魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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エイプリルフール 孤高のウルフ

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 砂嵐が吹きすさぶような荒野。その中にある街にフードを被った一人の少女がやってきた。
 街は木造で平屋の建物が並んでいるが、どの建物も壁や扉に穴が空いていてボロボロだ。人の気配も微塵も無く、人が住んでいるとは思えない。


「ここに強者がおるのかのう?」


 転がっているタンブルウィードとすれ違いながら少女は呟く。
 西部劇に出てきそうな荒れた街。だが、そんな街の中で世界観にそぐわない建物があった。
 少女が見上げると、天にそびえたつ建物があった。建物は円柱状のシルバーの建物だった。建物の上には『ゴッドブラザー』という文字が躍っている。


「悪趣味な建物じゃ」


 少女はそう吐き捨てると再び街に視線を向けた。


「」
「少なくとも宿は確保せんとな。廃墟は多そうじゃから雨風は防げそうじゃな。宿は期待できそうにないが……」


 少女が辺りを見渡していると、かすれて読みにくいが「INN」と書かれた看板が目に入った。


「こんな所に宿屋か。ありがたいが、生計は立つのかのう?というか、部屋の壁に穴とか開いてたりせんじゃろうな?」


 少女は恐る恐るといった様子で扉を開く。
 中は木のテーブルと椅子が並んでおり、宿というよりも酒屋という印象を持つ。カウンターの中には口元を布で覆った男がグラスを拭っていた。


「……ここは宿屋で間違いないんじゃよな?」
「……うん?」


 男は少女に気が付くと、首を傾げてグラスをカウンターに置く。


「いらっしゃいませ?」
「なぜ疑問形なんじゃ」


 男は傾げられた首を元に戻して営業スマイルを顔に張りつける。


「失礼いたしました。常連の方以外のお客様がくるのは久しぶりでして、つい疑問形になってしまいました」
「そんなものかのう?」


 腑に落ちないながらも、少女は店の中に入る。


「宿泊ですか?それともお食事?」
「とりあえずは何か食わせてくれ」
「かしこまりました。メニューをどうぞ」


 男からメニューを受け取り開く。


「中々に豊富じゃな」
「それが売りなので」
「ふむ、ならば牛ステーキをくれ」
「すみません、物流の関係で肉は品切れなんですよ」
「それは仕方ないのう。ならば、魚の煮つけを貰おうか?」
「魚は時期が悪くて仕入れができなかったんです」
「……豆腐ハンバーグ」
「豆腐屋さんの持病のシャクが悪化したみたいで」
「ええ加減にせえよ!?」


 少女がメニューをカウンターに叩きつける。


「何もないでは無いか!?何が豊富なメニューじゃ!?」
「すみません……」


 男が申し訳なさそうに頭を下げるのを見て、興奮していた少女は席に座りなおす。


「ならば、今あるメニューを教えてくれ」
「お酒とおつまみであれば提供できますよ」
「メニューの右端の方のやつか。提供できるのは全体の20%ではないか」


 少女が目つきを鋭くしてメニュー表を睨みつける。


「とりあえず、柿ピーとアヒージョを頼む」
「お酒はいかがですか?」
「エールを頼む」
「かしこまりました」


 男が笑顔で会釈して店の奥に引っ込む。
 悪い奴ではない事は分かるが、少女の心にそこはかとない不安が宿る。
 待つこと数分、店の奥から男では無く女が料理を持ってきた。


「お待たせしました」
「お主もここの店員か?」
「はい」


 女はスタイルが良く胸も尻もデカかった。格好もタキシードでスタイルの良さが強調されている気がする。
 顔も良く価値ですれ違えば誰もが振り向くだろう。髪も綺麗な金髪でモデルが天職のような女だ。
 女は少女の前に小皿に入った柿ピー、スキレットに入ったアヒージョ、ジョッキに入ったエールを並べる。


「ごゆっくり」
「ふむ、美味そうじゃな」


 少女は柿ピーを口に放り込み、エールを呷る。


「ぷはー、美味い!」
「ありがとうございます」


 既製品だろう柿ピーを食いつつ、少女はエールを呷り続ける。


「そういえば、1つ聞いても良いか?」
「なんでしょうか?」
「この街で何があった?」


 少女がアヒージョを口に運びながら女に聞く。女は目を鋭くして口を開いた。


「……貴様に答える必要があるのか?」


 その口調は客に対するものではなく、捕らえた犯人に尋問する刑事を彷彿とさせる。
 だが、フランはミエルの迫力に押されること無く食事を続ける。


「貴様ではない、フラン・アロスじゃ」
「そうか。私の名前はミエル・クランだ」
「自己紹介も終わったところで、説明してくれんか?」


 目を伏せていたミエルだったが、気が進まない様子で答え始めた。


「この街にあるビルは見たか?」
「あの街の雰囲気に会ってないものじゃな?」
「この街は荒廃したのはあれが原因だ」


 ミエルは両手をカウンターに置いて力なく天井を見上げる


「この街も最初からこうだった訳じゃない。鉱山で働く者たちで活気があって、朝から晩まで騒がしかった」
「今となってはその活気も懐かしいですけどね」


 さっきの男が店の奥からやってきて話に入ってくる。男は笑顔を張りつけたまま話を続けた。


「改めまして、僕の名前はロワ。僕とミエルはそんな街で警備団をしていたんです。ミエルは剣の達人で、僕は銃の達人。悪い人を沢山捕まえてました」
「だが、そんな日々も長くは続かなかった。突然、『キャンドル社』がこの街にやってきたんだ」


 キャンドル社、世界でも有数の大企業だ。ゲームから墓まで、様々な商品を取り扱っている。テレビを見ていれば一日に3回はCMを見るだろう。


「キャンドル社はこの街の鉱山に目を付けた」
「軍事力にものを言わせて労働者を追い出して、鉱山を独占したんです」
「そこまで強引なことをすれば警察が黙っておらのだろう?」


