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再びのわたちゃん
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道が悪いのか、馬車が古いのか、それとも両方なのか。ひっきりなしに馬車が揺れ、ギシギシと音を立てている。カーブで傾いたりするが、よろけたりするものかと背筋を伸ばし、無表情で前を見据えて座っていた。
「嬢ちゃん根性あるな」
私を攫ったボス的大男が話しかけてくる。同乗しているのはこの男だけだ。私自身拘束などはされていないが、馬車の外は見えないようになっている。どこへ向かっているかはまったく分からない。だけどかなりのスピードが出ているのは確かだ。
「まあ、静かな方が俺も助かるがな」
勝手に話しかけてくるのはいいが、一切反応を見せないと決めている。
「その顔でどれだけの男を手玉に取ってきたんだよ」
無視無視。顔は生まれつきだし私はルイス様一筋。殴りたいのを我慢して拳を強く握る。そもそも力の弱い女の子が大男になど一発も入れられないだろう。
「特技は男を狂わせることってか? うん?」
そう言われた時、心臓が大きく音をたてた。息も段々と荒くなり、苦しくなってくる。
『私が悪いんじゃない。君が私を狂わせるんだ』
『君がいけないんだよ。私に笑いかけたりするから』
違う。違う。私そんなつもりじゃない。そんなことしてない。私が悪いの?誰か助けて。ルイス様……。
「お、おい! 大丈夫かよ」
大男の妙に焦った声が聞こえた気がしたが、そのまま意識が遠ざかっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アメリアさん、ご無沙汰しております」
意識が浮上し目を開けた。目の前に、白い肌で性別の分からない人物が佇んでいた。周りに黄色いオーラを纏っている。どこかで見たような……。
「久しぶりね、わたちゃん」
「綿に見えないでしょう!? ですからそのわたちゃんというのはやm「わたちゃん変わってないわね」
「……もうそれで結構です」
勝った!
「それで? また会えるとも思ってなかったし、なんでこのタイミング?」
「アメリアさんには……いえ、前のアメリアさんには辛い記憶がありました」
それはたぶん、気を失う直前に襲ってきたフラッシュバック。大男の一言が呼び水となり、心と体のバランスを崩した。
アメリアは成人した後すぐ、ある男に攫われた。不審な馬車が猛スピードで郊外の街道を駆け抜けていたところを、怪しく思ったあるお方が私兵を出してくれた。そして速やかに救出してもらい、大事には至らなかった。またその事件が広まらないように手を打ってくれたのもそのお方である。
しかし馬車の中で繰り返し言われた言葉が、呪いのように心のしこりとなって残った。自分の罪を棚に上げ、一方的にアメリアが原因とばかりに責めたのだ。
「そしてアメリアさんは表情を無くしました」
美人に生まれてもいい事ばかりじゃないと。アメリア……。
「その記憶はあえて戻しませんでした。私が必要ないと思ったからです。それがこのようなことになってしまい、お詫びのしようもございません」
私はたぶん微妙な顔をしていると思う。それを読み取ったのかわたちゃんが口を開いた。
「私の仕事は世界の基盤を作ることです。著しく歪んだ場合など、多少の調整をする時はあります。ですが基本的に後から手を加えてはいけないと決まっております」
分かってる。普通に暮らしていれば必要のない記憶だもの。事件を知っている者も少ない。まさかまた誘拐事件が起こるとも思わず、戻されていない筈の記憶が呼び起こされた。それほど酷いトラウマだったのだろう。いま事情を知って客観的になれたのが幸いだ。記憶があっても、実際経験していない私には耐えられる。
「絵実に入ったアメリアはそれを覚えてるの?」
「いえ。消しました」
「そう。それならこれで勘弁してあげる!」
私はわたちゃんの鳩尾を一発殴った。実体があると場所が分かりやすくていい。
「ほんっとにあなたは乱暴ですね」
「お褒めの言葉をどうも。全然効いていないくせに」
「まあそうですね」
「わたちゃんが全部悪い訳じゃないのは分かってるけど、気が済まなかったの」
「ええ。お気持ちはよく理解できます」
アメリア。少しだけすっきりしたわよ。アメリアも嫌なことは全部忘れてそちらで幸せになってね。
「さて。そろそろお時間です。あなたにとって辛い場所に戻さなければいけませんが、準備はよろしいですか」
「大丈夫よ。なんとかしてみせるわ」
