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エピローグ1
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外に出ると。
屋敷の門外はすでに泰衡の兵に囲まれていた。
「義経様は…。」
仲間の一人が口にする。
「腹を、切ると。屋敷にはすでに火を放ってきた。首を取らせやしない。良いか。俺たちは義経様が何も憂うことなく最後を過ごせるよう、何人たりともここを通してはならぬ。」
その言葉に仲間たちが、おう。と叫ぶ。
一方で敵方にも動揺が走る。
「義経が…いない。」
「逃がしたか?」
「いや。そんな様子はなかった。」
「…屋敷にて切腹するつもりか。」
「させぬ。頼朝様から義経の首を取って参れと仰せつかっておる!良いか!屋敷だ!!義経を討て!!目の前にいるは十にも満たぬ!押し込むぞ!!!」
強烈な雄叫びが轟く。
まるで猛獣かのように、眼光鋭く息巻く敵勢に負けぬようにこちらも声を張る。
「みな、良くここまで付いてきてくれた!共に戦えた日々!楽しかったぞ!正真正銘これが最後の戦いじゃあ!!存分に戦え!!死んでも戦え!!!ここから先は絶対に誰も通すな!!!」
互いの咆哮で空気が震える。
戦場特有の、肌をじわりじわりと突き刺すような緊張感と。
命のやり取りが始まる前の、神経を震わせる高揚感が。
相まみえて全体を丸ごと包みこんでいく。
どれだけの時間を稼げるかわからない。
相手の兵に比べて、こちらは嘲笑されるほどの数しかいない。
それでも。
俺たちはここを守る。
戦場で恐れられた義経軍の底力を、矜持を、こいつらにも味あわせてやる。
一斉に放たれる矢をかわきりに。
物凄い数の歩兵たちが流れ込む。
さすがここまで生き残れた者たちで、力では劣るはずもなく次々と返り討ちにしていく。
それでも途方もなく尽きることのない兵たちの猛攻に徐々に圧され始める。
一度生じた綻びは、ひとつ。
またひとつと、命の灯火を消していく。
守る門には俺がいる。
例え仲間たちが全滅しても。
俺が倒れなければ良いのだ。
容赦のない攻撃が続く中。
仲間たちがどんどん倒れゆく。
矢は雨のように降り注ぎ。
刀は風のように四方八方から斬り掛かる。
俺は刀を、槍を振り回す。
「お…おい。どうなってるんだ!」
「もうあいつしかいないはずだぞ!!」
「なぜ誰も門を突破できぬのだ!!」
敵方に走る困惑。
得体の知れない脅威と、絶望感は、数の有利すらも非常識に打ち砕く。
「残るはあの怪僧のみだ!怯むな!攻めろ!攻めろぉぉぉ!!!」
「させぬわぁぁぁっ!!!!」
どれほど刀を振るったか。
槍は見事に折れ、腕に力も入らない。
視界も悪い。
音も聞こえず、己の口から放たれる叫びすらも表に出ているかすらわからない。
不思議と。
これだけ矢が突き刺さり、刀で全身を斬り付けられているというのに。
痛みは全く感じない。
ー義経様。
無事に、腹は切れましたか?
屋敷はもう燃えていますでしょうか?
貴方様の最後の時を。
私は…。
守れましたか?