 ここは荒廃しているが国の自治区内だ。軍事力での強奪があれば警察がやってくる筈。そうフランは考えていた。
 だが、ミエルは首を振る。


「キャンドル社は警察内でも権力があるらしくてな。だから。警察に圧力を掛けていたみたいなんだ」
「こんな辺境な地だから、隠し通せると思ったんじゃないですかね」
「なるほどのう。ん?もしや、ここで碌な食事が出せんのも?」
「キャンドル社の仕業だ。肉や魚の流通を妨害し、治療のための薬も届かない」
「さっきの説明は嘘ではなかったのか」
「失礼ですね。全部本当ですよ」


 話を聞きながらも食事を進めていたフランは完食して手を合わせる。


「この街がさびれている理由は分かった」
「お客さんはなんでこんな街に来たんですか?」
「旅をしておってな。右に左に気の向くままに歩いておったら、この街に辿りついた訳じゃ」
「ならば早く街を出た方がいい。厄介事に巻き込まれる前にな」
「そんな事を言わんでくれ。ここは宿屋なんじゃろ?一泊くらいはさせてくれんか?」


 フランの言葉にロワとミエルは顔を見合わせた。恐らくここまで説明して街を出ないことが意外だったのだろう。


「構わないが、何があっても責任は取れんぞ?」
「こんなボロ店の店員に責任なんぞ求めて求めておらんわい」
「その言い草もどうなんですかね?」
「褒められている気はしないな」
「褒めてはおらんからのう。というか、お主らはこの街を出んのか?」


 聞いた話ではこの街で過ごすのは過酷な筈だ。だが、この2人が街を出ようとする様子は無い。フランの疑問は当然だろう。


「私達はこの街で育ったんだ。簡単に見捨てることはできない」
「そういうことです。難しいことは分かってるんですが、なんとかキャンドル社を追い出せないか……」
「追い出すか。わしには強力できそうにないのう?」
「客に協力してもらおうとは思っていない」
「それよりもお部屋ですね。準備してきますので、少し待っていてくださいね」


 ロワは軽く会釈すると、カウンターの奥へと引っ込んでいった。


「部屋の壁には穴は空いておらんじゃろうな?」
「そんな部屋は提供しない。ちゃんと穴は塞いである」
「空いてはおったんじゃな」


 そう話している中、ノエルはカウンターの端から覗き込んで来る二つの眼を見つける。


「む?あの子はなんじゃ?」
「あの子は私達が保護している子だな」


 すると、カウンターから覗き込んでいた子がフランへと近づいてきた。
 フランは椅子から降りると、しゃがんでその子と視線を合わせた。


「こんにちは。わしの名前はフラン、お主の名前はなんじゃ?」
「……ノエル」


 ノエルと名乗った子は長い銀髪で碧眼の女の子だった。人形のように可愛らしい女の子であり、フランも思わず頭を撫でる。


「よろしくのう、ノエル」
「よろしくおねがいします」


 ノエルはペコリとお辞儀をする。


「可愛らしい子じゃな。じゃが、保護したという事はミエルとロワの間の子ではないんじゃな?」
「わ、私とロワの子!?そんな訳ないだろう!?結婚すらしていないんだぞ!?」
「あんなに仲が良いのに、結婚しとらんのか。お主かロワのどちらかがヘタレなのではないか?」
「余計なお世話だ」


 フランはノエルの脇を持って持ち上げる。


「ほーれ、高い高ーい」
「わーい!」


 持ち上げられたノエルは足をバタバタとさせて大喜びする。
 抱えているフランは楽しそうにしながらも、何かを感じ取ったのか目つきを鋭くする。


「この子、強いのう?」
「分かるのか?」
「ああ。色んな奴を見て来たからのう。見たり触れたりすれば大体の強さは分かる」
「その子には私が剣を、ロワが銃を教えている。そこらのチンピラには負けないだろう」
「なるほどのう」
 

 フランが納得したように頷く。そんな中、ノエルはフランの手の中ではしゃいでいる。


「可愛らしいのう。旅につれていきたいくらいじゃ」
「それは勘弁してくれ」
「ノエルも行きたい!」
「ダメに決まっているだろう。危険すぎる」
「冗談じゃよ。流石にこんな小さな子供を旅には連れていけん」
「えー?ダメ?」


 ノエルが可愛らしく小首をかしげる。フランは本当に連れていきたいという衝動を抑え、ノエルを下ろす。


「ノエルの親はどうした?」
「それは……」


 ミエルは言いにくそうに口ごもる。その様子から色々と察したノエルはそれ以上は聞かずにノエルの頭を撫でる。


「よし、わしの旅の話でもするか」
「ほんと!?聞きたい!」
「私も興味があるな。外の世界など本でしか知らない」
「そうか。なら、まずは巨大な麻薬カルテルと対峙した時の話を───」
「邪魔するぜ!」


 フランが意気揚々と話し始めた瞬間、店の扉が勢いよく開かれた。
 話の腰を折られたフランが不機嫌そうな顔で振り返る。すると、顔に傷がついたガラの悪い男がニヤつきながら店に入ってくるところだった。
 男の格好は顔に反して黒いスーツ姿だった。胸元には趣味が悪くギラギラと光るバッジが付いている。


「おうおう、相変わらずしみったれた店だな?」
「いらっしゃいませ。ご注文は?」


 ミエルは接客とは思えないほどの鋭い目つきで男を睨みつける。


「んー、そうだな?」


 席についた男はメニューも開かずに人差し指を立てる。そして、なんどか振った後にもったいぶったように口を開く。


「分厚いステーキが食いたいな。この店ではなんでも出せるんだよな?」
「あいにくだが肉は品切れだ。あっても貴様には出さんがな」


 2人の間に不穏な空気が流れる。フランは何かを察したのか、ノエルに耳打ちをする。


「奥に隠れておれ」
「うん」


 ノエルは素直に頷くと、奥へと走っていった。すると、男がフランに気が付き驚いたように手を広げる。


「こんなボロい店に客とはねぇ?」
「悪いか?」
「ああ。運が悪かったな」
「どういう意味じゃ?」


 フランの言葉に男は再び顔に気色の悪い笑みを張りつける。


「この街は数時間後に滅びる」
「な!?」


 衝撃的な事実にミエルが驚愕の表情でカウンターを叩く。だが、フランはと言うと、あまり驚いた様子はない。


「ふむ?どういう事か説明して貰おうか?」
「なんだ?やけに冷静じゃないか?」
「慣れておるからのう。で、どういう事じゃ?」
「ふん、面白くねえな。ま、冥途の土産に教えてやっても良いか」


