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〈父side・4〉
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チャイムの音がした。
玄関を開けると、そこには二人の男。
「警察の者です。香川聡さんですね?少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?…心当たり、ありますよね。」
聡は驚かなかった。
(ついに…、きたか。)
行方不明の少女のニュースが流れた時から予感していた。
あの二人は、愛奈の両親ではないか。と。
まず初めに引っかかったのは、場所だった。
○○市。
昔住んでいた所だ。
そして、会見の時にモザイクから少しだけ映ったアパートの外観。
それだけでは似たような場所だ、と思っただけかもしれない。
なにせ聡は二人の顔を見たことがないのだから判断はつかない。
だが。
それは確信へと一気に傾く。
泣き喚いた時の母親の声。
それは、あの時に嫌というほど聞き続けたヒステリックな叫び声と同じだった。
別件とはいえども、あの二人がもしも本当に両親なら。
愛奈の件も明るみに出るだろう。
そして、その時がきた。
行方不明は思わぬ形で収束を遂げた。
二人は我が子を殺し、隠し、被害者に成りすましていた。
そこで発覚した愛奈の存在。
警察は余罪を調べていく中で、きっと自分に辿り着いた。
あの時に行方不明になった子は生きている。
それが、愛奈なのだから。
こんな形で捜査の手が伸びるとは予想はしていなかったが…。
「香川さん?」
警察の呼び掛けに、意識が鮮明になっていく。
「はい。同行します。ただ、少しだけ待ってもらえないでしょうか。娘…いや、出頭の準備だけさせてください。」
二人は顔を見合わせ、もう一度聡を見つめ頷いた。
逃走の可能性がないかを確認したのだろう。
「わかりました。三分。それ以上は我々も上がらせて頂きます。」
聡は頭を下げるとリビングへ戻っていく。
「あ。お父さん。誰だったの?ってか、大変だよ。例の行方不明の子がさ…」
「うん。出る前に聞いていたよ。それより愛奈。大事な話だ。時間がないから良く聞いてくれ。」
愛奈に、話さなくてはならない。
「今来ているのは警察だ。俺はこれから出頭する。」
「…は?え?何?どういう事?」
聡は一枚のメモを愛奈の手に握らせる。
「ここに書いてあるのは弁護士の電話番号だ。これからどうしたら良いか、全て彼に伝えてある。俺が出ていったらすぐにかけるんだ。」
愛奈は混乱を隠せずにいた。
「ちょ…ちょっと待ってよ。出頭って。お父さん、何かしたの?!」
この先の事実。
それは彼女を深く傷付けるだろう。
だが。
いずれはこの時がくることをわかっていたはずだ。
あの日。
父親になると決めたあの日から、この時が来ると。
「俺は…。君の本当のお父さんじゃない。」
沈黙の時間が流れる。
聡は愛奈の顔を見ることができなかった。
突然、愛奈が笑い出す。
「やだ。何言ってるの。朝から変な冗談やめてよ。」
顔を伏せたまま、静かに続きを話す。
「十三年前。俺は、ある夫婦の元から君を誘拐した。今警察が来ているのはその件で、だ。」
愛奈の息を飲む空気が伝わる。
「どう…いう事…?じゃあ…。私は、私には、別に両親がいるって事?…ねぇ。そんなの嘘だよね?私が寮なんか入らないって言ったから怒ってるんでしょう?そうだよね?」
聡は膝を付く。
そして、深く。深く。頭を下げた。
「本当に…。本当に済まない!俺は…君の人生を、奪ったんだ…。」
愛奈が肩を掴む。
その手は震えていて、力がまるで入っていないかの様だった。
「やめて!やめてよ!!その話が本当だって言うなら!私の親は、その両親ってやつはどこにいるのよ!!」
事態は当初想定していたよりも深刻だ。
こんな事になっていなければ、彼女は自分だけを恨み、憎めば良かったはずなのに。
彼女の本当の両親は…。
重い罪を背負って、捕まってしまったのだから…。
「それは…、近いうちに必ずわかる。…もう行かないと。」
警察に連れられるところは見せたくなかった。
そそくさと出ていこうとする聡を、愛奈は叫び止める。
「お父さん!!!」
思わず足が止まる。
(駄目だ!振り向くな。このまま前に進め、俺!!)
