやるしかないんだ」
「……俺だってそうだよ」
たい焼きの人の呟きを背にノエルは狙撃に集中する。
どんな人でも死んで良い訳ない。絶対にノエルが守る。
そう意気込んでは見たけど、緊張からか弓がブレて狙いが付けられない。ここでノエルが失敗したら領主さんが死んじゃう。そう思うとどうしても弓がブレる。いくら深呼吸しても止まってくれない。
「お願い……止まって」
「余計な事は考えるな」
焦りを感じていると、後ろからたい焼きの人の鋭い声が飛んで来る。
「狙撃の時は目標以外の事は考えるな」
「え?」
「雑念は狙いをブレさせる原因になる。外したらなんて考えるな。目標だけ見て狙いをつけろ」
「う、うん」
ノエルは言われた通り暗殺者の弓だけを注視する。
「何も聞こえず目標だけしか視界に入らなくなった瞬間、矢を放て」
視界に目標だけ入れる事だけ考えるか。
アドバイスの通り目標の弓だけを見て集中する。すると、たい焼きの人の言う通り他の音や物がノエルから無くなっていった。
いける、そう思った瞬間に矢を放つ。矢は真っすぐと目標の場所へと飛んでいく。そして、狙い通り暗殺者の弓に矢が命中し、弓がへし折れた。
暗殺者は何が起こったのか分からず右往左往している。これで暗殺は阻止できた。
「その様子を見ると成功したみたいだな」
「ああ、でもなんで助けてくれたんだ?」
「ただの気まぐれだ」
「そうか」
サルミちゃんが良く言ってる言葉だ。こういう言葉は照れ隠しなんだよね。
ノエルは感謝を伝える為に深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
護衛としてじゃなくてノエルとしてお礼を伝える。すると、たい焼きの人は驚いたように目を見開く。
「あんた、もしかして子供なのか?」
その質問にノエルは答えずに扉を開けて時計塔を後にした。
その後、色々と警戒したけど演説は無事に終わったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
「ねーねーノエルちゃん!」
「どうしたの、コアコちゃん?」
「昨日、私すごいのを見たんだ!」
「凄いの?何みたの?」
「幽霊!」
「幽霊?どこでみたの?」
「噴水広場のそばの路地裏!鉄仮面とマントを付けた幽霊がものすごい速さで駆けて行ったんだ!」
「……へー」
「どうしたのノエルちゃん?凄い汗だよ?」
「き、気にしないで。その幽霊はすぐそばを通ったの?」
「ううん、離れた所からチラリと見ただけだよ。慌てて追ったんだけど、姿が見えなくなっていたんだ。これって幽霊だよね!?」
「そ、そうだよ!幽霊だよ!幽霊以外考えられないよ!」
「そうだよね!私、本物の幽霊を見るの初めて!今度、皆を誘って調査しようよ!オカルト研究クラブ、最初の活動だよ!」
「あ、あははは……そうだね……」
「どうしたの?元気ないね?」
「そ、ソンナコトナイヨー。チョウサタノシミダナー」
「流石ノエルちゃん!私、皆に話してくるね!」
「う、うん。いってらっしゃーい……はぁ……」
この姿を他の人に見られたら、暗殺がバレちゃう可能性がある。だから、ノエルが他の人に見られるのも避けたい。慎重に行動しないとね。
見たところ、まだ人は集まっていない。こっそり移動したらバレないかな?
念のため細かい所まで観察しながら、これからの行動を考える。
テントの中にスパイがいた。けど、本気で暗殺を狙うつもりだったら他にも手段を用意している筈。一番可能性が高いのは……
ノエルは下見の時に見つけた時計台を見る。
「狙撃だよね」
高い所から演説中に狙撃。これが最も可能性が高いと思う。ロワお兄ちゃん曰く、普通の人なら1㎞、凄い人は3㎞くらいから狙えるみたい。ちなみに、ロワお兄ちゃんとホウリお兄ちゃんなら5㎞くらいなら当てられるらしいけど、参考にはしない方がいいって言われた。
演説のステージを狙える場所はいくつかあるけど、一番可能性が高いのはあの時計塔。射線が通しやすいし、比較的侵入が簡単だしね。眺めを楽しむためか、時計塔の上から街を一望できるし狙撃の為に建てられたとしか思えない。
しかも、外から中の様子は見えにくいから、直接中に入らないといけないのも面倒だ。
「人気のない路地から一気に接近して、手早く中を調べよう」
行動方針を決めたノエルは誰にも見つからないように路地に入る。
時計塔は何処からでも見られるから迷う事はない。だから迷わず走れるね。
周囲の気配に気を付けながら路地を全力で走る。いざとなったら建物の屋根を伝ったほうが見つからないかな?