 フランが驚かない様子を見て、男は不機嫌そうに呟く。その様子を見てフランはフードの中で拳を固めた。


「数時間後にキャンドル社のビルから熱線が放出される。この街は焦土と化す訳だな」
「そんなことが許されると思っているのか!?」
「許されるに決まってんだろ!この街に秩序は無い!俺達が何をしようとも誰も咎められないんだよ!」
「そんなことさせるか!」
「テメェらに何ができるって言うんだよ!言ってみろよ!」
「くっ……」


 ミエルと男がカウンターを挟んで睨みあう。
 ミエルと男がヒートアップする中、フランだけは冷静に物事を見据えていた。
 

「1つ聞いて良いか?」
「あ?なんだよ?」
「なんでそんな重要なことをわしらに伝える?何も伝えずに熱線で焼き払えば良かろう?」
「お前たちに話したところで、何もできないだろ?なら、悔しがるところを見た方がお得ってもんだ」
「数時間あれば逃げることは出来るじゃろ?」
「大好きな街を捨てて、無様に逃げる姿を見るのも悪くないだろ?」
「なるほどのう」


 フランは納得したように頷く。


「お主のやりたい事はよーく分かった」
「それは良かった。お前は逃げても良いぜ?この街に愛着なんて無いだろ?」
「それも悪くないのう」


 フランが男に笑顔で近づき肩を組む。


「じゃが、わしにはもっと好きなことがあってのう」
「お?なんだ?」


 フランは笑顔のままで握っていた拳を振り上げる。


「お主のようなクズをぶちのめす事じゃ!」
「へ?」


 男の無防備な顔面にフランの拳がめり込み、壁まで吹き飛ぶ。


「ぬべらっ!?」


 男は訳も分からない様子で、頬を抑えながら立ち上がる。


「貴様っ!何をする!」
「何って殴っただけじゃよ?大丈夫じゃ、手加減したから死んではおらんじゃろ?」
「クソが!下手にでてれば良い気になりやがって!」


 男が懐から拳銃を取り出して、血走った目でフランに向ける。呼吸は荒く今にも引き金を引きそうだ。
 だが、フランは少しも慌てずに手を前に出す。


「そんな玩具でわしと戦おうというのか?」
「玩具だと?この銃は戦車すらも貫通するほどの威力があるんだよ。生身でどうにか出来るわけないろ!」
「御託は良い。撃つならさっさとせい」


 銃を向けられっているフランは臆せず男に歩みを進める。その顔には凶悪な笑みが貼り付いていた。
 男はそんなフランを前に腕が震える。


「な、なんだお前!」


 フランは無言のまま笑みを絶やさずに歩みを進める。


「う、うわああああああ!」(バキュン!)


 男は震える腕で銃の引き金を引く。だが、フランは何事も無かったかのように男へと歩いてくる。


「何かしたかのう?」
「く、来るな!」


 拳銃から立て続けに弾丸は発射される。だが、狙いが反れたわけでもないのに、弾丸がフランを貫いた様子は無い。


「な、なんで無事なんだよ!」
「ふむ?なぜ無事かと問われてものう」


 フランは右手を開けて中の物を見せる。その手の中には撃ちこんだはずの弾丸が入っていた。


「な、なんでお前が弾丸を持っているんだ!?」
「発射された弾丸を受け止めただけじゃ。そんなに難しいことではない」
「難しいとかいうレベルじゃないぞ!人間業じゃないだろう!?」


 思わずミエルからもツッコミが飛んでくる。


「人間業じゃよ。なにせ、わしが出来るんじゃからな」
「いや、そのりくつはおかしい」
「まあ、そういう細かいことは置いといてじゃな」
「置いておくには大きすぎる気がするが?」
「うわあああああああ!?」


 男が半狂乱で銃を乱射する。だが、フランが全ての弾丸を掴み取り、男に見せびらかせるように手に取る。


(カチンッ)
「ひぃっ……」


 遂に拳銃の弾が切れて、男の手から拳銃が滑り落ちる。



「これがキャンドル社の弾丸か、かなり凶悪な形をしておるのう?」


 弾丸を弄びながら、フランが男の目の前で立ち止まる。


「とても弾きやすそうじゃ」


 弄んでいた弾丸をフランが弾く。弾丸は男の横の壁に穴を開けると、そのまま外まで貫通していった。


「ひいっ!?」
「おっと、手元が滑ってしまったわい」


 フランは2発目の弾丸を持って親指に力を込める。


「さてと、お主には色々と聞きたい事があるんじゃ」
「お、お前なんかに喋ることなんかないぞ!」
「なるほどのう。命が惜しくないんじゃな。大した忠誠心じゃ」
「ひぃっ!」


 手に持っていた弾丸を額に押し付けると、男は小さく悲鳴をあげる。


「わ、分かった!なんでも聞いてくれ!」
「なぜこの街を焼き払う?何が目的じゃ?」
「この街をまるごと工場にするんだよ。近くの鉱山から材料を持ってきて、ここで加工する。手間が省けていいだろ?」
「そんなくだらない事で街を破壊しようというのか」
「す、すみません……」


 フランが顔を近づけると、男が怯えたように震える。
 フランは睨みを効かせたまま、質問を続ける。


「熱線を止めるにはどうすれば良い?」
「地下にある動力部に、上層部のカードキーを読み込ませれば止まるはずだ。だが、上層部のカードキーを手に入れて、読み込ませるのまでの時間はないぞ」
「なるほどのう。動力部は地下にあるのか。それだけ分かれば十分じゃ」


 そう言って、フランは男の頭を掴んで強制的に立たせる。
 そして、足を払って男をうつ伏せになるように倒す。


「ぐほっ!?」
「こやつは縛って外にでも放り出しておこう。仮に熱線が来たとしても道連れにできる」
「な!?お前には人の心は無いのか!?」
「これから街が焼き払われることを嬉々として伝えに来るお主よりはマシじゃろ」


