魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百十三話 私、失敗しないので

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「そこでね、ノエルは言ったんだ。年貢の納め時だ!諦めて投降するんだ!」


 ノエルは銃を構えるポーズを取る。そして、反転して悪そうな笑みを浮かべる。


「ふっふっふ、それはどうかな?」


 ノエルはまた反転して驚く。


「な、なんだって~!」


 また反転。


「先ほど仲間に連絡した。年貢の納め時なのはお前の方だな」


 また反転。


「くっ、たとえ数で不利だとしてもノエルは諦めな……」
≪ねえ≫


 パンプ君がいつものブランコに座りながらスケッチブックに文字を書いて見せて来る。


「どうしたの?」
≪僕は何を見せられてるの?≫
「ノエルの武勇伝を分かりやすくお伝えしてるの」
≪まったく信じれないけど?≫
「えー、本当だよ?」


 ホウリお兄ちゃんにおつかいの内容は話しちゃダメって言われている。だから、脚色をかなり加えたノエルの武勇伝を一人芝居で伝えているって訳だ。
 ちなみに、パンプ君は読唇術が使えるから、ノエルが普通に話しても意味は通じる。けど、流石に言葉は話せないから筆記でのお話になるんだけどね。


「ここからが面白いんだよ?ノエルは如何にして100人の敵を倒して犯人を捕まえたのか、気になるでしょ?」
≪創作としては気になる≫
「むう、(一部は)嘘じゃないのに……」
≪で、どうなったの?≫
「ノエルは敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
「あんた達、何やってるのよ」
「痛っ!」


 突然の痛みが頭を襲う。振り返ってみると、手刀を構えたサルミちゃんの姿があった。


「何するの!」
「それはこっちのセリフよ。こんな所まで来て何してんのよ」
「ノエルの武勇伝をパンプ君に話してたんだ。あ、サルミちゃんも見ていく?」
「遠慮しておくわ。というか、何しに孤児院に来たのか忘れたの?」
「……忘れてないよ?」
「今の間はなによ」


 サルミちゃんから目を逸らせると、ため息が聞こえる。ちょっと興奮しちゃっただけだし。忘れてなんかないし。
 気を取り直してパンプ君に向き直り、用件を切り出す。


「実はね、そろそろパンプ君の治療費が溜まりそうなんだ」
≪え?≫


 ノエルの言葉にパンプ君が目を見開く。
 この前のおつかいで700万G、合計1800万G溜まった。コアコちゃんに見られたから100万G減っちゃったけど、それでも700万G。今までのおつかいを考えると破格だ。
 残りは200万G、上手く行けば1回のおつかいで溜まりそうだ。


「だからさ、今のうちに治ったら何をしたいか聞いておこうかなって思ってさ」
「私たちも駆り出されたのよ?迷惑な話だわ」


 いつもはノエルしか来ないんだけど、今日はオカルト研究クラブの皆で来ている。コアコちゃんとマカダ君は他の子と遊んでいる。


「これからお友達になるんだし、いっぱいお話した方がいいんじゃない?」
「あんたのポジティブさは羨ましくなるわね」
≪お金はいくら溜まったの?≫
「1800万G。あと200万Gだね」


 ノエルの言葉を聞いたパンプ君が考えるように顎に手を当てる。


「どうしたの?」
≪ちょっと付いてきて≫


 傍にあったスコップを持って、パンプ君が孤児院の隅にある大きな木に向かっていく。
 木までたどり着くと、パンプ君は一心不乱に根本を掘り出した。サルミちゃんと一緒に見守っていると、スコップが固い物に当たった音がした。
 パンプ君は掘り出した物についた土を払うと、地面に置いた。それはクッキー缶だった。