そう思ったけど、運よく誰とも会わずに時計塔の下にたどり着く。
最近、この時計塔の入口は整備のために閉められているらしい。だから、入り口には鍵が掛かっている筈なんだけど……。
ノエルは入口を軽く押してみる。すると、入り口の扉は何の抵抗もなく開いた。間違いない、誰かがこの中に入っている。
今日は整備の予定は無い筈だ。ほぼ確実に暗殺者だろう。
ノエルはナイフを手に、時計塔の中に入る。時計塔の中は壁沿いに螺旋階段があって上に行けるようになっている。それ意外は何もないから階段から上に行くしかないかな。
見上げるとかなり高くまで続いている。上るだけでも大変そうだ。でも、狙撃ポイントはここ以外にもいくつかある。演説が始まる前に早く様子を確認しないと。
ノエルは足音を立てないように急いで階段を登る。
数分かけて階段を登り切って、最上階の扉の前までたどり着く。聞き耳を立ててみると、中から何かの音が聞こえる。間違いない、誰かいる。
気配を探ってみると、弓に弦を張っているみたい。さて、どうやって無力化したものか。
無力化さえすれば、後でホウリお兄ちゃんが何とかしてくれるって言ってた。だから、気絶させてワイヤーで縛ればいいかな。その後に武器を壊して、次のポイントに向かう。これが一番早いかな。
作戦を決めて、深呼吸する。ナイフの柄で殴って縛って武器を壊す。よし。
ノエルはナイフを構えて扉を蹴り開ける。
「なんだ!?」
中に居た男の人にナイフの柄を叩きこもうと振りかぶる。しかし、ノエルはナイフを振りかぶったまま固まってしまう。
そこに居たのは、たい焼き屋さんで助けてくれた男の人だった。
ノエルは何とか声を出すのは堪えて、ノエルはたい焼きの人を見据える。
たい焼きの人は急に現れたノエルを怪しんでいるのか、弓を構えた。
「お前は誰だ?領主が雇った護衛か?」
たい焼きの人の言葉にノエルは答えない。今ので分かったけど、やっぱりたい焼きの人は暗殺者の一人みたい。だとしたら、早く仕留めないと逃げちゃうかも。
そう思いつつも、ノエルは構えを解く。その様子をみてたい焼きの人は不思議に思ったのか、弓を降ろした。
「殺気を感じないな。本当に領主の護衛なのか?」
「……ここで何をしている?」
「答える義理は無いな」
「領主を狙撃するつもりか?」
ノエルの言葉にたい焼きの人の目つきが鋭くなり、殺気が漏れる。
「だとしたら?」
「なんでそんな事をするの?」
あまりの出来事に思わず素の口調で話してしまう。
慌てたノエルは誤魔化すように咳払いをして、話を続ける。
「ごほん、なぜ暗殺なんてする?」
「仕事だからに決まってるだろ?」
「誰かに依頼されたって事か?」
「それは言えないな」
こんな事言ってるけど暗殺なんてことを一人で計画する訳ない。だったら、誰か依頼した人がいるはず。だったら、お金を払えばやめさせられるかな?
「俺が2倍の金を払う。だから、ここから暗殺は止めるんだ」
「はっ!」
ノエルの言葉が鼻で笑われる。なんだか悲しい。
「殺し屋が金で寝返ると思うのか?」
「ダメなのか?」
「寝返ったら信用を失うだろうが。最悪の場合、俺自身が殺されるかもしれない。そんな中で寝返ると思うのか?」
「むう、難しいな」
お金じゃどうしようもないんだったら、どうすればやめさせられるんだろう?