 手際よく手と足を縛ったフランは男を肩に担ぐ。


「ま、待ってくれ!助けてくれ!」
「熱線が撃たれなければ助かるじゃろ。知らんけど」


 暴れる男を担ぎながら、フランが店の外に出ていく。ミエルは何が起こったのか分からないと言った様子で呆けている。
 数秒後、手ぶらのフランが再び店に入って来た。


「そういう訳じゃ、このままだとわしらは死ぬみたいじゃぞ」
「なぜそこまで冷静にいられるんだ!?」
「こういうのは初めてではないからのう」


 そう言って、フランは床に置いていたバッグを取り中を漁る。そして、手のひらサイズの板のようなものを取り出した。


「それはなんだ?」
「通信機じゃ。とある者に連絡を取る」
「とある者?」


 フランは通信機を起動すると、手慣れた様子で操作し始めた。そして、耳に当てて何処かにかけ始めた。


(プルルルル……プルルルル……ガチャ)
『フランか。どうした?』



 通信機から男の声が響く。フランはその男と話をし始めた。


「ホウリか。今、サテンという街にいるんじゃが」
『キャンドル社に滅ぼされかけている街だな?』
「話が早くて助かるわい。実はこの街は数時間後に焼き払われるらしいんじゃ」
『分かった。少し待ってろ』


 通信機からカチャカチャという音がしたと思うと、ホウリは再び話し始めた。


『その端末にキャンドル社のビル「ゴッドブラザー」の地図を送った。あと、そこで何を破壊しようが問題無いように手回しをしておく』
「助かる」
『だけど1つだけ注意しろ───』
「人は殺すな、じゃろ?分かっておる」
『なら良い。じゃあな』


 その言葉を最後に通信は途絶えたのだった。


「これで良し」
「今のはなんだ?ホウリとは誰だ?」
「わしが一番頼りにしておる者じゃ。あやつの力があれば、わしが何をしても咎められることは無い」
「待て、何をするつもりだ?」


 ミエルが眉間に皺を寄せると、店の奥から何も知らないロワがやって来た。


「お待たせしました、お部屋の準備が出来ましたよ……って、何かあったんですか?」


 ただならぬ雰囲気を感じ取ったロワは首を傾げる。
 だが、フランはそんな雰囲気に似合わないで話し始めた。


「今日の夕飯について話していただけじゃ。わしはでっかいステーキが食いたい」
「すみません、今はお肉が手に入らなくて……」
「ほれ」


 苦笑いをするロワにフランが白い袋を放る。ロワは袋を受け取ると、袋の口を開けた。


「な!?」


 袋には目一杯の金貨が詰められていた。それを見たロワは目を見開き、持っていた袋を取り落とす。


「な、なんですかコレ!?」
「ステーキの代金じゃよ。それだけあれば、夕食までに1食くらいは用意できるじゃろ」
「だとしても多すぎますよ!」
「数週間ほどまともな食事をしていなくてのう。ステーキが食えるなら、その程度のはした金は安いものじゃ」
「これがはした金ですか。この店の今までの売り上げよりも多いですよ」


 ロワが袋を拾い上げて、中の金貨を摘まみ出す。


「本物ですね」
「偽物を出すほどセコくないわい。その代り、わしが帰ってくるまでに用意しておくんじゃぞ」
「分かりました。街を探せば1食分くらいは用意できるでしょう」
「頼んだぞ」
「そういえば、何処かに出かけるんですか?」
「ああ」


 フランは店の扉に手を掛けながらニヤリと笑う。


「あの邪魔なビルをぶっ壊してくる」


☆   ☆   ☆   ☆


 キャンドル社のビルであるゴッドブラザーの頂上、社長室で一人の男がパソコンの画面を見つめていた。


「この工場は業績が下がっていますねぇ。取り潰しますか」


 パソコンを操作し、見ていた工場の写真に大きくバツマークが付く。それを見て男が笑顔になる。


「しかし、この工場が無くなっても、この街を代わりの工場にすれば業績は何倍も上がる。ふっふっふ、笑いが止まらんな」


 笑みをこぼしながら、男は最上階から街を見下す。
 男の名はビスキュイ。キャンドル社の代表取締役だ。この街を焼き払う決断をしたのもビスキュイである。


「この街を手に入れるのに苦労しましたねぇ。しかし、今日でこの街は私の物になる」


 ビスキュイはデスクの引き出しからワインの瓶を取り出して、日の光にかざす。


「美しい色と香りだ。まさに私を祝福しているようだ」


 ビスキュイはグラスにワインを注ぎ、口に運ぼうとする。瞬間、部屋の中が真っ赤に光って、けたたましいアラームが鳴り響いた。


「何の騒ぎだ!?」


 ビスキュイがパソコンを操作すると、慌てた様子の幹部が画面に映った。


「な、何があった!?」
「襲撃です!何者かがこのビルに攻めてきました!」
「街の連中ですか。なら武装して応戦しなさい。殺しも許可します」
「そ、それが……」


 幹部が顔を引きつらせながら答える。


「既に兵器を使用しているのですが、侵入者の撃退には至っていません」
「何ですって?敵の数はそれほどに多いのですか?」


 街の者が一斉に攻めて来た、ビスキュイはそう考えた。だが、幹部は顔を引きつらせながら顔を横に振る。


「いえ、侵入者は1人です」
「1人に手こずっているのですか?」
「その通りです」
「信じられませんね?」


 キャンドル社は軍事兵器も開発、製造している。この街は時期に焼き払われるから、武器の使用を躊躇することも無い。街人どころか、軍隊が攻めてきても返り討ちに出来るだろう。
 だからこそ、1人相手に苦戦しているという事実を信じられなかったのだ。