そう思っているのに、足は動かない。
「行かないで…。私を…一人にしないで。いつだって帰ってきてくれたじゃん!帰ってくるよね?本当の親だとか、私には関係ないよ。お父さんは…、それでも、私のお父さんなんだから!!」
聡は込み上げる涙を必死に堪えた。
泣くわけにはいない。
泣いて良いわけがない。
そんな資格、自分にはないんだ。
(心を…、殺せ。)
聡は迷いを振り払う。
どんなに彼女を傷付けても。
どんなに彼女を心細くさせても。
寂しい思いも、不安な思いもさせたとしても。
ここから先は、非道に。
愛奈の呼び掛けを無視して、今度こそ前へと進む。
「お父さん!お父さん!!」
声を振り払い、玄関のドアを開けるとすぐに閉めた。
「…よろしいですか?」
警察の二人は、先程と何ら変わりのない態度で確認を取る。
聡は無言で頷き、それに答えた。
あと、少し。
愛奈の卒業までは見守っていたかった。
側にいて、全ての準備を整えてやりたかった。
先の憂いを潰しておきたかった。
ちゃんと最後は説明してやりたかった。
やるべきだった。
(犯罪者のくせに、良い夢を見すぎた罰だ。)
それに、巻き込んだ。
この先。
愛奈を待ち受けている現実は、もっとも辛い真実。
それを思うと、聡の心は酷く傷んだ。
こんな形で…。
守ると言ったのに。
誰にも傷付けさせない。
そう誓ったのに。
(それを、破ったのは…。俺だ…。)
聡はこの時、初めて。
本当の意味で。
自分の罪の重さを、悔やんだ。
もう全ては過ぎてしまった。
取り返しの付かない、大きな罪だった。
玄関を開けると、そこには二人の男。
「警察の者です。香川聡さんですね?少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?…心当たり、ありますよね。」
聡は驚かなかった。
(ついに…、きたか。)
行方不明の少女のニュースが流れた時から予感していた。
あの二人は、愛奈の両親ではないか。と。
まず初めに引っかかったのは、場所だった。
○○市。
昔住んでいた所だ。
そして、会見の時にモザイクから少しだけ映ったアパートの外観。
それだけでは似たような場所だ、と思っただけかもしれない。
なにせ聡は二人の顔を見たことがないのだから判断はつかない。
だが。
それは確信へと一気に傾く。
泣き喚いた時の母親の声。
それは、あの時に嫌というほど聞き続けたヒステリックな叫び声と同じだった。
別件とはいえども、あの二人がもしも本当に両親なら。
愛奈の件も明るみに出るだろう。
そして、その時がきた。
行方不明は思わぬ形で収束を遂げた。
二人は我が子を殺し、隠し、被害者に成りすましていた。
そこで発覚した愛奈の存在。
警察は余罪を調べていく中で、きっと自分に辿り着いた。
あの時に行方不明になった子は生きている。
それが、愛奈なのだから。
こんな形で捜査の手が伸びるとは予想はしていなかったが…。
「香川さん?」
警察の呼び掛けに、意識が鮮明になっていく。
「はい。同行します。ただ、少しだけ待ってもらえないでしょうか。娘…いや、出頭の準備だけさせてください。」
二人は顔を見合わせ、もう一度聡を見つめ頷いた。
逃走の可能性がないかを確認したのだろう。
「わかりました。三分。それ以上は我々も上がらせて頂きます。」
聡は頭を下げるとリビングへ戻っていく。
「あ。お父さん。誰だったの?ってか、大変だよ。例の行方不明の子がさ…」
「うん。出る前に聞いていたよ。それより愛奈。大事な話だ。時間がないから良く聞いてくれ。」
愛奈に、話さなくてはならない。
「今来ているのは警察だ。俺はこれから出頭する。」
「…は?え?何?どういう事?」
