魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
360 / 472

第三百五話 俺の歌を聞け

しおりを挟む
 ロワと人混みの中を歩いていると、特に人が集まっている所を見つけた。


「あれ何でしょうか?」
「気になるなら行ってみるか?」
「そうですね」


 そんな訳で私達も人混みの場所まで向かってみる。
 人混みの中心にはマイクを持った女性や楽器を準備している人達がいた。恐らく、演奏でもするのだろう。


「うーん?人がいっぱいで見えませんね?」


 私は背が高いから見えるが、ロワは見えにくそうだ。しきりにぴょんぴょんと飛び跳ねて、人混みの中心んを見ようとしている。


「見えにくいなら、これを足場にすればいい」


 私はシン・プロフェクションガードを地面から数十センチの場所に出現させる。


「え?これって?」
「このくらいの大きさであれば30分は余裕だ」


 特訓の結果、私はシン・プロフェクションガードを長く維持できるようになった。
 戦闘で使える程の大きさだと使える時間も短くなるが、足場程度の大きさなら、しばらく問題無いだろう。


「ありがとうございます」


 ロワはシン・プロフェクションガードの上に登って人混みの中心に視線を向ける。


「路上ライブですかね?」
「みたいだな」


 王都では珍しいものではないが、オダリムで見るのは初めてだ。見物していっても良いだろう。
 待つこと数分、演奏が始まる様子は無い。


「まだでしょうか?」
「様子が変だ。何かあったのかもしれない」


 見た感じだと、楽器の整備は終わって、マイクも使えそうだ。だが、演奏が始まる様子は無い。


「始まらないのなら、他に行くか?」
「そうですね。あと少しだけ待ってみて、始まらないようなら他に行きましょうか」


 他の観客もそう思ったのか、ちらほらと解散していく。
 その様子を見て焦った女は、マイクで観客に呼びかけ始めた。


「すみません、仲間が遅れています。もう少しだけお待ちください」


 女性が頭を下げるが、観客は少しずつ減っていく。


「なんだか可哀そうですね」


 そう言いながら、ロワが足場から降りる。遂にロワが足場を使わなくても、見られるくらいに人が減った。


「そんな……待ってよ……」


 そう呟き女が力なく膝を付く。そして、1人の男が人混みから女の元へ駆けて来た。


「どうしたの?」
「実は……」


 男は女に耳打ちで何かを伝える。瞬間、女の顔がみるみるうちに青くなっていった。


「何かあったんでしょうか?」
「みたいだな。どうする?」
「少し話を聞いてみましょうか」
「そうだな」


 2人で人混みをかき分けて女の元へ向かう。


「あのー、どうかされました?」


 ロワがかがんで女と視線を合わせようとする。しかし、女は放心しており何も答えない。その代わりに男がロワの質問に答えた。


「実はハープを担当する者が所用で来れなくなってしまったんです」
「もう……お終いだ……」


 この世の終わりのような表情で女が呟く。


「ハープ無しで演奏できないのか?」
「俺達の演奏は誰一人欠けても完成しない。ハープ無しで演奏なんて出来ないんだよ」
「だったら、僕が演奏しましょうか?」
「は?」


 ロワの言葉に男の目が見開かれる。
 そして、女が勢いよくロワの手を握ってきた。


「本当ですか!?」
「ええ。少しくらいなら弾けますので」
「助かるわ!ハープはあれよ!調整は済んでいるから任せるわね!」
「引く曲は?」
「大地への讃美歌よ」
「分かりました」