「私も目を疑ったのですが本当です。こちらをご覧ください」


 幹部が外の監視カメラの映像に切り替える。
 そこにはビルの外で赤髪のツインテールの女の子が兵士や戦車を素手で破壊している映像があった。


「はーっはっは!このフラン様の敵でないのう!」
「くそー!撃て撃て!」


 兵士たちが隊列を組んで、一斉にフランに向かって発砲する。だが、フランは弾丸を全て躱しきり、瞬きした瞬間に兵士たちに距離を詰めた。


「その程度か!もっとわしを楽しませよ!」


 目を血走らせながら、フランは兵士たちをぶん殴る。
 防具で身を固めていた兵士たちだったが、フランの拳で次々に気絶させられていく。


「怯むな!バズーカで吹き飛ばせ!」


 隊長が命じると、兵士が2人がかりで大きいバズーカを持って来た。


「家すらも吹き飛ばすバズーカだ!粉々になりな!」


 バズーカがしっかりとフランに狙いを付ける。


「撃て!」


 バズーカの弾がフランに向かって真っすぐと飛んでくる。フランは避けようとせずに、バズーカの弾を受ける。
 フランに命中したバズーカの弾は轟音を上げて爆発した。地面からは黒煙があがり、フランが粉々に爆破されただろうと誰もが思うだろう。


「バカが、俺達に逆らうからだ」


 勝利を確信した隊長は警戒を解いて鼻で笑う。だが、


「中々良い兵器じゃな?」
「な、なんだと!?」


 黒煙から現れたのは無傷のフランだった。


「なんでだ!」
「ああ、お主も気になるか」


 隊長が驚いている様子を見てフランは得意気に胸を張る。


「この服は爆破されても焦げすら付かん特注品じゃ。凄いじゃろ?」
「そっちじゃない!なんで爆破されて傷ひとつ付かないんだ!」
「そんなの簡単じゃ。わしが爆破されても傷つかぬほどに丈夫だからじゃ」
「答えになってない!なんで丈夫なのかを聞いているんだ!」
「知っておるか?筋肉は全てを解決するんじゃぞ?」
「もうこいつ嫌!」


 隊長が踵を返してフランから逃げ出す。


「全員撤退!ビルの中に逃げ込むぞ!」
「「「「はっ!」」」」


 兵士たちも一目散にビルの中へと駆けこんでいく。
 フランはそんな兵士たちを追おうとせずに棒立ちで見守る。


「今だ!入口を閉めろ!」


 兵士が全員ビルの中に入ると同時に扉が徐々に閉まっていく。


「この扉はミサイルでも壊れることは無い!どんなに強くても素手で壊そうなんて考えるなよ!」


 隊長が勝ち誇る姿を見ながら、フランは扉が閉まるのを見守る。


「このまま時間が経てばあの女は街ごと焼き払われるだろう。少し焦ったが問題は無いな」


 安心しきったビスキュイはデスクに置いたワイングラスに手を伸ばす。しかし、


「……なんだ?」


 モニターに映る映像に違和感を覚えたビスキュイは再びワイングラスを置く。


「……何か可笑しくないですか?」
「何がですか?」
「ビルの扉が揺れているような?」


 ビスキュイの言う通り、ビルの中から見ている扉が細かく揺れている。


「故障ですか?」
「整備班に伝えておきましょうか?」
「そうしてください」


 扉の調子が悪いだけ、そう考えていたビスキュイ。だが、その甘い考えはすぐに恐怖に塗りつぶされることになった。


「と、扉が開いた!?」


 扉はギチギチという嫌な音を立てながら独りでに開いた。


「なんで扉を開いたんですか!?」
「開けてませんよ!」


 ビスキュイが幹部と言い合っていると、扉を無理矢理こじ開けてフランがビルに入ってくるところだった。


「なんでこじ開けられているんだ!あの扉はそんなに弱いのか!?」
「そんな訳ないですよ!車くらいは簡単にスクラップできますよ!?」


 幹部の言う通り、扉は全ての物体を潰すことが出来るほどに強い力で閉まっていた。だが、フランは簡単に開けている。
 そのことが意味する事は1つ。


「あの者の力が扉を閉める力よりも強いという事!?」
「そんなことがあり得るのか!?」
「あり得る訳ないですよ!もう人間やめてますよ!」


 2人が言い合っている中で、フランは扉をこじ開けながら中に入ってくる。


「さあて、第二ラウンドといくか?」


 目を光らせながらフランがビルの中に入りこんでくる。


「は、早くなんとかしてください!どんなことをしてもかまいません!」
「わ、分かりました!」


 その言葉を最後に幹部との通信は切れた。
 ビスキュイは力なく椅子に座る。そして誰にも聞こえないほど小さく呟いた。


「……いるか?」
「ここに」


 先ほどまで無人だった部屋の中に、突然2メートルを超える大男が音も無く現れた。


「侵入者だ。お前に任せる」
「殺しても?」
「問題無い」
「かしこまりました」


 大男は背中に大剣を背負い、ニヤリと笑った。


「私は屋上で脱出する準備をする。もしもの時はお前を見捨てて逃げるからな」
「分かってる。俺は死合ができれば問題無い」
「じゃあ任せたぞ」


☆   ☆   ☆   ☆


 無理矢理ビルに入ったフランは、壊れて閉まらなくなった扉を背にニヤリと笑う。


「まだ終わりではないじゃろう?」

 
 ビルの入り口は受付のカウンターしかなかった。直径が100mほどもあるエントランスがあって、四方に廊下が続いている。
 フランは周りを見渡すが、中に入った筈の兵士は一人も見当たらない。


「なんじゃ?怖気づいたか?」


 不満そうに口を尖らせると、スマホを取り出して起動する。


「まずは動力部から止めるか」


 スマホにはビルの地図が写っている。


「ここを真っすぐ行って、階段を降りて、直進した後に右に曲がって……ああもう!面倒じゃ!地面ごとぶち抜いて───」
『やめろバカ』


 フランが拳を地面に叩きつけようとした瞬間、携帯からホウリの声が鳴り響いた。


「なんじゃ?心配なのか?」
『ああ心配だ。床をぶち抜いて、エネルギーが溜まった動力部を破壊して、街ごと消し飛ばさないか、心配でたまらない』
「……そんなことないぞ?」
『このスマホは音声を傍受できるのを忘れたか?』