聡は一枚のメモを愛奈の手に握らせる。
「ここに書いてあるのは弁護士の電話番号だ。これからどうしたら良いか、全て彼に伝えてある。俺が出ていったらすぐにかけるんだ。」
愛奈は混乱を隠せずにいた。
「ちょ…ちょっと待ってよ。出頭って。お父さん、何かしたの?!」
この先の事実。
それは彼女を深く傷付けるだろう。
だが。
いずれはこの時がくることをわかっていたはずだ。
あの日。
父親になると決めたあの日から、この時が来ると。
「俺は…。君の本当のお父さんじゃない。」
沈黙の時間が流れる。
聡は愛奈の顔を見ることができなかった。
突然、愛奈が笑い出す。
「やだ。何言ってるの。朝から変な冗談やめてよ。」
顔を伏せたまま、静かに続きを話す。
「十三年前。俺は、ある夫婦の元から君を誘拐した。今警察が来ているのはその件で、だ。」
愛奈の息を飲む空気が伝わる。
「どう…いう事…?じゃあ…。私は、私には、別に両親がいるって事?…ねぇ。そんなの嘘だよね?私が寮なんか入らないって言ったから怒ってるんでしょう?そうだよね?」
聡は膝を付く。
そして、深く。深く。頭を下げた。
「本当に…。本当に済まない!俺は…君の人生を、奪ったんだ…。」
愛奈が肩を掴む。
その手は震えていて、力がまるで入っていないかの様だった。
「やめて!やめてよ!!その話が本当だって言うなら!私の親は、その両親ってやつはどこにいるのよ!!」
事態は当初想定していたよりも深刻だ。
こんな事になっていなければ、彼女は自分だけを恨み、憎めば良かったはずなのに。
彼女の本当の両親は…。
重い罪を背負って、捕まってしまったのだから…。
「それは…、近いうちに必ずわかる。…もう行かないと。」
警察に連れられるところは見せたくなかった。
そそくさと出ていこうとする聡を、愛奈は叫び止める。
「お父さん!!!」
思わず足が止まる。
(駄目だ!振り向くな。このまま前に進め、俺!!)
そう思っているのに、足は動かない。
「行かないで…。私を…一人にしないで。いつだって帰ってきてくれたじゃん!帰ってくるよね?本当の親だとか、私には関係ないよ。お父さんは…、それでも、私のお父さんなんだから!!」
聡は込み上げる涙を必死に堪えた。
泣くわけにはいない。
泣いて良いわけがない。
そんな資格、自分にはないんだ。
(心を…、殺せ。)
聡は迷いを振り払う。
どんなに彼女を傷付けても。
どんなに彼女を心細くさせても。
寂しい思いも、不安な思いもさせたとしても。
ここから先は、非道に。
愛奈の呼び掛けを無視して、今度こそ前へと進む。
「お父さん!お父さん!!」
声を振り払い、玄関のドアを開けるとすぐに閉めた。
「…よろしいですか?」
警察の二人は、先程と何ら変わりのない態度で確認を取る。
聡は無言で頷き、それに答えた。
あと、少し。
愛奈の卒業までは見守っていたかった。
側にいて、全ての準備を整えてやりたかった。
先の憂いを潰しておきたかった。
ちゃんと最後は説明してやりたかった。
やるべきだった。
(犯罪者のくせに、良い夢を見すぎた罰だ。)
それに、巻き込んだ。
この先。
愛奈を待ち受けている現実は、もっとも辛い真実。
それを思うと、聡の心は酷く傷んだ。
こんな形で…。
守ると言ったのに。
誰にも傷付けさせない。
そう誓ったのに。
(それを、破ったのは…。俺だ…。)
聡はこの時、初めて。
本当の意味で。
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もう全ては過ぎてしまった。
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