カナリアが輝くとき

makikasuga

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生きる覚悟、死ぬ覚悟

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 犬猿の仲の二人が一台の車に同乗して現れたことに、レイは勿論、シラサカも目を丸くした。
「蓮見、ここまででいい。高梨係長と藤堂警部補もだ」
 面識の無いもう一人の警察官は藤堂というらしい。草薙は蓮見の側に駆け寄り、シラサカの銃口を遮るように立ちはだかった。
「ここは彼らに任せろ。我々の仕事はその後だ」
 草薙は日向の逮捕を諦めたということなのか。それとも、切り裂きジャック事件のときのように、被疑者死亡で不起訴になっても、事件が終焉を迎えればいいということなのか。
「わかりました。怪我、さっさと治せよ」
 草薙の命令ということもあり、蓮見はあっさり引き下がった。最後の言葉はレイに向けたものである。
「レイ君、松田を呼んでおくから、もう少しだけ我慢してくれ」
 草薙はレイに言葉を放った後、花村と向き合った。
「結論が出たら連絡をくれ」
「わかった」
 花村と感情のない短い会話を交わした後、草薙は蓮見達と共に去っていった。

「わかりやすい図式を残してくれて、有り難いよ」
 警察の人間が居なくなると、日向は花村を見た。
「今までのやり取りは、動画配信サービスによって生中継されている」
 室内だけでなく、外のやり取りもモニターされていたようである。レイのパソコンが破壊される前にウイルス注入が完了していれば、阻止できたはずだが、本体を破壊されたため、確かめようがない。
「勿論私の顔は出ないように細工させてある。皆、驚いているだろう。ハナムラグループと警視総監の癒着が明るみになったのだから。君達はこれで終わりだ!」
 勝利を確信したのか、日向は高らかに笑った。
 ハナムラグループと警視庁の癒着程度ならなんとでもなるが、問題はハナムラコーポレーションの存在が世間に明るみになることである。そうなれば、裏社会の均衡が崩れ、表に出ないものが表に出るという事態になる。大袈裟でもなんでもなく、それは世界の破滅を意味する。
 最悪の状況を示唆するレイの思考を断ち切るかのように、携帯の着信音が響き渡る。どうやら花村のものだったらしく、彼は表情を変えることなく、スーツの内ポケットに入れてあった電話を取り出し、耳に当てた。

「私だ。……わかった。その件についての賠償はこちらが持つと言っておけ。担当者の貸し出しについては、改めて連絡する」
 担当者というところで、花村はレイを見やったが、それ以上何も言ってこなかった。電話を切ると、花村は日向の前に立ちはだかった。
「ここの映像が流れたのは冒頭部分のみだ。以降は機器の接続トラブルによって、全チャンネル放送不能になっている。どこぞの誰かの悪戯によって、現在全てのサービスがストップしている」
 冒頭部分が配信されたということは、ウイルスの注入は完了していなかったことになる。敵のクラッカーはウイルス感染を知らない状態で、動画配信サービス会社のサーバーを経由して動画を配信した。そのおかげで感染が拡大し、全サービス停止という事態に発展したのだろう。

 方法はともかく、間に合ったってことか。

 ハナムラコーポレーションの秘密が守られたのなら、後のことはなんとでもなる。ほっとした途端、気が緩んでしまい、レイの体はぐらりと揺れた。
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