 誰もいない中で、フランがスマホから目を反らす。図星であることが一目で分かるようだ。


『地図を渡した段階でこうなる事は分かってた。ここからは俺がナビゲートする』
「分かった。頼んだぞ」


 フランはスマホの側面から棒状の端末を引っこ抜く。引っこ抜いた端末を輪っかになるように曲げるて、耳に巻きつける。


『聞こえるか?』
「うむ」


 スマホを仕舞ってもホウリと会話をしている。
 フランが耳に巻きつけた物はホウリとの通信端末。スマホを取り出さなくてもホウリと連絡が取れる優れものだ。


「まずは真っすぐに進めばよいのか?」
『ああ』


 フランが正面の廊下を物凄い速さで進む。すると、階段のマークと丈夫そうな扉が見えて来た。


『目の前の扉をぶち破って階段を降りてくれ』
「うむ」


 速度を抑えずに目の前の扉をぶち破る。そしてその勢いのまま、目の前の階段を一気に飛び降りた。


「次は?」
『直進してくれ』


 着地したフランはバイクのような速度で廊下を直進する。


『あと、その先に落とし穴がある。お前を落として始末するつもりなんだろうよ』
「舐められたものじゃな。その程度でわしをどうにかしようとはな」
『ビルの中だと効果力の武器は使えないからな、苦肉の策なんだろうよ。あ、そこで10mくらい跳べ』
「うむ」


 ホウリから言われて、フランは思いっきり跳ぶ。フランは無事に着地すると、そのまま走り出した。


『次の角を右だ』
「うむ」


 このような調子でフランはホウリの指示を受けてビルの中を進んでいく。
 進む事数分、フランはビルの最深部にある数メートルもある巨大な扉の前に立っていた。真っ黒く頑丈そうな扉で普通だったら入ることは叶わないだろう。


『この扉の先が動力部だ』
「ぶち破って良いか?」
『破壊した扉で動力部が壊れる可能性がある。破壊するなら慎重にな』
「うむ」


 フランは扉に手を当てると、ゆっくりと力を込め始める。すると、頑丈そうな扉は飴細工のように簡単に曲がった。


「ふむ、入り口よりは固いのう」
『このビルの生命線だからな。重要だからこそ守りが固いんだろう』
「なるほどのう」


 フランが扉を曲げて動力部の部屋に侵入する。
 部屋の中には5mはあるであろう機械が置いてあり、怪しい赤色の光を発していた。その機械が発している熱の影響で、廊下よりも汗ばむ温度になっている。


「これか。壊して良いのか?」
『事あるごとにぶっ壊そうとするな。どこかに制御盤があるだろうから探してくれ』
「もしかしてこれの事かのう?」


 フランが機械の前にある台座のような物に近づく。液晶パネルやキーボードがついてあり、制御盤っぽさがある。


「それでどうするんじゃ?従業員の話ではキーカードが無いと止められんらしいぞ?」
『スマホをくっつけろ。ハッキングでこいつを止める』
「分かった」


 フランがスマホを制御盤にくっつける。すると、液晶パネルが0と1と埋め尽くされていく。
 待つこと数秒、部屋の中の機械から赤いランプが消えて稼働音も止まった。


「これで止まったのか?」
『ああ。このビルから熱線が出ることはない』
「目的はこれで達したか」
『でも満足してないんだろ?』
「良く分かったのう?」
『何年の付き合いだと思ってる。それくらいは分かる』
「流石じゃのう」


 フランはスマホを取ってポケットにしまう。


「このビルをぶっ壊してくれるわ!」 
『了解。根回しを続けておくから好きにしてくれ。俺は別でやる事があるから通信を切らせてもらう』
「むう、最後までサポートしてくれんのか?」
『どうせ好き勝手に暴れるだけだろ?だったら、俺のサポート無くても大丈夫だ』
「それもそうか」
『少しは粘れや』


 端末からホウリのため息が聞こえ、フランが可笑しそうに笑う。敵の本拠地に乗り込んでいるとは思えないほどに朗らかな雰囲気だ。


『じゃあ切るぞ。何かあれば連絡してくれ』
「うむ」


 ホウリの声が聞こえなくなり、フランは通信機を耳から外してスマホに戻す。


「さてと、暴れるか」


 フランが目に闘争心を宿して部屋から出る。
 瞬間、進行方向の廊下が多数のシャッター封鎖された。反対の方向も同じようにシャッターで封鎖される。


「ふむ?この程度の防壁では時間稼ぎにもならんぞ?」
≪その程度は承知の上だ≫


 フランが首を傾げていると、何処からか声が響いてきた。


≪1人にここまでやられるとはな。まさか動力部まで無効化されるとは思ってもいなかったよ≫
「お主がここの責任者か?」
≪まさか。私はただの幹部ですよ。ビスキュイ様はもうすぐこのビルを飛び立つ予定でした≫
「ビスキュイという奴が黒幕か。そいつをぶっ飛ばせば全部解決じゃな」
≪あなたには無理ですね≫
「わしの力を見ておらんかったのか?この程度の防壁なんて紙を破るくらい容易いぞ?」
≪確かにあなたの力は驚異的です。しかし……≫


 瞬間、天井からノズルが出現して紫色のガスを噴射し始めた。


≪毒ガスの前では無力でしょう≫
「成程のう。頭を使ったでは無いか」
≪余裕そうですね。毒に対する耐性でもあるのでしょうか≫
「その通りじゃよ。わしに毒は聴かん」
≪ふっふっふ、その余裕がいつまで続きますかね?≫
「どういう事じゃ?」
≪この毒ガスは私達が開発した毒です。いくら耐性があっても1分も持たずに命を落とすでしょう。これでビスキュイ様が逃げる必要もなくなったわけです≫


 得意げな幹部の言葉にフランは考える。この者の言葉が本当であれば、そろそろ幹部はここから姿を消す筈だ。
 このビルを壊すことは出来るだろう。だが、首謀者を逃がすのは面白くない。


「つまり、早急にぶっ壊すのが良い訳じゃな」
≪なんですか?遺言なら聞いておきますよ?≫


 敵はこの毒ガスで自分を倒せると確信している。つまり、まだ逃げる準備はしていない筈だ。


「飛び立つ予定ということは、最上階を目指せば良いのか?」
≪何をぶつぶつと言っているのですか?そろそろ体も動かなくなってきたでしょう?≫
「あー、もうそういうのは良い。これ以上のことが無いならわしは行くぞ」
≪行く?何処にですか?≫
「決まっとるじゃろ」