「おやつ食べるの?」
「食べ物を地面に埋めるのはリスだけよ」


 パンプ君はノエル達を無視して、クッキー缶を開ける。ノエルとサルミちゃんは脇からクッキー缶の中を覗き込む。


「へ?」
「わあ、いっぱいのお金!」


 クッキー缶の中には数え切れないくらいの金貨が詰まっていた。しかも、全部10万G金貨だ。これだけで最低でも2000万Gはある。


「これどうしたのよ」
≪父さんと母さんが残した遺産≫
「……そっか」


 パンプ君は金貨を20枚取り出すとノエルに差し出してくる。


「え?いいの?」
≪全部ノエルに任せる訳にもいかないでしょ?≫
「でも……」
「パンプの為に使うんでしょ?だったら遠慮せずに使っておきなさい」


 パンプ君も無言で金貨を差し出してくる。そういう事なら使わせてもらおうかな。
 ノエルは金貨を受け取ってアイテムボックスに仕舞う。


「ありがと」
≪僕の方こそお礼を言わせてほしい。ありがとうノエル。君が居なかったら僕の耳が治る事はなかっただろう≫
「お礼は治ってからね。じゃ、ノエルはホウリお兄ちゃんにお金渡してくるから!」
「え!?ちょっと!?勝手に行かないでよ!」


 いてもたってもいられなくなったノエルは孤児院を飛び出す。
 これでパンプ君の耳が治る、そう思うと足にも力が入る。ノエルは魔装を駆使して全速力で家まで走る。
 走る事数分、ノエルは家の塀を飛び越えて玄関まで走る。


「ただいまー!」
「おかえり」
「おかえりじゃ」


 勢いよく玄関を開けるとホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんがリビングから顔を出してきた。


「ホウリお兄ちゃん!丁度良いところにいた!」
「わしもおるぞ」
「上機嫌だな?何か言いことでもあったのか?」
「うん!これ!」
「ノエル?見えておらぬのか?わしもおるぞ?」


 ホウリお兄ちゃんに金貨を渡す。


「これって……なるほどな」


 誰から貰った物か察したのか、ホウリお兄ちゃんは何も言わずに受け取った。


「む?こんな大金どうした?」
「これで2000万G、確かに受け取ったぜ」
「やったー!手術はいつなの?」
「明日にでもやる。放課後にここに来い」
「知っとるか?無視って心にくるんじゃぞ?」


 ホウリお兄ちゃんから住所が書かれた紙を受け取る。



「ここって病院がある所だよね?」
「ああ。そこの施設を借りて手術をする」
「わしも行っていいか?」
「勿論!皆で行こう!」
「良かった、無視されてる訳ではなかったんじゃな」


 こうして、ノエルのおつかい大作戦は突然終わったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 次の日の6時間目の授業、ノエルは待ちきれずに何度も時計を見る。
 あと3分……あと2分……あと1分……あと30秒……


(キンコーンカンコーン)
「さよなら!」
「ちょっと待ちなさい」
「ぐえっ」


 教室を出ようとした瞬間、サルミちゃんに首根っこを掴まれる。


「まだホームルームが終わってないでしょうが」
「早く行きたのは分かるけど、もうちょっとだけ我慢しよ?」
「……分かった」


 サルミちゃんとコアコちゃんに窘められて、ノエルは座りなおす。
 ナマク先生はしょうがないという風にため息を吐いた。


「今日のホームルームは話す事は無いので、もう行っていいですよ」
「え?いいの?」
「はい、早く行ってください」
「ナマク先生、ありがとうございます!皆、行こう!」
「いいのかな?」
『先生が良いって言うんなら良いんだろ』
「そうと決まればさっさと行くわよ」
「うん!全力で行くよ!」
『ノエルは手加減しろ』


 皆を連れて昨日ホウリお兄ちゃんに教えて貰った住所まで歩く。
 

「ここを曲がって、真っ直ぐ行って、3つ目の角を左に……」
『あそこじゃないか?』


 マカダ君が指さす方向を見てみると、白い平屋の建物が見えた。看板にはシュウク病院と書いてある。
 ノエル達は病院の前に立って首を捻る。


「ここだよね?」
「そうじゃないかな?」
「本当?あんたのお兄さんに騙されてるんじゃないの?」
『ホウリさんはそういう事しない筈……だ』


 確かに病院って書いてあるけど、壁にヒビが入っていて壁は汚れている。看板もよく見ると汚れているし、手入れされている様子もないし、ここで手術するだなんて信じられない。


