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【#13】吸血王の味見VS馬鹿紙一重?
しおりを挟む食堂大崩壊。
といってもメインの大ホールは無事だが、由利亜嬢達「称号持ち」専用の食堂が見事に綺麗サッパリになった。
「・・・アーウィン!」
あぁ、そうでしたね。この見るからに人の好さそうな顔して腹が黒そうな男、先輩A、本名、アーウィン・スチュアート。地球で言う人体実験大好きマッドサイエンティストだ。実に関わりたくない地球人種だ。如何せん正気の沙汰ではないので、話が通じない。
「すいませんクイーン。本日、そちらのドウドミールの十字架を押収しまして、気になって解放させてしまいましてえぇ」
「馬鹿じゃないの!? やるなら自宅でやんなさいよ!?」
「嫌ですよそんなの。おうちが汚れるじゃないですかぁ」
あざけ笑うアーウィン。
ウザッ。
喜多氏とジンジャーが同じ表情だ。
「おまえは被害を考えないのか!?」
「だからきちんと、業務終業後にやったんじゃないですか」
「おまっ」
「そうしたら、貴方達がいて。さすが、墓守。血に飢えているのか、似た種族なのか。クイーンの元に吸い寄せられるように向かいましてね?」
「? どういうことだ?」
「・・・・・・」
喜多氏は顎に手をやった。何か考えているようだ。
「骨はただの骨だけど、血肉が通ってる骨もある」
その喜多氏のつぶやきに、ジンジャーは眉根を寄せた。
「どういうことだよ」
「・・・あいつを噛んだのと同時に舐めた。そしたら血の味がしたの」
「骨なのにか」
「そう。地球の概念で考えないことね。骨という言葉は同じでも、『同じ性質の骨ではない』ということね。データ登録、追加だわ」
「はぁ~・・・、そうだったわ、元地球人だからついここの常識で考えちまうな」
「ふふ、そうだね」
微笑んだ後、ギロリと喜多氏はアーウィンを睨みつけた。
「このことは、ワン様に報告させて貰う。ジンジャーが怪我を負ったわ」
ジンジャーの左腕が赤黒い血で固まっている。
「俺は大丈夫だ」
喜多はジンジャーからトウヤきゅんを受け取る。
「癒しの力が追いついてない、そうでしょ」
「・・・それは」
緑人の血を持つ者は至極癒しの能力に長けている。かつ人狼の血も混ざれば自然回復の鬼だろう。だが、現実、ジンジャーの腕は回復していない。
「それは彼が弱いだけですよ」
ピシッ。
喜多氏の雰囲気が瞬時に変わる。
「大地の血と力に恵まれながら、その力を使いこなせていない。それは何故か?」
「・・・・・・」
な、何だろう。き、喜多氏の様子が・・・。
「いつまでもクイーンの傍で甘えちゃんしてる狼に成り下がっているからで・・・」
アーウィンのすぐ目前に、怒りの形相の喜多氏の拳が振るわれる。
「ダメだ喜多」
しかしその拳は、ジンジャーに止められる。
「ジンっ!?」
「止めろ喜多。彼は称号持ちだ。おまえと同じ、ただ者じゃない」
ジンジャーは鼻をスンとひくつかせると、今度は喜多氏に変わって、鋭利な目つきでアーウィンを見下ろした。
「・・・おまえ、何か隠し持ってるな? 喜多が危害を加えようもんなら、なんか発動するんだろう? 正当防衛、だってな?」
にひっ。
アーウィンは凄く気持ち悪い笑みをした。いや本当にキモイ。
「ちぇーっ。クイーンの舌に効くのか試したい薬があったのに・・・」
ジンジャーはすぐさま喜多氏をかき抱き、アーウィンから離れた。
「あーあ、勘と鼻のいい奴は嫌いだね」
「ふーん? じゃぁ由利亜のこと嫌いなのね?」
「!?」
「だって、あの子、一番『勘』に優れている、いえ恵まれてるもの。だからあんたとは関わらない」
「・・・・・・」
アーウィンが、徐にポケットに手を、何か、を出そうとした。
「なぁに? 由利亜の話?」
「!?」
「由利亜っ!?」
ここで何と、由利亜嬢が参戦!?
