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第一章
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【一】
「おはようございます、ようこそ。熊人が誇る我が一族、ベルモンド・ファミリアへ」
「・・・えぇ」
俺は何とか笑顔を取り繕う。
熊人の代表一族である「ベルモンド」。その王族である王、レディアンに腰を抱かれた。ムキムキマッチョな人種が多いのが熊人族なのに、王族はどうしてこうも別嬪さんなのか。銀髪、琥珀の瞳に「俺」が映る。
この日の為に「仕立て上げられた」俺が。
「嬉しいよレン。婚約してくれるなんて」
「違います。婚約を”考える”とお伝えしただけです。まだお付き合いもしてません」
「っくぅ~! そのつれない所が堪らなく好きだよレンよ」
「アァ、ソウデスカ。お・・・ボクは貴方様が綺麗過ぎて、目に毒なので。一人にしてもらってもいいですか?」
俺は単なる”影武者”。
この度、熊人族王と婚約する運びとなっているヒト族で有名な財閥クジョウ、そのご子息であらせられる”レン・クジョウ”様。
そのお方の”影武者”をしているのだ。
本物様は、真に愛する人と愛の逃避行中ナウ。契約内容は、その逃避行中の時間稼ぎだ。俺がレン・クジョウを演じて、本物は愛する男と既成事実を作って帰ってきて、なんということでしょうの婚約破棄。というのが目的である。こんな王族に嫁ぐことができるのに、真実の愛を選んだというわけだ。
何故俺が選ばれたか。
単に容姿が似ているだけ。
孤児の貧乏な俺がたまたまレン様に見つけられ、バッリバリの花嫁修行を受けさせられて、こんなドレスに着飾れて。人生何が起こるか分からないってまさにこういうことだ。
俺は「レン・クジョウ」を演じている。
俺の仕事は二つ。
彼らが既成事実を作って帰ってくるまでの時間稼ぎと、レディアン王に嫌われること勿論クジョウの名に恥じない程度に、だ。
「ん? どうしたレン」
「・・・いいえ、別に」
俺は耐えるのだ。耐え続けるのだ。
「相変わらず可愛いなぁ」
「・・・陛下の美貌に比べたら・・・」
クソですわ、なんて言えない。
この腰にいやらしい手が回るのも慣れないといけないのか。
もんず。
「っ!?」
お尻を揉まれた。
にこにこと微笑む王。
このセクハラ王がぁ!
今すぐぶん殴りたい。
【半年前】
俺の名前はリョウ、リョウ・リンドウ。孤児院出身貧乏ヒト族だ。そんな俺のモットーは、働かざる者食うべからず。だから体が元気なうちは働く。休みは週一日でいい。お世話になった孤児院に恩返しをすべく、毎日働く。夕方から夜にかけて娼館の厨房兼娼婦。メインは厨房担当だけどね。こんな色気のないガサツな俺じゃあまともに客が取れないことは目に見えている。娼婦の姉さんからは恥じらいがない、可愛げがない、歳不相応だとレッテルの太鼓判を貰っている。
「ねぇ聞いた!? ゆめこが狐人の名家に貰われてったってよ!」
「えぇーっ!? あのどんくさい子が!?」
「そこがストライクだったんでしょ? お客さん種族問わず色んな趣味に性癖があるんだからぁ」
「そのどこのニーズに染めるかも必勝法よね~?」
「えー。あたしは雌に抱かれたい。もふもふの巨乳美女を捕まえるわぁ」
「おっぱい好きねぇあんたは」
娼館の掃除をしていると、娼婦の裏側というか、ヒト族の娼婦達のトークが盛り上がりをみせる。如何せんヒト族の方が獣人受けにいい。ヒト族が見目麗しく生まれることが多いからだ。何でも、脆くか弱いヒト族は、強き獣人族に護って貰うのが理であり、それ故に獣人に好かれる為の美貌、男女問わず妊娠できる受胎能力を持った肉体を持って生まれる。まぁでも神社で「受胎の実」を貰って体内に仕込まないと妊娠はできないけど、その実があればできるらしい。それが神のギフトであり、もう一つ、個々で貰える”能力”がある。それは多種多様で本人しか分からないが、獣人界隈ではヒト族のその生まれながらの”恩恵”により、神の子、つまり神子だという認識があるらしい。
俺の場合、ギフトはバ怪力・・・だった。どうだ? 可愛くないだろう? 神子も獣人のワンパン喰らったらぶっ飛んで瀕死か即死だけど、俺は死にやしねぇ。むしろ返り討ちにできる自信もある。
怪力男。
それが俺の別名。だから娼婦の皆のボディガードも担っているので賃金もいい。なら別にその名も悪くないと思ってる。
「さぁ、開店三十分前よー? 下の口を十分に濡らしておきなさぁい?」
「はぁーい」
「あ、ねぇ、この間通販でごっつい肉棒買ってみたんだけど、味わってみない? 凄くヨかったのよ」
「貸して」
「どれどれ? オレもみたいー」
初めてこういう会話聞いた時ドン引きしたけど、こんな会話が日常だもんな。
「リョウ。あんたは厨房だよ」
女将のいつもの台詞。
「分かってるって」
掃除道具をしまって、とっとと厨房に入った。
「?」
ふと厨房に、見知らぬ男がいた。紅色の髪を肩に結い、碧い瞳の・・・あのもふもふのまぁるい形のお耳は間違いなく”熊人族”だ。俺の仕込み中の野菜のぬか漬けを、まさかのつまみ食い。
「あっ、ちょっと!」
熊人族はゴリマッチョが多いけど、こんな線は細いけどしっかりした肉付体躯の雄もいるのだと再認識。ヒト族に負けない美貌をお持ちだ。
「んぐ。あ、ごめんごめん。めっちゃ美味しそうだったから、実際ほんとに美味いな」
ヤッタ! 獣人の口に合うよう研究して頑張った甲斐があった。
「でしょう!? 獣人さんの口に合うよういっろいろブレンドして! あっ、この子は一か月前から付けたものですから、さらに美味しいはず! だから・・・」
壺の中身が本当にものけのからだとは。
「・・・自信を持って今日のお客様の前菜に出そうと思って準備してたものなのに・・・どんだけ食べたんですかもぅ」
壺の中で折角付けたきゅうりとにんじんがさようなら、ごそっと無くなっている。
「あ、マジかぁ、悪いことしちゃったなぁ。おれ好き嫌い激しくて偏食なんだけど、こんなに食べれたの初めてでさぁ」
そ、それは素直に嬉しい。
「まぁおれお客なんだけど」
うん、でしょうね。お金、持ってそうだもんね。でもさ、でもさ。
「お客様がどうしてこんな厨房に・・・」
「あぁっ! ディラン様!?」
女将が目を丸くして早々と歩み寄った。
「まぁお久しぶりにございます! どうしてこんな所に!?」
そうよね。同じこと、聞くよね。
「えー、お腹空いちゃってさぁ。ずっと仕事してて食べて無くて、ごめんね☆つまみ食いしちゃって」
ここでてへぺろ~☆はズルくね?
