【完結】私たちの今

MIA

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クールな俺が変わる時

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ゲームと取ってつけたようなキーワードの意味は何も成すこともなく、自己紹介は淡々と続く。

藤四郎は15分というロングスピーチをかましたが、誰かが同等の時間を使うことはなかった。

ただ、名前を言って。
出身小学校を言って。
当たり障りのない、よろしくお願いします。という定型文を口にする。

中には藤四郎を真似して、面白おかしく自分語りをする奴もいる。
皆が笑って盛り上がっているのを尻目に、乾いた上辺だけの笑いを貼り付けた。

面倒くさい。
だけど、こうしてないとクラスから浮いてしまう。
それは俺にとっては、もっと面倒なことだった。
嫌な思いをしないで3年が過ぎればそれで良いのだ。

そして俺の番が回ってくる。

「初島悠人〈ハツシマユウト〉。東小から来ました。よろしくお願いします。」

例にも漏れず、簡単に自己紹介を済ませて周りを伺う。
手を叩き、よろー。と誰かが言う。

何の変哲もないことに、ホッと息をつく。

こういうときに自分でもわからなくなる。
気にしてないし、どうでも良いはずなのに。
不自然じゃないかどうか確認してしまう。

隣の席の、確か。
相澤優〈アイザワスグル〉だったか。

「初島、よろしく!東小なんだな。都筑〈ツヅキ〉って知ってる?あいつ俺の友達!」

急に話を振られ、咄嗟に答える。

「あー、何か知ってるかも?」

参ったな。
本当は全然知らない。
東小はここいらでは珍しくクラスが7クラスもあった。
それが二つに分かれ、中学校に分散している。
都筑なる人物がどっちの中学に行ったのか知らないが、同じじゃなければ良いな。そう願う。

自己紹介も終盤に差し掛かり、何となく前後左右で小さな挨拶が交差する雰囲気の中。
一つの爆弾が投下された。

「加藤綾音〈カトウアヤネ〉です!小学校は遠いところで、事情があってコッチに引っ越して来ました。先生流の自己紹介をさせてもらうと…。趣味は剣道、かな?というよりも、気付いた時には竹刀を持っていたから趣味というよりは、生活の一部かもしれません。まだまだ弱いけど、練習量だけは誰にも負けない自信があります!」

ザワつく教室。
初対面に近い状態で、自分をさらけ出す彼女の言動は、俺たちには特別異質にうつる。

「ぶっちゃけ、ボッチです!みんな初めましてで、全く知らない子たちばかりだから、今めちゃくちゃ不安です。早く友達が出来たら良いなって思います。よろしくお願いします!」

そう締め括ると、姿勢良く椅子に座る。
一瞬しんとした教室に、大きな拍手が鳴り響く。

藤四郎だ。

何を言うわけでもなく、他の生徒たちと変わらない態度。
笑顔で拍手をし、次!と何事もなく続きを促した。

その後も紹介は続いたが、何となく教室の空気が白けていたのを俺たちは気付いている。

加藤はというと。
何も気にせず、ニコニコと話を聞き、拍手をしていた。

その姿勢は相変わらず背筋がピンと伸びていて、怖いくらいに堂々としている。

加藤。
やっちまったな。

俺は柄にもなく、彼女の行く末を考える。
そして、チクリと。
心に針が触れた気がした。
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