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はじめての夜会③
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ごつごつとした大きな手に包まれて酷く安心した。ルイス様の顔を見ると、優し気な目をして私を見つめてくれている。自然に体が動き、軽快にステップを踏むことができた。
ルイス様と二曲踊り、公爵やら伯爵やらと何曲か踊ったら、息が上がってしまったので休むことにした。
「何か飲み物を取ってくるから、ここで待っていてくれ」
ソファで座って休憩する様にとエスコートされた。貴族のたしなみとはいえ、連続のダンスはきつい。それにリードする人によってこんなに違うとは思わなかった。一番最悪だったのは最後に踊った男性。独りよがりでリズムも悪く危うく足を踏みそうになってしまった。もう二度と踊りたくない。確か名前は……
「おひとりですか」
飲み物を両手に持ち、許可もしていないのに隣に腰かけてきた。そうそうこの人。名前はフランツ・モーヴァ。侯爵令息だ。
無礼な振る舞いに無言を貫いていると、しびれを切らしたのか再びあちらから話しかけてきた。
「公爵夫人とのダンスはとても新鮮でした。とても初々しくて可愛らしい。足を踏まれそうになったのはご愛敬ですね」
とキザったらしくウインクした。
その瞬間なんとも言えない寒気が背中を通り、握りしめていた扇子で思わず殴ってしまいたい衝動にかられた。お前のリードが下手なんだっつーの!
「怯えないで可愛いひと。あんな悪役顔公爵と結婚させられて、お心が痛んでいることでしょう。お可哀そうに。私が慰めてさしあげましょう」
と片方のグラスを差し出してきた。
窮地を救うヒーローを気取って、悦に浸っている。そのまま劇団にでも入ったらどうだろう。
怯えてもないし、心も痛んでない。それに私のルイス様を貶めるなんて絶対に許さない。
もう限界だわ。ルイス様ごめんなさい。
「あなたは何をおっしゃっているのでしょうか。訳の分からないことをペラペラと。私はルイス様を愛しております。他の方なんて目に入りませんわ!」
立ち上がって扇子を突きつけ言ってやった。
「私も愛している」
追撃を仕掛けようとしたところでルイス様が戻ってきた。聞かれてしまった。はしたないと思われたかしら。
「アメリアは私の妻だ。嫌がる女性を無理に誘おうとするなど、紳士の風上にもおけない。これは正式に公爵家から抗議文を出させてもらう」
「いや、嫌がってなど──」
「失せろ」
「ひえっ」
顔面凶器の睨みは凄みがある。侯爵家のお坊ちゃんは、グラスを放り出して一目散に逃げていった。
下は絨毯なのでグラスは割れなかったが、液体が扇子にかかってしまった。ルイス様から頂いたものなのに汚してしまった。落ち込んでいると心配した声が上から降ってきた。
「怪我はなかったか?」
「はい。大丈夫です」
「団長に呼び止められて少し話をしていた。悪かった」
「いえ。無事でしたから良いのです。助けていただき、ありがとうございます」
「それにしても」ルイス様は手で自分の顔を覆った。
「告白は二人きりのときにお願いしたい」
耳が真っ赤になっていてかわいい。じゃなかった。私あのお坊ちゃんになんて言った?ルイス様のことをあい……愛してるって。公衆の面前で。ちらりと横を見ると、何人かの人と目が合ったがすぐに逸らされた。
まさに今、穴があったら入りたい。そしてずっと入っておきたい。
ルイス様と二曲踊り、公爵やら伯爵やらと何曲か踊ったら、息が上がってしまったので休むことにした。
「何か飲み物を取ってくるから、ここで待っていてくれ」
ソファで座って休憩する様にとエスコートされた。貴族のたしなみとはいえ、連続のダンスはきつい。それにリードする人によってこんなに違うとは思わなかった。一番最悪だったのは最後に踊った男性。独りよがりでリズムも悪く危うく足を踏みそうになってしまった。もう二度と踊りたくない。確か名前は……
「おひとりですか」
飲み物を両手に持ち、許可もしていないのに隣に腰かけてきた。そうそうこの人。名前はフランツ・モーヴァ。侯爵令息だ。
無礼な振る舞いに無言を貫いていると、しびれを切らしたのか再びあちらから話しかけてきた。
「公爵夫人とのダンスはとても新鮮でした。とても初々しくて可愛らしい。足を踏まれそうになったのはご愛敬ですね」
とキザったらしくウインクした。
その瞬間なんとも言えない寒気が背中を通り、握りしめていた扇子で思わず殴ってしまいたい衝動にかられた。お前のリードが下手なんだっつーの!
「怯えないで可愛いひと。あんな悪役顔公爵と結婚させられて、お心が痛んでいることでしょう。お可哀そうに。私が慰めてさしあげましょう」
と片方のグラスを差し出してきた。
窮地を救うヒーローを気取って、悦に浸っている。そのまま劇団にでも入ったらどうだろう。
怯えてもないし、心も痛んでない。それに私のルイス様を貶めるなんて絶対に許さない。
もう限界だわ。ルイス様ごめんなさい。
「あなたは何をおっしゃっているのでしょうか。訳の分からないことをペラペラと。私はルイス様を愛しております。他の方なんて目に入りませんわ!」
立ち上がって扇子を突きつけ言ってやった。
「私も愛している」
追撃を仕掛けようとしたところでルイス様が戻ってきた。聞かれてしまった。はしたないと思われたかしら。
「アメリアは私の妻だ。嫌がる女性を無理に誘おうとするなど、紳士の風上にもおけない。これは正式に公爵家から抗議文を出させてもらう」
「いや、嫌がってなど──」
「失せろ」
「ひえっ」
顔面凶器の睨みは凄みがある。侯爵家のお坊ちゃんは、グラスを放り出して一目散に逃げていった。
下は絨毯なのでグラスは割れなかったが、液体が扇子にかかってしまった。ルイス様から頂いたものなのに汚してしまった。落ち込んでいると心配した声が上から降ってきた。
「怪我はなかったか?」
「はい。大丈夫です」
「団長に呼び止められて少し話をしていた。悪かった」
「いえ。無事でしたから良いのです。助けていただき、ありがとうございます」
「それにしても」ルイス様は手で自分の顔を覆った。
「告白は二人きりのときにお願いしたい」
耳が真っ赤になっていてかわいい。じゃなかった。私あのお坊ちゃんになんて言った?ルイス様のことをあい……愛してるって。公衆の面前で。ちらりと横を見ると、何人かの人と目が合ったがすぐに逸らされた。
まさに今、穴があったら入りたい。そしてずっと入っておきたい。
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