「あぁいいんですそんなもの!」
そうよな。女将にとって俺の丹精込めて作った漬物はどうせ”そんなもの”だわ。
「でも、この子曰く、おれが今日の夕食に出す予定だった前菜、ほとんど食べちゃったみたいでさ」
ギッと女将に睨まれた。
「前菜なんて、他に作れるでしょう? 別のモノを用意しなさい。大変申し訳ございませんそんなご無礼なことを!」
女将がめちゃ頭ペコペコ下げるってぇことは、相当なビップな客なのか。ヤバい。こんな俺を雇ってくれるんだ、クビにされたら困る。女将を立てないと。
俺は深々と頭を下げた。
「失言申し上げたこと、大変申し訳ございませんでした。代用ございますのでお気になさらないでください」
何故かくいっと、顎を持ち上げられた。
碧い瞳が俺を映す。ほんとに顔面偏差値高い熊人だ。
「ん~? 誰かに似てるなぁ・・・誰だっけなぁ・・・うぅ~ん」
「・・・?」
俺はこの人の知り合いにどうやら似てるらしい。
「ですので! どうぞディラン様! お詫びにこの子に特別なお夕食を作らせますので! 分かったわねリョウ。取り掛かりなさい」
「はい女将」
豪華にしなさいとばかりの、無言の目力。
「えー楽しみ。久しぶりに遊びに来たらこの子新人? 女将、この子は表に出ないの?」
せっせと準備に取り掛かる俺を前に、この女将の顔である。
「オホホ。この子ったら、神のギフトが怪力なんですのよ? 孤児院育ちで何も教養もない野良猫も同然。お店に出せるものでもありませんわ」
ディラン様と言ったか。凄く俺を見ている気がする。
「・・・ふーん。でもそれって、原石でもあるってことだよね? 怪力かぁつよつよじゃん~」
そんなことを言われたのは初めてだ。そういうふうにポジティブに考えてくれる人もいるんだな。そういう人に救われるよねほんと。
「さぁさぁディラン様こちらへ。貴方様に相応しい子達をご用意しますので」
「えー?」
グイグイと背を押されるディラン様に頭を垂らした。そうだ。ここはヒト族の楽園とも呼ばれた娼館「ワルプルギス」。
ここには様々な獣人達御用達の厳選された選りすぐりの”教養のある”名のある美男美女が集まっている。昼間は頭のいい学園へ通う学生、夜はツガイを探す為”夜の遊び”を嗜む若人になる。
そんな場所で働かせて貰えてるんだ、しかも住み込み! ありがたいと思わないと。偶々獣人への料理ができるってことで厨房枠で働かせて貰えることになったが、俺はラッキーだ。孤児院に安定した供給ができるまではしっかり働かないと。
何が好物なのか聞けばよかった。
それでも俺の最大限最大級の夕食セットを作り上げ、出してもらった。ストレートにただ美味しいって言って貰えるのは、作る冥利に尽きる。
それから数日経ったの日のことだ。
俺はというと、夏メニューをどうしようか、料理本と格闘していた。
「?」
何やら外が騒がしくなり始めた。バタバタと足音が近づいてくる。
「リョウ!」
「はっ、はいっ!?」
珍しく血相を変えた女将が乗り込んできた。
何か言おうとした女将だったが。
「あ・・・あぁっ!!」
誰かの興奮覚め止まぬ声が耳を打った。
「あああああああああほんとほんとだほんとに似てるぅぅぅぅ!」
「っ!?」
思わず度肝を抜かれた。俺と同じ、いや相手に失礼だ。凄く似ている顔の青年が俺の前に現れたのだ。言わずもがな、彼は綺麗にお化粧して、いい服を着て、それで品が溢れている。
「うわぁ、ホントにそっくりさんいるんだぁ! 会えて嬉しいよ~!」
「え? あ、はい、はぁ・・・?」
両手を握られ、ブンブンと振られた。
「レン様」
ふと背後にいる、これまた美形な付き人? さんだろうか、からお声がかかった。彼はレンというらしい。
「んがっ」
後頭部を思い切り女将に押さえ込まれて、深く頭を垂らされた。ゴリゴリに。
「すいませんこの子は世間を知らなくて。レン様が有名なヒト族の名家のご子息だと存じ上げでないようで~オホホホ」
「あーうん、そういうのいいから。この子、従業員? 娼婦じゃないよね?」
凄い。この女将をスパっと切りやった。
「え、えぇはい勿論。従業員だなんて、ただの厨房バイトですから」
グイッと今度は腕をレン様に引っ張られた。
「じゃぁ今日でこの子辞めるから」
え?
「え?」
女将も同じ反応。
「来て。君に重要なお仕事を頼みたいんだ」
「し、仕事っですかっ!?」
女将がこんなに慌てているのは珍しい。
「え、や、レン様!?」
俺にお仕事?
レン様は俺を連れ立って歩き出す。
「あの・・・」
「ふふ、話は車で」
「レン様ーっ!」
「五月蠅いなぁもぅ」
レン様が立ち止まる。同時に俺も歩みを止める。
「レン様! そっ、その突然過ぎます」
「なぁに? この子はただの、重要じゃない、アルバイト君扱いなんでしょ? なら、買うわけじゃない、ボクは彼をウカウトしに来たんだ」
スカウト? 一体何の?
「で、ですが、何故彼を・・・」
「貴方には関係ないよね? それにボク、他人を大切にしない人、嫌いなんだよね。お父様がここのスポンサーしてるっていうからどんなとこかと来てみたら・・・」
大きなため息をつかれなさった。そして見下すように女将を見下ろす。
「品位が穢れる」
「っ!」
ショックを受けたのか、女将は膝を崩した。
「さ、行こう」
グイグイと腕を引っ張られ、車・・・、生まれて初めて、リリリリリリムジンに乗った。
「・・・うぅ、すいません! 品位が無いのは俺ですけど!」
声に出しでしまった。
「ははは。ごめんね。君の処遇は知ってる、調べさせて貰ったよ。親御さんがいなくて、孤児院で育ったんだね」
俺は何度も頷いた。
「だからこっここここんな高級車に乗るなんて死んでも思って無かったんで!」
もうパニックナウ。頭真っ白。何がどうしてこうなった!?
「まぁまぁ落ち着いて。これから君はこういうのを、扱く当然のようにしてもらわないといけないんだから」
「・・・・・・え?」
綺麗な足を組み直し、レン様は俺を見つめた。
「君にお願いしたい仕事ってのは、このボクの影武者! なんだよね」
「かかかかかかげむしゃ・・・?」
「そう。ボクね、恋人がいるんだけど、許婚がいるんだ」
ん~、普通に波乱万丈だ。
「許婚と別れたいし、その為に恋人とエッチしまくって、妊娠したいわけ」
んん~、つまり、既成事実を作って、許婚と別れたい、と。
「それで、ボクが恋人と愛の子作り逃避行中、顔そっくりの君にボクの身代わりをやってもらいたいわけよ!」
なるほど。身代わり・・・。彼の・・・。
「君の所へ帰って来た時にはバッチし妊娠証明写真持ってくるから」
「身代わりっ!?」
「それで、君が身代わりの間、許婚に嫌われるよう努力して貰いたいの」
「ぅえっ!? そんな努力ありますっ!?」
前代未聞だわ。
「勿論、ボクのクジョウ財閥の名を汚さない程度に嫌われてね」
「・・・クジョウ・・・」
あれ? 何処かでよく聞く苗字・・・。
「そ、クジョウ製薬の子息レンだよ。改めてよろしく」
「っ!?」
俺は確かに女将の言う通りとんでもない名家のご子息を目の前にしている! クジョウ製薬と言えば、受胎の実の促進錠剤で有名だ。受胎の実を仕込んでもすぐには身籠れず、妊活をする夫婦が多いと聞く。そこでその悩みを解決するために初めて促進剤なるものを発表、販売し成功を収めた製薬大企業。それがクジョウ家。
「すっ、すいません! ご無礼をおゆる」
「はいダーメ!」
いきなりのダメだし。
「今日から君はこのボク、レン・クジョウになるんだ。演じてもらんだから、まずはボクを観察してボクになりきるよう勤めてもらうから」
「え・・・えぇっ!?」
まだイエスって、やるって言ってないのに!
「勿論、君が大変なのは分かる。でも完璧に演じて貰わないと困るんだから、君のモチベーションを上げさせるためならボクは何でもする例えば」
キス、されてしまうのではないかと思うほどの距離に、レン様の綺麗なお顔がある。
「君の孤児院の援助と後ろ盾をこのクジョウ家がなってあげる」
「!?」
「勿論、君のお給料もそこいらのサラリーマン以上の金額を支払う」
「!!」
願っても無い話。こ、こんな上手い話があるだろうか。
「でも君には、社交界、語学に礼儀作法、様々な勉学を強いることになる。辞めたいと言ってもできない」
俺に選択肢はない。
こんなチャンスはもう二度と来ない!