あっれぇ? おかしいな、わたくしの探知機が反応しなかったのか?
「物凄い音がして来てみたら」
にこっと由利亜嬢はアーウィンに微笑む。
「貴方がしたの?」
目が、顔が、声が。何一つ、笑ってはいなかった。
「ああああああああのおおおおれは」
「んー?」
「つい、出来心で・・・」
「由利亜の大好きな食堂。いつも美味しい料理を作ってくれる喜多さん」
「・・・はい」
「・・・先輩は、由利亜の大事な大切なもの、全部壊しちゃった」
お、おや?
さっきまでえらっそうにふんぞりかえっていたアーウィンの顔が、青ざめていく。
「・・・先輩は由利亜のこと、本当に嫌いなんですね」
「違いま・・・ヒッ」
アーウィンの、あと少しでキスしてしまうかぐらいの超至近距離に、由利亜の顔が。
「・・・知ってる? 由利亜に『嘘』は、つけないんだよ?」
「っ!? ガハッ!」
突然、アーウィンが左胸を押さえて、蹲ったのだ。一体何が起きているのか!?
「・・・・・・」
平然と、ただ見下ろす由利亜嬢がこ、怖いのはわたくしだけか。
「はーぁい、そこまでだよ由利亜」
おっとぉ!
続いてはワンの登場だ。ったく、どの子もわたくしの探知機を搔い潜って登場しないで欲しいんだがっ!
「! ワン様ぁ!?」
由利亜嬢の目がハートに見えたのは気のせいか。
「由利亜、今回の件は許して欲し・・・」
「許す♡」
早いなおい。
「は、話が早くて助かるよ。だ、から、彼を助けてあげてくれないかな?」
ワンが指さす方に、いまだ床で悶絶し苦しむアーウィンの姿が。
「あ、はぁーい♡」
「かはっ、はぁ、はぁ・・・」
何が起きていたかは分からなかったが、アーウィンは苦しみから解放されたようだ。
「ワン様」
喜多氏も駆け寄る。
「ごめんごめん。今回は僕が悪かった」
「え? どういうことですかワン様♡?」
あ、あの。気のせいでなければ、由利亜嬢があざと可愛くなっている気がする。さっきまで凄い殺気満々だったのに。
「その十字架を研究にって、彼に渡したのは僕なんだ、本当にごめんよ」
「許します♡」
だから早いんだって。
ワンは起き上がるアーウィンを見下ろす。
「人選ミス、だったかアーウィン?」
「ちがっ、もうしわけ・・・」
『僕を落胆させないでくれアーウィン』
プチン。
ワンの圧に耐えかねたアーウィンは白目に倒れ伏した。
「あぁん♡ ワン様しゅてきぃ♡」
「喜多、それにジンジャー」
「はい」
「巻き込んで悪かったね。この詫びはいずれ」
喜多氏はぶんぶんと頭を左右に振った。
「いえそんな!」
ジンジャーは硬い会釈をする。
「おおお気になさらず・・・」
ふとワンはジンジャーの損傷した左腕を見やる。
「・・・ジンジャー、怪我を手当てしよう、来て」
「えっ」
「喜多と由利亜は解散。明日も仕事だろう?」
「あっ、はぁい♡」
「あ・・・」
何か言いかけた喜多に、ワンはウインクして見せる。
「彼のことは任せて。君はトウヤを頼むよ」
トウヤきゅんの反応が無くなってきたなぁと思ったら、いつの間にか喜多氏の胸の中でスヤスヤ寝息を立てている。
「・・・分かりました」
「うん。・・・ミュール」
「はいな」
瞬時に右腕のミュール召喚。
「悪いが、後は任せていいかな」
「いいともー!」
元気な声が、いったんこの場を収めることとなった。
【Profile.No.000687. 喜多遊子 称号:吸血王の味見】
【Profile.No.000117. アーウィン・スチュアート 称号:馬鹿紙一重】
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