異世界転生したら顔面凶器の公爵に愛されました

牧野きうい

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騎士団へ突撃

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「なんの用? ルイスはまだ帰って来ないよ。俺こう見えて忙しいんだけど」

 顔を合わせるなりこの態度。貴族たるもの、外面くらい保ってはいかがだろうか。そうぶつけてやろうと思ったけど、忙しいのは間違いないだろうと堪えた。

「例の件、捜査は進んでおりますの?」

 公爵家で話した内容を知る人数が増えてもと思い、今日のお供はあの時傍に控えていたヘレナだ。

「んー。芳しくないね。物証もあの時燃えて炭になった木片ひとつだ。参考人も証言を聞けるほどには回復していない」
「あれの摂取方法としては、つまり鼻から入れるということですわよね。もしかして形を変えて口から摂取することも可能なのではありませんか?」
「どういう意味かな?」

 ノックス様の目が一瞬にして真剣なものに変わった。お見せしたいものがありますのと前置きして、あるものを取り出した。

「扇子?」
「はい。ノックス団長は夜会の時、わたくしに絡んできた輩をご存じ?」
「ああ。モーヴァ家の令息だろ。ルイスから聞いてる。侯爵家に抗議をしたとか」
「ええ。それで侯爵からは丁寧な謝罪を頂いておりますわ」

 侯爵からは謝罪と共に、もう息子は近づかせない、と約束をして頂いている。

「で、その扇子と何の関係が?」
「この扇子もですが、もっと重要なのはこちらです」

 フランツ・モーヴァが私に近づいてきた時、持っていた飲み物に何かが混入されていたのは間違いない。いまは痕跡がなくなっているが、メイドが倒れるほどの強い香り。扇子は閉じられていたとは言え、長く持ち歩いていた私にその症状が無かったのは何故なのか。

「扇子袋?」

 あの後すぐに帰宅することになって、無意識で袋に入れていたらしい。それで私には何も無かったようだった。それに気が付いた時、慌てて扇子袋のありかを探した。盲点だったようで、誰も手をつけていなかったのが幸いした。

「ノックス団長も匂いはご存じなのでしょう? これを確かめて頂けませんか」

 ノックス様は匂いを吸い過ぎないよう、慎重に確認している。

「アルコールの香りも混ざっているが、似ているな。これを預からせてもらってもいいだろうか」
「もちろんですわ」

 やはり多少なりとも匂いが移っていたようだ。ノックス様は盛大なため息をついて、ソファーに体を沈めた。

「完全に狙われていたんじゃないか。よく無事だったな」
「そうみたいですわね。この外見がそんなに魅力的なのでしょうか」
他人事ひとごとのようだな」

 どきり。どうしてこう油断してしまうのだろう。私の馬鹿。

「とにかくもう帰れ。そしてそのまま家に籠ってろ。君に何かあったら俺がルイスに殺される」

 接近禁止命令も出ているので大丈夫だろうとは思うけど、用心に越したことはないわね。

「分かりました。それではごきげんよう」

 これで少しでもルイス様のお役に立てたかしら。早くルイス様に会いたい。
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