「分かりました。その役、引き受けさせて頂きます」
「・・・わお。へぇ、悩むかと思ってたけどふぅん。ボクになれる自信があるんだ」
「えっ? 自信とかそういう話じゃないです。やるんです!」
孤児院の為に、子達の為に。
「本当に、孤児院を護ってくれるんですね」
「うん。何なら増築して潤してあげる、至り尽せりね」
「・・・なるほど。それは俺の頑張り次第ってところですか」
にやっとレン様は笑う。
「分かってんじゃん。そう、君次第。逐一君の情報は知れるから、ボクの一言で孤児院は助かるんだ」
「分かりました。・・・でも」
俺にはヒト族ならでは”事情”がある。
「”でも”?」
俺は”眼鏡”を外した。
「! 君・・・」
俺が親に捨てられ孤児になった理由。それがこの左右違う目の色だ。左目が黒く、右眼が翡翠色のオッドアイ。
ヒト族は神子と呼ばれてはいるが”完璧”ではないのだ。ごく稀に不吉の象徴とされる子が生まれる。その子は”忌み子”と呼ばれ、その印として”黒い瞳のオッドアイ”で生まれる。その子が生まれたら殺されるか、捨てられるか。俺は幸いにも後者だった。運がいい。
こうやって、前髪ぼさぼさに伸ばして眼鏡と何とか隠して生きてきた。確かにレン様と似ているかもしれないけれど、俺の髪色は黒、レン様は深緑の綺麗なアッシュ色。
「俺が忌み子でも、その仕事を申し込みますか?」
レン様が俺の左目を凝視する。
「カラコンつければよくない? 大丈夫! 誤魔化せる! 髪も染めればいいし御用達のスタイリストいるから任せてよ!」
返って来た言葉は全く違う観点だった。
「ちが、そうじゃな」
レン様が手を差し伸ばした。
「忌み子が何? ボクには全く関係ない。君程ボクに似てる子はいない。絶対この作戦を遂行するんだ」
この人はっ!? この人にとって重要なのはそこなのだ。世間が重きを置いている所とはまるで違う。
「さ、ボクも本気でいくから覚悟してね」
俺はその手を握り返す。
「・・・望むところです」
まさか忌み子条件をクリアするとは思わなかった。護るべきもののあるヒトは強いんだ。それを証明してやる。
「レン・クジョウ影武者への道・・・」
という名の台本なる、超びっしり書き込まれたスケジュール帳に乗っ取って、毎日が多忙ながらも充実な日々を過ごしている。
「ぅひぃ~・・・」
昼食後の束の間のひと時。テーブルに突っ伏して深呼吸。
あ、ちなみにこの教育機関はレン様の極秘別荘貸し切りで行われていて、俺のことを知る人達は僅か数名。
「・・・今日で二週間目でございますね」
金髪ポニーテールのメイド長、レベッカ・タナカさん。俺の愚痴なり相談ごとを聞いてくれる。
「ぅん。俺、頑張れてるのかな・・・」
「正直に申し上げますと、皆レン様より覚えが早く応用力もあると申しておりました」
ほら、こうやって空気を読んで素晴らしい言葉をくれる、なんと美人で心優しいメイドさんなのだろうか。
「ありがとぅ~お世辞でも嬉しい~、頑張れる~」
そしてそっと、俺の大好きなアイスミルクティーを出してくれる。
「ふふ、いやですわ。本当のことでございますよ」
「むふふ・・・はぁ、いつも美味しいミルクティーありがとう」
「滅相もございま・・・」
ふと言葉切れに、ハッとレベッカさんは振り返り、扉を見やる。
「? どうし」
ふとガチャっと扉が開いた。
えっ?
何故? どうして? そんな言葉が頭の中で沢山踊る。
「ディラン様っ!?」
え?
紅の髪に碧い瞳の顔面偏差値高過ぎ、熊人なのに線が細くて脱いだら絶対マッチョなイケメンの”ディラン”さん。がぁ、何故ここにっ!?
「何故ディラン様がここに!? レン、様がお呼びに・・・?」
「そう。この業界を知るにはおれが適任だってさぁ」
「・・・・・・そぅ、ですか・・・」
「?」
何だろう。レベッカさんのこの歯切れの悪い、腑に落ちない感じが凄く伝わる。
「予定だと、その手帳には王冠マークがあるだろ~? それ、おれの個人レッスンってこと~」
そう言えば。よく分からないマークがついていたっけ?
「リョウ様、それは本当ですか?」
「言われてみると、うん、あった気がするようなないような・・・」
「そういうこと☆」
ウインクして見せるディラン・・・先生に観念したのか、レベッカさんは深くお辞儀する。
「そうでしたか、申し訳ありません。それではわたくしはこれで」
「ありがとレベッカさん」
レベッカさんはいつものように微笑み返してくれた。見送ると、突然視界がディランさんの綺麗なお顔のアップで埋まった。
「わ」
「じゃぁ早速、”脱いで”?」
・・・ん?
「え? すいません今何て言っ」
「脱・い・で? って言った」
俺の耳はちゃんと聞いていた。
「ぇえっ!? 何でっですかっ!?」
ディランさんはお洒落な深緑色のアタッシュケースを手元に置き、一冊のスケッチブックを取り出した。
「おれ、今度画集だすのね」
無知な俺も流石に彼のことを調べた。
熊人族、ディラン・ボワーズ。
マルチタレント。モデルからデザイナー、アーティストを手掛け、ファッション、化粧品ブランドを立ち上げた企業家。所謂勝ち組である。元々御実家が名のある名家らしいけど、調べても情報が出て来なかった。
「画集・・・ってどんな・・・」
ハッ。脱げ。そう彼は言った。防衛本能が働き、思わず身構えた。
「おおおおおお俺の体にはそんな需要なんてありませんからっ!?」
「それを決めるのはおれだから」
即答。
「第一印象、体のラインが凄くいいと思ったんだよね。おれね、くびれとお尻が好きなんだけど、その黄金比ってのがあって、ウエスト対お尻が7対10が理想なわけ」
クッソどうでもいいけどっ!? これがディランさんの美学ちゅうもんなのか。
「程よい肉付で、あぁやっぱり。君、何か武術やってただろ」
「っ!?」
いつの間にっ!? 脱がされてるっ!?
でもディランさんの視線はそんないやらしいものを見るものではなく、何だろう造形物でも見るような感じ? あくまで仕事の一環みたいな。
「紐パンは、はい、そのソファに寝そべる時にとって」
「パンツもっ!?」
「当然だろ、ヌード描くんだから」
いや俺には当然じゃないんだけど。本当にただの被写体扱いだ。そう! 物だ。俺は彼の描くための物だ。感情は要らねぇってことだ。
「うつ伏せになって」
もういいや。それなら別にこっちも気にしないでおこう。
豪快にパンツを脱いだ。
まぁ、ディランさんは本当に美しいものにしか興味がなく、魅かれないらしいから。きちんと見たらすぐに終わるだろう。芸術家特化のタイプは中々恋人の噂も少ない。いくら俺が今レン様になるためにエステサロンを二週間受けたって、この根底にある生まれ孤児院の色は消えやしない。
「・・・ここに手を置いて、そう、で視線はあっち」
あれ? 結構真剣なのね。これは俺の教育なのか? なんで俺はこんなことしてるんだろう? あぁ、レン様も雑誌のモデルもやってるらしいからその練習か。
「・・・・・・」
なんて自問自答だけど本当か?
