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epilogue
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「覚えとけって言ったのに、きれいさっぱり忘れてやがんだぜ、あいつ」
ひとしきり思い出を反芻して、レイは拳銃を仕舞い込んだ。夜が明けてすぐの時間帯に、墓地にやってくる物好きはまずいない。万が一見られたとしても、玩具だといえばいい。
あれから柳は警察官となり、やがて刑事となった。だがその後、養父母と弟を殺され、暗闇へ堕ちた。
(よくここまでたどり着けたな、柳広哲)
顔を変えたりしていないのに、柳はレイに気づかなかった。ヤスオカレイの死を受け入れていたからだろう。
憔悴し切っていた柳はレイに情報をくれと求めてきた。始末屋のマキに脅されても、あの強い眼差しだけは変わっていなかった。
(情報屋のレイと殺し屋のオッドアイ。おまえらに目をつけられたら、生きて帰れねえことを承知でここまで来た。殺す前に、俺の話を聞け!)
そして柳は闇を知った。信じていたもの全てが幻だと知り、愕然とし、やがて全てを諦めようとした、いつかのレイのように。
(……その人は、柳なんかじゃありません!)
八年前の本当の借りを返すためにも、レイはコウとなった柳の想い人である金田麻百合 を動かした。花村の命令に背き、コウを生かすために奔走した。
おまえのせいで俺は生き延びたんだ。
あのとき死んでいればと思うことが何度もあったんだぞ。
おまえひとり、楽になるなんて、絶対に許さねえ。
「そういうわけだから。これからはあいつのことを愚痴りに来るな」
コウはまだレイのことに気づいていない。このままだと、一生気づくことはないだろう。
「じゃあ、生きてたら、また来年」
そう言って、レイは踵を返した。ここに来ると、少しだけ気持ちが軽くなる。あんなに辛かった思い出も、今は懐かしい思い出へと変わっていた。
そのとき、背後から息を切らして誰かが近づいてきた。こんな時間から墓参りとは珍しいと思いながら、レイは振り向かず歩いていた。
「あの……!?」
透き通った女性の声に、レイは思わず歩を止めた。
「ヤスオカ、レイさん、ですよね?」
八年振りに呼ばれた名前。しかもその声は、レイが会いたいと願い続けた相手にとてもよく似ていた。
「すみません、突然呼び止めて。私、ハスミサクラといいます。優衣姉の、蓮見優衣の従姉妹です!」
蓮見は高校を卒業したら、海外にいる叔父夫婦の元に行くといっていた。彼女の遺骨を引き取ったのも彼らだという話だった。
「毎年欠かさず、優衣姉に花を供えてくださり、ありがとうございます!」
「人違いじゃないかな。失礼するよ」
レイは振り向くことなく、足早にその場を去ろうとした。
「優衣姉は、あなたのことをこう言っていました。冷たい態度ばかり取っているけど、本当は優しい人だと」
なんでだよ、なんで今になって現れるんだよ。
会いたいと願い続けたときには、夢にすら出て来なかったくせに。
「今朝、優衣姉が夢に出て来て、私に言いました。レイ君にありがとうと伝えてほしいと!」
レイは再び足を止めた。もう二度と揺るがないはずだった心が震えてしまったから。
(私はあなたの側にいる……)
こんなことは有り得ない。これはレイの願望に過ぎない。それでも聞こえたのだ、蓮見の声が。
(大好きだよ、レイ君)
やっと声が聞けた。八年経ってようやく許されたような気がした。
「もう行かなくてはならないんだ。続きは来年でいいかな?」
今はまだ会えない。何よりまだ覚悟が足りない。
「待っています、ここで。そのときは、優衣姉の話を聞かせてくださいね!」
赤いバラ一本の花言葉は一目惚れ、あなたしかいない。
レイの心はずっと、ひとりの女性に捧げられたまま。絶望しかない世界でも、赤い絆でずっと繋がっている。
来年は九本のバラを持っていこう。そのときはちゃんと名前で呼んでやるからな。
再びレイは歩き出した、来年の再会を待ち望みながら。
the end
(九本のバラの花言葉:いつもあなたを想っている)
ひとしきり思い出を反芻して、レイは拳銃を仕舞い込んだ。夜が明けてすぐの時間帯に、墓地にやってくる物好きはまずいない。万が一見られたとしても、玩具だといえばいい。
あれから柳は警察官となり、やがて刑事となった。だがその後、養父母と弟を殺され、暗闇へ堕ちた。
(よくここまでたどり着けたな、柳広哲)
顔を変えたりしていないのに、柳はレイに気づかなかった。ヤスオカレイの死を受け入れていたからだろう。
憔悴し切っていた柳はレイに情報をくれと求めてきた。始末屋のマキに脅されても、あの強い眼差しだけは変わっていなかった。
(情報屋のレイと殺し屋のオッドアイ。おまえらに目をつけられたら、生きて帰れねえことを承知でここまで来た。殺す前に、俺の話を聞け!)