ノエルが必死に頭を働かせていると、たい焼きの人が困惑の表情になる。
「お前、凄い奴かと思ったが抜けてるな?俺に暗殺を止めさせたいんだったら、力づくでやればいいだろう?何がしたいんだよ?」
「だって、嫌々やっているのに痛い思いもさせたら可哀そうだろ?」
ノエルの言葉にたい焼きの人がビクリと震える。
「なんでそう思った?」
「弓を持っている手が細かく震えているからな。暗殺するのが苦しいんじゃないかって思ったんだよ」
それに、たい焼き屋さんで助けてくれたのは、まぎれもない本心だったはずだ。あんな優しい人が暗殺なんてしたい筈がない。だからノエルはこの人を助けたいって思った。
ノエルはたい焼きの人の目をしっかりと見据える。
「なあ、どうすれば暗殺を止めてくれるんだ」
「……お前の言う通りだ。俺は暗殺なんてしたくない。けどな、世の中にはこうやって生きていくしかない奴だっているんだよ」
泣きそうな目でノエルを見て来るたい焼きの人。それだけで、たい焼きの人の心の中が分かった。それにどうしようもない事も。
「どうしても止める訳にはいかないってことか?」
「しつこいぞ。どうしても止めたければ」
たい焼きの人が弓を弾き絞ってノエルに狙いをつける。
「力づくでやってみろ」
「……分かった」
ここまで意志が固いと説得は無理そうだ。残念だけど、たい焼きの人の言う通り力づくで止めるしかない。
ノエルはナイフを構えてたい焼きの人にゆっくりと近づく。たい焼きの人は躊躇いなく矢を放つ。ノエルは避けずに矢を鉄仮面で受ける。
矢は弾かれて時計塔の中を転がるけど、ノエルは構わずたい焼きの人に近づく。
「な!?10㎝の鉄板も貫く威力だぞ!?なんで平然としていられるんだ!?」
「魔装で防御した。俺に矢は効かない」
「そんなバカな!?」
たい焼きの人は尚もノエルに矢を放ってくる。しかし、ノエルには全くダメージを与えられない。今のノエルは魔装すればロワお兄ちゃんのトリシューラ以外の矢は効かない。だから、たい焼きの人に勝ち目はない。
5本目の矢を弾いたノエルはたい焼きの人の足を払い体勢を崩す。
「うおっ!?」
倒れたたい焼きの人に乗っかって腕と足をワイヤーで縛る。
「これで無力化したな」
「くそっ!」
たい焼きの人は藻掻くけど、ワイヤーが切れる様子を見せない。
良かった。たい焼きの人を無傷で無力化できた。後は領主さんが来るまでに他の狙撃ポイントもチェックして……
そう思っているとステージの方向から聞きなじみのない音が聞こえた。あれ?これってなんだっけ?よく聞くわけじゃないんだけど、どこかで聞いたことがあるような?
うーん、確かミエルお姉ちゃんのお屋敷に行った時に聞いた……車の音!
そこまで思い出したノエルはステージの方を凝視する。すると、領主さんを乗せた車がステージに向かっていくのが見えた。
演舌まで1時間はある筈なのに、なんでもう来てるの!?お仕事が早く終わった?それともお仕事自体が無くなった?
いや、理由は今考える事じゃない。このままだと、車から降りてテントに入るまでに狙撃されちゃう。
「はっ、どうやら領主はもう来たみたいだな」
たい焼きの人も車の音が聞こえたのか、勝ち誇ったように笑う。
「もう一人の仲間は別の場所にいる。ここからそこに向かうよりも、領主を狙撃する方が早いぜ?」
たい焼きの人の言う通りだ。魔装を使って狙撃ポイントに行っても、領主さんの所に行っても狙撃の方が早い。
あっちへの伝達手段も無いし、これじゃどうしようもない。
「あんたは確かに強かったよ。こんな俺なんかに優しい言葉を掛けてくれたのも嬉しかった。だが、今回は俺たちの勝ちだ。大人しくここを立ち去るんなら、あんたの事は黙っておいてやるよ」
「…………」
たい焼きの人の言う通りここからノエルが向かう事は出来ない。悔しいけど、ホウリお兄ちゃんに任せてノエルは撤退を……。
そこまで考えた瞬間、ノエルの頭の中に一つの考えが湧いて出た。そうだ、これなら何とかなるかも。
ノエルは転がっていた弓と矢を手に取る。
「何をする気だ?」
たい焼きの人の疑問には答えず、眼に魔装をして時計台から残りの狙撃ポイントを見る。
目に魔装すれば視力がかなり良くなる。一番高い時計塔なら全部見える筈だ。
ノエルの考え通り狙撃ポイントの1つで誰かが弓を構えているのが見えた。あれがもう一人の仲間なんだろう。
見たところ、他の狙撃ポイントに人の姿は無い。あの人さえ何とかすればどうにかなる。
「あんたまさか!」
「そのまさかだ」
ノエルは人差し指を舐めて風の向きと強さを図る。この南南西に1m、地図でみた距離とこの時計塔の高さから計算して距離は約1㎞。ロワお兄ちゃんみたいに5㎞の狙撃は出来ないけど、1㎞の狙撃なら!