ハッ。俺は気が付いてしまった。
ディランさんはレンの体を狙っていて、でも本物だし恋人がいるから脱がせられないから。なるほど、偽物の俺ならどんな扱いをしてもいい。所詮、身元の分からない孤児だし金さえあればいいみたいな。そうだよな、世の中、金とビジネスだもんな。これも勉強だなぁ。
横目で見ると、真剣な目で鉛筆を走らせているディランさんがいた。クリエイターかぁ、カッコいいなぁ。
「・・・・・・」
鉛筆のシャッシャッという音と、時計のカチカチ音が、俺に眠りを誘う。
「・・・・・・」
なんか、気持ちがいい・・・?
「・・・? んぁ?」
やっばい。本当に寝ちゃったようだ。
「あ? 起きた?」
ぬくっと、お尻に違和感。正確には穴。
「え?」
何故? 何故うつ伏せの俺に覆い被さって、俺のお尻の穴に・・・指っ! 指が入ってるっ!?
「てっきり娼館にいたから、すぐ濡れると思ってたんだけど、キツイね」
言い方っ! 言い方なっ!?
「いやいやいやいや色気も気品のないガキですから! しかもそこは汚いですから!」
「だって、使うのはここだろ」
雄の穴は一方通行。
「ですけど! 俺なんかの中に入れたら! 指が穢れます! その指は創造物を生み出す大切な商売道具でしょうっ!?」
弁償金なんて払えない!
ディランさんの手をっ! 動かない!?
そうだ、腕! 腕をどかし・・・微動だにしない!?
「俺の怪力パワーが通じないっだとっ!?」
「へぇ、噂で聞く君の怪力も、熊人の腕力に比べればこんなもんか」
はい指三本~と呑気発言とは裏腹に、俺の中にディランさんのあの指が増やされる。
「っあっ、だめ、ですってば!」
何で、何でだ!? すぐに手ぇ出さないで有名だって記事に書いてあったよな!? なんかお尻がムズムズして来たし! てか気持ちいいんだけどこんちくしょーっ!
「ふぁ、あ、や・・・っ! そこだめ!」
「ここ?」
疲れて敏感な所を攻め立てられた。
「~っ! っ!」
大波で来た快感に、体が跳ねた。生まれて初めて、人前で射精してしまった。
「っ!? なっ」
しかも俺の性器はディランさんの手の中に収まっており、指ならずその手をベトベトに汚させてしまった。
「すいませっ! ティッシュティ・・・」
「フンスフンス、れろ」
「っ!?」
事もあろうに、俺の白濁液の、匂いを嗅いで、そのまま口にぃ、舐め入れたぁ!
な、何なのこの熊人~っ!?
「さてと」
「ふぁっ、あっ」
ようやく指が引き抜かれた。
「おれのペニスも舐めて欲しいけど、時間が時間だし」
「え、あ、うそ、え、あ」
後ろから腰を引き押せられ、ディランさんにお尻を突き出すような破廉恥な格好になった。
「ひっ」
尾てい骨にドスっと長くて硬い、質量を感じた。同時にお尻の割れ目がヒクついた。
嘘だろ嘘だろ嘘だっ。俺はそんな、そんなことを求めてない!
「待っ、ディラっ、あああああああっ」
俺の中に、熱い猛々しいものがめり込む。
「っつ、く、キツ・・・」
異物感が押し入る。膣の肉襞を掻き分け、鋭利な肉棒が突き刺さる。
「ふぁぁぁぁ・・・ぁ・・・ぅ」
なんでなんでなんでなんでぇ!?
お腹が埋まってる、埋められている。熱い、硬い、大きい。
「ふぁ・・・あ、すご・・・あ」
脈を打っているのが分かる。
ズキン。
頭痛がした。
前にも、こんなこと、なかったっけ?
「っつ、やべ、そんな締め付けるなって」
「ふぁ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ、あ」
激しい律動が始まった。抉るように奥を突き刺し、入り口を亀頭で擦りつけてきたり。「ぅ、あぁん、あぅ、ひぁ、や、らぁ、あ」
こんな慣れたエッチ、何が奥手だ、嘘の記事掻きやがってぇっ!
「アァァ・・・やっべ、まじ、きもちぃ」
「ふぁ、あ、す、ご、あぁ、まっ、きちゃ」
ディランさんがさらに重く圧し掛かってきたせいで、深く、性器が突き刺さった。
「フーッ、フッ、フッフッフッフッ」
あ、来る。彼の息遣いが変わった。
「フッ」
「あんっ! ぁあああああ?」
一番奥に突き刺さる。本気? 本気だ、中に、出すつもり!?
「アァァァ・・・久しぶり、だわ、イクぞ」
「ひぁ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あぅ」
ドスドスと、俺の中を深く刺し突き立てる。
「アアアアアアぁ・・・最高だ」
練習って言われて初めは娼婦のお姉さん達に大人のおもちゃで練習させられたけど。俺に娼婦が向いてないと分かった時から、もうそんなお尻をいじったりはしてない。
「ふぁ、あ、くる、しぃ、すご、あっ」
本物はそんな比じゃない!
圧迫感と威圧感でいっぱいでお腹が苦しい! 俺の腰ごと揺さぶり、性器を俺の肉襞で扱きたてて来る。
「ふぁぁ・・・きちゃ、ああああああ」
なにこれ? もう気持ちいしかない。力が入らない。ディランさんにおもちゃのようにされる。
「っ・・・イ、イク、イク、くっぞ」
性器が脈打ち、膨張した。
「ふぁ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
激しく揺さぶられた。
「ぃあああああ・・・・・・・っ!」
「グッ、ゥッ!」
中で熱いものが吐瀉された。その絶頂にビクビクビクンッと面白く、俺の体が跳ねた。
「あぅ、ぁ・・・いぁ・・・ぁ」
「アァ・・・っ、ハァ・・・ハァ・・・」
射精しながら腰を振られた。中に、響く、注がれてく、溜まって、く。
「ぁ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁぁあぁ」
その度に快感から、絶頂から戻れない。
「・・・フゥ・・・」
耳元から満足げな吐息が聞こえた。
「あ、ん、あっ」
注ぎ切った凶器が抜かれた。圧迫感が無くなった、けど異物感が半端ない。トロッと穴に出された精液の残滓が溢れ零れ・・・。
「っ! キタ、キタキタ閃いた! 次の衣装はそうだ、こうしよう!」
へ?
「あわっ」
急にディランさんにお荷物のごとく抱き抱えられた。そしてひょいっと脱衣所を抜けてお風呂場に。
嫌な予感が。「
「え、や、うそ、まっ」
ジャブンッ!