 フランは指を天井に向ける。


「黒幕の所へじゃよ」
≪瀕死のあなたに何が出来るというのですか≫
「お主は勘違いしておるのう?この程度の毒ガスなどわしには効かん」
≪は?強がりですか?≫
「強がりではない。その証拠に……」


 フランは膝を曲げると……


「ふん!」


 思いっきり飛び上がった。


≪な!?≫


 フランは天井をぶち破ると、そのまま次の天井までぶち破る。何枚もの天井をぶち抜いても勢いは落ちることは無く、上昇を続ける。
 勢いは最上階まで続き、フランは最上階の廊下に着地する。


「力加減はバッチリじゃな」
≪な、なんで動ける!あの毒ガスは私達の科学力の結晶だぞ!?≫
「そんなの簡単じゃよ」


 フランは拳を握って勢いよく上に突き出す。


「筋肉は全てを解決する!」
≪筋肉ってそんなに万能なものだっけ!?≫
「さてと、この黒幕は部屋か」


 フランの目の前には派手に装飾された扉があった。無駄に宝石や金箔などがちりばめられており、悪趣味だという感想が先にくるだろう。


「ぶっ壊すのに躊躇いが生まれん良い扉じゃな」


 フランは拳を固めて扉を一気に殴り壊す。木のかけらが部屋の中に散らばる中、フランは部屋の中に入る。
 部屋の中は思ったよりも物が無かった。だだっ広い部屋の中で窓際にパソコンが乗ったデスクがあるだけだった。
 そんなデスクの椅子にフランよりも二回りも大きい男が座っていた。
 フランはデスクに近づき男に話しかける。


「貴様がビスキュイか?」
「そうだ、と言ったらどうする?」


 そう言って男は立ち上がる。デスクで見えなかったが、男は身の丈を越える大剣を背負っている。


「お主がビスキュイじゃと?わしを舐めておるのか?」
「ほう?俺がビスキュイじゃないと?」
「さっき幹部から聞いたが、ビスキュイはわしが来てから逃げる準備をするほどに臆病じゃ」


 フランが鋭い目で男の顔をビシッと突き刺す。


「お主のような好戦的な目をしているとは考えられん」
「……ぷっ、あははははははは!」


 フランの言葉に男が腹を抱えて笑い始める。その様子をフランは訝し気に見る。


「何が可笑しい?」
「あっさり見破るとはな。流石は俺と同類だな」
「じゃな」
「なら、やる事は分かっているな?」


 男は椅子とデスクを蹴り飛ばし、部屋の端まで吹き飛ばす。


「俺の名前はドロップ。大剣使いだ」
「わしの名前はフラン。ファイターじゃ」


 ドロップが背中から大剣を片手で引き抜き肩に乗せる。


「さあ、死合おうか!」


 ドロップが大剣をフランに振り下ろす。フランはステップで右に回避する。
 大剣は床を破砕し、床から下の階が見えるようになる。普通の人が受ければ、鎧を身にまとっていても真っ二つになるだろう。


「これを躱すか!」
「バカが!欠伸が出るくらい鈍いわ!」
「じゃあ、これならどうだ!」

 
 ドロップが片手で大剣を大きく薙ぐ。重量級の武器とは思えないほどに素早い攻撃。そんな攻撃をフランはスウェーで躱す。


「これも躱すか!」
「余裕じゃ。なんならわざと当たってやろうか?」
「減らず口を!」


 ドロップがフランに向かって大剣を突き出す。
 動き回っていたフランだったが、その様子を見て突然立ち止まる。


「……がっかりじゃよ」


 フランが大剣の剣先を指で摘まんで止める。


「なんだと!?」


 ドロップが先ほどと打って変わって狼狽え始める。大剣を引き抜こうと力を入れるが、全く動かない。


「お主程度の相手は旅の間に何百回と相手にした。ただの雑魚じゃ」
「俺が雑魚だと?取り消せぇ!」


 フランの言葉にドロップが顔を赤くして怒りだす。だが、そんなドロップの様子をフランは冷ややかに見つめる。


「断る。さっさと終わらせてビスキュイを探させてもらうぞ」


 フランは摘まんだ大剣を、右足で蹴り砕く。
 空中に舞う大剣のかけらを見ながら、ドロップが呆然と見ている。
 そんなドロップの顔にハイキックで繰りだし、部屋の外の廊下まで吹き飛ばす。


「さてと、あとはビスキュイを探すだけじゃな」


 フランは部屋を見渡すが、ビスキュイの姿は無かった。


「何処に行った?もしかしたら、わしの読みが外れたか?」


 フランが顎に手を当てて考える。すると、耳に微かにローター音が入って来た。


「もしかして屋上か?」


 フランが天井を見上げる。確かにローター音は聞こえた。
 確かめようと思ったフランは再び足に力を入れて跳びあがった。


「せい!」


 天井をぶち破ってフランは屋上にたどり着く。
 そこにはローターが回っているヘリコプターがあった。よく見ると、操縦者と、後ろの席に紫色のスーツを着た男が座っていた。


「あの趣味が悪い奴がビスキュイか」


 フランが駆け出すと、ヘリコプターが飛び始めた。
 ヘリコプターの物凄い風圧を受けながら、フランは飛んでいくヘリコプターを見上げる。
 そんなフランを見下すように、ヘリコプターからビスキュイが顔を出した。


「はっはっは!残念だったな!私の勝ちだ!」
「何が勝ちじゃ!もうこの街を焼き払うことは出来んぞ!」
「だからどうした!私は別の場所で力を蓄える!いつか貴様も殺すから覚悟しておけ!」