「住所間違えてたりしない?」
「うーん、間違ってないけどなー?」
『考えても仕方ないだろ。とりあえず入ってみようぜ』
「そうね」


 念のため拳銃を取り出して病院の扉の前に立つ。病院の扉はすりガラスになっていて中の様子は見えない。
 気配を探ってみるけど、中に怪しい気配は無いかな。罠もなさそう。


「多分、大丈夫かな?」
「本当?罠だったらヤバいわよ?」
「その時はノエルが皆を逃がすよ」


 拳銃を上げてニヤリと笑うと、サルミちゃんが仕方ないなというように肩をすくめる。コアコちゃんとマカダ君も神妙な顔で頷く。
 覚悟を決めたノエル達は慎重に病院の扉を開ける。
 病院の中は閑散としていて、受付にも通路にも人がいない。でも、全く人がいない訳じゃない。唯一、ロビーのソファーに白衣姿の人が座っている。
 ノエルはその人を見ると、持っていた拳銃を足のホルスターに仕舞う。そして、その白衣の人に向かって思いっきり駆ける。


「ホウリお兄ちゃん!」
「よお、ノエル」


 ホウリお兄ちゃんは優しくノエルを抱きしめる。


「思ったより早かったな?」
「気になって急いで来ちゃった。パンプ君の手術はどうなったの?」
「俺、失敗しないので」


 その言葉でパンプ君の手術が成功したことを察する。


「よかったー。やっぱりホウリお兄ちゃんは凄いね」
「まあな。そういえば、今日は友達も一緒なんだな」


 ホウリお兄ちゃんは後ろの皆に視線を向ける。皆はお行儀よく頭を下げると挨拶をした。


「は、はじめまして。コアコです」
「コアコちゃんだね。いつもノエルと一緒に遊んでくれてありがとう」
「サルミです。よろしくお願いします」
「はじめまして。お父さんにはお世話になってるよ」
『お久しぶりです、ホウリさん』
『元気そうだな、マカダ』


 挨拶も一通り済ませると、ノエルは病院の周りを確認する。


「そういえば、フランお姉ちゃんは?来てるんだよね?」
「フランには手術後のダメージをスキルで癒している。もう少しで終わると思うんだが……」


 ホウリお兄ちゃんがそう言うと、奥の扉がガラリと開いた。扉からはナース服を着たフランお姉ちゃんと耳当てをしたパンプ君がやってきた。


「終わったみたいだな。あの耳当てを取れば正常に聞こえるはずだ」
「やったー!」


 ノエル達はパンプ君の元へ駆け寄る。すると、パンプ君は少しだけ驚いた表情になる。


「パンプ君!お疲れ様!耳は聞こえる?気分はどう?」
「耳当て取らないと聞こえないって言っただろうが」
「あ、そっか。パンプ君、耳当て取ったら?」


 耳当てを取るようにジェスチャーをする。すると、ホウリお兄ちゃんが頭を掻きながら話し始めた。


「実はな、パンプに1つ頼まれごとをされたんだ」
「え?何?」
「最初に聞きたいのはノエルの声なんだと。だから、ノエル以外の皆は静かにしておいてくれ」


 ホウリお兄ちゃんの言葉に皆が重く頷く。理由は良く分からないけど、なんだか嬉しい。


「耳当てはノエルが取ってやってくれ」
「分かった」


 ノエルはパンプ君の耳当てを取り慎重に外す。でも、パンプ君が最初に聞く言葉でしょ?なんて言えば良いんだろ?
 こんにちは?おめでとう?名前でも呼ぶ?うーん?どれもしっくりこない。
 悩んでいると、パンプ君が心配そうな表情でノエルを見て来る。皆も固唾をのんで見守っているし、これ以上待たせたら申し訳ない。それにちょっと肌寒くなってきたし、暖かい飲み物でも飲みたい……


「へくちっ……あ」


 思わずくしゃみをした瞬間にノエルは固まる。初めに聞いたのがくしゃみになっちゃった。
 あまりの事に思わず目を丸くしたパンプ君と見つめあう。


「「……ぷっ、あははははははは」」


 パンプ君と同じタイミングで同じように笑う。こうしてパンプ君の耳は無事に治ったのだった。
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