俺の静止の声も遅く、いつも入っている薔薇の極上風呂に放り込まれた。
「ソファを汚しちゃうのは不味いだろ」
・・・俺はソファ以下か。
「じゃあいいアイディア浮かんだからこれで。待ったねー偽物君」
「・・・・・・」
早々にディラン氏の退却。
せめて偽物君ではなく、影武者君が良かった。
「・・・・・・」
これは所謂ヤリ逃げ、ではなかろうか。
「・・・・・・」
まぁ、初めてのエッチがクソ最低な野郎でも、超凄い人、だったし。光栄に思えって世間様に言われるかもだし。まぁ最初で最後かもしんないし。会うのも最後かも。
「・・・ケツ、いて・・・」
ヤリ逃げした相手にまた会いに来るはずはない。ただ俺という”物”の体の形と具合の確認をしに来た。それが正解だ。
「・・・はぁ、エッチってすげぇや」
好意が無くても出来てしまう。
そりゃあ神様も愛する者同士にしか”受胎の実”を渡さないわけだ。娼館の姉さん達は皆毎日シてるんだなぁ。
「・・・・・・勉強しよ」
少し、エッチに興味が沸いた。
「おはようございます、ようこそ。熊人が誇る我が一族、ベルモンド・ファミリアへ」
「・・・えぇ」
俺は何とか笑顔を取り繕う。
熊人の代表一族である「ベルモンド」。その王族である王、レディアンに腰を抱かれた。ムキムキマッチョな人種が多いのが熊人族なのに、王族はどうしてこうも別嬪さんなのか。銀髪、琥珀の瞳に「俺」が映る。
この日の為に「仕立て上げられた」俺が。
「嬉しいよレン。婚約してくれるなんて」
「違います。婚約を”考える”とお伝えしただけです。まだお付き合いもしてません」
「っくぅ~! そのつれない所が堪らなく好きだよレンよ」
「アァ、ソウデスカ。お・・・ボクは貴方様が綺麗過ぎて、目に毒なので。一人にしてもらってもいいですか?」
俺は単なる”影武者”。
この度、熊人族王と婚約する運びとなっているヒト族で有名な財閥クジョウ、そのご子息であらせられる”レン・クジョウ”様。
そのお方の”影武者”をしているのだ。
本物様は、真に愛する人と愛の逃避行中ナウ。契約内容は、その逃避行中の時間稼ぎだ。俺がレン・クジョウを演じて、本物は愛する男と既成事実を作って帰ってきて、なんということでしょうの婚約破棄。というのが目的である。こんな王族に嫁ぐことができるのに、真実の愛を選んだというわけだ。
何故俺が選ばれたか。
単に容姿が似ているだけ。
孤児の貧乏な俺がたまたまレン様に見つけられ、バッリバリの花嫁修行を受けさせられて、こんなドレスに着飾れて。人生何が起こるか分からないってまさにこういうことだ。
俺は「レン・クジョウ」を演じている。
俺の仕事は二つ。
彼らが既成事実を作って帰ってくるまでの時間稼ぎと、レディアン王に嫌われること勿論クジョウの名に恥じない程度に、だ。
「ん? どうしたレン」
「・・・いいえ、別に」
俺は耐えるのだ。耐え続けるのだ。
「相変わらず可愛いなぁ」
「・・・陛下の美貌に比べたら・・・」
クソですわ、なんて言えない。
この腰にいやらしい手が回るのも慣れないといけないのか。
もんず。
「っ!?」
お尻を揉まれた。
にこにこと微笑む王。
このセクハラ王がぁ!
今すぐぶん殴りたい。
【半年前】
俺の名前はリョウ、リョウ・リンドウ。孤児院出身貧乏ヒト族だ。そんな俺のモットーは、働かざる者食うべからず。だから体が元気なうちは働く。休みは週一日でいい。お世話になった孤児院に恩返しをすべく、毎日働く。夕方から夜にかけて娼館の厨房兼娼婦。メインは厨房担当だけどね。こんな色気のないガサツな俺じゃあまともに客が取れないことは目に見えている。娼婦の姉さんからは恥じらいがない、可愛げがない、歳不相応だとレッテルの太鼓判を貰っている。
「ねぇ聞いた!? ゆめこが狐人の名家に貰われてったってよ!」
「えぇーっ!? あのどんくさい子が!?」
「そこがストライクだったんでしょ? お客さん種族問わず色んな趣味に性癖があるんだからぁ」
「そのどこのニーズに染めるかも必勝法よね~?」
「えー。あたしは雌に抱かれたい。もふもふの巨乳美女を捕まえるわぁ」
「おっぱい好きねぇあんたは」
娼館の掃除をしていると、娼婦の裏側というか、ヒト族の娼婦達のトークが盛り上がりをみせる。如何せんヒト族の方が獣人受けにいい。ヒト族が見目麗しく生まれることが多いからだ。何でも、脆くか弱いヒト族は、強き獣人族に護って貰うのが理であり、それ故に獣人に好かれる為の美貌、男女問わず妊娠できる受胎能力を持った肉体を持って生まれる。まぁでも神社で「受胎の実」を貰って体内に仕込まないと妊娠はできないけど、その実があればできるらしい。それが神のギフトであり、もう一つ、個々で貰える”能力”がある。それは多種多様で本人しか分からないが、獣人界隈ではヒト族のその生まれながらの”恩恵”により、神の子、つまり神子だという認識があるらしい。
俺の場合、ギフトはバ怪力・・・だった。どうだ? 可愛くないだろう? 神子も獣人のワンパン喰らったらぶっ飛んで瀕死か即死だけど、俺は死にやしねぇ。むしろ返り討ちにできる自信もある。
怪力男。
それが俺の別名。だから娼婦の皆のボディガードも担っているので賃金もいい。なら別にその名も悪くないと思ってる。
「さぁ、開店三十分前よー? 下の口を十分に濡らしておきなさぁい?」
「はぁーい」
「あ、ねぇ、この間通販でごっつい肉棒買ってみたんだけど、味わってみない? 凄くヨかったのよ」
「貸して」
「どれどれ? オレもみたいー」
初めてこういう会話聞いた時ドン引きしたけど、こんな会話が日常だもんな。
「リョウ。あんたは厨房だよ」
女将のいつもの台詞。
「分かってるって」
掃除道具をしまって、とっとと厨房に入った。
「?」
ふと厨房に、見知らぬ男がいた。紅色の髪を肩に結い、碧い瞳の・・・あのもふもふのまぁるい形のお耳は間違いなく”熊人族”だ。俺の仕込み中の野菜のぬか漬けを、まさかのつまみ食い。
「あっ、ちょっと!」
熊人族はゴリマッチョが多いけど、こんな線は細いけどしっかりした肉付体躯の雄もいるのだと再認識。ヒト族に負けない美貌をお持ちだ。
「んぐ。あ、ごめんごめん。めっちゃ美味しそうだったから、実際ほんとに美味いな」
ヤッタ! 獣人の口に合うよう研究して頑張った甲斐があった。
「でしょう!? 獣人さんの口に合うよういっろいろブレンドして! あっ、この子は一か月前から付けたものですから、さらに美味しいはず! だから・・・」
壺の中身が本当にものけのからだとは。
「・・・自信を持って今日のお客様の前菜に出そうと思って準備してたものなのに・・・どんだけ食べたんですかもぅ」
壺の中で折角付けたきゅうりとにんじんがさようなら、ごそっと無くなっている。
「あ、マジかぁ、悪いことしちゃったなぁ。おれ好き嫌い激しくて偏食なんだけど、こんなに食べれたの初めてでさぁ」
そ、それは素直に嬉しい。
「まぁおれお客なんだけど」
うん、でしょうね。お金、持ってそうだもんね。でもさ、でもさ。
「お客様がどうしてこんな厨房に・・・」
「あぁっ! ディラン様!?」
女将が目を丸くして早々と歩み寄った。
「まぁお久しぶりにございます! どうしてこんな所に!?」
そうよね。同じこと、聞くよね。
「えー、お腹空いちゃってさぁ。ずっと仕事してて食べて無くて、ごめんね☆つまみ食いしちゃって」
ここでてへぺろ~☆はズルくね?