そして柳は闇を知った。信じていたもの全てが幻だと知り、愕然とし、やがて全てを諦めようとした、いつかのレイのように。
(……その人は、柳なんかじゃありません!)
八年前の本当の借りを返すためにも、レイはコウとなった柳の想い人である金田麻百合 を動かした。花村の命令に背き、コウを生かすために奔走した。
おまえのせいで俺は生き延びたんだ。
あのとき死んでいればと思うことが何度もあったんだぞ。
おまえひとり、楽になるなんて、絶対に許さねえ。
「そういうわけだから。これからはあいつのことを愚痴りに来るな」
コウはまだレイのことに気づいていない。このままだと、一生気づくことはないだろう。
「じゃあ、生きてたら、また来年」
そう言って、レイは踵を返した。ここに来ると、少しだけ気持ちが軽くなる。あんなに辛かった思い出も、今は懐かしい思い出へと変わっていた。
そのとき、背後から息を切らして誰かが近づいてきた。こんな時間から墓参りとは珍しいと思いながら、レイは振り向かず歩いていた。
「あの……!?」
透き通った女性の声に、レイは思わず歩を止めた。
「ヤスオカ、レイさん、ですよね?」
八年振りに呼ばれた名前。しかもその声は、レイが会いたいと願い続けた相手にとてもよく似ていた。
「すみません、突然呼び止めて。私、ハスミサクラといいます。優衣姉の、蓮見優衣の従姉妹です!」
蓮見は高校を卒業したら、海外にいる叔父夫婦の元に行くといっていた。彼女の遺骨を引き取ったのも彼らだという話だった。
「毎年欠かさず、優衣姉に花を供えてくださり、ありがとうございます!」
「人違いじゃないかな。失礼するよ」
レイは振り向くことなく、足早にその場を去ろうとした。
「優衣姉は、あなたのことをこう言っていました。冷たい態度ばかり取っているけど、本当は優しい人だと」
なんでだよ、なんで今になって現れるんだよ。
会いたいと願い続けたときには、夢にすら出て来なかったくせに。
「今朝、優衣姉が夢に出て来て、私に言いました。レイ君にありがとうと伝えてほしいと!」
レイは再び足を止めた。もう二度と揺るがないはずだった心が震えてしまったから。
(私はあなたの側にいる……)
こんなことは有り得ない。これはレイの願望に過ぎない。それでも聞こえたのだ、蓮見の声が。
(大好きだよ、レイ君)
やっと声が聞けた。八年経ってようやく許されたような気がした。
「もう行かなくてはならないんだ。続きは来年でいいかな?」
今はまだ会えない。何よりまだ覚悟が足りない。
「待っています、ここで。そのときは、優衣姉の話を聞かせてくださいね!」
赤いバラ一本の花言葉は一目惚れ、あなたしかいない。
レイの心はずっと、ひとりの女性に捧げられたまま。絶望しかない世界でも、赤い絆でずっと繋がっている。
来年は九本のバラを持っていこう。そのときはちゃんと名前で呼んでやるからな。
再びレイは歩き出した、来年の再会を待ち望みながら。
the end
(九本のバラの花言葉:いつもあなたを想っている)
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