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カナリアの決意
①
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『……レイ、通信を切れ』
銃声がしてまもなく花村が言った。
込み上げる感情を抑えるべく、一つ息を吐き出してから、レイはカナリアに向き合った。
「聞こえていただろう。通信を切れ」
「でも、オッサンが!?」
『この男を殺したいのか、早くしろ』
花村の声にビクンと反応した後、カナリアは縋るようにレイを見やる。レイは何も答えず、ノートパソコンを奪い取り、通信を遮断した。
「なんで切った? オッサン、撃たれたんだろ、早く手当てしねえと!?」
驚きと戸惑いが入り混じった表情で、カナリアはレイに食ってかかる。
「さっきも言ったよな。俺達はボスに逆らえないって」
「けど!?」
「あの言い方だと、ナオはまだ死んでいない。後はシラサカに任せるしかない」
様子を見に行ったシラサカが屋上に到着している頃である。とはいえ、花村がシラサカの話を聞くとは思えないが。
「なんでボスはナオをバラさなかったんだろ」
「ナオの言った提案を受け入れたってことだろ」
「それって、カナカナに関することだよね?」
「あのバカのことだから、自分の代わりにカナリアを生かせとか言ったんじゃねえの」
マキと話し合いながらレイは考えていた。
直人はカナリアをハナムラの人間にして生かそうとしている。草薙から連絡があったのは嘘じゃないのだろう。おそらく、自分が標的になったことで先の展開を察し、花村に自分の命でカナリアを救う提案をしたのだ。
本当にバカだよな、そういうのは俺達の役目なのに。
「うん、ナオなら言いそう。てゆーか、本当の本当にバカだよね。帰ってきたら、一晩なんかじゃ済ませないから!」
そう言うと、マキは安堵の笑みを浮かべる。
非情で知られる花村が直人を生かしたのは、利用価値があると思ったからだろう。どんな思惑があったにせよ、直人はこの先も生きられる可能性が高くなった。
「死ぬって言ったかと思ったら、今度は帰ってくるって、あんたら、どういう神経してんだよ」
花村の本性を知らないカナリアは、理解出来ずに首を傾げる。
そうこうするうちに、レイのスマートフォンが着信を知らせた。画面を見れば、相手は草薙だった。電話を取ると同時に、レイはスピーカーに切り替えた。
『私だ。桜井君はそこにいるのか?』
「ナオはボスに撃たれた。とりあえず生きているが、通信を切られて、どういう状況かわからない」
『桜井君はシラサカ君にやらせると、わざわざ予告してきたのに、なぜ奴が?』
「ナオがボスを挑発するようなことを言っていた。なぜあいつをボスに会わせた?」
『花村と二人きりで会いたいと言われた。花村も拒否しなかったからな』
一連の会話からして、草薙は直人と花村を会わせただけで、彼らがどんな話をしたのかは知らないようだ。
「草薙、すぐ日向の身辺を洗え。別件でもなんでもいい、警察が介入出来るような事象を見つけて奴に会え」
『国務大臣の不逮捕特権を知らないはずはないだろう』
草薙が言ったように、国務大臣は在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されないことが憲法で定められている。
「日向を逮捕しろなんて言ってねえよ。秘書官の角田がおまえにやったように、奴に会って脅し返すだけでいい」
『現役大臣を敵に回せと言うのか!?』
「ナオを見殺しにするつもりならいい。だが、あいつを救いたいという気持ちが少しでもあるならやれ」
権力には権力を。そうすれば、必ず綻びが生まれる。
『……わかった。何としてでも見つける』
答えを出したのは草薙ではなく、蓮見だった。二人は一緒にいるらしい。
『草薙さん、俺に捜査をやらせてください』
『おまえが動けば、今度こそ懲戒処分になるぞ』
二人の会話からして、切り裂きジャック事件での蓮見の単独行動は、問題になったようである。
『かまいません。桜井君は、体を張って娘を救ってくれました。今度は俺が返す番です。無茶なことだとわかってお願いします。どうか桜井君を救ってください!』
蓮見の言葉に草薙はしばし沈黙した後、一つ息を吐いて、こんな言葉を放った。
『組織の立ち位置はどうなんだ、レイ君』
「ボスは反対するだろうが、俺とシラサカで説得する」
ハナムラは組織の結束を第一に考える。マフィアでいうところのファミリーの絆のようなものだ。カナリアを花村に認めさせれば、直人のしたことは不問になる。警察嫌いの花村であっても、組織の人間を救おうと動いた直人を、見殺しにはしないはすだ。
『わかった。君の言葉に賭ける』
「交渉成立だな。日向が無理なら秘書官の角田でもいい、どうにかして明日中に会ってこい」
『明日中となると、決定的な証拠がないと厳しいな』
「証拠ならあるぜ」
そこにカナリアが割り込んだ。
「四年前の真犯人が誰なのか、現場にいた俺は知ってる」