「それでこそ山田さんです。もう会うこともないでしょうが、お元気で」
「私はアメリアよ。わたちゃん、またね」
「嬢ちゃん根性あるな」
私を攫ったボス的大男が話しかけてくる。同乗しているのはこの男だけだ。私自身拘束などはされていないが、馬車の外は見えないようになっている。どこへ向かっているかはまったく分からない。だけどかなりのスピードが出ているのは確かだ。
「まあ、静かな方が俺も助かるがな」
勝手に話しかけてくるのはいいが、一切反応を見せないと決めている。
「その顔でどれだけの男を手玉に取ってきたんだよ」
無視無視。顔は生まれつきだし私はルイス様一筋。殴りたいのを我慢して拳を強く握る。そもそも力の弱い女の子が大男になど一発も入れられないだろう。
「特技は男を狂わせることってか? うん?」
そう言われた時、心臓が大きく音をたてた。息も段々と荒くなり、苦しくなってくる。
『私が悪いんじゃない。君が私を狂わせるんだ』
『君がいけないんだよ。私に笑いかけたりするから』
違う。違う。私そんなつもりじゃない。そんなことしてない。私が悪いの?誰か助けて。ルイス様……。
「お、おい! 大丈夫かよ」
大男の妙に焦った声が聞こえた気がしたが、そのまま意識が遠ざかっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アメリアさん、ご無沙汰しております」
意識が浮上し目を開けた。目の前に、白い肌で性別の分からない人物が佇んでいた。周りに黄色いオーラを纏っている。どこかで見たような……。
「久しぶりね、わたちゃん」
「綿に見えないでしょう!? ですからそのわたちゃんというのはやm「わたちゃん変わってないわね」
「……もうそれで結構です」
勝った!
「それで? また会えるとも思ってなかったし、なんでこのタイミング?」
「アメリアさんには……いえ、前のアメリアさんには辛い記憶がありました」
それはたぶん、気を失う直前に襲ってきたフラッシュバック。大男の一言が呼び水となり、心と体のバランスを崩した。
アメリアは成人した後すぐ、ある男に攫われた。不審な馬車が猛スピードで郊外の街道を駆け抜けていたところを、怪しく思ったあるお方が私兵を出してくれた。そして速やかに救出してもらい、大事には至らなかった。またその事件が広まらないように手を打ってくれたのもそのお方である。
しかし馬車の中で繰り返し言われた言葉が、呪いのように心のしこりとなって残った。自分の罪を棚に上げ、一方的にアメリアが原因とばかりに責めたのだ。
「そしてアメリアさんは表情を無くしました」
美人に生まれてもいい事ばかりじゃないと。アメリア……。
「その記憶はあえて戻しませんでした。私が必要ないと思ったからです。それがこのようなことになってしまい、お詫びのしようもございません」
私はたぶん微妙な顔をしていると思う。それを読み取ったのかわたちゃんが口を開いた。
「私の仕事は世界の基盤を作ることです。著しく歪んだ場合など、多少の調整をする時はあります。ですが基本的に後から手を加えてはいけないと決まっております」
分かってる。普通に暮らしていれば必要のない記憶だもの。事件を知っている者も少ない。まさかまた誘拐事件が起こるとも思わず、戻されていない筈の記憶が呼び起こされた。それほど酷いトラウマだったのだろう。いま事情を知って客観的になれたのが幸いだ。記憶があっても、実際経験していない私には耐えられる。
「絵実に入ったアメリアはそれを覚えてるの?」
「いえ。消しました」
「そう。それならこれで勘弁してあげる!」
私はわたちゃんの鳩尾を一発殴った。実体があると場所が分かりやすくていい。
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「お褒めの言葉をどうも。全然効いていないくせに」
「まあそうですね」
「わたちゃんが全部悪い訳じゃないのは分かってるけど、気が済まなかったの」
「ええ。お気持ちはよく理解できます」
アメリア。少しだけすっきりしたわよ。アメリアも嫌なことは全部忘れてそちらで幸せになってね。
「さて。そろそろお時間です。あなたにとって辛い場所に戻さなければいけませんが、準備はよろしいですか」
「大丈夫よ。なんとかしてみせるわ」
「それでこそ山田さんです。もう会うこともないでしょうが、お元気で」
「私はアメリアよ。わたちゃん、またね」
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