「あぁいいんですそんなもの!」
そうよな。女将にとって俺の丹精込めて作った漬物はどうせ”そんなもの”だわ。
「でも、この子曰く、おれが今日の夕食に出す予定だった前菜、ほとんど食べちゃったみたいでさ」
ギッと女将に睨まれた。
「前菜なんて、他に作れるでしょう? 別のモノを用意しなさい。大変申し訳ございませんそんなご無礼なことを!」
女将がめちゃ頭ペコペコ下げるってぇことは、相当なビップな客なのか。ヤバい。こんな俺を雇ってくれるんだ、クビにされたら困る。女将を立てないと。
俺は深々と頭を下げた。
「失言申し上げたこと、大変申し訳ございませんでした。代用ございますのでお気になさらないでください」
何故かくいっと、顎を持ち上げられた。
碧い瞳が俺を映す。ほんとに顔面偏差値高い熊人だ。
「ん~? 誰かに似てるなぁ・・・誰だっけなぁ・・・うぅ~ん」
「・・・?」
俺はこの人の知り合いにどうやら似てるらしい。
「ですので! どうぞディラン様! お詫びにこの子に特別なお夕食を作らせますので! 分かったわねリョウ。取り掛かりなさい」
「はい女将」
豪華にしなさいとばかりの、無言の目力。
「えー楽しみ。久しぶりに遊びに来たらこの子新人? 女将、この子は表に出ないの?」
せっせと準備に取り掛かる俺を前に、この女将の顔である。
「オホホ。この子ったら、神のギフトが怪力なんですのよ? 孤児院育ちで何も教養もない野良猫も同然。お店に出せるものでもありませんわ」
ディラン様と言ったか。凄く俺を見ている気がする。
「・・・ふーん。でもそれって、原石でもあるってことだよね? 怪力かぁつよつよじゃん~」
そんなことを言われたのは初めてだ。そういうふうにポジティブに考えてくれる人もいるんだな。そういう人に救われるよねほんと。
「さぁさぁディラン様こちらへ。貴方様に相応しい子達をご用意しますので」
「えー?」
グイグイと背を押されるディラン様に頭を垂らした。そうだ。ここはヒト族の楽園とも呼ばれた娼館「ワルプルギス」。
ここには様々な獣人達御用達の厳選された選りすぐりの”教養のある”名のある美男美女が集まっている。昼間は頭のいい学園へ通う学生、夜はツガイを探す為”夜の遊び”を嗜む若人になる。
そんな場所で働かせて貰えてるんだ、しかも住み込み! ありがたいと思わないと。偶々獣人への料理ができるってことで厨房枠で働かせて貰えることになったが、俺はラッキーだ。孤児院に安定した供給ができるまではしっかり働かないと。
何が好物なのか聞けばよかった。
それでも俺の最大限最大級の夕食セットを作り上げ、出してもらった。ストレートにただ美味しいって言って貰えるのは、作る冥利に尽きる。
それから数日経ったの日のことだ。
俺はというと、夏メニューをどうしようか、料理本と格闘していた。
「?」
何やら外が騒がしくなり始めた。バタバタと足音が近づいてくる。
「リョウ!」
「はっ、はいっ!?」
珍しく血相を変えた女将が乗り込んできた。
何か言おうとした女将だったが。
「あ・・・あぁっ!!」
誰かの興奮覚め止まぬ声が耳を打った。
「あああああああああほんとほんとだほんとに似てるぅぅぅぅ!」
「っ!?」
思わず度肝を抜かれた。俺と同じ、いや相手に失礼だ。凄く似ている顔の青年が俺の前に現れたのだ。言わずもがな、彼は綺麗にお化粧して、いい服を着て、それで品が溢れている。
「うわぁ、ホントにそっくりさんいるんだぁ! 会えて嬉しいよ~!」
「え? あ、はい、はぁ・・・?」
両手を握られ、ブンブンと振られた。
「レン様」
ふと背後にいる、これまた美形な付き人? さんだろうか、からお声がかかった。彼はレンというらしい。
「んがっ」
後頭部を思い切り女将に押さえ込まれて、深く頭を垂らされた。ゴリゴリに。
「すいませんこの子は世間を知らなくて。レン様が有名なヒト族の名家のご子息だと存じ上げでないようで~オホホホ」
「あーうん、そういうのいいから。この子、従業員? 娼婦じゃないよね?」
凄い。この女将をスパっと切りやった。
「え、えぇはい勿論。従業員だなんて、ただの厨房バイトですから」
グイッと今度は腕をレン様に引っ張られた。
「じゃぁ今日でこの子辞めるから」
え?
「え?」
女将も同じ反応。
「来て。君に重要なお仕事を頼みたいんだ」
「し、仕事っですかっ!?」
女将がこんなに慌てているのは珍しい。
「え、や、レン様!?」
俺にお仕事?
レン様は俺を連れ立って歩き出す。
「あの・・・」
「ふふ、話は車で」
「レン様ーっ!」
「五月蠅いなぁもぅ」
レン様が立ち止まる。同時に俺も歩みを止める。
「レン様! そっ、その突然過ぎます」
「なぁに? この子はただの、重要じゃない、アルバイト君扱いなんでしょ? なら、買うわけじゃない、ボクは彼をウカウトしに来たんだ」
スカウト? 一体何の?
「で、ですが、何故彼を・・・」
「貴方には関係ないよね? それにボク、他人を大切にしない人、嫌いなんだよね。お父様がここのスポンサーしてるっていうからどんなとこかと来てみたら・・・」
大きなため息をつかれなさった。そして見下すように女将を見下ろす。
「品位が穢れる」
「っ!」
ショックを受けたのか、女将は膝を崩した。
「さ、行こう」
グイグイと腕を引っ張られ、車・・・、生まれて初めて、リリリリリリムジンに乗った。
「・・・うぅ、すいません! 品位が無いのは俺ですけど!」
声に出しでしまった。
「ははは。ごめんね。君の処遇は知ってる、調べさせて貰ったよ。親御さんがいなくて、孤児院で育ったんだね」
俺は何度も頷いた。
「だからこっここここんな高級車に乗るなんて死んでも思って無かったんで!」
もうパニックナウ。頭真っ白。何がどうしてこうなった!?
「まぁまぁ落ち着いて。これから君はこういうのを、扱く当然のようにしてもらわないといけないんだから」
「・・・・・・え?」
綺麗な足を組み直し、レン様は俺を見つめた。
「君にお願いしたい仕事ってのは、このボクの影武者! なんだよね」
「かかかかかかげむしゃ・・・?」
「そう。ボクね、恋人がいるんだけど、許婚がいるんだ」
ん~、普通に波乱万丈だ。
「許婚と別れたいし、その為に恋人とエッチしまくって、妊娠したいわけ」
んん~、つまり、既成事実を作って、許婚と別れたい、と。
「それで、ボクが恋人と愛の子作り逃避行中、顔そっくりの君にボクの身代わりをやってもらいたいわけよ!」
なるほど。身代わり・・・。彼の・・・。
「君の所へ帰って来た時にはバッチし妊娠証明写真持ってくるから」
「身代わりっ!?」
「それで、君が身代わりの間、許婚に嫌われるよう努力して貰いたいの」
「ぅえっ!? そんな努力ありますっ!?」
前代未聞だわ。
「勿論、ボクのクジョウ財閥の名を汚さない程度に嫌われてね」
「・・・クジョウ・・・」
あれ? 何処かでよく聞く苗字・・・。
「そ、クジョウ製薬の子息レンだよ。改めてよろしく」
「っ!?」
俺は確かに女将の言う通りとんでもない名家のご子息を目の前にしている! クジョウ製薬と言えば、受胎の実の促進錠剤で有名だ。受胎の実を仕込んでもすぐには身籠れず、妊活をする夫婦が多いと聞く。そこでその悩みを解決するために初めて促進剤なるものを発表、販売し成功を収めた製薬大企業。それがクジョウ家。
「すっ、すいません! ご無礼をおゆる」
「はいダーメ!」
いきなりのダメだし。
「今日から君はこのボク、レン・クジョウになるんだ。演じてもらんだから、まずはボクを観察してボクになりきるよう勤めてもらうから」
「え・・・えぇっ!?」
まだイエスって、やるって言ってないのに!
「勿論、君が大変なのは分かる。でも完璧に演じて貰わないと困るんだから、君のモチベーションを上げさせるためならボクは何でもする例えば」
キス、されてしまうのではないかと思うほどの距離に、レン様の綺麗なお顔がある。
「君の孤児院の援助と後ろ盾をこのクジョウ家がなってあげる」
「!?」
「勿論、君のお給料もそこいらのサラリーマン以上の金額を支払う」
「!!」
願っても無い話。こ、こんな上手い話があるだろうか。
「でも君には、社交界、語学に礼儀作法、様々な勉学を強いることになる。辞めたいと言ってもできない」
俺に選択肢はない。
こんなチャンスはもう二度と来ない!