ノエルは弓を弾き絞って狙いをつける。弓さえ破壊できれば遠距離を攻撃する方法は無い筈。狙いは弓、時間は領主さんが到着する1分。厳しいけど、やるしかない。
深呼吸で心を落ち着けて狙いをつける。だけど、心臓の音がうるさいくらいに鳴って集中できない。
「あんた、狙撃できるのか?」
「今回が初めてだ」
「初めてで狙撃だと?舐めてるのか?」
「やるしかない。それだけだ」
「なんでそこまでやるんだ?やっぱり金か?」
「誰かが死ぬ所をみたくない。だから、無謀でもやるしかないんだ」
「……俺だってそうだよ」
たい焼きの人の呟きを背にノエルは狙撃に集中する。
どんな人でも死んで良い訳ない。絶対にノエルが守る。
そう意気込んでは見たけど、緊張からか弓がブレて狙いが付けられない。ここでノエルが失敗したら領主さんが死んじゃう。そう思うとどうしても弓がブレる。いくら深呼吸しても止まってくれない。
「お願い……止まって」
「余計な事は考えるな」
焦りを感じていると、後ろからたい焼きの人の鋭い声が飛んで来る。
「狙撃の時は目標以外の事は考えるな」
「え?」
「雑念は狙いをブレさせる原因になる。外したらなんて考えるな。目標だけ見て狙いをつけろ」
「う、うん」
ノエルは言われた通り暗殺者の弓だけを注視する。
「何も聞こえず目標だけしか視界に入らなくなった瞬間、矢を放て」
視界に目標だけ入れる事だけ考えるか。
アドバイスの通り目標の弓だけを見て集中する。すると、たい焼きの人の言う通り他の音や物がノエルから無くなっていった。
いける、そう思った瞬間に矢を放つ。矢は真っすぐと目標の場所へと飛んでいく。そして、狙い通り暗殺者の弓に矢が命中し、弓がへし折れた。
暗殺者は何が起こったのか分からず右往左往している。これで暗殺は阻止できた。
「その様子を見ると成功したみたいだな」
「ああ、でもなんで助けてくれたんだ?」
「ただの気まぐれだ」
「そうか」
サルミちゃんが良く言ってる言葉だ。こういう言葉は照れ隠しなんだよね。
ノエルは感謝を伝える為に深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。本当に助かりました」
護衛としてじゃなくてノエルとしてお礼を伝える。すると、たい焼きの人は驚いたように目を見開く。
「あんた、もしかして子供なのか?」
その質問にノエルは答えずに扉を開けて時計塔を後にした。
その後、色々と警戒したけど演説は無事に終わったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
「ねーねーノエルちゃん!」
「どうしたの、コアコちゃん?」
「昨日、私すごいのを見たんだ!」
「凄いの?何みたの?」
「幽霊!」
「幽霊?どこでみたの?」
「噴水広場のそばの路地裏!鉄仮面とマントを付けた幽霊がものすごい速さで駆けて行ったんだ!」
「……へー」
「どうしたのノエルちゃん?凄い汗だよ?」
「き、気にしないで。その幽霊はすぐそばを通ったの?」
「ううん、離れた所からチラリと見ただけだよ。慌てて追ったんだけど、姿が見えなくなっていたんだ。これって幽霊だよね!?」
「そ、そうだよ!幽霊だよ!幽霊以外考えられないよ!」
「そうだよね!私、本物の幽霊を見るの初めて!今度、皆を誘って調査しようよ!オカルト研究クラブ、最初の活動だよ!」
「あ、あははは……そうだね……」
「どうしたの?元気ないね?」
「そ、ソンナコトナイヨー。チョウサタノシミダナー」
「流石ノエルちゃん!私、皆に話してくるね!」
「う、うん。いってらっしゃーい……はぁ……」
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暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
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