 得意げなビスキュイがさっそうとヘリコプターで飛び去っていく。フランはそのヘリコプターを棒立ちで見送る。


「ふう、なんとか命は助かったな」


 ヘリの中でビスキュイが胸を撫でおろす。


「あのガキめ。今度あったら必ず仕留めてやる……」


 目に怒りの火を灯して、ビスキュイが顔を顰める。その表情には嫌悪感や恐怖などの感情が渦巻いていた。


「まずは拠点の確保だな。近くの保有している建物は……」


 ビスキュイがノートパソコンの電源ボタンに手を掛ける。瞬間、ヘリコプターが何かにぶつかったような衝撃が走った。


「な、なにが起こった!?」
「分かりません!」
「わしが教えてやろうか?」


 慌てているビスキュイの耳に聞こえるはずの無い声が入ってくる。
 声がした方向へ恐る恐る向くと、ヘリコプターにしがみついているフランの姿があった。


「あ……、わあああああああ!?」
「どうした?幽霊でもいたか?」


 フランはヘリコプターの扉に手を掛けると力任せに引きはがした。


「ひいっ!?」


 ビスキュイはフランから逃げるように後ずさりをする。先ほどの衝撃はフランがヘリコプターに飛び乗った衝撃だった、ビスキュイはそう察していた。


「会ったばかりで帰るとはつれないではないか。もっと話そうぞ」
「く、来るな!」
「それは無理な相談じゃな」


 フランはビスキュイと操縦者の首根っこを掴む。


「ここじゃなんじゃろ。地面で話をしようぞ」
「じ、地面?」


 フランが言っている意味が分からないのか、ビスキュイの目が点になる。そして、意味が理解できた瞬間、ビスキュイの顔色が一気に青くなる。


「まさか!」
「しっかり捕まっておれよ!」


 フランは2人を掴んだままヘリコプターから飛び出した。


「ぬおおおおおおお!?」
「安心せい!お主らはわしが守ってやる!」
「お前のせいで危険な目に合ってるんだろうがああああああああ!?」



 フランは2人を抱えなおして勢いよく落下する。


「ぬあああああ!死にたくなあああああい!」
「ふん!」


 フランがクレーターを作りながら地面に着地する。


「なんとか着地できたか。お主らは無事か?」


 抱えている2人を見ると、白目を剥いていて気絶していた。
 凄まじい衝撃をフランの足が全て受け止め、抱えられている2人にはダメージは通っていなかった。だが、生身で落下したという恐怖に2人は耐えられなかったのだ。


「ちょっと高い所から落ちただけで気絶とは軟弱じゃな」


 言いがかりとしか言えないような言葉を呟き、フランは空を見上げる。そこにはビスキュイが乗っていたヘリコプターがコントールを失ってビルに突っ込んでいるところだった。
 ビルに突っ込んだヘリコプターはビルを突き破り、激しく爆発した。


「ほー、締めの花火にしては豪華じゃな」


 祭りの気分でフランは燃えるビルを眺める。


「……わたあめとかイカ焼きとか欲しいのう?」


 こうして小さな街の危機は、小さな女の子によって救われたのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 次の日の朝、フランは宿の前でロワ、ミエル、ノエルに見送られていた。


「フランさん、本当にありがとうございました」
「何度お礼を言っても言い足りない。本当に感謝している」
「別に良い。わしはムカつく奴をぶっ飛ばしただけじゃ」


 頭を下げる2人にフランは微笑む。


「じゃが、大変なのはここからじゃろ?危機は去ったとはいえ、この街を復興するには多大な労力がかかるものじゃ」
「そうですね。けど、少しずつでも進めていきますよ」
「私達の大切な故郷だ。必ず復興させてみせる」
「そうか。なら、復興した時にまた訪れるとするか」
「はい!ぜひ!」


 フランは一言も喋っていないノエルの前でしゃがむ。


「ノエルもまたのう」
「…………」


 ノエルは俯いて何も言おうとしない。


「むう、嫌われてしまったか?」
「あ、えっと、そうじゃなくて……」


 ノエルはもじもじと指を絡める。フランはノエルが何かを言おうとしていると察して、微笑みを絶やさずに待ち続ける。
 そして、ノエルは意を決したように口を開いた。


「フランお姉ちゃん!」
「なんじゃ?」
「ノエルも連れてってください!」
「む?なんじゃと?」


 フランはしゃがんだまま、ミエルとロワの方を向く。ミエルとロワは慌てた様子も無く微笑む。


「昨日、ノエルちゃんが急に言い出したんですよ」
「急に言われてもビックリしたぞ」
「お主らは良いのか?」
「本音を言うと言って欲しくはないですよ」
「だが、ノエルの今後を考えると、旅に行かせるのも悪くないと思ってな」


 ミエルは周りを見渡す。そこには人が使わなくなって寂れてしまった建物が多くあった。


「この寂れた街に、あの子を閉じ込めておくのが正しいのか分からなくなってな」
「だから、寂しいですけどフランさんに任せてみないかって、ミエルさんと話してたんです」
「なるほどのう」


 合点が言ったフランは、再びノエルの方に向き直る。


「わしに付いてくるということは、危険な目に合うんじゃぞ。それでも良いのか?」
「うん!ノエル、世界を見てみたい!」
「ならば良いぞ」


 フランがノエルに手を差し出す。


「共に行こう!」
「うん!」


 ノエルが満面の笑みでフランの手を取る。その様子を見ていたロワが小さく手を上げる。


「あの、あっさり決めすぎでは?」
「こんな可愛い子と旅が出来るんじゃぞ?即答するに決まっておるじゃろ」
「そういう物ですかね?」
「それにノエルは強い。足手まといにはならんじゃろう」


 フランはノエルと手を取ったまま立ち上がる。


「この子はわしに任せろ。なに、定期的に里帰りさせるつもりじゃ」
「もっと強くなって帰ってくるね!」
「楽しみにしているね」


 フランとノエルは仲良く手を繋ぎながら街中を進んでいく。そして、振り向くと満面の笑みで手を振った。


「行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」


 大きく手を振ると、ノエルは再びフランと歩き出した。


「ねえねえ、これからどこ行くの?」
「まずはホウリの所じゃな」
「ホウリってフランお姉ちゃんを助けている人だよね?」
「うむ。キャンドル社を潰したのもホウリの助けがあってこそじゃ」
「そうなんだ!会うのが楽しみだね!」
「ふふん、こんなに可愛い子と旅ができることを自慢してやるわい」


 楽しそうに話しながら、フランとノエルは旅立った。
 こうして2人の少女の波乱万丈な旅が始まったのだった。
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