「分かりました。その役、引き受けさせて頂きます」
「・・・わお。へぇ、悩むかと思ってたけどふぅん。ボクになれる自信があるんだ」
「えっ? 自信とかそういう話じゃないです。やるんです!」
孤児院の為に、子達の為に。
「本当に、孤児院を護ってくれるんですね」
「うん。何なら増築して潤してあげる、至り尽せりね」
「・・・なるほど。それは俺の頑張り次第ってところですか」
にやっとレン様は笑う。
「分かってんじゃん。そう、君次第。逐一君の情報は知れるから、ボクの一言で孤児院は助かるんだ」
「分かりました。・・・でも」
俺にはヒト族ならでは”事情”がある。
「”でも”?」
俺は”眼鏡”を外した。
「! 君・・・」
俺が親に捨てられ孤児になった理由。それがこの左右違う目の色だ。左目が黒く、右眼が翡翠色のオッドアイ。
ヒト族は神子と呼ばれてはいるが”完璧”ではないのだ。ごく稀に不吉の象徴とされる子が生まれる。その子は”忌み子”と呼ばれ、その印として”黒い瞳のオッドアイ”で生まれる。その子が生まれたら殺されるか、捨てられるか。俺は幸いにも後者だった。運がいい。
こうやって、前髪ぼさぼさに伸ばして眼鏡と何とか隠して生きてきた。確かにレン様と似ているかもしれないけれど、俺の髪色は黒、レン様は深緑の綺麗なアッシュ色。
「俺が忌み子でも、その仕事を申し込みますか?」
レン様が俺の左目を凝視する。
「カラコンつければよくない? 大丈夫! 誤魔化せる! 髪も染めればいいし御用達のスタイリストいるから任せてよ!」
返って来た言葉は全く違う観点だった。
「ちが、そうじゃな」
レン様が手を差し伸ばした。
「忌み子が何? ボクには全く関係ない。君程ボクに似てる子はいない。絶対この作戦を遂行するんだ」
この人はっ!? この人にとって重要なのはそこなのだ。世間が重きを置いている所とはまるで違う。
「さ、ボクも本気でいくから覚悟してね」
俺はその手を握り返す。
「・・・望むところです」
まさか忌み子条件をクリアするとは思わなかった。護るべきもののあるヒトは強いんだ。それを証明してやる。
「レン・クジョウ影武者への道・・・」
という名の台本なる、超びっしり書き込まれたスケジュール帳に乗っ取って、毎日が多忙ながらも充実な日々を過ごしている。
「ぅひぃ~・・・」
昼食後の束の間のひと時。テーブルに突っ伏して深呼吸。
あ、ちなみにこの教育機関はレン様の極秘別荘貸し切りで行われていて、俺のことを知る人達は僅か数名。
「・・・今日で二週間目でございますね」
金髪ポニーテールのメイド長、レベッカ・タナカさん。俺の愚痴なり相談ごとを聞いてくれる。
「ぅん。俺、頑張れてるのかな・・・」
「正直に申し上げますと、皆レン様より覚えが早く応用力もあると申しておりました」
ほら、こうやって空気を読んで素晴らしい言葉をくれる、なんと美人で心優しいメイドさんなのだろうか。
「ありがとぅ~お世辞でも嬉しい~、頑張れる~」
そしてそっと、俺の大好きなアイスミルクティーを出してくれる。
「ふふ、いやですわ。本当のことでございますよ」
「むふふ・・・はぁ、いつも美味しいミルクティーありがとう」
「滅相もございま・・・」
ふと言葉切れに、ハッとレベッカさんは振り返り、扉を見やる。
「? どうし」
ふとガチャっと扉が開いた。
えっ?
何故? どうして? そんな言葉が頭の中で沢山踊る。
「ディラン様っ!?」
え?
紅の髪に碧い瞳の顔面偏差値高過ぎ、熊人なのに線が細くて脱いだら絶対マッチョなイケメンの”ディラン”さん。がぁ、何故ここにっ!?
「何故ディラン様がここに!? レン、様がお呼びに・・・?」
「そう。この業界を知るにはおれが適任だってさぁ」
「・・・・・・そぅ、ですか・・・」
「?」
何だろう。レベッカさんのこの歯切れの悪い、腑に落ちない感じが凄く伝わる。
「予定だと、その手帳には王冠マークがあるだろ~? それ、おれの個人レッスンってこと~」
そう言えば。よく分からないマークがついていたっけ?
「リョウ様、それは本当ですか?」
「言われてみると、うん、あった気がするようなないような・・・」
「そういうこと☆」
ウインクして見せるディラン・・・先生に観念したのか、レベッカさんは深くお辞儀する。
「そうでしたか、申し訳ありません。それではわたくしはこれで」
「ありがとレベッカさん」
レベッカさんはいつものように微笑み返してくれた。見送ると、突然視界がディランさんの綺麗なお顔のアップで埋まった。
「わ」
「じゃぁ早速、”脱いで”?」
・・・ん?
「え? すいません今何て言っ」
「脱・い・で? って言った」
俺の耳はちゃんと聞いていた。
「ぇえっ!? 何でっですかっ!?」
ディランさんはお洒落な深緑色のアタッシュケースを手元に置き、一冊のスケッチブックを取り出した。
「おれ、今度画集だすのね」
無知な俺も流石に彼のことを調べた。
熊人族、ディラン・ボワーズ。
マルチタレント。モデルからデザイナー、アーティストを手掛け、ファッション、化粧品ブランドを立ち上げた企業家。所謂勝ち組である。元々御実家が名のある名家らしいけど、調べても情報が出て来なかった。
「画集・・・ってどんな・・・」
ハッ。脱げ。そう彼は言った。防衛本能が働き、思わず身構えた。
「おおおおおお俺の体にはそんな需要なんてありませんからっ!?」
「それを決めるのはおれだから」
即答。
「第一印象、体のラインが凄くいいと思ったんだよね。おれね、くびれとお尻が好きなんだけど、その黄金比ってのがあって、ウエスト対お尻が7対10が理想なわけ」
クッソどうでもいいけどっ!? これがディランさんの美学ちゅうもんなのか。
「程よい肉付で、あぁやっぱり。君、何か武術やってただろ」
「っ!?」
いつの間にっ!? 脱がされてるっ!?
でもディランさんの視線はそんないやらしいものを見るものではなく、何だろう造形物でも見るような感じ? あくまで仕事の一環みたいな。
「紐パンは、はい、そのソファに寝そべる時にとって」
「パンツもっ!?」
「当然だろ、ヌード描くんだから」
いや俺には当然じゃないんだけど。本当にただの被写体扱いだ。そう! 物だ。俺は彼の描くための物だ。感情は要らねぇってことだ。
「うつ伏せになって」
もういいや。それなら別にこっちも気にしないでおこう。
豪快にパンツを脱いだ。
まぁ、ディランさんは本当に美しいものにしか興味がなく、魅かれないらしいから。きちんと見たらすぐに終わるだろう。芸術家特化のタイプは中々恋人の噂も少ない。いくら俺が今レン様になるためにエステサロンを二週間受けたって、この根底にある生まれ孤児院の色は消えやしない。
「・・・ここに手を置いて、そう、で視線はあっち」
あれ? 結構真剣なのね。これは俺の教育なのか? なんで俺はこんなことしてるんだろう? あぁ、レン様も雑誌のモデルもやってるらしいからその練習か。
「・・・・・・」
なんて自問自答だけど本当か?
ハッ。俺は気が付いてしまった。
ディランさんはレンの体を狙っていて、でも本物だし恋人がいるから脱がせられないから。なるほど、偽物の俺ならどんな扱いをしてもいい。所詮、身元の分からない孤児だし金さえあればいいみたいな。そうだよな、世の中、金とビジネスだもんな。これも勉強だなぁ。
横目で見ると、真剣な目で鉛筆を走らせているディランさんがいた。クリエイターかぁ、カッコいいなぁ。
「・・・・・・」
鉛筆のシャッシャッという音と、時計のカチカチ音が、俺に眠りを誘う。
「・・・・・・」
なんか、気持ちがいい・・・?