次に生まれたら。
もう少し、長く、共に過ごしとうございます。
もっと笑い、話し、酒を交わし。
今よりは、ほんの少しで良いのです。
平和な世で。
貴方様と、また出会えたなら。
もう一度。
不気味な笑顔と笑ってください。
そして。
もう一度。
私を『友』と…。ー
「屋敷が…燃えてる…。義経は中だったか!早く、門を抜けろ!!」
「わかっております!わかっておりますが…。」
「なんだ、なぜ動かない。なぜ…たった一人にここまで足止めをくらっておるのだ!!」
みなが狼狽える。
歩みを進められずにいる。
それも、そのはず。
門の前に、立ちはだかる大きな体は。
膝をつくこともなく、前を見据えて微動だにせず。
ただ。
死してなお。
静かに、そこに、立ち続けていたのだから。
屋敷の門外はすでに泰衡の兵に囲まれていた。
「義経様は…。」
仲間の一人が口にする。
「腹を、切ると。屋敷にはすでに火を放ってきた。首を取らせやしない。良いか。俺たちは義経様が何も憂うことなく最後を過ごせるよう、何人たりともここを通してはならぬ。」
その言葉に仲間たちが、おう。と叫ぶ。
一方で敵方にも動揺が走る。
「義経が…いない。」
「逃がしたか?」
「いや。そんな様子はなかった。」
「…屋敷にて切腹するつもりか。」
「させぬ。頼朝様から義経の首を取って参れと仰せつかっておる!良いか!屋敷だ!!義経を討て!!目の前にいるは十にも満たぬ!押し込むぞ!!!」
強烈な雄叫びが轟く。
まるで猛獣かのように、眼光鋭く息巻く敵勢に負けぬようにこちらも声を張る。
「みな、良くここまで付いてきてくれた!共に戦えた日々!楽しかったぞ!正真正銘これが最後の戦いじゃあ!!存分に戦え!!死んでも戦え!!!ここから先は絶対に誰も通すな!!!」
互いの咆哮で空気が震える。
戦場特有の、肌をじわりじわりと突き刺すような緊張感と。
命のやり取りが始まる前の、神経を震わせる高揚感が。
相まみえて全体を丸ごと包みこんでいく。
どれだけの時間を稼げるかわからない。
相手の兵に比べて、こちらは嘲笑されるほどの数しかいない。
それでも。
俺たちはここを守る。
戦場で恐れられた義経軍の底力を、矜持を、こいつらにも味あわせてやる。
一斉に放たれる矢をかわきりに。
物凄い数の歩兵たちが流れ込む。
さすがここまで生き残れた者たちで、力では劣るはずもなく次々と返り討ちにしていく。
それでも途方もなく尽きることのない兵たちの猛攻に徐々に圧され始める。
一度生じた綻びは、ひとつ。
またひとつと、命の灯火を消していく。
守る門には俺がいる。
例え仲間たちが全滅しても。
俺が倒れなければ良いのだ。
容赦のない攻撃が続く中。
仲間たちがどんどん倒れゆく。
矢は雨のように降り注ぎ。
刀は風のように四方八方から斬り掛かる。
俺は刀を、槍を振り回す。
「お…おい。どうなってるんだ!」
「もうあいつしかいないはずだぞ!!」
「なぜ誰も門を突破できぬのだ!!」
敵方に走る困惑。
得体の知れない脅威と、絶望感は、数の有利すらも非常識に打ち砕く。
「残るはあの怪僧のみだ!怯むな!攻めろ!攻めろぉぉぉ!!!」
「させぬわぁぁぁっ!!!!」
どれほど刀を振るったか。
槍は見事に折れ、腕に力も入らない。
視界も悪い。
音も聞こえず、己の口から放たれる叫びすらも表に出ているかすらわからない。
不思議と。
これだけ矢が突き刺さり、刀で全身を斬り付けられているというのに。
痛みは全く感じない。
ー義経様。
無事に、腹は切れましたか?
屋敷はもう燃えていますでしょうか?
貴方様の最後の時を。
私は…。
守れましたか?
次に生まれたら。
もう少し、長く、共に過ごしとうございます。
もっと笑い、話し、酒を交わし。
今よりは、ほんの少しで良いのです。
平和な世で。
貴方様と、また出会えたなら。
もう一度。
不気味な笑顔と笑ってください。
そして。
もう一度。
私を『友』と…。ー
「屋敷が…燃えてる…。義経は中だったか!早く、門を抜けろ!!」
「わかっております!わかっておりますが…。」
「なんだ、なぜ動かない。なぜ…たった一人にここまで足止めをくらっておるのだ!!」
みなが狼狽える。
歩みを進められずにいる。
それも、そのはず。
門の前に、立ちはだかる大きな体は。
膝をつくこともなく、前を見据えて微動だにせず。
ただ。
死してなお。
静かに、そこに、立ち続けていたのだから。
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