確かにカナリアなら、決定的な証拠になる。
「他に方法があるのかよ。早くしねえとオッサンがヤバいんだろ」
草薙が言ったように今から事案を探すのは難しい。カナリアが言うように、直人が怪我をしていることからして、早く動いた方がいいのは間違いない。
だが、カナリアは諸刃の剣だ。日向は事件を知る直人とカナリアを、一刻も早く消し去りたいと思っているのだから。
銃声がしてまもなく花村が言った。
込み上げる感情を抑えるべく、一つ息を吐き出してから、レイはカナリアに向き合った。
「聞こえていただろう。通信を切れ」
「でも、オッサンが!?」
『この男を殺したいのか、早くしろ』
花村の声にビクンと反応した後、カナリアは縋るようにレイを見やる。レイは何も答えず、ノートパソコンを奪い取り、通信を遮断した。
「なんで切った? オッサン、撃たれたんだろ、早く手当てしねえと!?」
驚きと戸惑いが入り混じった表情で、カナリアはレイに食ってかかる。
「さっきも言ったよな。俺達はボスに逆らえないって」
「けど!?」
「あの言い方だと、ナオはまだ死んでいない。後はシラサカに任せるしかない」
様子を見に行ったシラサカが屋上に到着している頃である。とはいえ、花村がシラサカの話を聞くとは思えないが。
「なんでボスはナオをバラさなかったんだろ」
「ナオの言った提案を受け入れたってことだろ」
「それって、カナカナに関することだよね?」
「あのバカのことだから、自分の代わりにカナリアを生かせとか言ったんじゃねえの」
マキと話し合いながらレイは考えていた。
直人はカナリアをハナムラの人間にして生かそうとしている。草薙から連絡があったのは嘘じゃないのだろう。おそらく、自分が標的になったことで先の展開を察し、花村に自分の命でカナリアを救う提案をしたのだ。
本当にバカだよな、そういうのは俺達の役目なのに。
「うん、ナオなら言いそう。てゆーか、本当の本当にバカだよね。帰ってきたら、一晩なんかじゃ済ませないから!」
そう言うと、マキは安堵の笑みを浮かべる。
非情で知られる花村が直人を生かしたのは、利用価値があると思ったからだろう。どんな思惑があったにせよ、直人はこの先も生きられる可能性が高くなった。
「死ぬって言ったかと思ったら、今度は帰ってくるって、あんたら、どういう神経してんだよ」
花村の本性を知らないカナリアは、理解出来ずに首を傾げる。
そうこうするうちに、レイのスマートフォンが着信を知らせた。画面を見れば、相手は草薙だった。電話を取ると同時に、レイはスピーカーに切り替えた。
『私だ。桜井君はそこにいるのか?』
「ナオはボスに撃たれた。とりあえず生きているが、通信を切られて、どういう状況かわからない」
『桜井君はシラサカ君にやらせると、わざわざ予告してきたのに、なぜ奴が?』
「ナオがボスを挑発するようなことを言っていた。なぜあいつをボスに会わせた?」
『花村と二人きりで会いたいと言われた。花村も拒否しなかったからな』
一連の会話からして、草薙は直人と花村を会わせただけで、彼らがどんな話をしたのかは知らないようだ。
「草薙、すぐ日向の身辺を洗え。別件でもなんでもいい、警察が介入出来るような事象を見つけて奴に会え」
『国務大臣の不逮捕特権を知らないはずはないだろう』
草薙が言ったように、国務大臣は在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されないことが憲法で定められている。
「日向を逮捕しろなんて言ってねえよ。秘書官の角田がおまえにやったように、奴に会って脅し返すだけでいい」
『現役大臣を敵に回せと言うのか!?』
「ナオを見殺しにするつもりならいい。だが、あいつを救いたいという気持ちが少しでもあるならやれ」
権力には権力を。そうすれば、必ず綻びが生まれる。
『……わかった。何としてでも見つける』
答えを出したのは草薙ではなく、蓮見だった。二人は一緒にいるらしい。
『草薙さん、俺に捜査をやらせてください』
『おまえが動けば、今度こそ懲戒処分になるぞ』
二人の会話からして、切り裂きジャック事件での蓮見の単独行動は、問題になったようである。
『かまいません。桜井君は、体を張って娘を救ってくれました。今度は俺が返す番です。無茶なことだとわかってお願いします。どうか桜井君を救ってください!』
蓮見の言葉に草薙はしばし沈黙した後、一つ息を吐いて、こんな言葉を放った。
『組織の立ち位置はどうなんだ、レイ君』
「ボスは反対するだろうが、俺とシラサカで説得する」
ハナムラは組織の結束を第一に考える。マフィアでいうところのファミリーの絆のようなものだ。カナリアを花村に認めさせれば、直人のしたことは不問になる。警察嫌いの花村であっても、組織の人間を救おうと動いた直人を、見殺しにはしないはすだ。
『わかった。君の言葉に賭ける』
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