「・・・? んぁ?」
やっばい。本当に寝ちゃったようだ。
「あ? 起きた?」
ぬくっと、お尻に違和感。正確には穴。
「え?」
何故? 何故うつ伏せの俺に覆い被さって、俺のお尻の穴に・・・指っ! 指が入ってるっ!?
「てっきり娼館にいたから、すぐ濡れると思ってたんだけど、キツイね」
言い方っ! 言い方なっ!?
「いやいやいやいや色気も気品のないガキですから! しかもそこは汚いですから!」
「だって、使うのはここだろ」
雄の穴は一方通行。
「ですけど! 俺なんかの中に入れたら! 指が穢れます! その指は創造物を生み出す大切な商売道具でしょうっ!?」
弁償金なんて払えない!
ディランさんの手をっ! 動かない!?
そうだ、腕! 腕をどかし・・・微動だにしない!?
「俺の怪力パワーが通じないっだとっ!?」
「へぇ、噂で聞く君の怪力も、熊人の腕力に比べればこんなもんか」
はい指三本~と呑気発言とは裏腹に、俺の中にディランさんのあの指が増やされる。
「っあっ、だめ、ですってば!」
何で、何でだ!? すぐに手ぇ出さないで有名だって記事に書いてあったよな!? なんかお尻がムズムズして来たし! てか気持ちいいんだけどこんちくしょーっ!
「ふぁ、あ、や・・・っ! そこだめ!」
「ここ?」
疲れて敏感な所を攻め立てられた。
「~っ! っ!」
大波で来た快感に、体が跳ねた。生まれて初めて、人前で射精してしまった。
「っ!? なっ」
しかも俺の性器はディランさんの手の中に収まっており、指ならずその手をベトベトに汚させてしまった。
「すいませっ! ティッシュティ・・・」
「フンスフンス、れろ」
「っ!?」
事もあろうに、俺の白濁液の、匂いを嗅いで、そのまま口にぃ、舐め入れたぁ!
な、何なのこの熊人~っ!?
「さてと」
「ふぁっ、あっ」
ようやく指が引き抜かれた。
「おれのペニスも舐めて欲しいけど、時間が時間だし」
「え、あ、うそ、え、あ」
後ろから腰を引き押せられ、ディランさんにお尻を突き出すような破廉恥な格好になった。
「ひっ」
尾てい骨にドスっと長くて硬い、質量を感じた。同時にお尻の割れ目がヒクついた。
嘘だろ嘘だろ嘘だっ。俺はそんな、そんなことを求めてない!
「待っ、ディラっ、あああああああっ」
俺の中に、熱い猛々しいものがめり込む。
「っつ、く、キツ・・・」
異物感が押し入る。膣の肉襞を掻き分け、鋭利な肉棒が突き刺さる。
「ふぁぁぁぁ・・・ぁ・・・ぅ」
なんでなんでなんでなんでぇ!?
お腹が埋まってる、埋められている。熱い、硬い、大きい。
「ふぁ・・・あ、すご・・・あ」
脈を打っているのが分かる。
ズキン。
頭痛がした。
前にも、こんなこと、なかったっけ?
「っつ、やべ、そんな締め付けるなって」
「ふぁ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ、あ」
激しい律動が始まった。抉るように奥を突き刺し、入り口を亀頭で擦りつけてきたり。「ぅ、あぁん、あぅ、ひぁ、や、らぁ、あ」
こんな慣れたエッチ、何が奥手だ、嘘の記事掻きやがってぇっ!
「アァァ・・・やっべ、まじ、きもちぃ」
「ふぁ、あ、す、ご、あぁ、まっ、きちゃ」
ディランさんがさらに重く圧し掛かってきたせいで、深く、性器が突き刺さった。
「フーッ、フッ、フッフッフッフッ」
あ、来る。彼の息遣いが変わった。
「フッ」
「あんっ! ぁあああああ?」
一番奥に突き刺さる。本気? 本気だ、中に、出すつもり!?
「アァァァ・・・久しぶり、だわ、イクぞ」
「ひぁ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あぅ」
ドスドスと、俺の中を深く刺し突き立てる。
「アアアアアアぁ・・・最高だ」
練習って言われて初めは娼婦のお姉さん達に大人のおもちゃで練習させられたけど。俺に娼婦が向いてないと分かった時から、もうそんなお尻をいじったりはしてない。
「ふぁ、あ、くる、しぃ、すご、あっ」
本物はそんな比じゃない!
圧迫感と威圧感でいっぱいでお腹が苦しい! 俺の腰ごと揺さぶり、性器を俺の肉襞で扱きたてて来る。
「ふぁぁ・・・きちゃ、ああああああ」
なにこれ? もう気持ちいしかない。力が入らない。ディランさんにおもちゃのようにされる。
「っ・・・イ、イク、イク、くっぞ」
性器が脈打ち、膨張した。
「ふぁ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
激しく揺さぶられた。
「ぃあああああ・・・・・・・っ!」
「グッ、ゥッ!」
中で熱いものが吐瀉された。その絶頂にビクビクビクンッと面白く、俺の体が跳ねた。
「あぅ、ぁ・・・いぁ・・・ぁ」
「アァ・・・っ、ハァ・・・ハァ・・・」
射精しながら腰を振られた。中に、響く、注がれてく、溜まって、く。
「ぁ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁぁあぁ」
その度に快感から、絶頂から戻れない。
「・・・フゥ・・・」
耳元から満足げな吐息が聞こえた。
「あ、ん、あっ」
注ぎ切った凶器が抜かれた。圧迫感が無くなった、けど異物感が半端ない。トロッと穴に出された精液の残滓が溢れ零れ・・・。
「っ! キタ、キタキタ閃いた! 次の衣装はそうだ、こうしよう!」
へ?
「あわっ」
急にディランさんにお荷物のごとく抱き抱えられた。そしてひょいっと脱衣所を抜けてお風呂場に。
嫌な予感が。「
「え、や、うそ、まっ」
ジャブンッ!
俺の静止の声も遅く、いつも入っている薔薇の極上風呂に放り込まれた。
「ソファを汚しちゃうのは不味いだろ」
・・・俺はソファ以下か。
「じゃあいいアイディア浮かんだからこれで。待ったねー偽物君」
「・・・・・・」
早々にディラン氏の退却。
せめて偽物君ではなく、影武者君が良かった。
「・・・・・・」
これは所謂ヤリ逃げ、ではなかろうか。
「・・・・・・」
まぁ、初めてのエッチがクソ最低な野郎でも、超凄い人、だったし。光栄に思えって世間様に言われるかもだし。まぁ最初で最後かもしんないし。会うのも最後かも。
「・・・ケツ、いて・・・」
ヤリ逃げした相手にまた会いに来るはずはない。ただ俺という”物”の体の形と具合の確認をしに来た。それが正解だ。
「・・・はぁ、エッチってすげぇや」
好意が無くても出来てしまう。
そりゃあ神様も愛する者同士にしか”受胎の実”を渡さないわけだ。娼館の姉さん達は皆毎日シてるんだなぁ。
「・・・・・・勉強しよ」
少し、エッチに興味が沸いた。
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ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
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フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
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戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
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鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
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北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
無能と捨てられたオメガですが、AI搭載の最強ゴーレムを作ったら、執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
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「マスターは私が守ります。……そして、愛します」
現代日本でAI研究者だったカイルは、過労死の末、魔力至上主義の異世界へ転生する。しかし、魔力を持たない「オメガ」と判定され、実家の公爵家から辺境のゴーレム廃棄場へと追放されてしまう。
生き残るため、カイルは前世の知識と特異能力「論理構築」を使い、泥人形のゴーレム・オルトを作成。AIを搭載されたオルトは、やがて自我に目覚め、カイルを溺愛する最強の「アルファ」へと進化していく――。
無機質からの激重感情×内政チート!
スパダリ化したゴーレムと共に、荒れ地を楽園に変え、かつての家族を見返す痛快異世界BLファンタジー!
竜人息子の溺愛!
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コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
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「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
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