 そう言って、ロワはハープの傍の椅子に座る。私はロワの傍に行き、周りに聞こえない様に耳打ちをする。


「なあ、本当に大丈夫なのか?」
「ええ。大地への讃美歌なら僕で演奏ができます。見ててください」


 ロワがハープの弦に触れながらニッコリと笑う。そんな顔を見てしまっては、もう何も言うことは無い。


「分かった。楽しみにしているぞ」


 それだけ伝えて、私は人混みの中へと戻っていった。
 演奏者たちはそれぞれの楽器を持ち準備を完了させる。


「お待たせしました。これから私たちの演奏を始めます」


 女はマイクを持つと足を鳴らしてリズムを取る。


「3・2・1」


 そこから演奏が始まった。


☆   ☆   ☆   ☆


「お願い!私達と演奏で世界を変えましょう!」


 演奏後、ロワは女に手を握られながら迫っていた。


「えっと、その……」
「貴方の演奏は素晴らしかったわ!今まで聞いたことがないくらいよ!」


 女は目を輝かせながらロワに迫る。ロワは距離を取ろうと後ろに下がるが、手を握られているから思うように動けていない。
 女の言う通り、ロワのハープの演奏は最高だった。まるで、魂ごと震えるようだった。感動で涙が出るという経験は初めてだった。
 あれならハープ奏者としても食べていける……いや、騎士団の何倍も稼げる筈だ。


「……けど、嫌だ」


 私はロワと一緒に騎士団で戦っていきたい。だからこそ、私は女の手を掴んだ。


「ロワから離れて貰おうか」
「あの?私はこの人と話しているんですけど?」


 私は無理やり女の手を引きはがす。


「ロワは騎士団だ。騎士団は芸能活動は禁止されている」
「そういう事です。すみませんが、お断りします」


 ロワが申し訳なさそうに頭を下げる。すると、女は未練がましくロワに迫る。


「だったら、騎士団なんてやめてよ。こっちの方が稼げるわよ?」
「僕は皆を守るために騎士団に入りました。お給料も大事ですけど、それ以上に騎士団の仕事に誇りを持っています」
「……そっか」


 女はロワから離れる。説得は無理だと悟ったのだろう。


「協力してくれてありがとね」
「いえ、これからも頑張ってくださいね」


 ロワはいつもと変わらぬ笑顔で手を振り、女と別れた。


「ん~!偶にはこういうのも悪くないですね~」
「私はロワが騎士団をやめるんじゃないかって思ってヒヤヒヤしたぞ」
「それは無いですよ。騎士団は僕の天職ですし、ミエルさんもいますし」
「……え?」


 ロワの言葉に一瞬だけ思考が止まる。
 当のロワはというと、何も気にしていない様子で屋台の方を指さす。


「そろそろお昼ですね。ご飯にしませんか?」
「あ、ああ」


 ロワのことだ、そこまで深く考えていない発言なんだろう。だが、それでも「私がいるから」という言葉に嬉しさを感じてしまう。


「ミエルさん?どうかしました?」
「い、いや、何でもないぞ」


 ニヤついている顔を見せたくない私は、顔を背けつつ返事をする。
 ロワは不思議そうにしていたが、そのまま屋台に視線を向けた。


「何食べます?」
「私は何でもいいぞ」
「僕はお肉が食べたいです。あ、ローストビーフ丼がありますよ」


 ロワが笑顔で屋台の方へ歩みを進める。ローストビーフ丼の屋台には1mくらいの長い行列ができていた。


「結構、並んでますね。どうします?他の屋台に行きますか?」
「他の屋台も似たようなものだろう。ならば食べたい屋台に並んだ方が効率的だ」
「それもそうですね」


 私たちは列の一番後ろに並ぶ。この調子でいけば、私たちの番までは30分くらいか。


「私達の番までに売り切れていなければいいが」
「そうですね。ミエルさんは何を頼みます?」
「ビーフカレーにする。ロワは?」
「僕はローストビーフ丼の大盛りにします。演奏してお腹空いちゃいました」


 ロワがお腹をさすりながら、照れくさそうに笑う。


「そういえば、ロワってハープが弾けたんだな」
「前に言いませんでしたっけ?ほら、お金が無いときにノエルちゃんと大道芸をした時に弾いたんですよ」
「あの時は楽器を弾いたとしか聞いてないからな。他に弾ける楽器はあるのか?」
「弦楽器なら何でも弾けますよ。今度弾きましょうか?」
「良いのか?」
「勿論です。スターダストや騎士団の皆さんも呼びましょう」
「……ああ、そうだな」


 個人的には私だけに聞かせて欲しいが、それは我儘だろう。
 そんな感じで会話をしつつ、私たちは列に並ぶのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...