異世界転生したら顔面凶器の公爵に愛されました

ノックス団長の疑問

　はあ、ともう一度大きなため息を吐く。
　アメリアの持ってきた物証は、事件解決に向けて何らかの進展をもたらすだろう。心境はとても複雑だが、難航していたのは事実で、有難いと言わざるを得ない。

　ルイスとアメリアが結婚したのは、一年と少し前。ルイスが熱望して二人の婚姻が整ったのだ。
　アメリアの名前は前から知っていた。従弟が学園時代から熱を上げていたからだ。ファンクラブなるものに入り、抜け駆け禁止の協定を結んでいたという。

　結婚式の時初めて顔を合わせた。確かに美人だが顔の表情は乏しく、ルイスとの結婚は喜んでいる風でも嫌がっている風でもなかった。

　事故でアメリアの意識が無かった時は、ルイスの気もそぞろで、訓練中に怪我をしそうだったので強引に休ませた。彼女が目覚めたのに、何かあったのか気落ちして仕事を詰め込み、家に帰ろうとしなかった。
　ルイスはいい男なのになぜ受け入れてやらないんだ、と勝手に憤り、前からあった噂を信じてキツく当たった。

　しかし接してみれば、言葉遣いは丁寧だが貴族令嬢らしくない上に、ルイスを慕っているという。しかも何かと聡い。

　だがこんなこと考えても仕方がない。気に入らないが、ルイスが幸せであればそれでいいのだ。

　気を引き締め直し、部下を二人呼んだ。

「フランツ・モーヴァを重要参考人として連行する。証拠隠ぺいの可能性がある為、先触れは出さない」
「はっ！」

　移動しながら説明すると言い、急ぎ出発した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「いない？」

　モーヴァ侯爵家に着いたのはいいが、執事によるとフランツは不在と言う。

「はい。お祖父さまの家に行くとおっしゃって出かけた後、しばらくあちらへ滞在するとの連絡をもらいました」

　日付を確認すると夜会のすぐ後からで、既に一か月以上経っている。
　フランツの祖父の家か。あまり行きたくはないが、仕方がない。ここから直接向かおう。

　執事に聞かれないよう、部下たちに耳打ちした。

「知らせがフランツに行く場合を考えて、私がとりあえず単騎で向かう。一人は侯爵に理由を説明してフランツの部屋を徹底的に調べろ。責任は私が持つ。もう一人はここと前侯爵邸に応援をよこすよう伝令を頼む」
「分かりました」
「お任せください」

　前侯爵の元に赴くのは気が重いが、これも職務のうちである。
　ただ洗練潔白なあの方が、元々クズで有名なフランツなど庇うだろうか。身内びいきをするお方だったのか。長期滞在だけでも不信に思うに違いないのだが。
　疑問を振り払い、馬に跨る。行ってみればきっと分かる。そう願いながら馬の腹を蹴った。